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銀行に預けていれば安全な時代ではない。預金引き出しに制限がかかる事態もあり得る〔PHOTO〕gettyimages
マイナス金利「預金封鎖」に備えよ! この財政再建には悪夢の「秘史」があった
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48031
2016年02月29日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
戦後日本で預金封鎖が断行されたのは1946年2月16日。それから70年後の2016年のまったく同日、マイナス金利が幕を開けたのは偶然ではない。すでに水面下で、21世紀版の預金封鎖は始まっていた。
■財務省内の分科会ではすでに議論
日本銀行の黒田東彦総裁が決断したマイナス金利政策が、2月16日にスタートを切った。
しかし、日本の歴史上初めてとなる未曽有の政策は、幕を開けたそばからさっそく行き詰まりを見せている。
景気は上向く気配すらない。株も為替もふるわない。でも打てる策はもうない……。
日本経済はいよいよ待ったなしの袋小路。この先、日本全土には想像もしたくないおぞましい風景が広がる可能性すら出てきた。
「私がいま最も懸念しているのは、マイナス金利政策を含む現在の異常な金融政策の失敗が、日本にとっての『第2の敗戦』を招くことです。
日本では第二次世界大戦の敗戦後、預金封鎖と資産課税という国民の資産を暴力的に収奪する政策が断行されました。
現在の金融政策は市場の金利形成を歪め、財政規律を弛緩させています。ですが、このまま政府債務の膨張が続くなか、インフレ率が顕在化して長期金利が上昇すれば、財政は危機的な状況に陥る可能性がある。その延長で、いま再びの預金封鎖がよみがえってくるリスクが出てきている。
後世、この異常な金融政策の歴史は預金封鎖への前段だったとして刻まれかねない」(法政大学教授の小黒一正氏)
この現代において預金封鎖などという悪夢が復活するとはにわかに信じがたいかもしれないが、これは絵空事ではない。
恐ろしいことに、日本の中枢・財務省内においてすでに預金封鎖について議論が行われている。
財務官僚と経済の専門家らが財政問題について話し合う財政制度等審議会財政制度分科会。
財務省本庁舎4階の第3特別会議室で開かれたこの会で使われた資料の中に、預金封鎖が密かに取り上げられているのである。
この資料の正式名称は、『戦後の我が国財政の変遷と今後の課題』という。
2016年度の予算編成に向けて、麻生太郎財務相も出席した分科会での議論の下地になるものとして作成された。
その中の「戦後直後の混乱期における金融危機対策と財政再建」という項で、預金封鎖が詳細に紹介されている。
同資料によれば、〈戦後経済の再建を図るため、「預金封鎖」、「新円切替」を柱とする金融危機対策と、財産税等の特別課税等を柱とする財政再建計画が立案・公表される〉。戦後の崩壊した日本経済を立て直す劇薬として、預金封鎖が断行された旨が記されている。
また、当時は莫大な戦費負担が高じて、日本は深刻な財政危機に陥っていたため、〈戦後の債務処理を行い、財政再建の基盤を造成するため、財産税等の特別課税を柱とする「財政再建計画大綱要目」を閣議了解〉。国民の資産に丸ごと課税する「財産税」が創設され、その国民資産捕捉のためにも預金封鎖が必要だったというわけである。
当時は、預金封鎖が発表されると銀行窓口に庶民が殺到したが、引き出しは一ヵ月300円に制限。庶民は生活費もままならない中で、物々交換で凌ぐ悪夢のような生活苦を強いられた。
そのうえ、国民のあらゆる資産に課税する「財産税」は、当時の価値で10万円を超える財産を持つ個人がすべて課税対象となった。
最高90%という超高率の税率を課したため、超高額の税支払いに苦しみ、土地や株などで物納する者が続出。財産税の導入を発表した渋沢敬三蔵相自身も自宅物納を迫られ、皇室財産も天皇家個人の私的財産として課税された。まさに目も覆いたくなるような惨状が、日本全土に広がったのである。
