銀行の利益低迷時に損失隠しの傾向=調査 新しい調査では、銀行が金融危機後に貸倒引当金を過少に計上していることが発覚した。写真はジョージア州の抵当流れの住宅 By JOHN CARNEY 2016 年 2 月 22 日 18:16 JST 世界金融危機の際、銀行が財務の健全性を偽って示そうとして不良債権の償却を先送りしているとの不満がよく聞かれた。 言うまでもなく、銀行経営者はそのようなことはしていないと否定した。しかし、ウェスタンワシントン大学のバーカ・ダラー会計学教授が実施した新たな調査では、銀行が金融危機後でさえも貸倒引当金を過少に報告したことが明らかになった。 これは二つの面で投資家を危険にさらすことになる。銀行が利益を水増しするために貸倒引当金を過少に申告すれば、将来の償却額が膨らむリスクが生じる。そして銀行がその融資の健全性を正確に伝えていないと市場がみれば株価は下落する。 これが多くの大手銀行で株価純資産倍率(PBR)が急落している一因かもしれない。PBRはJPモルガン・チェースが0.96倍、ゴールドマン・サックス・グループが0.82倍、モルガン・スタンレーが0.69倍、バンク・オブ・アメリカが0.54倍、シティグループが0.55倍前後となっている。 この「2008年の金融危機前後における米銀の利益円滑化慣行」と呼ばれるダラー氏の調査は、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ビジネス・アンド・フィナンシャル・リサーチに掲載された。 ダラー氏は、07年から10年にかけて銀行が連邦預金保険公社(FDIC)に提出した報告からなる大規模なデータを調査した。ダラー氏は統計学の回帰分析を使うことで、リセッション(景気後退)中に銀行が低水準の利益を予想した際に貸倒損失額を過少計上していたことを示す明確な証拠を得た。 貸倒損失に関する会計原則は、融資が不良化する可能性があり、その貸倒額が合理的に推定できる場合に、銀行にその推定損失費を計上するよう義務付けている。こうした貸倒引当金は非現金費用ながら銀行の利益を大きく引き下げる効果を持ち得る。 ただ、実際のところ貸倒引当金を計上する際には、多くの主観的判断や柔軟性が入り込む余地もある。そして、銀行はこの裁量を好況期には損失を過大評価、不況下では過小評価して、利益を「円滑化」していたのではないかと長く疑われてきた。 これらの規則は変わりつつあるのかもしれない。米財務会計基準審議会(FASB)は、銀行に貸倒損失を現在よりもずっと迅速に計上することを義務付ける規則案を提唱した。しかし、銀行側は、この案が融資を減少させるもので、地域銀行にとって破滅的だと強く反対している。 これは単に歴史上興味深い事実にとどまるものではない。現在、銀行の利益はイールドカーブの平坦化と資本市場収入の減少から圧力を受けている。この状況はエネルギー業界や新興国市場向け融資の不調から生じる可能性のある損失を銀行が過小評価するようなインセンティブを生んでいる。 投資家はまた、銀行が決算を「お化粧」するため貸倒損失を先送りする誘惑に負けることを疑うようになるかもしれない。これも銀行の企業価値と株価に一段と圧力がかかることになる。 フィンテック企業が銀行とさほど変わらない理由 ラプランシュCEO率いるレンディングクラブの株価は今年に入って18%安となった MORRIS/BLOOMBERG By AARON BACK 2016 年 2 月 22 日 16:44 JST 「フィンテック(IT技術を使った新たな金融サービス事業)」を手掛ける企業は、銀行業を根本的に揺るがすと思われていた。しかし、投資家にとって残念なことに、最近のフィンテック企業の株価は従来型銀行の株価とほぼ同じように推移している。 消費者向けローンに特化するレンディングクラブと小企業向け融資が専門のオン・デック・キャピタルを見てみよう。両社は旧来の銀行ビジネスをかく乱するフィンテック企業の中心と考えられていた。しかし、2社の株価とも既存の大手銀行株と同様に世界経済の鈍化懸念から大幅に下落した。 KBWナスダック銀行株指数は今年に入ってから約17%下落した。これに対しレンディングクラブは18%安、オン・デックは21%安となった。このため、先週終盤まで両社はバンク・オブ・アメリカやシティグループと同様に推移していた。ただ、バンカメとシティの株価の下落率はさらに大きい。 両社や他のフィンテック企業は、貯蓄者から借り手への資金の流れ方を根本的に変える上で好位置につけているとして注目されてきた。しかし、最近ではこれらの企業が従来型の金融企業と同じような多くのリスクを抱えることが鮮明になっている。 さらに懸念を増幅させているのは、これらの会社が新興企業であることやそのビジネスモデルが新しいことだ。レンディングクラブもオン・デックも金融危機の前に設立されたが、当時は今よりはるかに小規模だった。両社とも株式公開したのは2014年になってからだ。 つまり、これらの会社はまだ経済の下降局面で本当に試されたことがない。このため未知数なのは、レンディングクラブの融資先であるクレジットカードのリファイナンス会社のように特にリスクの高い借り手がリセッション(景気後退)下で業績が特に悪化するか否かがわからないことだ。 最近の急落にもかかわらず、これらフィンテック企業の株価は通常の銀行の株価と比較すると依然割高になっている。レンディングクラブとオン・デックの株価収益率(PER)はそれぞれ29倍、59倍で、大手4米銀の平均である9倍をはるかに上回る。 これらフィンテック企業にも従来型銀行と同様の旧来からのリスクが依然残るという認識が投資家の間で高まるにつれ、こうした割高感の縮小は続くと考えるべきだろう。 関連記事 フィンテック投資ブーム、ピーク越えたか フィンテック先進国、中国に見る現状と課題
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