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安易なアパート建設・経営、人生を不幸にする危険…安定した賃貸困難、多額借金抱える
http://biz-journal.jp/2016/03/post_14260.html
2016.03.16 文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役 Business Journal
2015年10月実施の国勢調査によれば、日本の人口は1億2711万人。この数は5年前の10年の調査時点と比べて94万7000人の減少。1920年の調査開始以来初の減少を記録した。本格的な人口減少社会への突入を、今回の調査はつきつけている。
そんななか、国土交通省の調査によれば、国内の住宅着工戸数は15年で90万9000戸。前年比1.9%の増加となった。国内の空き家総数は13年で約820万戸。毎年増加し続ける空き家がある一方で、日本は毎年100万戸近い新築住宅をせっせとつくり続けている奇妙な国である。
住宅着工統計のなかでもとりわけ好調なセクターが「貸家」である。15年は総数で37万8000戸。対前年比で4.6%の伸びとなった。貸家の着工が多いのは首都圏(1都3県)で、全体着工戸数31万8000戸のうちの42%に当たる13万5000戸もの貸家が着工されている。対前年比では7.8%の増加だ。
■貸家が増加している要因
貸家が増加している要因はなんだろうか。
ひとつが、相続税評価における基礎控除額の改定である。昨年1月1日より、相続税評価額の算定において、従前は「5000万円+1000万円×法定相続人の数」であったものが、「3000万円+600万円×法定相続人の数」に4割も縮小されてしまったのだ。
この改定は全国的にはあまり関心を呼んでいないが、都市部においては今まで相続税とは縁のなかった世帯でも、課税が及ぶ世帯が続出することとなっている。都内では対象となる相続税課税世帯が2倍になるとの推計もある。
こうした課税強化策への対応として脚光を浴びたのが賃貸アパートの建設による相続税評価額の圧縮だ。土地は更地にしておくと、相続の際は「路線価」で評価される。ところが、土地の上に賃貸アパートを建設すれば、評価額が大幅に圧縮できるのだ。
例えば相続税評価額が1億円の土地の上に、7000万円をかけてアパートを建築することを考えてみよう。
まずアパートを建設することで、従来は1億円だった評価を引き下げることができる。土地の上に賃貸資産を建設すると「貸家建付地」としての評価になる。これは従来の路線価に基づいた評価額から借地権割合と借家権割合を乗じたものを控除できるというものだ。具体的には、この土地の借地割合を60%、借家権割合を30%とすれば
1億円×(1-60%×30%)=8200万円
となる。さらに建物については、借家権割合分の減額が認められるので建物の固定資産税評価額を3000万円とすれば、
3000万円×(1-30%)=2100万円
になる。
土地と建物を合計した相続税評価額は1億300万円(8200万円+2100万円)だ。アパートの建設費7000万円を全額借入金で調達すれば、この評価額から借入金を差し引くことが可能となるので、アパート建設による相続税評価額は3300万円まで圧縮できるというわけだ。
さて、法定相続人が3人だとすると、相続税評価額の基礎控除額は4800万円(3000万円+600万円×3人)となるので、相続税を支払う必要はなくなる。更地のままほうっておけば、1億円から基礎控除額を差し引いた5200万円相当額に相続税が課税されたはず。これがアパート建設による節税のカラクリである。
■貸家供給市場は成長しないという現実
貸家が増加するもうひとつの要因が、マイナス金利に象徴される金融緩和だ。金融機関は「緩みきった」金融環境のなかで、貸し手を探してさまよっている。そこで目を付けたのがアパートローンである。土地を担保にアパート建設会社と提携して、相続税が心配な土地所有者に積極的にアパートローンを薦めている。
不安を抱える土地所有者にアドバイスをするのが税理士である。税理士のなかにはこうした節税対策を指南することで、コンサルティング収入がアップするし、なかには別会社形態で業者からバックマージンを受け取っているケースもあると聞く。
もちろん、こうした対策は土地所有者にとっては「良策」とも思えるが、事はそう簡単ではない。冒頭に記したように、国全体で人口減少が本格化しているなかで、アパートを中心とした貸家供給が、どんどん成長していくマーケット環境でないことは誰の目から見ても明らかだからだ。
人口の減少は全体像だけを見ていても不十分だ。実は人口減少が深刻であるのは、総人口の減少というよりも、働き手の減少といわれる、15歳から64歳までの「生産年齢人口」の落ち込みだ。この数は、総人口よりも減少スピードは速く、1995年の8726万人をピークにすでに減少に転じており、2014年には7785万人。20年ほどの間でなんと11%も減少しているのだ。
増加する一方の高齢者は、アパートの賃借人としてはあまり歓迎される対象ではない。高齢者でアパート住まいの人は、経済的条件が芳しくない先が多く、賃料を引き上げる余地のある賃借人はごく限られる。室内での孤独死も心配だ。賃料をしっかり納めることができる生産年齢人口の激減は、アパート運営にとって暗い影を投げかけているのだ。
■安定した賃貸収入の確保は困難
ところが、アパート経営は土地所有者のみならず、一般の会社員の資産運用手段としても喧伝されている。低金利で行き場を失った余剰資金の投資先として「老後資金のための資産形成手段のひとつ」として勧められるケースは多い。
需要があやふやなのに「えいや」でアパート投資を行う、これは嵐を前にして、港から小さな船で漕ぎ出すような行為である。多くのアパート会社はサブリース(借り上げ)で一定の家賃保証をうたって、オーナーの安心・安全を語っているが、こうした条件もよく調べてみる必要がありそうだ。
長期間のサブリースの多くには、15年程度後の大規模修繕についての「承諾」が条件であるケースが多い。その時に修繕資金が確保できなければ、保証はアパート会社のほうから解除できる。アパートは経年劣化が早く、また次々と新規物件が供給されることから、築年の浅い物件に入居者が流れ、築10年もすると空室だらけになるアパートもざらに存在する。家賃保証とうたっていても、その金額まで保証している会社は少ない。多くは金額条件の見直し条項があり、市況が厳しいときにアパート会社が救ってくれるような内容のものは少ないのだ。
サブリースは当然手数料があるので、オーナーから見れば満額の賃料は受け取れない。また、テナントの入れ替わりごとの部屋の補修や大規模修繕に当たっては、アパート会社の系列会社が行うので、オーナーに業者の選択権はなく、なかには法外に高い修繕費等を請求された例も多いと聞く。今後、加速度的に生産年齢人口が減少していくなかで、安定した賃貸収入を確保できるアパートは少ないのだ。
■借金を子供や孫に残して死んでいくのと同義
平成バブル崩壊の頃、『ナニワ金融道』という漫画が流行った。大阪の金融会社を舞台に「金貸し」の裏側を面白おかしく語り、大ヒット、ドラマや映画にも採用された。このドラマの主題歌が、ウルフルズの『借金大王』だ。
「貸したカネ返せよ〜」という、軽快なリズムに乗せて歌うこの歌詞に真実が隠されている。7000万円の借金で、とりあえず相続税を逃れたアパートオーナーは、どんなに金利が低い時代であっても、借りた元本7000万円を「返済する」アテがなければ、いわば借金を子供や孫に残して死んでいくようなものである。
目的が節税であろうがなんであろうが、「投資」には「出口」が必要だ。「アパートは節税になりますよ」「お金、貸しますよ」といってくる輩は、仕事としてアパートを売って収益を得るために優しく語っているのであって、所詮はあなたの人生に「興味・関心がある」わけでも、ましてや「責任を負っている」わけでもない。
投資は常に冷静な判断で。自己責任の重さをかみしめて行うことだ。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)
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