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テレビやネットの写真でよく見かける「アフロ」、実はこんなにスゴい会社だった!
http://biz-journal.jp/2016/02/post_13936.html
2016.02.23 文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント Business Journal
フィギュアスケート・浅田真央選手(青木紘二/アフロスポーツ)
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
ブラジル・リオデジャネイロで行われる夏季五輪の開幕まで半年を切った。1月30日にU-23(23歳以下)サッカー日本代表がアジア最終予選を兼ねたアジア選手権で優勝、五輪本大会の出場権を獲得するなど、徐々に五輪ムードも高まっている。
U-23サッカー日本代表(長田洋平/アフロスポーツ)
浅野拓磨選手の逆転シュート(長田洋平/アフロスポーツ)
ところで、インターネットのスポーツ記事を見ていると、添付されている写真に「アフロ」というクレジット(表記)をよく目にする。このクレジットが入っている写真は、株式会社アフロが撮影して各メディアに提供したものである。外資系企業のような社名だが、実はカメラマンの青木紘二氏が1980年に設立した日本企業だ。
今や社員数約140人を抱える国内有数のフォトエージェンシーとなった同社は、スポーツ以外にも多様な分野の写真や動画コンテンツを2000万点以上持ち、出版・広告・テレビ・IT業界などに有償で提供している。
青木氏は同社の代表と、第一線のカメラマンとしての両面を持つ。そこで今回と次回の2回に分けて、企業としてのアフロの取り組みとプロカメラマンとしての青木氏の活動をそれぞれ紹介し、「企業と個人の立ち位置」を考えてみたい。
■自社撮影部門を持ち、世界最大の通信社とも提携
同社のビジネスモデルは、写真、イラスト、動画という「ビジュアル」を各方面に提供する事業なので、人脈と機動力が欠かせない。主力分野の写真でいえば、すでに撮影した写真もあれば新たに撮影する写真もある。青木氏の豊富な人脈から始まった事業だ。
「当社は、作品を提供いただく国内外のクリエーターを多数抱えており、送られる数には個人差がありますが、契約カメラマンだけで何千人もいます。毎日ビジュアルは増えており、一日に約3万点入ってきます。それを社内の担当者がスポーツやニュース、エンターテインメントといった分野別に整理するのです」(青木氏)
利用側の立場から説明してみよう。たとえば同社のビジュアルを利用したい人(企業・団体・個人)は、「aflo.com」というストック写真の検索サイトに会員登録(入会金・会費無料)した後で、「写真・イラスト」「報道・出版写真」「動画素材」「報道動画」の各項目に用意されたコンテンツから選ぶことができる。
利用できるコンテンツには「ライツマネージドコンテンツ(RM)」と「ロイヤルティフリーコンテンツ(RF)」がある。RMは有名写真家や著名イラストレーターの作品もあり、それぞれ価格が決まっている。総じていえば、RMは高価格〜中価格帯、RFはリーズナブルな価格が多い。
撮影や制作を同社に依頼することもできる。スポーツ撮影なら「アフロスポーツ」、広告写真なら「アフロディーテ」という部門が対応する。この2分野は歴史も長く、実績も豊富だ。たとえば、リオ五輪の開幕直前や閉幕直後に、出版社が「リオ五輪特集」のムック本を出版したいと考えた場合、アフロが保有する過去の五輪の名場面を活用し、同社にリオ五輪での撮影を依頼すれば、自社でカメラマンを派遣しなくても制作できるわけだ。
同社の業績は非公表だが好調だという。「フォトエージェンシー業界では、株式会社アマナさんには及びませんが、会社設立以来、売上高はずっと伸びてきました」(同)
若くしてスイスに渡り、長年欧州で生活した青木氏のモットーは「本音で話す」ことだという。それがビジネスで功を奏することもある。
「米国のAP通信と提携したときも、私が本音で話す姿勢がAP通信の社長に評価されました。とかく『日本人は建前と本音が違う』と思われていますから」(同)
AP通信は1846年に設立されて今年で170年の歴史を持つ世界最大のニュース通信社だ。日本のメディアで紹介された写真で「AP/アフロ」と記されているのがそれに当たる。
月面に降り立ったアームストロング船長
マリリン・モンロー