■マイナス金利は預金課税
かくも凄惨な預金封鎖なる政策が、「2016年度予算」を作るに際して参考にされているとは、驚愕である。
さらに分科会の議事録には、メンバーたちによる次のようなホンネが記されているのだから、ただ事ではない。
「戦前の軍事費の増大、戦後の大混乱の中でも、財政再建が行われたということは、現在に対する教訓」
「過去70年の教訓をできるだけ将来に活かすような形で、今回の我々の議論を活かす、具体的には建議の中に盛り込んでいかなければいけない」
日本の中枢では、この預金封鎖が経済政策として見直す価値があるものと本気で論じられているというわけだ。
実は預金封鎖については、一部の専門家やメディアも警鐘を鳴らし始めている。
たとえば昨年、NHKは『ニュースウオッチ9』で預金封鎖の特集を組んだ。
同番組は情報公開請求をもとに政府の内部資料を入手。預金封鎖には、当時の膨れ上がった国の借金返済をすべて国民に押し付ける狙いがあったという恐るべき「秘史」を明らかにした。
さらに、同番組は当時と現在の財政状況が「酷似」してきたことをグラフを用いて紹介(左グラフ参照)。実は、預金封鎖が行われた戦後当時よりも現在のほうが財政状況が悪化していることまで暴露したのである。
当時、同番組のキャスターを務めていた大越健介氏は番組内でこう述べている。
「今の日本と当時とを安易に重ね合わせるわけにはいかないけれども、ただ、日本の財政は今、先進国で最悪の水準まで悪化していますので、終戦直後に起きた『歴史上の出来事』と片付けてはならない問題だとも言えます。財政健全化は常に肝に銘じなければならない問題です。政府は、夏までに今後5年間の財政健全化計画を策定することにしています」
「安全報道」を心がけるNHKにしては踏み込んだ発言であり、預金封鎖が復活しようとしていることへ最大限の危惧を投げかけた形である。
かつて日本で預金封鎖が国民に向けて発表されたのは、1946年2月16日。
奇しくも、日銀によるマイナス金利政策が始まったのとまったく「同日」であることが不気味に映る。
そもそも、マイナス金利政策とは、実はわれわれ日本国民の預金に対する間接的な「課税措置」である。その意味で、政府による預金捕捉はすでに始まっているということに、どれだけの国民が気付いているだろうか。
というのも、日銀がマイナス金利を課し、銀行を通して間接的にわれわれ預金者から分捕るカネの一部は、財務省(国庫)に納付される仕組みになっている。
目下、マイナス金利の対象になるのは23兆円。これに0.1%のマイナス金利を課すと、日銀は銀行から230億円の金利収入を受け取ることができる。これが国庫に納付されるので、財務省にとっては230億円分を「増税」できた形になるわけだ。
言うまでもなく、その増税の原資はわれらの預金。マイナス金利政策とは、事実上の「預金課税」なのである。
「さらに、日銀はこれからさらにマイナス金利の幅とマイナス金利を適用する範囲を広げることができる。それが広がるほどに、課税強化と同じ効果が生まれる。極論だが、たとえばマイナス金利幅を1%、適用対象を100兆円まで広げれば、銀行から日銀に1兆円という巨額が移ることになる」(前出・小黒氏)
税収1兆円とは、消費税に置き換えれば、0.5%分の増税分に値する。増税が悲願の財務省にとっては、国民にばれないように大増税ができるのだからこれほど嬉しい政策はないのである。
■まず、ギリシャのようになる
ここで忘れてはいけないのは、黒田総裁も財務省出身者であり、筋金入りの「財政再建派」だという点である。
マイナス金利策の導入が決まった直後から、日本の株式市場は暴落劇に見舞われ、景気への悪影響すら出てきたが、実はこれこそ財政再建派の黒田総裁にとって「好都合」の状況といえる。
なぜなら、株価下落や景気悪化がクローズアップされる度に、黒田総裁は「デフレを退治する」と意気込んで、マイナス金利策を拡大できる。
マイナス金利策の拡大は、すなわち、預金課税の強化と同義。
