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「免税御礼」の文字がはためく黒門市場。現在、およそ150の商店が軒を連ねる。商店街振興組合では、有志を募って語学教室も始め大好評。言葉が通じるようになったおかげで売り上げが前年比5倍になった店もあるとか(撮影/楠本涼)
なだれ込む旅行客、飛び交う1万円札 大阪の黒門市場が「アジアの市場」に?〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160221-00000005-sasahi-life
AERA 2016年2月15日号より抜粋
今、外国人観光客に注目されている観光地のひとつが、大阪だ。昨年の来阪外国人旅行者は約716万人(東京は1027万人)と過去最高を記録。インバウンドの隆盛は、日本全国で顕著だが、前年比ベースで見ると、東京の「147.1%」に比べ、大阪は「191.8%」とほぼ2倍の伸びを記録。言うまでもなく、アジアゲートウェイの玄関口である関西国際空港に乗り入れるLCCの影響だ。
しかし一方で、大阪は経済の地盤沈下が叫ばれて久しい。観光の分野でも、大阪城はあっても、その次がない。結局、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の一人勝ち状態。だからこそ、この商機を逃すまいと、商売人たちは奔走している。
食い倒れの街・大阪。その「台所」と呼ばれ、織田作之助の「夫婦善哉」をはじめ、数多くの小説や映画にも登場する歴史ある黒門市場(大阪市中央区)。この商店街が今、「アジアの屋台化」しようとしている。
市場の朝は当然早い。そして、どこか水を打ったような静けさと緊張感がある。元来、この市場は、料亭や割烹などの板前が、舌の肥えた客人を満足させるため足繁く通うプロ御用達だ。とくに早朝は弟子を帯同した板長らしき人物が、神妙な面持ちで食材を吟味している光景に出くわす。しかし、そんな厳粛な空気を軽々と破って、午前7時頃には海外からやってきた旅行客が市場になだれ込む。
香港からやってきたという20代のカップルが足を止めたのは老舗の鮮魚店。軒先には、朝に仕入れたばかりの、見るからに鮮度のいい海産物が整然と並べられている。すると、カップルは、たどたどしい日本語で店主にこう注文。
「ウニ二つ。アワビ一つ。ホタテ二つ。あと、マグロもください」
すると、いかにも強面(こわもて)の60代の店主が、ニッコリと笑ってこう切り返す。
「ここで、食べんの? そっちに座って待っといて」
見ると、イートインスペースがあり、簡易トイレまで併設されている。しばらくして運ばれてきたのは、殻付きのまま半分に割られた生ウニと、豪快に炭火焼きにされたアワビとホタテ。そして、中トロの丼だった。
ホテルの朝食は食べなかったという2人は、携帯電話で写真を撮りながら、「好吃(ハオチー)(おいしい)」を連発。10分ほどで全てを平らげた。香港で食べる海産物とは比べものにならないと上機嫌だ。肝心のお会計は全部で9千円ちょっと。この鮮魚店には、同じような旅行客がひっきりなしにやってくる。
レジ横で観察をしていると、1回あたりの会計はほぼ1万円超。午前9時の時点で、売り上げは軽く10万円を超えていた。当たり前のように1万円札が飛び交う風景に、ひょっとして、観光客相手の「ボッタクリ」ではないかと不安がよぎったが、それは違うと店主は胸を張る。
「彼らは口コミでやってくるんです。そして、とにかくおいしいもんを食べたいと言う。大阪人は、安くてうまいが当たり前なんですが、彼らは、同じ品質であれば高いほうを迷わず選ぶ。それならば料亭にも卸せる高品質のものを提供し、驚かせてやろうと。まずいと評判が立てば、店の利益だけでなく、この市場の損失ですから」
一事が万事、こんな具合だ。はっきり言えば、古き良き市場の風情など、ここでは問題にならない。もちろんこうした変化を訝(いぶか)しく思う人もいる。まさか軒先で、てっさ(ふぐ刺し)、てっちり(ふぐ鍋)を食べさせる鮮魚店が登場したり、ショーウィンドーに並ぶ肉の切り身を、まるで寿司屋のように注文し、目の前のホットプレートで焼いて食べさせる精肉店が繁盛するなどとは、これまでの黒門市場ではあり得なかっただろう。
黒門市場商店街振興組合副理事長の吉田清純は、リーマン・ショック後、そもそも界隈の飲食店が激減、そのあおりを受け市場全体の収益も減退し、活気も先細りだったと振り返る。
「目先の話と分かっていても、これは儲かる、と思えば商売の方法論をあっさり変える。その瞬発力と好奇心こそ、大阪の商売人の気質。嬉しいのは、その変化が、市場で買い物をする慣習がなかった若い日本人の呼び水になっているんです」
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