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狭き門を潜り抜けてハック・リアクターに入学した生徒たち。3か月のプログラムを修了すれば、中堅ソフトウェアエンジニアとして独り立ちしていく。(photographs by Yasushi Masutani)
卒業生の初任給は1,300万円! 人気プログラマー養成学校訪問
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160303-00011424-forbes-bus_all
Forbes JAPAN 3月3日(木)16時1分配信
最近、アメリカでは短期間にプロのエンジニアを育てる学校が増えている。そこではいったいどんな教育が行われているのだろうか。エリートたちが集まることで知られるサンフランシスコの学校を訪ねた。
サンフランシスコの中心街にある一棟の目立たない雑居ビル。エレベーターで7階に上がると、広いフロアではラフな格好をした多くの若者たちがパソコン画面とにらめっこをしていた。
「こいつはオブジェクトだから......」
「イベントハンドラはこういうふうに書けばいいんじゃないかな」
真っ黒い画面にはまるで暗号のような意味不明なプログラムがぎっしりと書かれている。
ここは、2012年末に開校したプログラミング・スクールの「ハック・リアクター」。わずか3か月でプロのソフトウェアエンジニアを育成すると評判の学校だ。
授業は朝から晩まで1日11時間という超過密スケジュール。それが週6日、12週間続く(中間に1週間の休みがあるため、プログラムの合計期間は13週間)。そして驚かされるのは、授業料の高さ。なんと3か月で1万7,780ドル(約210万円)。ここには食費や宿泊費などは含まれていない。それでも同校には応募者が殺到しているという。
アメリカでは最近、このような「短期集中」を特徴とするプログラミング・スクールが急増中だ。アメリカ海軍の新兵トレーニングになぞらえて「ブートキャンプ」と呼ばれる。ハック・リアクターによると、こうしたブートキャンプはすでに全米で100校ほどあるとみられている。
急増の背景には、アメリカにおける深刻なエンジニア不足の問題がある。米労働省・労働統計局の試算によると、ソフトウェアエンジニアの雇用は、14年からの10年間で約19万人増加すると予測されている。その不足を補うため、オバマ政権は昨年3月、エンジニア職への雇用を増やすための施策を発表。大学などの学位認定機関だけでなく、こうした民間のブートキャンプやオンライン教育プログラムなどにも協力を呼び掛けているのだ。
中でも、ハック・リアクターは「ブートキャンプ界のハーバード」を標榜し、高い人気を集めている。学校の説明によると、応募者のうち入学を許されるのはわずか15%という狭き門だ。
それでも同校を卒業すれば、ソフトウェアエンジニアとして明るい未来が約束されている。卒業後3か月以内の就職率は99%、そして初年度の平均年収は10万5,000ドル(約1,300万円)に上る。卒業生は、グーグルやフェイスブックなどの大手から躍進中のスタートアップまで引く手あまただという。
授業料について、共同創業者のショーン・ドロストは「1万7,780ドルは高いと思うかもしれないけど、卒業生は転職前に比べて、所得が平均で5万2,000ドル上がっています。だから、実はとてもお得なんです」と自信たっぷりに語った。
「授業」という概念はない
では、210万円のプログラムの中身とは、いったいどんなものか。この日は授業の初日。自己紹介や学校説明はそこそこに、入学したばかりの80名の生徒たちは早くもプログラミングに没頭していた。
ハック・リアクターは他の学校に先駆けて、開校当初よりJavaScriptを使ったプログラム開発(AngularJSやNode.js、Backbone.js、Expressなど関連フレームワークも含む)を専門に教えている。動的なウェブサイトの作成で知られるプログラミング言語だが、近年はサーバーサイドの技術も開発され、人気が急上昇している。
すぐに気づくのは、教室に先生が見当たらないこと。生徒たちは隣の席の者と相談しながら、プログラムをどんどん書いていく。
