http://www.asyura2.com/16/hasan105/msg/904.html
Tweet |
量的緩和の実体経済への効果が否定され、リフレ派はみんな泣いている Thomas Peter-REUTERS
リフレ派が泣いた黒田日銀のちゃぶ台返し - 岩本沙弓 現場主義の経済学
http://www.newsweekjapan.jp/iwamoto/2016/02/post-15.php
2016年02月25日(木)18時00分 岩本沙弓 ニューズウィーク日本版
前回のマイナス金利で梯子を外されたのが銀行なら、今回見事に梯子を外されたどころか、卓袱台をひっくり返されたのがいわゆるリフレ派でしょう(懇意にしているメディア関係者の方からリフレ派は皆、泣いているとメールを頂戴したものですから)。
23日の衆院財務金融委員会で黒田総裁、岩田副総裁が揃ってこれまで自身が推進してきたはずのマネタリーベース拡大政策について、その効果を否定。前回の寄稿でお伝えしました通り、「異次元」とされた量的緩和のスタート時点から、良識ある有識者の間では実体経済への効果は否定的というのが共通認識でした。この度の委員会での総裁、副総裁の発言は遅きに失すわけですが、兎にも角にも効果がないという点をお認めになられたのですから180度の転換となります。
ここでのポイントは大きく2つ。
(1)結局のところ、自分たちが推す政策でどういった効果が出るのか、全くわからないまま進めてきたのだと吐露したようなものですが、だとすれば金融政策を担う立場として鼎の軽重が問われるのは当然でしょう。
(2)「異次元」の量的緩和をスタートした時は自信満々でしたが、マネタリーベース(ベースマネー)を増やしても、マネーストックを増やす効果は期待できない、つまり実体経済への波及効果はないと実は最初からわかっていたとするなら、いったい何のための「異次元」の量的緩和策だったのか。
(2)の実体経済へのプラスの影響を考えていると公言しながら、実は期待していなかったのか? という部分については(1)の鼎の軽重を問う部分と併せて世論にお任せするとして、ここでは(2)の中でも「異次元」の量的緩和の本当の目的は何であったのかについて考察してみたいと思います。それを紐解くには少々古い議事録になりますが、こちらが参考になるでしょう。
<関税・外国為替等審議会 外国為替等分科会 「最近の国際金融の動向に関する専門部会 」
(第4回)議事録>
http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1022127/www.mof.go.jp/singikai/kanzegaita/giziroku/gaic150416.htm
ノーベル賞受賞(2001年)後の2003年にスティグリッツ氏が審議会で講演をし、その後の質疑、自由討議に当時内閣官房参与だった黒田氏も参加しているというもので、日銀総裁になって以降のインフレ目標と円安を目指す発想はこの当時からあったものと思われます。
ただし、スティグリッツ氏は「インフレ率やデフレ率は政府のコントロールが必ずしも及びません」「市場経済においては為替レートは政府が決められるものではありません」と述べています。日本は総需要、構造問題を抱えているとし、デフレについて考える=経済低迷期における物価下落の問題として考える場合には、物価と同時に「賃金は大幅に下落して」いる点を鑑みる必要があることにも言及しています。
議事録内でポイントとなる黒田氏の発言としては、
「当然、金融緩和は他の事情が一定であれば為替の下落を導きやすい訳です。そうすると、教授が言われたようにデフレ資産を緩和するという意味で好ましいと思います。」
つまり、通貨価値の下落(円安)→デフレ解消を考えていること。ただし、為替市場で直接ドル買い・円売り介入するのは国際的な批判が大きいことが予想できるだけに、
「為替市場に直接介入して円安をもたらし、それでデフレーションを直そうというよりも、先生が強調しておられたようなさまざまな金融緩和の方が望ましいのではないかと思っています。」
というところでしょう。
ちなみにこの議事録の中で「賃金」という単語の登場回数は6回、いずれもスティグリッツ氏からとなっています。「所得」は18回の登場で、うち13回がスティグリッツ氏、主に創出や増加といった単語とセットになっているのが確認できます。対して、日本側のコメントで純粋な「所得」が出て来るのはスティグリッツ氏の発言を繰り返す形でのわずか1回、あと4回は「所得税」として登場しています。たかだか1回の議事録の単語数で全てを推し量るつもりは全くありませんが、国民経済目線の政策を目指しているのか、数字上のデフレ解消が先に立っているのかが、透けて見えるようではあります。
