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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第168回 亡国の特命委員会
http://wjn.jp/article/detail/3560310/
週刊実話 2016年4月7日号
産業革命前の世界では、モノやサービスの生産という「経済活動」に投じられる資源は事実上、土地と労働に限られていた。つまりは農業が主産業だったわけである。
農業において生産量を拡大する方法は、土地を増やすか、もしくはより多くの労働を投入する以外には存在しないも同然だった。土地を増やすには戦争以外にあまり方法がない。さらには労働の投入量を増やし生産量を拡大したとしても、「一人当たりの生産量」が増えるわけではない。
所得とは、モノやサービスという付加価値が生産され、生産物が顧客に購入(支出)されて初めて創出される。所得創出のプロセスにおける生産の合計を「国内総生産」と呼ぶ。このプロセスにおいて、「生産」「支出」「所得」の三つは必ず一致する。
というわけで、GDPは所得創出のプロセスにおける生産の合計であり、支出の合計であり、所得の合計でもあるのだ。三つのGDPは、合計金額が必ず同一になる。これをGDP三面等価の原則と呼ぶ。
一人当たりの生産量とは、つまりは一人当たりのGDPだ。同時に、一人当たりの所得でもある。産業革命前の世界では、数千年間にわたり所得が増えない状況が続いた。分かりやすく書くと、経済成長が存在しなかった。
産業革命により、経済活動に投入される資源は「土地」「労働」に、交通インフラ、工場、機械設備といった「資本」、さらには「技術」が加わった。注目すべき事実は、経済活動に必要な「資本」は経済活動で生産することが可能という点である。例えば、工場に設置される機械設備は別の工場で生産された製品なのだ。技術が発展し、資本を生産可能となった結果、土地の広さや労働投入量が変わらない場合であっても生産量は増えていった。すなわち、生産者の生産性が向上した。
生産者の生産性向上とは、「生産性一人当たりの生産の拡大」である。GDP三面等価の原則により、生産者一人当たり所得の拡大になる。生産性向上のために「資本」に支出をすることこそが、国民を豊かにし、経済成長を実現するのだ。
産業革命後の世界では、資本が経済活動に投じられ、新たな資本を生みだし、その資本が次の経済活動に投じられるという形で生産者の生産量が劇的に増えていった。国民が豊かになっていったのである。
資本主義経済において、重要なのは「ヒトを増やす」ことではない。ヒト(生産者)の生産性向上のため、資本におカネを投じることなのだ。産業革命後の資本主義の世界では、生産量は「ヒトの量」ではなく、生産性向上のための投資に依存している。
現代の日本において、「経済成長のために外国人を」などとやっている連中は、資本主義の基本すら理解しておらず、産業革命前の世界を生きていることになる。
自民党は先ごろ「労働力の確保に関する特命委員会」を立ち上げ、移民を含めた労働力として外国人の受け入れに関する議論を開始した。特命委の委員長となる木村義雄参院議員は、
「成長を確保するには、(外国人労働者を受け入れ)労働力を増やしていく以外に方法はない」
と、語った。
まさに、木村議員は資本主義の基本すら知らず、産業革命前の“おつむ”という話になる。政治家ですらこのレベルであり、絶望感を覚えた。
経済成長率を抑制し、国民の実質賃金を引き下げ、貧困化へと導く路線を根本から間違ったレトリックに基づき突き進む。国家とは、このように亡国に至るのだろう。
自民党の「労働力の確保に関する特命委員会」は、「亡国の特命委員会」としか呼びようがないのである。
無論、資本主義の基本を無視して「外国人労働者」という名の外国移民受け入れを拡大しているのは、木村議員を筆頭とする一部の国会議員という話ではない。安倍政権だ。
3月11日、政府の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)では、人手不足が深刻な労働市場について議論された。会議終了後、安倍総理は、
「外国人材の活用をしっかりと進めてほしい」
と表明したのだ。
ちなみに、安倍政権は2020年の東京五輪に向け、2015年度から外国人の緊急受け入れ措置を始めた。政府想定では、'20年度までに延べ7万人程度の「外国人」を受け入れる想定だったのだが、'16年2月までの受け入れ実績は293人にとどまっている。
そもそも、日本のような自然災害大国が、防災安全保障の中心となる土木・建設業に「外国人」を受け入れるという発想が理解できない。「自衛隊」に外国人を入れることに賛成する人はいないと思うのだが、
「土木・建設業界は人手不足だから、外国人」
も、同じ発想である。
加えて、現在の土木・建設業は人手不足というよりは「仕事不足」で悩んでいる。安倍政権が公共事業、公共投資を削減し始めた以上、当然だ。
'14年3月、つまりは消費税増税前の駆け込み消費のころにピークを打った「土木・建設業の人手不足」は、現在はすでに東日本大震災前の水準だ。人手不足感は解消しつつある。
しかも、土木・建設業界は「コミュニケーション」が重要な仕事だ。作業員同士のコミュニケーションにミスが生じると、大事故につながりかねない。さらに、安全保障の中核を担う土木・建設業界で「外国人を」などとやるのは、安全保障軽視としか言いようがないわけだ。
それにもかかわらず、「外国人材の活用」などと言っている以上、安倍政権は安全保障軽視政権で、日本を移民国家と化すことを目指しているとしか表現のしようがないのである。
みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。
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