小笠原誠治 国際金融経済分析会合を開催する意味 2016/03/16 (水) 10:49 国際金融経済分析会合という名のヒアリングの機会を安倍政権が持つことになりました。 というよりも、本日、スティグリッツ教授を招いて第1回目の会合を開いたと言うのです。 官房長官は、この会合の意味を次のように説明しています。 「サミット議長国として、現下の不透明な世界経済状況にどのような考えを持ち、どのように分析しているのかを示すための適切な対応が必要だ」 私、世界経済の状況については、G7の財務相・中央銀行総裁会議という場で緊密な意見交換がなされているので、このような会合を改めて持つ必要性はないと思うのですが... それでも、敢えてそのような会合を開くというのであれば、それには何か特別な意味があるのではないでしょうか? では、何故この時期安倍政権は、スティグリッツ教授やクルーグマン教授を招いてヒアリングを行うのか? 如何でしょうか? 本当に世界経済のことを議論したいのでしょうか? もし、そうだとしたら安倍総理は何に一番関心があるのでしょうか? 中国経済の失速? それとも原油価格の低下? それとも米国の利上げ? それとも... それに、仮に、そうした著名な学者から良いアイデアを聞いて、それをサミットのときに安倍総理が紹介しようとしても意味ないでしょう? だって、それらの著名な学者が主張していることは、著名であるが故に、既に誰もが知っているようなことばかりだからです。 どう考えてもおかしい! となると、本当の狙いは、世界経済のことではなく、日本の経済や財政に関して、それらの著名な学者から何らかの提言を引き出すことにあるのではないでしょうか? 何か臭いませんか? 昨日も、本田参与の消費税増税を延期し、さらに大型の補正予算を組むべきだという意見を紹介したでしょう? 私は、この国際金融経済分析会合は、その本田参与の言動とセットになっているのだと理解します。 つまり、本田参与の発言は、いわば露払い。 そして、この国際金融経済分析会合で真打が登場し、消費税増税は延期すべきだ、そして、さらなる補正予算を組むことが必要だ、なんて言わせて、選挙の前に打ち出す作戦ではないかと思うのです。 何故、そのような大がかりな芝居を打つのかと言えば...安倍総理は財務省に対して、今度の増税は必ず実行すると約束しているために、それを撤回するには、それ相応の大義名分が必要だからです。 ノーベル経済学賞を受賞したような著名な学者が、消費税増税延期を言い出しているのだぞ、と。 俺は約束通りに消費税増税を実施しようと考えているが、ノーベル経済学賞を受賞した学者たちからあのような提言を受ければ、そう簡単に無視することはできないではないか、と。どうする、財務省? てなものなのです。 でも、そうなるとあの軽減税率導入騒動はなんだったのでしょうか? 消費税増税が延期されると、同時に軽減税率の導入も延期される訳でしょう? 谷垣幹事長も、宮沢税調会長も、そして、公明党の幹部でさえ、官邸におちょくられていたようなものなのです。 だって、消費税増税を延期するのなら軽減税率の導入もなしになるからです。 恐らく、今回の件は、麻生副総理と黒田総裁は蚊帳の外に置かれているのでしょう。そして、官邸と本田参与などが中心となって動いているものと思われます。 こうして、財政再建の道が遠のき、益々借金の山が大きくなるのです。 そして、借金の山が大きくなるので、益々増税の必要性が高くなるのです。 私は、増税が嫌い。貴方と同じです。でも、増税が嫌いだからこそ、少々の増税は受け入れた方が賢明だという意見なのです。 増税反対という意見にいつまでも同調していると、最後にとんでもない請求書を付けつけられることになるのです。 1998年にLTCMというヘッジファンドが破綻し、大騒ぎになったことがありました。覚えていますか? あの会社の経営陣には、ノーベル経済学賞を受賞したマイロン・ショールズとロバート・マートンが加わっていたのですよね? ノーベル経済学受賞者の言うことだからと言って、安心してはダメなのです。 7兆円の補正予算を要求する本田参与 2016/03/15 (火) 11:47 先日、本田悦朗参与が、スイスの大使になるとの記事に接し、もう本田氏が経済政策に関し、口を出すこともなくなるだろうと思いきや...益々活発に発言しています。
「(消費税の)引き上げをやれば、間違いなくマインドが冷えて、消費のトレンドが変わり、完全に腰折れして長期停滞の道に入る」 「それは、おととしの消費税率の引き上げで、われわれが学んだことであり、いろんな意見があると思うが、凍結以外の道はない」 どう思いますか? 安倍総理は、リーマンショッククラスの出来事が起きない限り、消費税増税の再延期はないと断言しているに、一内閣参与が全然違うことを言っているのです。 今、リーマンショックが起きたときのような世界的な危機状態にあると言うのでしょうか? そんなバナナ! 有効求人倍率は、バブル期並みの水準にまで達しようとしているのですから。 結局、安倍政権の意向を斟酌して、自分がアドバルーンの役割を果たしているということなのでしょうね。つまり、消費税増税を延期すべきだという意見をぶち上げ、世の中の反応を見ている、と。或いは、世の中の意見を消費税増税延期の方に誘導したい、と。 因みに、麻生財務相は、消費税増税は予定通り行うとの考えを変えていない訳ですから、本田参与は敢えて内閣の意見とは違うことを言っているということなのです。 そんな人が大使に任命されて問題はないのでしょうか? いずれにしても、本田氏の主張は増税の延期に留まらないのです。 「増税の凍結と同時に、財政出動で経済対策をやっていく必要がある。