黒田総裁にしてみれば、景気対策をしているフリをしながら、次々と増税を実行できる「打ち出の小槌」を手に入れた状況といえる。
「結局、マイナス金利政策の行き着く先は、株価も景気もひたすら悪くなる一方で、国民はただひたすらに事実上の増税を押し付けられていくという地獄絵図に過ぎない」(日銀幹部OB)
もちろん、かくも国民をバカにした政策がそう長く続くはずもないことは政府も承知している。気付いた国民は怒り出すだろうし、負担を押し付けられる銀行だって黙ってばかりではいない。
いずれ限界を迎えることはわかりきっているからこそ、「その時」に向けて、政府はすでに次の一手を用意している。それが、前述してきた預金封鎖なのである。
経済当局者たちはすでに、預金封鎖までの詳細シナリオさえ描いている。複数の財務省・日銀関係者らの証言からわかったその道筋を、順を追って記しておこう。
これからまず起きるのは、日本国債の危機。
いま日本の国債を買い支えているのは、言うまでもなく約1300兆円といわれる家計の純金融資産である。それがマイナス金利策が拡大するにつれて、家計資産そのものが大きく目減り。国債残高の1000兆円を下回るようになったころ、国内で日本国債が消化しきれなくなる。
「次に、いま欧州のギリシャで起きているのと同じ状況が日本にそのまま到来する」(財務省OB)
年間30兆~40兆円という税収不足を国債で賄えなくなる当初こそ、予算の一部執行停止などで凌げるが、あくまで一時的な処置。早晩に、財務省主導で大胆な増税と歳出カットが提案される。
財政危機に陥ったギリシャで年金減額、公務員給与引き下げ、インフラ整備の延期など、国民に負担を強いる政策パッケージが提示されたあの光景が、そのまま日本で起きる。
「ギリシャでは負担策を受け入れるか否かで国論が大きく二分され、議会が紛糾した。日本でも同様の事態になる可能性があり、仮に負担策の受け入れを拒否した場合は、日銀による国債の直接引き受けをするしかなくなる。日銀が日本国債を直接引き受けるので、政府はいくらでも予算を確保できる『禁じ手』です」(前出・財務省OB)
■悪性インフレと取り付け騒ぎ
日銀引き受けが始まれば、国内では悪性インフレが猛威を振るい出す。物価上昇は当初こそ1〜2%の緩やかなペースで進むが、次第にピッチを上げて、いずれ10%台のインフレ率に達する。
「ここまで来るとハイパーインフレへの恐怖が国家全体に広がり出し、マーケットでは円売りが加速して急激な円安が進展。富裕層の資産フライトが開始すると、銀行は引き出し制限という第一段階の預金封鎖を始める」(前出・日銀幹部OB)
しかし、事態はこれだけにはとどまらない。銀行では取り付け騒ぎが発生し、金融資産の投げ売りも起きて金融市場が混乱。日本経済は、物価は上がるが深刻な不況から抜け出せないスタグフレーションに陥る。それはまさに「戦後日本」の姿そのもの。こうして日本は再び、預金封鎖→財産税導入へと突き進んでいく—というわけだ。
実際、日本と同じような財政危機国家であるギリシャでは、昨年すでに銀行預金からの引き出し制限を導入。生活資金を引き出すため、国民はATMの前に行列をなすようになった。
実は、日本はそんなギリシャよりもひどい財政状況にある。それなのにまだギリシャ化していないのは、あくまで日銀が国債を買い支えて財政危機が火を噴くのを抑えているからに過ぎない。しかし、その弥縫策もすでに限界間近。
「本来であれば、いまこそ政権が財政・社会保障改革に本気で取り組むことが必要ですが、参院選を前にして予算はバラマキ型となってしまい、痛みを伴う改革に踏み込めずにいる。日銀による国債買い入れもいずれ限界を迎える中で、日本の『第2の敗戦』が近づきつつあるように映ります」(前出・小黒氏)
いくらバラ撒いても、最終的には預金封鎖で国民から取り返すから同じこと。政府はそう高をくくっているのだろう。
マイナス金利は、預金封鎖への第一歩。踏み出されたこの歩みは、おそらくもう後戻りはしない。
「週刊現代」2016年3月5日号より
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