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絶望の介護業界…平均給与が全産業平均より10万低、重労働&職場ギスギスで若者不足深刻
http://biz-journal.jp/2016/02/post_14027.html
2016.02.29 文=福田憲次郎/福祉ジャーナリスト Business Journal
安倍晋三政権が打ち出した「介護離職ゼロ」が現状では砂上の楼閣にすぎないことは、介護事業者がもっとも深く認識している。要介護者を支える介護職を大幅に確保しない限り、介護離職ゼロは現実的な政策になりえない。
厚生労働省(平成26年度雇用動向調査)と財団法人介護労働安定センター(平成26年度介護労働実態調査)の集計によると、介護職員(常勤)の離職率は16.3%で、全産業平均の12.2%を4%上回った。事業所規模別に見ると、介護職員の離職率が10%未満の事業所が約半数を占め、30%以上の事業所が約2割となっている。雇用環境が整備されている事業所と劣悪な事業所に二極分化しているのだ。
こうしたデータからは、離職率が高いことには違いないが、飛び抜けて高い業種とはいえない。事業所にもよるが、人員確保でおしなべて直面しているのは、むしろ採用である。平成21年度から26年度にかけて実施した介護労働安定センターの調査でも、従業員が不足している理由で「採用が困難である」が72.2%を占め、「離職率が高い」は17.0%にすぎなかった。
採用難はとくに地方で深刻化している。求人サイトや求人広告では介護職の応募がなく、やむなく人材紹介会社に頼る例も少なくない。紹介手数料は予定年収の20〜30%で、かりに年間に10人の紹介を受ければ、600万円前後の支払いになるケースもあるという。
支払いの原資は介護報酬、つまり公費である。公費が本来の使途である介護サービス強化や人件費でなく、紹介会社への支払いに使われてしまっている。健全な紹介会社への支払いなら割り切れても、なかにはそうではない紹介会社もあるようだ。
「紹介会社経由で採用した職員が3カ月以内で退職した場合は、手数料が返還される契約が一般的。3カ月が過ぎた頃、紹介会社から本人にアフターフォローの電話が入るのだが、本人が何かしら悩みや愚痴を話すと『もっと良い求人が見つかりました』と言って転職を促してくる。3カ月以降の退職なら手数料を返還しなくてすむため、最初から人材を回転させる意図なのではないだろうか」(社会福祉法人事務長)
紹介会社の真意はわからないが、介護事業者は懐疑的になりながらも活用せざるを得ない現状にある。
■浸透するイメージ
介護職の供給不足は、最大の供給源である介護福祉士養成の専門学校にも表れている。厚労省の調査では、平成18年に405校(平均定員充足率71.8%)だったが、26年には378校(同56.6%)へと減少した。学校数が減り続け、定員割れの状況も悪化の一途を辿っているのだ。運営している学校には、ITなどほかの学科を併設して経営をやりくりしている例も少なくない。
しかも福祉専門学校は、高校で開かれる進路説明会にも呼ばれなくなった例もあるという。
「ほかの専門学校と違って福祉には入学希望者がいないという理由で、説明会の参加リストから外されてしまった」(福祉専門学校校長)
低賃金で重労働というイメージは、もはや覆しようもないほど浸透し切ってしまったが、とくに賃金水準の低さは著しい。「平成26年賃金構造基本統計調査」(対象:常勤労働者)を見てみよう。全産業の平均給与(基本給+諸手当)は、42歳平均で32万9000円である。これに対してホームヘルパー22万円(44歳平均)、福祉施設介護員21万9000円(39歳平均)。全産業平均よりも10万円低い。
政府も対策を打ち、平成27年4月の介護報酬改定で月1万2000円の介護職員処遇改善加算を設けた。この措置に対して、当初は「地方では給与が20万円に満たない介護職も多いから、月1万2000円の増収は大きい」(介護コンサルタント)と期待されていたが、そうはならなかったようだ。
「職員たちにとって、月1万2000円では給与が増えたという実感は得られない。3〜5万円は増えないと、処遇が改善されたという実感は持てないだろう」(東北地方の社会福祉法人理事)
■金銭的インセンティブ
