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増税を見送り、行き着く先は公共事業などの財政出動になってしまうのか(写真はイメージです)
消費増税見送りはもはや既定路線、 その先は旧態依然の公共事業か
http://diamond.jp/articles/-/87270
2016年3月3日 山田厚史の「世界かわら版」 ダイヤモンド・オンライン
世界20ヵ国の財務相と中央銀行総裁が上海に集まった。声明が発表されたが、新味ある政策はなかった。確認されたのは、金融政策では不安な世界経済に対処できない、ということだった。
財政を含めた可能な限りの政策が必要とされた。自国通貨を安くして輸出を増やし、他国に負担を押し付けあう「通貨安競争は避けよう」と戒めがなされた。
声明は心構えを謳っただけ。何をするかの合意はない。具体策は各国の宿題になった。
財務省は頭を抱える。財政出動を求める声が噴き出すことは必至だからだ。首相官邸はほくそ笑んでいるという。「消費税10%見送り」は首相周辺で既定路線になっている。必要なのは、もっともらしい理屈と発信の場だ。動き出したのが国際金融経済分析会合。また首相の私的諮問機関である。
■屋上屋の「国際金融経済分析会合」は消費増税見送りへの露払い役
2016年度予算案が衆議院を通過した3月1日、安倍首相は国会内で番記者に語った。
「5月の伊勢志摩サミットに向け、国内外の経済専門家を集め世界経済を議論する国際金融経済分析会合を設置する」
ノーベル賞級の学者を呼んでご意見をいただくという。意味が分からない。
世界経済を議論する場はG7サミットではないのか。そのための準備は、首相が各国を回り首脳の意見を聞き、方向性を擦り合わせることだ。G7サミットは経済外交の場である。その前に世界から学者を呼んで世界経済を分析する会合を何回か開いて、どうするのか。屋上屋を重ねるとは、このことだ。
「伊勢志摩サミットへの準備」は口実で、本当の狙いは「国内向け」だろう。いかにも役人が考えそうな会合である。
会議は企画された段階で結論はできている。それが霞が関の流儀である。会議で方向を決めるのではない。結論が先にあって、ふさわしい顔ぶれを選び、会合の器をつくる。識者は道具でしかない。
国際金融経済分析会合とやらの結論は「世界経済は厳しい、各国は協調して対処しなければない。そんな時に消費税増税など景気を冷やす政策は取るべきではない」となるだろう。役人が提言書にそれを書き込み、記者会見して発表する。大事なのは、振り付けにそって議事進行できる「御用学者」の人選だ。その際、まともな意見をいう識者も混ぜる。役人言葉で「暴れ馬」。こういう人からも意見を聞きました、とアリバイを作るが、書き置くに留める。
段取りが出来上がったから首相の「立ち話」で書かせた。読売新聞は一日先にスクープしている。日ごろ首相に好意的な紙面づくりで協力している「ご褒美」、ネタ元は官邸番の記者を仕切る某秘書官、というのが取材関係者の見立てだ。
政権の世論操縦術が透けて見える。不人気な増税を下ろし、「安倍政権は経済再生に全力を挙げています」と印象付ける。視野にあるのは7月の参議院選挙だ。
■日経新聞調査でアベノミクス「評価しない」が50%の衝撃
本当のところは、経済再生どころか、経済政策の再建が迫られているのが安倍政権の実情である。
日経新聞が2月26〜28日に行った世論調査でアベノミクスを「評価しない」と答えた人が50%あり、「評価する」の31%を大きく上回った。
アベノミクスを評価してきた日経が調べた数字だけに、官邸もショックだったという。
メディアを使って笛や太鼓で囃しても、見込み違いの政策は、やがて化けの皮が剥げる。鬼面人を驚かした黒田緩和は、為替相場を円安に導き株価を上昇させたが、効果はそこまでだった。
日本経済の表層を温めはしたが、景気の原動力である個人消費も設備投資も伸びず、公約に掲げた物価上昇は果たせず、GDPも停滞したまま。
大企業が儲かれば恩恵は下々にも滴り落ちる、というトリクルダウンも起きなかった。
通貨発行を膨張させれば、インフレ期待が高まり、投資や消費が誘発されるという仮説も立証できなかった。安倍政権は3年やって分かったことだろう。
マイナス金利はどん詰まりになった経済運営の窮余の一策だった。日銀が銀行に注入した200兆円余の資金は、日銀にある金融機関の当座預金に眠ったままである。市場にカネは出回っていない。「ブタ積み」と呼ばれるマネーの滞留が起こるのは0・1%の金利を付けていることにも一因がある。というわけでマイナス金利にして追い出しにかかった、というのが真相だ。
さりとて資金需要がないところにカネは向かわない。マイナス金利は銀行の経営を圧迫するだけ、という見方から株式市場までネガティブに反応した。海外からも「日本のマイナス金利は通貨引き下げ競争を誘発しかねない」という批判が上がった。黒田緩和は完全に行き詰まった。
メディアが従順で、真っ当な批判記事を書かないからアベノミクスの神話は「株高」にすがり延命していた。だが市場の変調で状況は変わった。「支持しない」の増加は、世間の目が覚めたことの表れではないか。
■ブレーンに本音を代弁させる異常な姿 消費増税見送りはもはや既定路線
第一の矢は的から外れた。第二の矢・機動的な財政運営に力点が移る。だから財務省は焦っている。