【参考記事】マイナス金利は実体経済の弱さを隠す厚化粧
http://www.newsweekjapan.jp/iwamoto/2016/02/post-14.php
今回マイナス金利が実施されましたが適応されるのは250兆円ある準備預金のうち30兆〜40兆円だけ。引き続き年間2000億円ほどの利子は銀行側に払われるわけですから、実態面からすれば影響は軽微というのが日銀側の説明かと思います。であるなら、マイナス金利はアナウンスメント効果を狙った部分が大きいということの裏返しでもあります。では、何のためのアナウンスメントかと言えば、為替市場における円安効果を狙ってというのが上記の黒田氏の過去の発言からうかがえます。
さて、円安に如何ばかりの効果があるのか。端的に、円安によって海外資産は嵩が増しされてよろしいということはあるでしょう。しかし、これは一部への恩恵にはなり得ても、国民経済全体にまんべんなく効果が及ぶものではありません。そして、当初喧伝された円安効果が今回のステージで輸出にはほとんど見られなかったことは既に周知の事実。その一方で原材料費など輸入に依存しているものは円安では価格高騰となります。今回、国際市場での原油価格の大幅な下落があったからこそ(その意味において本当に安倍政権は強運だったと思います)とんでもない国内のガソリン価格の高騰などに見舞われず、国民生活は難を逃れたとも言えます。「円安をもたらし、それでデフレーションを直そう」とは仰いますが、数年前の1ドル75〜120円台までの急激な円安をみてもデフレは解消もしていません。であるとすれば、何のための円安政策なのか?
ちなみに、日米欧の中央銀行の間では為替操作を意図してはいけないことになっていますので、表向きには今回のマイナス金利実施が円安を狙ってと日銀から公言されることはありません。それでも「追加金融緩和の政策手段が限られているとは考えていない」「あらゆる手段を講じる」と先日の会見でも仰っていましたので、引き続き円安を望むということなのでしょう。ただし、果たして一中央銀行の為替政策が有効なのかどうか。
ところで、日銀の暗黙の円安政策を牽制してか、次期大統領候補のヒラリー氏から早速、日本に対しても為替操作国としての名指しがありました。日本が自国の輸出を有利にするため為替を操作しており、大統領に就任すれば「断固たる措置をとる」とも。そう言えばヒラリー氏はTPPについても為替条項が盛り込まれなかったことから反対しています(為替条項があれば各国の利益誘導的な為替操作を防ぐことになります)。次は4月に公表となる米財務省の為替報告書でも日本について踏み込んだ表現になるのかどうか、今から要注目です。同報告書で為替操作国に認定された場合ですが、2国間協議が実施されるほか関税による経済制裁の可能性、米国だけでなく各国から通貨切り上げ圧力が強まることもあります。
中国は毎度のこととして、日本の名前がここまではっきりあがるのは久しぶりのことです。(去年の為替報告書でも多少そうした気配はあしましたが)これだけ強い反発がここに来て米国から生じている非常に大きな背景にはいよいよ開始となった米シェールガス輸出があるでしょう。今や米国の経済構造まで変えるシェールですが、日本への輸出が本格化するのは2017年です。
米国の輸出にとって都合がいいのはドル安。これまでの数年のステージでドル高を伴いながら投資資金を呼び込み、目処が立った段階でシェールの輸出とともにドル安政策を強いてくるのは戦略国家の米国としては当然のこと。これは何も怪しい相場予想や占いをしているわけではなく、米国のシェールの動きからこうした動向を察知すべきではないですか、という話に過ぎません。ドル安政策に転換するやもしれぬ米国に対抗して日本側がドル高円安を維持する力量や、そもそも(国際貿易の公平性や国内の実体経済への影響を鑑みて)必要があるのか。
「市場経済においては為替レートは政府が決められるものではありません」――少なくとも人為的に操作された部分については今後様々な圧力がかかってくるのではないでしょうか。あらためて、何のための量的緩和の継続なのかを考えるべきステージにあると思われます。
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民105掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。