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5年以内にクリエイティブな仕事すら人工知能に奪われる可能性…人間は制御できるのか
http://biz-journal.jp/2016/02/post_13926.html
2016.02.23 文=江上隆夫/ブランド戦略ディレクター Business Journal
■人工知能時代に働くって、どういうことなんだろう
少し前に、米紙ニューヨークタイムズのインタビューでデューク大学のキャシー・デビッドソン教授が語った以下の言葉が話題になった。
「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」
これはデジタルイノベーションやインターネット社会の発達を前提にしているが、なかでも最大のインパクトは人工知能の発達がもたらすだろう。
まったくの素人で無謀とは思いつつも、今回は人工知能の未来について考えてみたい。今私たちが取り組んでいる仕事内容だけではなく、労働観まで大きく変わるかもしれないからだ。
筆者はコピーライターやクリエイティブディレクターを30年以上生業にしているが、こうしたクリエイティブの世界に早くも人工知能の影響が現れてきていることに驚いている。スタッフには常々、「簡単なコピーやアイデアの発案は、そのうち機械が代行するようになる」「人の心理がわかり、コンサルティングやコーディネーションができるクリエイターでなければ、生き残れない」と言っている。それでも最低4〜5年は現状の仕事スタイルが維持できると根拠なく思っていたのだが、それが間違いであることに最近気づいた。
なぜなら、ロゴやキャッチフレーズの自動作成サイトが数多く現れているからだ。今はまだ素人に毛の生えたレベルだが、人が手を加えればそこそこ使いものになる。もし自動学習ができる人工知能をこの世界に投入し、世界中のロゴやキャッチフレーズをロボットで収集し、ユーザーの膨大な量の反応をネットから解析していけば、目的に対して最適化されたロゴやキャッチフレーズの作成が可能になる。類似を可能な限り避けるプログラムを組み込めば、東京五輪エンブレムをめぐる問題のような事態も起きなくなる。つまり、プロジェクト全体をディレクション、プロデュースできないコピーライターやデザイナーは早晩仕事がなくなっていく可能性が高い。
米ハリウッドの映画づくりでも、ライティング・ソフト使って脚本執筆作業をサポートすることが普通に行われていると聞く。機械では代行できないと思われていたクリエイティブ領域も、人工知能の稼働領域になる可能性が大なのだ。
■彼は勝手に学び、猫を認識するようになった
数年前、人工知能に動画共有サイト「YouTube」から抽出された1000万のイメージを見せることで、猫を認識させることに成功したというニュースが話題になったことがあった。これがなぜ話題になったのかといえば、人工知能に人間が猫の特徴を教え込むことなく、人工知能が勝手に無数の画像から猫がどういうものであるのかを学び、認識するようになったからだ。これは人工知能に人間とほぼ同じ学習スタイルである「ディープラーニング」を実装することで可能になった。
ディープラーニングと呼ばれるアルゴリズム(http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1507/27/news067.html)(問題を解く手順、プログラム)は、人間の脳の神経構造を真似したもので、それまでコンピュータでは難しかったが、学習させたい対象の特徴を最適化して取り出すということができるようになった。この方法によって人間しかできないといわれた領域に人工知能が、つまり機械が一歩足を踏み入れることができるようになったのだ。
そして、1月28日に大きく報道されたのが、人工知能が囲碁のプロ(2015年欧州王者)Fan Huiさんに勝利したというニュース(http://www.gizmodo.jp/2016/01/go_google.html)だ。今までチェス王者、プロ棋士には勝利していたが、囲碁には石を置く点が361カ所もあること、かつ361の階乗で10の768乗の局面があり、人工知能が人間に勝つのは10年後ともいわれていた。しかし、英グーグル・ディープマインド開発の人工知能「AlphaGo」は、中国出身の欧州王者と5回対戦し、全勝したのである。
■2045年問題〜1台の人工知能が全人類の知能を持つ?