こうした状況で「介護離職ゼロ」政策はどこまで現実的なのだろか。政府は平成27年度補正予算で介護職確保に444億円を投入し、2020年代初頭までに約25万人を増員する計画を策定した。確保策の柱は次の3つである。
(1)離職した介護人材の呼び戻し
(2)学生および中高年の新規参入
(3)離職防止・定着促進、生産性向上
目玉は金銭的インセンティブの創設だ。(1)については、再就職準備金として上限20万円を貸し付け、2年勤務すれば返済を免除する事業を実施し、(2)については介護福祉士を目指す学生を対象に、学費として上限80万円を2年にわたり貸し付ける。こちらは5年勤務すれば返済が免除される。
さらに地域医療介護総合確保基金(平成28年度予算案で90億円)を活用して、合同就職説明会実施、キャリアアップ研修支援、未経験者への研修支援、潜在介護福祉士の再就業促進、介護ロボット導入支援などを実施する計画である。
新たな政策がどこまで実を結ぶかは不透明だが、結局は、求職者の最大母数である若年層にとって、夢を描ける業界に変身できるかどうか。どの業界でも同じだが、人材確保の成否はこれに尽きる。政府がどんな施策を打ったところで、業界が刷新されない限り、いっこうに展望は開けない。
■最大の問題は組織運営
その意味で、現下の介護業界で問題視すべきは、賃金よりも組織運営である。介護職の離職理由のうち、実は賃金は4番目の理由である。
「平成24年度社会福祉士・介護福祉士就労状況調査」(財団法人社会福祉振興・試験センター)によると、離職理由は多い順に「結婚、出産・育児」「法人・事業所の理念や運営のあり方に不満があった」「職場の人間関係に問題があった」「収入が少なかった」。以下「心身の不調(腰痛を除く)、高齢」「労働時間・休日・勤務体制があわなかった」「腰痛」とランクされた。前出の介護コンサルタントは次のように指摘する。
「崇高な理念を掲げていても経営者が収益至上主義に走って、理念とのギャップに嫌気が差して辞めてしまう職員が続いている。人間関係でよく問題になるのは、管理職が働かないで、部下にどんどん仕事を押しつけてしまう風潮があることだ」
職場での人間関係については、次のような実態もある。
「利用者と家族に対して、あれだけ心優しく接している職員たちが、職員同士となるとギスギスした関係になってしまう。聞くに堪えないような言葉で陰口を言い合う光景を目にしたこともある。組織人としての教育が不十分なのか、どうも未熟な人が多いように思う」(介護老人保健施設・施設長)
一方、社会保障費の伸びが抑制されていくなかで、介護業界全体の経営マインドも変革が迫られている。次回の介護報酬改定は18年4月だが、国の財源不足から厳しい改定内容になることは避けられない。現場からは「介護離職ゼロを目指すのだから介護報酬を引き上げるか、処遇改善の基金や交付金を政府に開設して手当てほしい」(同上・老健施設長)というような意見が数多く聞かれる。
なぜ人件費の原資を公費に求めるのか。介護事業は市場原理の働かない“準市場”で営まれる制度ビジネスで、顧客の1番目は行政、利用者は2番目という側面がある。この準市場では、都道府県と市区町村が介護保険事業計画を3年ごとに策定する過程で、施設系・在宅系それぞれのサービス供給体制・供給量をマーケティングし、サービス内容と報酬単価は全国一律に設定される。
新サービス開発競争も価格競争もなく、しかも収入は公費から支払われるため(利用者の自己負担率は1〜2割)、焦げ付きが発生しない。事業の実態は経営というよりも運営に近く、いわば行政の規制と保護で成り立っている業界である。この成り立ちに由来するのか、極端にいえば社会保障制度にぶら下がり、他業界に比べて事業者の自己責任意識が希薄であることは否めない。
しかし、事業主体が社会福祉法人であれ株式会社であれ、民間事業者である以上、経営の原則は自己責任である。とかく社会福祉法人関係者は、異業種から介護に参入する企業について「介護の世界は、収益が目的の一般産業とは違う」などと批判的に見る傾向にあるが、市場原理に揉まれた異業種組には、親方日の丸の業界体質がぬるい業界に映るのだ。この業界体質が規制緩和とは別の意味で参入ハードルを下げ、社会保障費を食いものにする劣悪な事業者をも招いている。
介護離職ゼロ政策を推進するには、政策の実効性もさることながら、介護業界の体質改善が欠かせない。
(文=福田憲次郎/福祉ジャーナリスト)
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