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王保安・国家統計局長 〔PHOTO〕gettyimages
中国「国家統計局長」突然の失脚! 経済悪化に苛立つ中国が、アジアに落とす暗い影 「爆買い旅行」に規制の動きも
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47664
2016年02月01日(月) 北京のランダム・ウォーカー 近藤 大介
■わずか29文字の「失脚消息」
先週は、甘利明経済財政担当大臣の辞任騒動で、安倍晋三内閣が激震した。だが海の向こうの北京でも、王保安国家統計局長(大臣)の失脚で、同様に大激震が走った。
1月26日午後6時40分、中国共産党中央紀律検査委員会のホームページに突然、次のような発表が掲載された。
〈 国家統計局党組書記、局長の王保安が、厳重な規律違反の嫌疑で、いままさに組織的な調査を受けている。王保安の略歴は以下の通り。王保安、男、漢族、1963年生まれ、河南省魯山人、1984年3月に中国共産党に入党、中南財経大学修士課程修了、経済学博士。……〉
先週のこのコラムで詳述したように、王保安局長は1月19日、年に一度の晴れ舞台で、内外の記者数百人を前に、「2015年の中国の経済成長率は6.9%」と発表したばかりだった。それからわずか一週間後の転落である。
甘利大臣の場合、『週刊文春』が詳細にスクープ報道し、国会でも野党が追及し、おまけに本人が、1月28日夕刻に「涙の会見」を開いて大臣を辞任した。
だが、その2日前に失脚した王大臣の場合、略歴を除けばわずか29文字の「失脚消息」だけだった。中国のマスコミは、この消息を「丸写し」することしか許されていない。国会は3月に10日ほどしか開かれない。開かれても野党8党は、こうした問題を追及する時間も権限も与えられていない。
つまり、「あんなに張り切って中国政府を代表してGDP成長率を発表し、世界中で顔が報道された大臣が、一体なぜ翌週に失脚したのだろう?」と、想像を膨らませるしかないのである。
ある北京人に聞くと、「1月16日にAIIB(アジアインフラ投資銀行)が発足するまで、財政部にメスを入れるのを待っていたのではないか」と推察する。
王局長は昨年4月に就任するまで、財政部副部長(副財相)を務めていたからだ。党中央紀律検査委員会は、予算を統轄する財政部を吊し上げているのではないかというのだ。
別の北京人は、「GDPの数値を事前に漏らして賄賂を受け取っていたのではないか」と想像する。
確かに、国家統計局には「前科」がある。2011年夏、国家統計局の幹部二人が逮捕された。二人は何と計224回にもわたって、3ヵ月毎に発表するGDPの数値などを、発表前に証券業界や海外メディアに売り渡していたのだった。彼らは禁固5年の実刑判決を受け、今夏に出所する。
ここからは私の推測だが、このところ中国人全体が、経済悪化に苛立っている。そのことで、これからも経済関係の国務院幹部たちが「替罪羊」(生贄)にされていく気がする。
それは、「無辜の官僚」が犠牲になるということではない。私は胡錦濤時代の官僚たちの様子を北京で見てきたが、経済官庁の幹部と会食するのに、民間企業の経営者たちが心付けをするのは「常識」だった。だから、高級官僚は誰でも「叩けばホコリが立つ」のである。
習近平政権の反腐敗運動の問題は、政権側が恣意的に、誰を叩くかを選べるところにある。反腐敗の名を借りた「権力闘争」と言われるゆえんである。
■年初からの1ヵ月で株価は23%も下落
ともあれ中国経済は、もういつ底が抜けるか知れないほど、悪化の一途を辿っている。上海総合指数は1月29日、2737ポイントで1月の取引を終えた。1月4日の大発会は3539ポイントで始まったので、1ヵ月で23%も下落したことになる。
