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伊藤忠商事東京本社(「Wikipedia」より/Kakidai)
伊藤忠、盟主・三菱商事を屈服させた「傍流の天才社長」…敵意むき出しの緻密経営
http://biz-journal.jp/2016/02/post_13610.html
2016.02.03 文=編集部 Business Journal
伊藤忠商事が、悲願としてきた商社業界首位の座を手にする。同社の2016年3月期の連結純利益見通しは3300億円。15年間トップの座に君臨してきた三菱商事は3000億円の予想だが、資源安でさらに大幅な下振れの懸念があり、三井物産、住友商事に対しては大差をつけることになる。
三菱、三井、住友は“旧財閥系商社”といわれている。一方、伊藤忠と丸紅は非財閥系だ。関西出身の繊維商社で“野武士集団”と呼ばれる伊藤忠が商社業界のトップに立つのは並大抵なことではなかった。この点だけとっても、岡藤正広社長の経営手腕は高く評価されていい。
過去10年間、総合商社は資源事業の拡大に支えられて成長してきた。資源で利益の過半を稼いできた三菱と三井には「資源商社」の異名がついた。しかし、石炭や鉄鉱石、銅などの国際市況は11年をピークに低迷。各社は脱資源を進めてきた。岡藤氏は「今後、10年、資源の国際価格は回復しない」と年頭に見通しを語っている。岡藤氏の先を見る眼には定評があり、果たしてどうなるのか注目を集める。
脱資源で先行したのが伊藤忠だ。同社はもともと世界一の繊維商社だったが、食品・食料や生活物資でも利益を上げてきた。非資源分野で利益の半分以上を稼げる体制をつくったことが、伊藤忠がトップに立つ原動力になった。成功のキーワード、非資源戦略を推進してきたのが岡藤氏だ。この点が高く評価されている。
逆に業界の盟主・三菱にとっては、歴史的な屈辱である。三菱は4月1日付で垣内威彦常務執行役員が社長に昇格する人事を昨年12月に早々と決めた。食糧部門出身の垣内氏に首位奪還を託したのだ。ショックがいかに大きかったかを示す人事である。
■社員を鼓舞する能力
岡藤氏は敵と味方を峻別する能力に長けている。岡藤氏と三菱社長の小林健氏(4月1日付で会長に昇格)は、日清食品ホールディングスの社外取締役も務めている。岡藤氏は朝7時半に出社し、ひと仕事してから日清食品の役員会に出席。一方、小林氏は自宅から直接役員会にやって来る。岡藤氏は、「俺はひと仕事してから行くが、小林さんは(秘書を伴って)直行だ」と社内で暴露したりする。
このように言うことによって、ライバル視している小林氏、ひいては三菱に「負けるものか。絶対に勝つのだ」というメッセージを社内に発信しているのである。岡藤氏の突飛とも思える発言は、思いつきのように見えるが、実は緻密に計算されているのだ。
また、こんなこともあった。岡藤氏は10年4月、伊藤忠の社長に就任した。就任と同時に、万年4位の地位に甘んじてきた伊藤忠を「いつか財閥系と互角に渡り合える商社にする」と誓った。そして15年11月9日、アナリスト説明会で岡藤氏は万感の思いを吐露した。
「僕が社長になった当時、三菱商事は4位だった伊藤忠の倍以上の利益を出していた。それが、2年目で住友商事を抜き、5年目で三井との差が60億円になった。今期(16年3月期)、ひょっとしたら三菱商事を抜くかもしれない」
有言実行の人である。想定外の大きな損失が出たら別だが、このままならこの発言通りになる可能性が高い。
岡藤氏は、「キャッチフレーズづくりの天才」といわれている。社長に就任して最初に打ち出したのが「住友を抜く」という明確なメッセージだった。「商社ナンバー3」とか「業界3位を目指す」ではなかった。ほかの役員や側近は「(住友を刺激しないように、)『業界上位を目指す』と言い替えて社内外に発信しましょう」と進言したが、岡藤氏は「それではダメだ。社員に伝わらない」と一喝した。
このメッセージが、中堅や若手の社員を鼓舞した。社内のイベントで若手社員が「伊藤忠vs.住友商事」をひねった寸劇を演じているのを見て、岡藤氏はにんまりしたという。言葉の魔力はすごい。12年3月期の純利益は伊藤忠が3005億円となり、住友の2506億円を上回り第3位になった。
岡藤氏に対する株式市場の評価は高い。伊藤忠の株価は、岡藤氏が社長に就任した直後の10年7月22日の659円から右肩上がりで、15年6月24日には1756円と上場来の最高値をつけた。5年間で株価が2.7倍になったのだ。総合商社のような資本金の大きい、いわゆる大型株の株価が2.7倍になるのは異例だ。16年初頭からの株価急落で1月21日の終値は1219.05円まで下げたが、それでも1.85倍。その後、株価は反発した。岡藤氏は「株価を2倍にした男」といえる。
■岡藤氏は今、何を考えているのか
岡藤氏は昨年11月、社内向けイントラネットで社長続投を宣言した。この時、野球の国際大会・WBSCプレミア12において、日本代表の“侍ジャパン”が準決勝で韓国代表に逆転負けしたことに触れ、「先発が快投を見せたにもかかわらず、定石通りの投手交代で試合は逆転された。交代のタイミングは難しい」としつつ、自身が社長として果たすべき役割についてこう述べた。
