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[核心]「不思議の国」のマイナス金利 縮み志向打破こそ課題
編集委員 滝田洋一
時計を持った白いウサギを追いかけて、少女は深い穴に落ちた。首をかしげながら、計算を始めると「4×5=12、4×6=13……。これじゃ、いつまでも20にたどりつけない」――。
日銀がマイナス金利政策を決めて以来、「アリスの世界」に迷い込んだような雰囲気が漂っている。このままでは預金して金利を取られることにならないか。街行く人々はそうしたモヤモヤを抱いているようだ。
もちろん、そんな事態を日銀は想定していない。今回の措置は、銀行が余ったお金を預ける「日銀当座預金」の一部に“手数料”を課し、投資や融資に向かわせようとするものだ。銀行は企業の預金から“手数料”の形で金利を取るかもしれないが、反発の大きさを考えれば個人の預金にそうすることは控えるはずだ。
それでも、マイナス金利政策に居心地の悪さを感じる人が多いのは、なぜだろう。政策金利をマイナスにまで押し下げざるを得ないほど、日本経済は厳しい事態に直面しているのか、と感じたからだろう。
「自然利子率」という物差しがある。景気を冷やしも過熱させもしない金利の水準である。経済が無理なく成長できる「潜在成長率」が下がれば、おのずと自然利子率も低下していく。1990年代以降、日本がたどってきたのはこの道だ。
政策金利を決める際、自然利子率は道しるべとなる。中曽宏日銀副総裁は先日ニューヨークで、潜在成長率と自然利子率をカギに講演した。披露したグラフには目を見張る。自然利子率は足元でマイナスになっているかもしれないのだ。
潜在成長率が0%すれすれとなり、自然利子率がマイナスになるというのは、経済にとっても金融政策にとっても居心地が悪い。
経済に海外などから外的ショックが加わると、実質国内総生産(GDP)はたちまちマイナス成長に陥る。2014年4月の消費税率引き上げ以降をみても、日本は頻繁にマイナス成長に見舞われている。
企業収益は円安のおかげで過去最高益となった。それでも、設備投資や賃金が期待ほど伸びないのは、日本経済の足腰の弱さを認識しているからだろう。
企業経営者のデフレ心理が払拭されなければ、カネは企業の懐にとどめ置かれ経済の好循環は妨げられてしまう。カネを抱えた方が得なデフレの世界から、投資や消費に回した方が得というインフレの世界への転換。それが簡単な課題でないことは、アベノミクス3年の経験ではっきりした。
金融政策のカジ取りという点でも、自然利子率の低下は難題を突きつける。景気を後押しするには、金融を緩和する必要がある。
政策金利を自然利子率より低く誘導することによって、世の中で取引される金利を下げていくのが金融緩和である。自然利子率がマイナスに沈んだら、どうすべきか。インフレ期待がしぼむなかでは、名目の政策金利もゼロの壁を突破してマイナスの世界に入っていくほかない。
もちろん、直ちに投資や融資が増えるわけではない。この点は企業も家計も銀行も、誰よりも日銀が先刻ご承知だろう。
経済協力開発機構の日本担当エコノミスト、ランドール・ジョーンズ氏がユーロ圏について示した試算は、日本にも示唆的だ。
金利低下とユーロ安と原油安。3つの追い風でユーロ圏の実質成長率は1.2%強押し上げられる計算。なのに、16年の成長は1.4%にとどまる見通しなのだ。経済環境が不透明とあり、好材料も効果が表れにくい。
目先、マイナス金利の効果として期待されるのは、円高抑制であり株価の下支えだろう。マイナス金利を採用する欧州の中央銀行の狙いも通貨高の防止なので、日銀が特異な政策を取ったわけではない。
マイナス金利採用の直後、市場は円安・株高となったものの、効果は短期間しか続かず、かえって円高・株安が進んでしまった。ほかでもない。日本経済が外的ショックにもろいのと同じく、日本の市場は海外要因と外国人投資家によって左右されるからだ。
「円換算のニューヨーク・ダウ工業株30種平均」という物差しがある。米国の株価指数に円相場をかけたものだが、日経平均株価はここ数年、その「円換算ダウ平均」に寄り添うように推移している。このグラフはつまり、日本の株価が米国株と為替相場という2つの要素によって左右されていることを物語っている。
冷静に考えれば、マイナス金利政策は魔界に扉を開く策でもない代わりに、経済の困難を一気に打開する魔法のつえでもない。
バレンタインのチョコレートを2枚もらった大手自動車メーカーの社長は、ブランド名を伏せて味を試してといわれた。1枚は日本製、もう1枚はベルギー製。この社長は日本製の方がおいしく感じた。ところが値段は10分の1。
「品質に応じて価格が決まる」環境は、縮み志向を打破しないと実現しない。そのためには潜在成長率や自然利子率の向上が、金融緩和とともに欠かせない。
アベノミクスの支持者である米経済学者クルーグマン氏は言っている。「生産性はすべてではない。だが長い目でみたら、ほとんどすべてだ」。その努力が伴ってこそマイナス金利政策のモヤモヤも晴れてくる。
[日経新聞2月22日朝刊P.4]
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