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やっぱりあった「学歴フィルター」〜就活の達人が語った、実に残酷な採用の話
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48029
2016年02月26日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」 現代ビジネス
■「エントリーシート10万通」が意味するもの
ことしも大学生や高校生の就職活動が始まる。それに先駆け、政府の規制改革会議は2月22日、東京・霞が関で「多様な働き方」をめぐって公開ディスカッションを開いた。就職・転職は新卒に限らず、人生の大きな選択だ。良い職場を選ぶためには、何が必要なのか。
参加したのは、厚生労働省をはじめ日本労働組合総連合会(連合)、経済界の代表や就職事情に詳しい有識者、経営者らだ。会議の模様はインターネットで中継され、私は司会を務めた。そこで印象に残った点を報告しよう。
私が印象深く聞いたのは、就職関連ビジネスを展開している寺澤康介「ProFuture」代表取締役社長(中央大学大学院戦略経営科客員教授)のプレゼンテーションだった。以下、関連資料は内閣府のホームページ(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/meeting/2013/discussion/160222/gidai/agenda.html)で入手できる。
寺澤氏によれば、かつては例えば20人の採用枠に800人程度の応募者があった企業に、いまはエントリーシート(ES)で10万人の応募があるという。競争率にすると、40倍から5000倍に跳ね上がった形だ。
ただし競争率が5000倍になったからといって、会社が応募者全員のESをていねいに読んでいるわけではない。実際には大学名で足切りして、重点的に採用する大学(ターゲット校)からの志願者をふるいにかけているのだという。
■その結果、何が起きるか。
学生たちは時間をかけ工夫を凝らしてESを書いたとしても、多くは徒労に終わってしまう。なにせ読んでくれないのだから。
それでも多くの企業は「大学名で足切りする」と表立って言わないので、学生たちはせっせとESを書くはめになる。
■壮大なロスをいかにして防ぐか
学生にしてみれば「応募しないことには始まらない」と思って、5000分の1のチャンスにかけるのだ。夢破れた多くの学生はどう思うか。寺澤氏によれば、彼らの本音は次のようだ。
「嘘をつかないでほしい」「学歴フィルターがあるならあるで明言してくれたほうが清々する」「透明性のある選考を」「選考基準が全然分からない」「なぜ落とされたのか分からないと改善しようがない」「選考でないと言いながら選考するのはやめてほしい」
学生がもっとも企業に「改善して欲しい」と思っているのは「サイレントお祈り」だそうだ。聞き慣れないが、何かといえば、企業が採用を断った学生に対する決まり文句である「他社でのご活躍をお祈りします」というメールを出さずに(だからサイレント!)断る例だ。
「採用する場合は連絡します」というが「採用しない場合は連絡しません」なので、学生は合否が分からず、期待を抱いていつまでも連絡を待つハメになる。これはひどいと思う。こういう企業は、そもそも社会的存在として許されないのではないか。学生をきちんと相手にしていない。
寺澤氏は「学生の心が折れて、社会人になる最初の段階で社会に不信任を抱くきっかけになる」と訴えた。1人で50社、100社とESを書いて送る学生はざらだ。それを読んでもくれないのは、学生にとって「壮大なロス」になるのは間違いない。
そんな現状をどう改善したらいいか。寺澤氏は大学の就職部(キャリアセンター)や欧米で広がっているSNS(ソーシャルメディア)、ダイレクトリクルーティングの活用を提言した。
企業から求人票が集まる大学の就職部は、かつて学生と企業の窓口として機能した。だが、いまネット上の就職ナビサイトがそれにとって変わり、ほとんどの学生は就職ナビを通じて情報を得ている。そういう仕組みが大量のESが生み出す原因にもなっている。
企業から掲載料を受け取って運営している就職ナビや転職ナビは手軽な反面、そこから企業に不利な情報は出てこない。また中堅・中小企業は大手・著名企業の陰に隠れて注目もされにくい。つまり情報はあふれているが、十分でなく効率も悪いのだ。
■離職率の正しい読み方
連合の村上陽子総合労働局長も「大学の就職部が介在することによって、企業のナマ情報を入手しやすくなる」と就職部の活用に賛成だった。就職部が目立ちにくい企業を集めてセミナーを開催すれば、有望な中小・中堅企業の発掘にも役立つのではないか。
SNSやダイレクトリクルーティングはマスを相手にしたアプローチではなく、個人と個別企業が直接向き合うミクロのアプローチとして有効だ。寺澤氏は「学生の側が個人のホームページを立ち上げて、逆に企業からの接触を待つ例もある」と紹介した。これもミクロのアプローチである。
個人と企業が1対1で向き合えば、入社してから「こんなはずではなかった」という互いのミスマッチを減らす効果もあるだろう。
活発に議論が交わされたのは、入社前のインターン制度の活用である。
インターンは一部で実施されていたが、改善点が少なくない。例えば「1日限りのワンデーインターン」だとすると、それで互いに相手の何が分かるのか、という問題がある。学生にとっては単なる会社見学、企業にとっては実質的に採用面接と同じかもしれない。
せめて1ヵ月程度は働いてみないと、互いに相手の適性や風土は見極められないだろう。とはいえ、後で本採用する可能性が高いインターンにすると「インターンに採用されるかどうか」が実質的な採用試験になる。
そうすると、一斉に採用活動解禁日を設けている仕組みが空洞化する恐れがある。学生側にとっても、解禁日から1ヵ月のインターンとすると、その期間は他社への就職活動ができなくなってしまう。
そのあたりをどうするか。公開ディスカッションでは、入社後のミスマッチを防ぐためにも「インターン制度は有効」という意見が多かった。実際にインターン制度を重視する企業も増えているようだ。
もう1つ議論になったのは、数字で示される指標をどう評価するか、という問題である。例えば「離職率」が高い会社は学生が敬遠しがちだが、「G&S Global Advisors Inc」の橘フクシマ咲江・代表取締役社長は「新入社員をしっかり教育する会社ほど、若いうちから早く転職する傾向もある」と指摘した。
日本商工会議所の若者・女性活躍推進専門委員会委員を務める小松万希子・小松ばね工業取締役社長も「新卒を毎年採用していなかったり、少数しか採用しない中小企業は1人辞めてしまうと離職率が跳ね上がってしまう」と訴えた。
■就活も改善の余地だらけ
「男女比」については、出席者から「例えば工学系エンジニアが多い会社は、もともと大学で男子学生が多いので女性の数が少なくなる」という指摘もあった。いずれにせよ数字だけで判断できない、という例だ。
連合の村上局長は連合の相談ダイヤルに寄せられた「求人票に賞与支給とあったのに、働き始めたら賞与がなかった」とか「勤務時間は9時〜18時のはずだったが、実際は深夜まで残業があった」など募集と実際の労働条件が異なる例を紹介した。
こうしたケースについて、厚労省の担当者は求人広告の内容と契約内容が違った場合、職業安定法や労働基準法の規定と運用をめぐって職業紹介事業者だけでなく、実際の求人者にも規制対象を広げるべきかどうか、労働政策審議会などの場で検討していると答えた。
就職・転職は最終的には個人と個別企業の問題だ。だが、プロセスの入り口がマスを相手にした仕組みになっているせいもあって、大量のESのようなロスが生じている。加えて情報もマスを基に数値化された比率などが独り歩きしやすい。
働き手と企業の不幸なミスマッチが起きるのも、それらが一因だ。企業はどんな情報をどういう仕組みで発信していくか。働き手はそれをどう受け止めて、良い職場を選んでいくか。行政も含めて改善点はまだまだ多い。
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