地方経済もガタガタだ。1月26日午前中に開かれた遼寧省第12期人民代表大会第6回会議で、陳求発省長は疲れた表情で、「2015年の遼寧省のGDP成長率は3.0%だった」と報告した。過去23年なかった数値で、PPI(生産者物価指数)は43ヵ月連続で下降したという。
陳省長はここまで落ち込んだ理由として、企業の生産コストが上がり、一部業界と企業が経営困難に陥り、技術革新は追いつかず、新興産業は育たず、サービス業の発展は停滞し、地域の発展は不均衡で、財政収入は悪化し、財政支出は増え、国有企業は経営が回復せず、民営企業は発展せず……と羅列した。
同じ東北三省の吉林省と黒竜江省も、経済成長率がそれぞれ全国31地方中、28位の6.5%と29位の5.7%だった。遼寧省の省都・瀋陽在住の日本人駐在員に電話して聞いてみたところ、「気温マイナス20度の中、とにかく経済に関して、いい話がたった一つもない。外も寒いが心も寒い」と嘆いていた。
翌27日には、山西省の第12期人民代表大会第5回会議で李小鵬省長が、やはり神妙な顔つきで述べた。
「2015年の山西省のGDP成長率は3.1%だった。この数値は過去34年で最低だ。すでに省内の8割の自治体が、公務員の給与を払えなくなっている……」
このように、地方自治体の破綻が明らかになったのだ。山西省の大手国有銀行に勤める知人に聞くと、「20年以上勤務していて、経験のない不景気が襲っている」と答えた。
山西省の経済悪化の最大の原因は、石炭バブルの崩壊である。私は5年前に山西省全域を、一週間程かけて視察したことがあるが、当時は石炭バブルの全盛期だった。
省都・太原の目抜き通りには、海外の高級ブランド店が軒を並べ、「煤老板」(石炭会社社長)たちが、香水プンプンのミニスカート姿の美人ホステスたちを侍らせ、「爆買い」していた。夜な夜な「煤老板」たちの「地下賭博」が行われているとも聞いた。
その時は、北部の山岳地帯の大同市まで足を伸ばしたが、そこでは高級海鮮料理がブームになっていた。何と大連港から毎日空輸しているのだという。
それがいまや、石炭は生産過剰の象徴となり、価格の下落が止まらない。石油価格の下落とクリーンエネルギーの時代になって、すっかり需要が減ってしまったのだ。
ちなみに李小鵬省長も、「今年失脚が予想される地方幹部」の筆頭だ。李小鵬省長は、87歳になる李鵬元首相の長男である。李鵬首相が掌握していた電力・水利利権を引き継いだが、2008年に山西省党委常務委員となった。胡錦濤時代の党中央組織部長(人事部長)だった李源潮・現国家副主席が李小鵬を嫌い、昇進を承認しなかったが、習近平政権になる2013年1月に、ついに省長に就任した。
妹の李小林も、電力・新エネルギー利権を父親から引き継ぎ、「電力エネルギー業界の女王」と言われたが、昨年、習近平主席のメスが入った。昨年7月28日に、中国電力国際発展の董事局主席(会長)を辞任。12月30日には、中国電力新エネルギー発展の董事会主席も辞任した。早ければ3月の全国人民代表大会の前にも、李鵬一族が一網打尽になるとの噂も飛び交っているほどだ。
■対北朝鮮政策をめぐり議論は真っ二つに
もう少し目を広げてみよう。こうした中国経済の沈滞が、近隣諸国・地域との関係にも影響を及ぼしているのだ。年明けに顕著になったのは、北朝鮮、台湾、そして日本への影響である。
1月6日に北朝鮮が4度目の核実験を強行して以降、習近平政権は、金正恩第一書記という北東アジアの「暴君」にどう対処するかを、内部で議論してきた。議論は真っ二つに割れた。
一つは、主に「老一代」(ベテラン組)の意見で、対北朝鮮宥和政策を主張した。すなわち、金正恩第一書記がいくら核実験やミサイル実験を繰り返す暴君とはいえ、中国に敵対しているわけでもなければ、韓国を攻撃するわけでもない。そして北朝鮮国内を平穏に統治している。これは中東やアフリカと較べればマシな状態であり、中国は金正恩政権を刺激して、1300kmもある国境地域を混乱させるべきではないという考えだ。