「ここには授業という概念はありません。いわゆる大学のようなクラスを想像すると、面食らうでしょう。あるのはアルゴリズムやデータ構造、フレームワークなどのトピックであって、それらをプログラムの中で順にカバーしていきます」と、主任講師のフレッド・ジルダンは説明する。
どうやら先生が生徒に向かって何かを教えるというスタイルではなく、課題を与えて、それを生徒たちが解きながら学んでいくというスタイルのようだ(どうしてもわからないときには技術メンターたちに質問することができるという)。フレッドは続ける。
「13週間のうち、アルゴリズムなどの理論学習は約2週間。残りのほとんどは技術の習得に充てられます。とても実践的なカリキュラムで、プログラミングは初日から始まります。基本的には『スプリント』(短距離走の意味)と呼ばれる、2日ごとに設定される新しい課題に取り組むスタイルです。スプリントは2日間で計22時間になりますが、そのうち講義はだいたい2〜3時間で、あとは全部プログラミング。それだけ時間をかけるからスキルを磨けるんです」
またハック・リアクターでは、2人1組になってプログラムを書く「ペア・プログラミング」と呼ばれる手法を採用している。その方がエラーやタイプミスなどに気づきやすく、学習効率を上げられるからだという(プログラムの後半では3〜5人のチーム作業もある)。
「私たちがここで教えているコンテンツ自体は特別なものではありません。違いは、どうやって教えているかなのです。3か月間、起きている時間のすべてを使って、一つの言語の学習にどっぷり浸かれば、たくさんのことを学べるんです」
フレッドによると、卒業生の大部分は、2年以上の職務経験が求められるポジションに就いて、最初から中堅エンジニアとして活躍するそうだ。
授業には、ペアワークやチーム作業など、エンジニアに必要なコミュニケーション能力を伸ばすための工夫も随所に盛り込まれているという。
「自ら学べる者」を育てる
それにしても、不思議なのはこの日が初日でありながら、彼らがすでにプログラムを自分たちで書いていることだ。いったいどういうことなのか。ショーンに尋ねると、「全体の学習内容の最初の5%を自習した人を受け入れることにしています。プログラミングが好きかどうか、興味があるかどうか、そして向いているか、などを生徒自身に判断してもらうためです」
実は、ハック・リアクターに応募するためには、まず「コーディング・チャレンジ」と呼ばれるオンラインのテストをクリアしなければならない。内容は、JavaScriptの入門的知識を問うもので、プログラミング未経験者は、CodeAcademyなどの学習サイトなどを使って、自習することが必須なのだ。
さらに、応募を済ませると、Skypeを使ったオンライン面接試験が待っている。未知のプログラムにどう取り組むのかといった課題解決力が問われるのだという。
これに合格すると、晴れて入学.....というわけではない。プログラムが始まる9週間前に、参加者のもとにはプリコース(事前講座)のオンライン教材が届けられる。プログラミングの基礎を50〜80時間ほどかけてみっちり学習するもので、期日までに終わらせないと、入学を取り消されることもあるという。
つまり、プログラム初日の時点で、生徒たちはすでに相当の学習を自分たちで終えていることになる。同校によると、「我々の仕事は生徒の能力を0から60にすることではなく、20から120にすること」だそうだ。
生徒たちの多くはもともとプログラミング未経験だが、中にはコンピュータ科学を大学院で学んだ者も数名いる(修士号をもっていてもプログラム開発ができるとはかぎらない)。また、ハーバードをはじめとする一流のビジネススクールのMBAホルダーたちもいるという。
ハック・リアクターの卒業生で、大手医療機器メーカーのプロダクト・マネジャーからエンジニアに転職した男性は、「履歴書に箔をつけて人脈をつくりたいならビジネススクールへ、でも本当にビジネスで成功したいならハック・リアクターへ行くべきだ」と語る。
とはいえ、やはり13週間の集中特訓は、精神的にも肉体的にもかなりハードだ。フレッドによると、学習ペースについていけず、インポスター(詐欺師)症候群に陥る生徒も少なくないという。
