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マイナス金利なのに、なぜ円高に転じたのか 現実化してきた原油安で米国経済減速の悪夢
http://toyokeizai.net/articles/-/104296
2016年02月09日 野村 明弘 :東洋経済 記者
日本の株式市場は相変わらず為替相場次第で乱高下する流れが続いている。日本銀行のマイナス金利政策導入発表からわずか5日後の2月3日には、日経平均株価は前日比559円安と急落したが、直接的には1ドル=120円台だったドル円相場が同117円まで急伸したことの影響が大きかった。
ただ、最近は円高に振れる際の市場の思惑に変化が出てきていることにお気づきだろうか。これまでは原油安や中国経済不安に端を発したリスクオフ相場によって、安全資産としての円への選好が高まり、円高になるというのが典型的なパターンだった。
■1バレル=30ドル割れの受け止め方が変化
ところが、2月3日にマイナス金利政策発表前の円高水準まで戻ってしまったときには、様子が違った。原油相場がフシ目の1バレル=30jを再び割ったことがきっかけだったが、その受け止め方に変化が見られたのだ。
従来なら、原油安→リスクオフ相場→円高という流れだったが、今回は、原油安→米国実体経済の減速→米国利上げ政策の頓挫→日米金利差の方向性変化(日本金利<米国金利の幅拡大の歯止め)が強く意識された。このことの持つ意味とは何か――。
従来、原油の純輸入国である米国では、油価下落は、シェールオイル開発などでのマイナス面はあるものの、ガソリンなどの価格低下が家計などに恩恵(実質所得増加)を与え、トータルでは経済成長にプラスとのコンセンサスが優勢であった。
ところが、1バレル=30j割れといった水準が長期化し、見方が変わってきている。まず、こうした極端な低油価が続けば、エネルギー業界の業績低迷が続くばかりか、今年4月に負債の借り換え期が集中するシェール関連企業のデフォルト(債務不履行)が多発する可能性も出てくる。
マイナス金利導入を決めた日銀の黒田東彦総裁(撮影:大隅 智洋)
昨年12月には低格付けのジャンク債に投資する米サード・アベニューのファンドが投資家の換金要請に応えられなくなり、清算を発表。同ファンドは実際にはジャンク債よりさらに信用度の低いディストレスト債(破綻企業か破綻に近い企業の債券)に投資していたことが明らかになっているが、いずれにしろ、ブーム終焉を迎えているジャンク債市場のリスクに米国金融市場の注目が集まっているところだ。
さらに、原油をはじめとする資源安は米大陸資源国であるカナダやブラジル、メキシコ、ベネズエラなどの経済を直撃しているが、もともと海外売上高比率の高い米国企業では、これら米大陸資源国への輸出が全体の5割弱(2013年実績)と大きな割合を占めている。
これらの国々への輸出や現地事業での不振は、資本財などのメーカーのみならず、金融業などの業績悪化につながっているのが現状だ。2014年半ば以降、実質実効為替レートで約2割も高くなったドル高も、アップルを筆頭にIT業界の業績をジワジワと痛めつけている。
■米国の景気拡大もさすがに終焉か
すでに昨年の段階で、米国のエネルギー業界や素材業界は減益に転じており、大幅な人員削減などのリストラが本格化している。原油安長期化によって企業業績悪化が拡大し、それが米国経済順調の象徴であった雇用面に波及すれば、米国の実体経済はいよいよスローダウンしかねない。すでに今年1月で米国の景気拡大期間は79カ月となり、過去平均の71カ月を超えていることから、「2016年には景気後退期入りか?」といった議論も現地では始まっている。
現在、世界経済を一人で牽引する米国が息切れすれば、それだけで大きなニュースだ。そうした中で考えられることは、米国が利上げ継続断念→利下げを迫られて日米間の金利差が縮小へと方向転換することだ。その結果、これまでの円安ドル高の基調は根本的に変化する蓋然性が高い。
むろん、それは日本の株式市場にとってマイナス材料だが、日本や欧州が対抗的にマイナス金利拡大などの政策を打ち出せば、世界経済は通貨切り下げ競争の様相を呈すだろう。米国金融政策の正常化というアンカーも失い、世界経済は大混乱が必至だ。その際は20 カ国・地域(G20)蔵相・中央銀行総裁会議などでの協調政策、原油価格の切り上げといった措置が求められることになりそうだ。
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