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初の赤字に転落した三菱商事の「大博打」 答えが出るのは数年後
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48296
2016年03月29日(火) 町田 徹「ニュースの深層」 現代ビジネス
■業態転換を求める声も出ているが
三菱商事は先週木曜日(3月24日)、銅や液化天然ガス(LNG)の国際市況の低迷に伴い、4,300億円という巨額の減損損失が発生するとの見通しを発表した。前期は4,005億円の黒字だった同社の連結最終損益が、一転して2016年3月期は1,500億円の赤字に転落する。
1969年度に現在の会計を採用して以来、同社の連結赤字は初めてだ。長年守ってきた総合商社の収益トップの座も、伊藤忠商事に明け渡すことになるだろう。
注目したいのは、巨額の損失にもかかわらず、三菱商事は銅市況が「底を打った」とみており、チリで鉱山と製錬所を運営する「アングロ・アメリカン・スール(AAS)社」に対する出資を継続する点だ。
マスメディアの間では、AAS社に見切りを付けて業態転換を求める声が出ているものの、三菱商事は「ここが辛抱のしどころ」というのである。大博打が吉と出るか凶と出るか、その行方はおおいに関心を集めそうだ。
三菱商事によると、4,300億円と予想される減損損失の内訳は、AAS社株(簿価4,700億円)への出資分が2,800億円。豪州のLNG開発計画の見直しに伴う減損が400億円、同じく豪州の鉄鉱石事業の減損が300億円、南アフリカのフェロクロム事業の減損が200億円などとなっている。これらと比べると損失額は30億円と小さいが、シェールガス事業の再評価に伴う減損も発生する見通しだ。
結果として、三菱商事の2016年3月期の連結最終損益は、昨年11月に公表していた計画(3,000億円の黒字)を確保できず、1,500億円の赤字に落ち込む。ただ、これまでの公約通り、1株当たり50円の配当は堅持する方針だ。
一方、業績悪化に関する経営責任を明確にするため、全役員(55人)の6月の賞与をゼロにする。特に、6月24日の株主総会を機に会長に退く小林健社長は年間報酬の5割(賞与ゼロも含む)、資源分野の担当役員は3割(同)を返上するという。
■やはり今が辛抱のしどころか?
そもそもAAS社への出資は、2011年11月に、発行済み株式の100%を保有していた同社の親会社アングロ・アメリカン社から、三菱商事が53.9億米ドルで24.5%相当の株式を買い取る形でスタートしたもの。翌2012年8月に4.1%を9.0億米ドルで売却し、現在の保有比率は20.4%になっている。
三菱商事が減損損失の発生する見通しを公表したのは、上場企業として当然の措置だ。AAS株を取得した2011年当時、銅の指標となるロンドン金属取引所(LME)の3ヵ月物先物価格は1トン当たり1万ドルを超えて史上最高値圏にあったが、今年に入って、その半分以下に下落しているからだ。
当の三菱商事も、今後の中長期的な銅価格の見通しについて、「(史上最高値と直近の安値の間の)1ポンド(約453.6グラム)当たり300米セントに引き下げることにした」と発表している。
同社では、経済が土砂降り状態の中国向け銅輸出の急回復は期待できないものの、インド向けは減少に歯止めがかかりつつあり、銅市況が底を打つ兆しではないかと話している。
歴史を振り返ると、1970年代から1980年代にかけて、総合商社は国境を挟んでモノを動かすトレーディングビジネスの限界に直面し、「商社 冬の時代」と評された。
1980年代後半のバブル経済全盛時には、特定金銭信託やファンドトラストなどの資金運用の枠組みを使った“財テク”に傾斜。バブル崩壊で大火傷を負って、財務体質の健全化に長い時間を要した時期があった。
そんな商社がここ数年、巨額の利益を稼ぎ出すようになったのは、新たな事業の立ち上げ段階から出資して、その収益を確保する経営戦略にシフトしてきたからだ。このビジネスモデルも、当初は、通信・放送衛星ビジネスや電力事業などに参入し、期待ほどの収益をあげられなかったケースがいくつもあった。
そうした背景を勘案すると、今回の銅事業の巨額の減損損失の発生を巡って、単なる減損処理にとどまらずに、事業そのものから撤退し、新たな収益の柱を早急に構築するよう求める経済メディアの声は、あながち的外れとは言いにくい。
一方、怪我の功名と言えばそれまでだが、三菱商事にとって、かつて高値掴みした感のある投資のコストを、今回の減損損失処理で大きく引き下げられるのは、今後の収益力の改善に役立つ朗報の面もある。世界経済を取り巻く環境を見る限り、銅やLNGの市況のV字回復を望むことは難しいだろう。
それでも、資本額5兆8,000億円(連結ベース)と、三菱商事は潤沢な資金を溜め込んでいる。この辺りで国際商品市況が底を打つと仮定すれば、「今が辛抱のしどころ」という判断を誤りと決めつけるのも早計かもしれない。
果たしてどちらの判断が正解か――。答えは、2、3年後の決算を見るまで、誰にもわからない。
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