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「最も強力」と自画自賛したマイナス金利策が裏目に出て、黒田総裁の焦りはピークに〔PHOTO〕gettyimages
マイナス金利、大失敗! この「株安と円高」はもう止められない 追い打ちをかける「世界の危機」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47955
2016年02月22日(月) 週刊現代 :現代ビジネス
地球儀を回せば、どこもアラートランプが点灯中。マイナス金利がさっそくコケた日本に、追い打ちをかけて世界の危機が飛び火してきた。
■そもそも期待されていなかった?
「マイナス金利が景気や株価に効果が乏しいことは、日本以前にマイナス金利策を導入していた欧州の例を見れば明らかでした。
実際、日銀がマイナス金利策の導入を発表した後、ロンドンの投資家たちと話をしていると、『ようこそ、マイナス金利の世界へ』と言ったそばから、『でも、あまり効果はないよ』と見透かしていました。
世界のマーケット関係者の関心事はすでに日本から、『これからの欧州の金融政策はどうなるか』といったポイントに移っている。日本銀行がマイナス金利策を導入したからと言って、期待するような政策効果が実現するとは思われていなかった」(BNPパリバ証券投資調査本部長の中空麻奈氏)
日本の株式市場では、実に取引の7割ほどを外国人投資家が行っている。彼らは言うまでもなく、世界中のありとあらゆる国に投資しており、日本はそのうちの「ワン・オブ・ゼム」に過ぎない。
だから、世界のどこかで大きなイベントが発生すれば、外国人投資家はすぐに反応して行動を起こし、それが日本株市場に波及する。
「現在の日本株市場への影響力を見れば、おおざっぱに見積もっても、『外部環境が9、日本銀行の金融政策が1』というのが実情です。
日本株は年初から3000円近く下げていますが、これも原油安、中国失速、欧州不安などの外的要因が主な原因。仮に日銀による金融政策で株高効果があったとしても、それはイメージ的に300円程度でしかないと思われます」(りそな銀行チーフ・マーケット・ストラテジストの黒瀬浩一氏)
日本の株価を決めるのはあくまで海外要因。
その海外を見ると、投資家たちを震え上がらせる「危機のタネ」がこれでもかと転がっている。
■ドイツ・リスク
詳細は後述するが、そうした危機が日本株を「1万3000円」まで暴落させる危険性すら出てきている。
中でも、市場関係者がいま最も注視しているのがドイツ。同国最大の銀行であるドイツ銀行に「不安説」が急浮上し、マーケットに大きな動揺が走っている。
「ドイツ銀行が発行している特殊な債券の利払いについて、'16年は大丈夫だが'17年はできない危険性がある。海外のクレジットアナリストがレポートでそう書いたことが契機となり、ドイツ銀行が危ないという情報が一気に市場を駆け巡った。
さらに、ロシアへの多額の融資が不良債権化しているらしい、オフショアで原油のデリバティブ投資をして大きな損を抱えている、という真偽不明の噂まで飛び出してきた。ドイツ銀行は不安払拭のために手元資金は十分にあると声明で発表したが、市場の動揺を抑えられていない」(株式評論家の渡辺久芳氏)
騒動を機に、ドイツ銀行の株価は急落。さらに、不安の目は欧州の銀行全体へと広がり、イタリア、スイス、イギリスなどの銀行株も軒並み下落する事態に発展している。
「ドイツ銀行はフランクフルトにツインタワーの壮麗な本社ビルを持つドイツ経済の象徴的存在ですが、ドイツ銀行からほかの銀行に預金を移す人も増えている。コメルツ銀行などのライバルもドイツ銀行の危機に乗じて、しょっちゅう新規顧客を募るキャンペーンをやっている。
公共放送でも、株式ニュースとしてこの問題を大きく扱い出した。危機がどこまで広がっていくか見通せません」(在独の作家・川口マーン惠美氏)
市場関係者がドイツから目が離せないのは、実は別の理由もある。
ドイツでは、昨年世界中を騒がせたフォルクスワーゲン(VW)問題が再燃しているのである。
「VWは3月10日に決算を発表し、4月21日に株主総会を開く予定でしたが、2月初旬になって突然延期すると発表しました。しかも、新しい発表期日が決まっていない。投資アナリストたちの間で、『VWになにが起きているのか』と疑心暗鬼が広がっています」
在独ジャーナリストの熊谷徹氏が言う。
「VWは今年1月に米国司法省から提訴され、排ガス不正をめぐり巨額の制裁金を支払う義務を負っています。さらに米国の環境保護局(EPA)との間で、約60万台の車のリコールをめぐる交渉がまとまっていない。VWはリコール計画をEPAに提出したが、EPAから『不十分だ』と拒絶されたのです。
おそらく、この合意が得られないため、決算の確定に時間がかかっているのでしょう。米国の司法当局はVWに対して極めて厳しい態度を取っている。米国での法務コストがどこまで膨らむのか、予断を許さない状況です」
独メルケル首相の支持率も落ちてきた〔PHOTO〕gettyimages
こうしたドイツリスクは、すでに日本株市場に波及している。ドイツ銀行の不安説が出た翌日、日本株が一日で650円以上も急落し、1万6000円を割り込んだ。