レーガン米大統領とサッチャー英首相の対談(いずれもAP/アフロ)
■「デジタル化の大波」に慎重だったが、一気に波に乗る
どんな企業でも、事業環境の変化とは無縁でいられない。創業以来成長を続けてきた同社にとって最大のターニングポイントは、20世紀末から21世紀初めに進んだ「写真のデジタル化」という巨大な波だった。当初はこの波に乗らなかったという。
「当時のデジタルカメラの弱点が風景だったのです。リアルには写せるけれど、グラデーションや奥行き感がフィルムに比べて劣っていた。しばらく時機を見ていました」(同)
だが、その後も世の中のデジタル化が進んだ。過去のストック写真のデジタル化という大きな課題も横たわった。青木氏が事業のデジタル化を決断したのは2004年のことで、そこからの行動は早かった。
「日本国内でアナログからデジタルにスキャニングする作業をすれば、多額のコストがかかります。そこで思いついたのがベトナムでした。スイスで生活していた時代に多くのベトナム難民を見て、真面目に働く作業ぶりを知っていたからです」(同)
そこで現地にスキャニング工場を設け、14人を採用してデータ変換作業を続けた。それを続けるうちに、日本国内でデジタル化に乗り遅れた複数の競合会社の業績が傾き、アフロが吸収合併。積極的なM&A(合併・買収)をせずに企業規模が拡大したという。
ちなみに、富士フイルムの幹部は、デジタルへの変遷期についてこう話している。
「2000年頃が当社の写真フィルム事業の絶頂期で、市場シェアは7割あった。当時の当社売上高の6割、営業利益の7割弱を占めた主力中の主力事業だった。デジタル化が進み、写真フィルム市場はその後の2〜3年は年7〜10%減、さらにそれ以降は年率20〜30%減となった」
そのようななかで、主力事業の軸足を写真フィルム事業から医薬品・医療機器や化粧品事業などに移した富士フイルムの成功例、デジタル対応に遅れて経営破綻した米イーストマン・コダック社の失敗例は有名だが、フォトエージェンシー業界でも明暗が分かれていたのだ。
■出版・テレビ市場が縮小、新分野を開拓する
IT化が進み便利になった半面、かつては隆盛だった業界がITに取って代わられ、市場規模が縮む例も多い。アフロの主力取引先であるメディア業界も例外ではない。たとえば、出版科学研究所調べによると15年の出版業界の市場規模は約1兆5220億円で、最盛期だった96年の2兆6554億円と比べると4割以上も市場が縮小してしまった。テレビ業界の縮小も続き、メディア向けに提供するライセンス料も昔に比べて下落している。
そんな時代に同社がめざすのは、「ロマン」を掲げつつ「ソロバン」をはじく手法だ。
「もともと当社は、『楽しく仕事をがんばろう』をモットーとしています。仕事なので厳しい部分はありますが、私自身も写真撮影が好きで楽しいのです。システムエンジニアや管理部で働く社員も含めて、写真や映像が好きな人材しか採用してきませんでした」(青木氏)
ロマンの例としては、出版業界で「アフロ本」と称されるものがある。同社が提供した写真をまとめた単行本だ。『絶対に行きたい! 世界遺産101』『絶対に行けない! 世界の秘境101』(いずれも中経出版)といったものがある。また、同社は98年の長野冬季五輪から公式フォトエージェンシーを務めており、毎回五輪が終わった後で公式写真集を出版している。こうした仕事は、利幅が少なくても社員のモチベーションアップにつながるという。
オリンピック日本代表選手団の公式写真集等
一方のソロバンで注力するのは動画だ。同社の公式サイトを見ると、「動画もアフロ」というキャッチコピーで訴求している。これはカメラマンの生活維持の狙いもある。
「これからは動画が伸びる時代なので、世の流れを見て動画コンテンツを集めています。昨年は『面白動画』や『びっくり動画』が大人気でしたが、これが将来も続くのかはわかりません。変化の激しい世界なので、臨機応変に考えて対応しています」(同)
社内の若手カメラマンに青木氏が話すのは、「スチール(写真)だけでは食べていけない時代になるから、ムービー(動画)も勉強しなさい」ということだ。
人脈と機動力を武器に事業を拡大してきた同社は現在好調だが、事業環境の変化でより迅速な対応も求められる。次回はそうした行動力を培った、プロカメラマンとしての青木氏の横顔を紹介したい。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
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