ことし1月に3兆円余りの補正予算を成立させたので、あと7兆円ぐらいの経済対策を行うことが望ましい」 本田参与は、補正予算を組む必要がある理由として、日本経済の実際の需要と供給力との差を示す需給ギャップ(GDPギャップ)が、年換算で約10兆円もあるから、としていますが、全くもって現実を直視していないとしか言いようがありません。 需給ギャップが10兆円という根拠はどこにあるのでしょう? それは、単に日本全体の機械設備の生産能力と需要から計算した仮の数字ではないのでしょうか。 しかし、幾らフル稼働していない機械設備が存在しているとしても、人材が不足しているので、需要が追加されても実際の生産量を上げることはできないのです。 1月の有効求人倍率は、1.28倍にまで上昇しているのです。 先日、東日本大震災から5年が経過したということで、現地の様子が報道されていましたが、人手不足が問題視されていましたよね。つまり、復興事業が遅れている理由の一つが人手不足にあるのです。 それ以外の地域においても、幾ら公共事業で地域経済を活性化させようとしても、人手不足と資材の高騰で事業が予定通りに進まない状況に陥っているのです。 本田さんよ...と言いたい。貴方は何を考えているのか、と。 建設作業員、ドライバー、ITエンジニア、飲食店の店員、保育士、介護職員... 今や、余剰人員を抱えて倒産するのではなく、人手不足で倒産する時代なのです! 需給ギャップが問題だなんて、それは昔の話でしかないのです。 にも拘わらず、消費税増税の延期と補正予算を要求すれば、内閣参与どころか先進国の大使にまでなれる時代! 海外勤務が長く、本省の枢要な課長ポストを務めたことのない本田氏が、スイスの大使にまでなれるのだから、本田氏のボルテージは上がるばかりでしょう。 ドル高か? 日米金利差拡大の兆し 2016/03/14 (月) 13:29 マイナス金利政策に関して、賛否両論入り乱れていますが...それはそれとして、一つ不思議に感じていたことがあるのです。
それは、マイナス金利政策を導入によって、何故ドル高円安の圧力がかからないのかということです。 マイナス金利導入決定直後に瞬間的にドル高円安に振れたものの、この1か月間ほどは1ドル=114円から112年の範囲で推移しており、マイナス金利導入以前よりドル安円高状態となっているのです。 どうしてなのでしょう? 私は当初、それは、日銀がマイナス金利を導入したことで却ってリスクオフのムードを高めてしまい、その結果ドル安円高が起きたと解釈していました。そして、今でも基本的にはその考えに違いはないのですが...しかし、日本がマイナス金利を導入したことにより日米の金利差が拡大し、少しはドル高円安に振れても不思議ではないという思いもあったのです。 何故、ドル高円安の力がかからないのでしょうか? グラフをご覧ください。 日米金利差.jpg 実は、マイナス金利導入以降、日米の金利差が、それほど拡大しなかったのですよね。 1月29日に日銀がマイナス金利導入を決定したことによって日本国債(残存期間10年)の利回りは急落し、ご覧のように最近ではマイナスの状態に陥っているのです。 但し、その一方で、米国債の方も時期を同じくして利回りが急低下し、その結果、日米金利差は拡大しないどころか、むしろ縮小した時期さえあったのです。 但し、3月に入った頃から、米国債の利回りが上昇するのと歩調を合わせるようにして徐々に日米金利差が拡大しています。 皆さんは、お気づきになっていないかもしれませんが、そもそも10年物の米国債の利回りが2%を切るというのは歴史的にみても珍しい現象で、そのような期間は、リスクオフの状態にあると言ってもいいのです。 そして、その10年物米国債の利回りが、先週末には1.98%にまで上昇してきているので、少し流れが変わりつつあるのではないかと私は思っているのです。 もちろん、為替のことですから、確たることは言えませんが、日銀がマイナス金利を導入したからというよりも、米国の長期金利が上昇しつつあることがリスクオフからの離脱を示唆していると考えれば、今後ドル高円安圧力が強くなるのではないでしょうか。 最新の小笠原誠治の経済ニュースに異議あり! 国際金融経済分析会合を開催する意味(10:49) 7兆円の補正予算を要求する本田参与(03/15) ドル高か? 日米金利差拡大の兆し(03/14) プロ棋士に3連勝したアルファ碁(03/13) トランプ氏の保護主義が実現しそうもない理由(03/12) ECBのマイナス金利が成功しない理由(03/11) コンピューターが囲碁で人間に勝ったことの意味(03/10) 中国の2月の輸出は25.4%も減少!(03/09) 高橋洋一氏の「政府の借金1000兆円はウソ」を信じたい人たちへ(03/08) 日本人がIMFの副専務理事になれる理由(03/07) 小笠原誠治(おがさわら・せいじ) 小笠原誠治(おがさわら・せいじ) 1976年3月九州大学法学部卒。1976年4月北九州財務局(大蔵省)入局。 大蔵省国際金融局開発金融課課長補佐、財務総合政策研究所研修部長、 中国財務局理財部長などを歴任し、2004年6月退官。 以降、経済コラムニストとして活躍。 メールマガジン「経済ニュースゼミ」(無料版・有料版)を配信中。 著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」(秀和システム)、 「ミクロ経済学がよーくわかる本―市場経済の仕組み・動きが見えてくる」(秀和システム)、 「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(秀和システム)がある。 企業・団体などを対象に、経済の状況を分かりやすく解説する講演も引き受ける。 http://www.gci-klug.jp/ogasawara/2016/03/16/025450.php
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