VWの問題がこれから最悪の形で弾ければ、1万6000円割れどころではない暴落劇に見舞われかねない。
実は欧州では、ギリシャ問題も再びクローズアップされている。
ギリシャ国債の利回りが昨夏以降、初めて10%を超えて上昇。市場が「ギリシャリスク」を織り込み始めたのだ。
「ギリシャではすでに年金が10回ほどカットされたうえ、さらに削減が求められる緊縮財政の中で、国民の反発が高まっている。政権支持率にかげりも見られ、総選挙に発展し、そこで緊縮受け入れを反故にする方針が掲げられる可能性もある。となれば、ギリシャのデフォルト(債務不履行)懸念が一気に高まる。ギリシャ問題が燃え上がる可能性が出てきたのです」(第一生命経済研究所主席エコノミストの田中理氏)
■アメリカの雲行きが怪しい
欧州だけではない。
追い打ちをかけるように、世界で唯一の「勝ち組」と言われてきたアメリカ経済も、急速に雲行きが怪しくなっている。
「アメリカはそう遠くない将来に景気後退に入るでしょう」と、JPモルガン・アセット・マネジメントでグローバル・マーケット・ストラテジストを務める重見吉徳氏は指摘する。
「すでに鉱工業生産指数が2ヵ月連続で前年割れし、製造業の経営が苦しくなっているのは明らか。昨年、FRB(米連邦準備理事会)による利上げ気運が高まる中でドル高が進んだことで、輸出企業の業績が圧迫されている。
企業の景況感を示すISM製造業指数を見ても、4ヵ月連続で50を割っている。景気が良くなると思う人が少ないということで、この指標はアメリカが景気後退していくリスクを示しているともいえる」
実際、アメリカ経済の足元では不況の足音が聞こえてきている。在米ジャーナリストの肥田美佐子氏によれば、米国株の下落で多くの国民が運用している年金が直撃を受け、心理的な景況感は悪化してきたという。
「また、小売り、エネルギー、IT産業を中心にレイオフ(一時解雇)が増えています。米再就職支援大手チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスの発表では、1月にリストラ計画を発表した米企業は、前月比で218%増。企業のダウンサイジングが急増しています」(肥田氏)
イエレン議長の発言ひとつがマーケットを大きく左右する
アメリカではFRBのイエレン議長が3月に2度目の利上げを決定するとも言われているが、利上げに耐えられるような状況にはないのが実情。
アメリカ経済が倒れて、「米国一本足打法」と言うほどに依存している日本経済も共倒れするシナリオが、現実味を帯びてきたのだ。
■もう誰も助けられない
在NYファイナンシャル・コンサルタントの若林栄四氏は、「日本株の1万3000円は十分にあり得る」と言う。
「アメリカ経済の崩壊はすでに始まっており、今年はアメリカがデフレに突入することになるでしょう。
そうなればドルが売られて急激な円高が進むので、円相場は1ドル=100円を割り込んで95円まで行く可能性がある。円高で日本株は大きく下げて、株価は1万3000~1万4000円の水準になっていくと見ています」
エモリキャピタルマネジメント代表の江守哲氏も言う。
「アメリカの景気後退懸念からドル売り(円高)の圧力が高まっているところに、日銀のマイナス金利策がこれに拍車をかけています。日銀は円安誘導のためにマイナス金利策をとったのでしょうが、逆に日本の金融機関が米国債を買う流れが加速。米国債の利回りが急低下し、むしろ円高を誘引しています。
そこへきて、3月にアメリカが利上げできないとなれば、より一層ドル安(円高)が進み、日経平均株価が1万2000~1万2500円あたりまで落ちる可能性も出てくる」
こうした事態を見越して、外国人投資家たちは「日本売り」を仕掛け始めている。
「外資系証券の『空売りリスト』に、ファーストリテイリングやホンダ、住友商事などの名前が出てくるようになっている。インバウンド銘柄も狙われていて、英バークレイズは時計のセイコーホールディングスを、スイスのUBSはヤマダ電機やラオックスを空売りしていた」(大手運用会社ファンドマネージャー)
直近で最高益を更新したトヨタ株も売り込まれ、パナソニック株も2年数ヵ月ぶりの1000円割れ。日本株が丸ごと投げ売られている惨状だ。
日銀は株価下支えに躍起で、2月に入ってから連日のように300億円以上を株式市場に投じているが、市場はあざ笑うかのように暴落劇を繰り返している。
「これまではGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの資産構成変更にともなう買いもあって株価は上昇してきましたが、公的マネーの買い余力はすでに限界に近づいている。
しかも、GPIFは年初からの株価下落で大きな損失を出していることへの批判が高まっている中、大きく買い余力を高めることは難しい。こうした事情を海外投資家に見透かされて、逆に売りを浴びせられている面もあるのです」(FXプライムのチーフストラテジスト・高野やすのり氏)
この株安と円高はもう止められない。では、われわれは生活と資産をどう防衛すればいいのか。
(続きは明日公開)
「週刊現代」2016年2月27日号より
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