「CITIC(中国中信集団)への巨額出資を決め、具体的な提携内容を協議中。CP(チャロン・ポカパン)、CITIC(との提携のほか)、今秋には伊藤忠が筆頭株主のファミリーマート、ユニーグループ・ホールディングスの経営統合を控えている。こうした経営課題だけは自分の代でメドをつけなければならないので、しばらく社長を続ける」
続投のメッセージは広報部長から口頭でマスコミに伝えられた。読売新聞は「上場企業が社長の続投を発表するのは異例」と報じた。昨年末に三菱がいち早く社長交代を発表していたことから、伊藤忠はどうなるのかと取材が過熱した。全国紙の商社担当の経済記者は、「続投」と知ってホッとした表情を見せた。ナンバー1商社のトップ交代は、今や経済界の大きな事件なのである。
この岡藤氏の発言にも、周到なメッセージが込められている。伊藤忠は6年周期で社長が代わっており、セオリー通りなら本命は福田祐士代表取締役兼専務執行役員エネルギー・化学品カンパニープレジデント兼CP・CITIC戦略室長だった。CPはタイの華人財閥で、CITICは中国最大の国有複合企業だ。伊藤忠はCITICに6000億円を投下しており、CPの投資を肩代わりした分を加えると1兆2000億円の巨額投資だ。伊藤忠の命運を握るビッグプロジェクトであり、福田氏に対する岡藤氏の信認は厚いといわれている。
岡藤氏の続投の期間は2年。この間に利益首位の座を不動なものにするつもりだ。現在の中期経営計画が終了する時期とも重なる。もし、2年で利益首位の座が安泰にならなければ最長4年、つまり社長在任10年もあり得る。伊藤忠では、かつて10年社長を務めた例もあるので、可能性はゼロではない。
続投なら“ポスト岡藤”の顔ぶれは大きく変わり、米倉英一常務執行役員(4月1日付で専務執行役員に昇格)が最有力候補になる。米倉氏は、4代目社長で昨年末亡くなった米倉功氏の長男。現在の役割は金属カンパニープレジデントで、4月以降も続投する。功氏は1986年度に伊藤忠を取扱高(売り上げ)第1位に押し上げた功労者である。英一氏は理詰めの人といわれている。商人精神の発露と動物的なカンの冴えで伊藤忠を躍進させた岡藤氏は、今後、米倉氏を千尋の谷から突き落とし、経営トップにふさわしいかどうかを厳しく吟味することになろう。
仮に2年続投であれば、岡本均代表取締役専務執行役員・CS0(最高戦略責任者)・CIO(最高情報責任者)や4月1日付でアジア・大洋州総支配人兼CP・CITIC管掌兼伊藤忠シンガポール会社社長になる福田氏にも可能性が残る。現在専務執行役員で、伊藤忠インターナショナル社長兼CEOになる吉田朋史氏も同様である。米倉氏を含めて3〜4人、場合によっては新規参入組が加わって5〜6人でポスト岡藤の椅子を争うことになる。
■続投に対する社内外の反応
岡藤氏の社長続投を中堅・若手社員たちは大歓迎している。「ほっとした」「安心して仕事に邁進できる」という声が圧倒的に多い。岡藤氏は口八丁、手八丁、陣頭指揮で業績を伸ばしてきた。4月に交代するのであれば3人の候補者がいたが、いずれも統率力という点では岡藤氏に大きく劣る。岡本均CSOは岡藤氏と同じ繊維出身で、岡藤氏が繊維の川下である欧米のブランドビジネスで辣腕を振るったのに対して岡本氏は川上の地味な仕事をしてきた。繊維から続けて社長を出すことになれば、社内の結束力が薄れる懸念があり、岡藤氏から見れば、3人とも「帯に短し、襷(たすき)に長し」の感があった。
年末から正月休みに岡藤氏は対外的なビッグプロジェクトの進行状況や社内情勢を熟考して続投を決めた、ということだ。仮に会長になった場合、CEO兼最高経営会議議長として院政を敷くことになっただろう。つまり、続投しても交代しても伊藤忠の中心に岡藤氏がいるわけで、権力構造は変わらない。
実は、岡藤氏は社長候補の本命ではなかった。当時会長の丹羽宇一郎氏が小林栄三氏(現会長)を社長に指名し、両氏が後継に岡藤氏を選んだ。丹羽氏は、「やんちゃなオレ、おとなしい小林の後は暴れん坊がいい」と語っていたという。大阪の繊維のトップとしては名前が知れ渡っていたが、東京の他部門の役員や社員には「岡藤って誰だ?」という感じだった。
当初は、“よそ者”の岡藤氏に対して「お手並み拝見」といった、よそよそしい雰囲気があったが、先述したように社長就任と同時に「住友商事を抜いて業界3位になる」と宣言。「向こうみずを問わない社風にしたい」と粗削りな暴れん坊集団の復活をスローガンにした。岡藤氏は自分の特性をよく知っていたから、このような目標を掲げたのである。
怖い社長である。7時半には出社する。本人から直接電話がかかってくるので社長のスタッフは広報部門を含めて、それまでに社長に伝えなければならないことをまとめておく。新聞や外電のチェックも済ませておかなければならない。自分で実践して成果を上げていたから、早朝勤務制を導入。経済界の「早朝勤務」に先鞭をつけた。
16年3月期に税引き後利益でトップに立てば臨時ボーナスを出すと約束している。成果を出している人には、きちんと金銭面で報いる――。岡藤氏は商社業界の役員の中で2年連続最高報酬になったが、自分だけの利益を考えているわけではない。役員報酬が1億円を超える役員も増え、幹部社員の年収も岡藤時代になってかなり上がった。1億円に達してはいないが、それに近い執行役員もかなりいる。給料が上がったことから、社員の奥さんたちが、一番の岡藤ファンだという。
(文=編集部)
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