人工知能の知能レベルは劇的に伸びている。2045年問題は研究者だけの問題ではなく、私たちにかかわる大きな問題であることが見えてくる。45年問題とは、ムーアの法則(半導体の集積回路の性能が1年半ごとに倍になる)を当てはめると、45年にはひとつのチップの上に10の12乗個(約1兆個)のトランジスタを積み込めるようになり、全人類の知能を追い越してしまうシンギュラリティ(技術的特異点)が訪れる可能性があるという問題だ。
現在の人工知能などの進歩のスピードを見ていると、可能性は高いだろうと素人ながらも思ってしまう。すでに米アップルのiPhoneやアンドロイドのスマートフォン、Amazon Echo(日本未発売)は、もっとも身近な人工知能として少しずつ私たちの生活をサポートしているからだ。日産自動車のCMでは、矢沢永吉が自動運転の車に乗っている映像が流れている。あと数年でコンピュータ・チップ1枚のトランジスタ数が、ひとりの人間の脳神経細胞数を超えるともいわれている。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFL230GF_T20C13A7000000/
なぜ、人工知能の発達が問題かというと、それが私たちに何をもたらすのか、少なくとも現時点では私たちの想像力を超え、よくわからないからにほかならない。原子力などの技術と同様、果たしてそれがコントロール可能なものなのか、そうではないのか。もっと端的に言うなら、人類にとってそれは「善きもの」なのか、という問いである。全人類の知能を超える能力を持ち、かつ自ら学習し成長する人工知能があるとするなら、その機械をどのように使えばよいのかが私たちに問われているわけである。
■エンターテインメントに見る人工知能の未来
ヒントは映画やアニメ、小説などのエンターテイメントの世界にあるかもしれない。人工知能は昔からエンターテインメントの1ジャンルだったからだ。SF映画の傑作『2001年宇宙の旅』に登場する「コンピュータHAL9000」は、意思を持ち自らの判断で乗組員を抹殺していく。また、映画『ターミネーター』は人工知能に意思が芽生え、人間が機械に支配される未来をテーマにしている。いずれも機械に意思が芽生えることが映画の重要なファクターになっている。ターミネーターは完全に機械vs人間のディストピアを描いている。「悪しきもの」としての人工知能だ。
実は日本のエンターテインメントにも人工知能をテーマにした大ヒット作がある。『鉄腕アトム』と『ドラえもん』である。アトムはヒューマノイド(ヒト型のロボット)、ドラえもんはネコ型ロボットである。こちらはターミネ―ターと正反対で、人に寄り添って生きる、友人のような人工知能の物語である。
ロボコン、キカイダーなど国民性なのか、日本人が描く人工知能は人間に近く、等身大のものが多い。キカイダーはちょっと違うが、ディストピアではなく「隣町のユートピア」とでもいうべき世界を描いている。市販のロボットであるソフトバンクの「pepper(ペッパー)」も、頼りになる第二の家族のようなポジションだ。
■ネット登場以上の巨大なインパクト「人工知能社会」
ターミネーターの「破壊的ディストピア」とドラえもんの「隣町的ユートピア」。人工知能は敵か、家族か、という二分法で考えられるほど単純なものではないが、よりドラえもん寄りの場所に進化すべことは子供でもわかる。要は、人がより良く生きること、社会がより良い場所であるようにサポートするのが人工知能であるべきだろう。
産業革命が人間を肉体労働から解き放つきっかけになったように、人工知能革命は知的労働から人間を解き放つ可能性を持っている。しかし、産業革命時に機械打ちこわしのラッダイト運動が起こったように、恐れから人工知能を毛嫌いする21世紀のラッダイト運動も起こるだろう。
ここでSF作家のアイザック・アシモフが提唱したロボット三原則が思い出される。
「第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない」『われはロボット<決定版>』 (早川文庫/アイザック・アシモフより)
人工知能の発達はインターネットの登場以上のインパクトを社会に必ずもたらし、政治、経済、科学技術、労働、教育、生活そして社会構造など、広大な範囲に影響を及ぼす。そして、人工知能の活用とは、私たちがどういう社会を築いていくのかという問題に帰着する。アシモフのロボット三原則のように人工知能の原則を議論する必要が早急に生じるはずだ。だから、人工知能の問題とは、遅かれ早かれ「人間の倫理」の問題として浮上してくる。
(文=江上隆夫/ブランド戦略ディレクター)
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