「私は本当はこんなところにいられるような優れた人間じゃない、と思い悩む症状です。でもここでの目的は、勉強した内容をすべて完璧に理解することではありません。就職したあとに現場でなにか問題が起きたときに思い出して、自分で調べながら解決できれば充分なんです」
フレッドは、ハック・リアクターの目的は「自ら学べる者」を育てることだ、と繰り返し強調した。
なお同校では、こうした心のケアにあたるため、心理カウンセラーがいて、定期的に生徒たちと面談を行っているという。
「就職率99%」の秘訣
ハック・リアクターがプログラミングと並んで、力を入れているのが就職対策だ。3名の専任スタッフを置いて、生徒たちの就職サポートに当たっている。
「7週目以降では、面接試験対策や履歴書の書き方、LinkedInやGitHubなどオンラインでの自分の魅力的な見せ方を学べる講座も用意しています。ほかのブートキャンプはここまで就職対策に力を入れていません」とフレッド。同校は250の企業と提携し、新たに卒業した生徒たちを積極的に企業に紹介しているそうだ。
また2年前にハック・リアクターを卒業し、現在はスタートアップの「オープンテーブル」で若手エンジニアとして活躍する男性は、「ハック・リアクターは、技術を学べるだけでなく、卒業生のネットワークがあるので就職でも助かった」と打ち明ける。男性は以前、大手コンサルティング会社でビジネスアナリストをしていた。
「今の職場にもハック・リアクターの卒業生が何名かいて、面接試験でもいろいろと助けてくれました」
このような話は、実は珍しくない。ハック・リアクターの1年間あたりの卒業生の数は、いまやカリフォルニア州のトップ3大学(カリフォルニア大学バークレー校、カリフォルニア工科大、スタンフォード大学)でコンピュータ科学を学んだ卒業生の合計を上回る。大手企業のみならず、有名なスタートアップにはだいたいハック・リアクターの卒業生がいるのだ。
ハック・リアクターは昨年、サンフランシスコで学ぶことが難しい人のためにオンラインの通信講座も始めた。中西部のシカゴから通信講座を受講し、現在はサンフランシスコのスタートアップ「ダブルダッチ」でエンジニアとして働く男性はこう語る。
「以前は金融業界で働いていたけど、自分の将来に希望がもてなかった。でも、この学校でプログラミングを学んで、僕の人生はまったく別物になった。テクノロジー業界に興味があるなら、ブートキャンプで学ぶのが一番の早道。授業料は数か月働けば回収できるし、たった3か月でキャリアを変えられるんだから!」
米国の有名なプログラミング・ブートキャンプ
Hack Reactor(ハック・リアクター)
場所:サンフランシスコ
授業料:17,780ドル(約203万円)
特色:抜群の就職実績を誇る名門ブートキャンプ。言語はJavaScriptに特化。通信教育も提供。
Dev Bootcamp(デブ・ブートキャンプ)
場所:サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨーク、サンディエゴ
授業料:12,700〜13,950ドル(約145〜160万円)
特色:老舗ブートキャンプ。卒業生は1,900人以上。プリコース、就職対策も含め、全部で19週間。
General Assembly(ジェネラル・アセンブリー)
場所:ロサンゼルス、ニューヨーク、サンフランシスコなど
授業料:13,500ドル(約154万円)
特色:2011年にニューヨークで創業したテクノロジー系のキャリアスクール。世界14都市に展開。
Hackbright Acadmemy(ハックブライト・アカデミー)
場所:サンフランシスコ
授業料:16,570ドル(約189万円)
特色:女性限定のブートキャンプ。卒業生はフェイスブックなど人気企業へ。言語はPythonに特化。
App Academy(アップ・アカデミー)
場所:サンフランシスコ、ニューヨーク
授業料:0ドル
特色:授業料は無料だが、就職できれば初年度の年収の18%を学校側に支払う「成功報酬型」。
Forbes JAPAN 編集部
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