「2020年までに財政の基礎収支(プライマリーバランス)をゼロにする」を金科玉条にしてきた。安倍政権がスタートした時、公共事業をてんこ盛りにして協力したのは「短期決戦なら」という方針があったからだ。
裏には「増税路線の堅持」がある。第一次安倍政権で秘書官を務めた田中一穂(現事務次官)をパイプに首相に「財政節度」を説き「消費税8%増税」を実施させたまでは成功だった。ところが増税が景気を冷やし、官邸の恨みを買う結果となった。
「財務省に騙された」と首相は怒ったという。以来財務省を信用していないようだ。
2015年10月に予定していた「10%消費税」を、突然繰り延べしたことは財務省不信の表れである。
連載第99回「財務省完敗で消費再増税に暗雲、国債暴落危機が始まる」(http://diamond.jp/articles/-/83745/)で書いたように、軽減税率を巡り党税調会長だった野田毅氏を「解任」した一連の出来事も、2017年に延期された「10%消費税」を再延期させる戦術と無関係でない。
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2017年からの消費税増税は「リーマンショックや大震災のような事態が起きない限り、確実に実施する」というのが政権の公式見解だが、首相の本音は「再延長」だろう。
「財政をどうする」という国家経営の根幹で政府部内に亀裂が生じ、首相は本音と建前を使い分ける。
本音を代弁するのがブレーンの仕事だ。静岡大教授から政府参与に迎えられた本田悦郎氏は先日の産経新聞で「消費税再増税は絶対にすべきではない。26年4月の8%への引き上げは間違っていた」と語っている。
首相は「確実に実施する」と国会で繰り返しながら、側近は「絶対にすべきではない」と堂々と語る。世論操作のつもりだろうが、異常な姿である。政治家の言葉の軽さがあまりにも悲しい。
■取りざたされる見送りの先は古色蒼然とした財政出動か
株式市場は本音を見透かし、「増税見送り」の先が取りざたされている。
「2016年度予算が決まったら、すぐに5兆円規模の補正予算が組まれる」といったうわさが駆け回り建設株を押し上げた。
G20会合を受け、「政策の総動員」という見出しが各紙に躍るようになった。小渕内閣のころ頻繁に語られた懐かしい言葉だ。
あらゆる手段を使って不況脱出を目指すという方針は、財政出動に傾斜し、小渕さんは「史上最大の借金王」と自嘲気味に語った。
失敗したアベノミクスは、第二の矢である財政出動に頼ることになるのか。自民党からは公共事業の復活を望む声が上がっている。建設業界が頼みにする二階俊博総務会長は財政出動を叫び始めた。7月の参議院、同日選の予想さえある総選挙。政治日程に関心が集まる中で「地方経済」は目も当てられない惨状だ。手っ取り早いのが公共事業だ。
財政は大赤字だがマイナス金利のおかげで国債消化は楽にできる。日銀が買っているから市場による節度は働かない。
国内経済に元気がないから投資が起こらない。企業は海外で稼ぐ。円安にすれば海外で稼ぐ企業は儲かるが、儲けを国内に吐き出さない。労働コストを抑えようと非正規労働者を増やす。実質賃金は下がり消費は振るわない。内需が盛り上がらないから投資しない。
儲けている企業の設備投資も雇用も海外で起こる。これでは日本は衰退だ。人口も減っていく。
目先の景気を煽るなら公共事業の大量投入は即効性がある。札束を燃やして暖をとるようなものだ。覚せい剤中毒のような経済運営はやめよう、と公共事業頼みとは縁を切ったのが21世紀の経済運営だったのではないか。
■出口がない黒田緩和の行く末は財政・金融の同時破綻という恐怖のシナリオ
なにをすればいいのかは、安倍政権でも分かったきた。国内消費を活発にすること。それには国内で雇用を増やし、給与を上げる。長時間労働、労働者の使い捨てをやめる。将来が安心できるセーフティーネットを張る。
言うのは簡単だが、難しい課題ばかりだ。真面目に取り組むなら、政策立案のプロセスから変えなければならないだろう。
経済政策といえば法人税減税や派遣労働の拡大といった、強者の論理に沿った発想を改めることから始めなければならない。
政策の重点分野をどこに置くのか。子育て、介護、子供の貧困、母子家庭、女性の労働環境、高齢者市場……。課題解決を迫っている現場に次の時代の飯のタネが潜んでいる。北欧が安心社会として生産性を上げているのは人口が少ないからではない。若者が国を離れていく社会の危機がバネになって自らが改革に取り組んだからだ。
日本政府は、あれこれ理由を付けて財政を発散させてきた。締めることができないまま、ここまで来た。危機を叫びながら「まだ大丈夫と」政治家も国民も思っている。
放漫財政のお手伝いをしているのが黒田日銀だ。お札を刷って国債を買う機関になった。国債バブルで超低金利を誘い、国の借金コストは極限まで下げている。マイナス金利で借金すると儲けがでる。笑い話のような異常事態が起きている。
行き過ぎた高値が付く国債は、必ず下がる。それは、いつか。可能性が高いのは緩和を止めた時だろう。だからやめられない。
黒田緩和に出口がない。財政・金融の同時破綻というシナリオを我々は覚悟しなければならない。そんな状況が刻一刻と迫っている。
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