そこに、前述した東北三省の経済悪化が加わった。現在でも相当悪いが、これからは重厚長大な国有企業が多い東北三省で、大量の失業者が出ることが予測される。そんな中、北朝鮮に強硬な制裁を科して地域を混乱させては、失業者の暴動が起こったり北朝鮮の難民が出たりして、東北三省の混乱リスクが一気に高まる。
一方、「新一代」(若手)は、対北朝鮮強硬論を主張した。いまや金正恩という指導者自体が地域最大の不安定要素であり、むしろアメリカと共同で強硬な制裁をかけて、危険な指導者を除去する方向に持っていくべきだという意見だ。
この考えには、人民解放軍の瀋陽軍区が加わった。習近平主席は昨年9月に「30万人の裁軍」を宣言しており、最も削減を余儀なくされそうなのが、43万人の瀋陽軍区なのである。そこで瀋陽軍区としては、「北朝鮮の脅威」を強調して、削減を回避しようというわけだ。
米中外相会談を終えたケリー国務長官と王毅外相 〔PHOTO〕gettyimages
習近平主席が果たしてどちらの道を選択するのかは、1月27日のケリー米国務長官の訪中で垣間見えてくるはずだと、私は睨んでいた。
同日、長時間に及ぶ米中外相会談を終えたケリー国務長官と王毅外相は、共同会見に臨んだ。その時、王毅外相は、次のように述べたのだった。
「ランチタイムも越えて、記者の皆さんを長い間待たせて済まなかった。外交部が準備したサンドイッチは召し上がったか? われわれは議論に議論を重ねたため、こんな時間になってしまったのだ。
朝鮮半島に関して、私が言いたいのは、一時のムードに流されることなく、3つの基本的なコミットメントを遵守することだ。第一に、朝鮮半島の非核化を目指してコミットしていく。第二に、半島の平和と安定を維持するようコミットしていく。第三に、問題を対話と交渉によって解決するようコミットしていくというものだ」
続いて、楊潔篪外交担当国務委員、王毅外相との会談を終えたケリー国務長官は、習近平主席に面会した。その際、習近平主席はカメラも入った冒頭の挨拶で、北朝鮮の核問題に関しては、サラリと一言述べただけだった。
「イランの核、朝鮮の核、アフガニスタンなどの国際的な地域の問題に関して、中米両国はこの間、意見を交わしてきた」
つまり、ケリー長官の訪中を見る限り、習近平政権は対北朝鮮宥和派の意見に傾いたように見受けられたのである。もしそれが事実なら、やはり東北三省の経済悪化要因が大きかったと見るべきだろう。
■台湾では国民党が大敗、民進党が圧勝
中国経済の悪化が影響を及ぼしている第二の地域は、台湾である。
台湾では、1月16日の総統選挙で、中国大陸と距離を置く民進党の蔡英文主席が、689万票も獲得して圧勝した。これは中国経済の悪化によって、中国大陸とのビジネスに邁進することで台湾経済を活性化させようとしてきた馬英九国民党政権が失敗したことを意味する。
2008年5月に発足した馬英九政権は、「中国大陸との経済的一体化」を掲げて、「三通」(通航・通商・通信)に邁進した。前任の陳水扁政権までは、北京空港に台湾の飛行機が離着陸するなど考えられもしなかったが、最大300万人もの「台商」(台湾商人)を、上海、広東省、福建省などに送り込んだ。
2010年には中台の自由貿易協定にあたるECFA(経済協力枠組協定)を発効させた。馬英九政権は「台商」ばかりか、台湾にも毎日5000人の中国人観光客を受け入れた。日本や欧米の企業にも、「台湾を通した経済進出」を奨励した。
だが、こうした中台の経済一体化政策は、習近平政権になって中国経済が悪化してからは、むしろ台湾経済の足枷となっていった。実際、2015年第3四半期の台湾のGDPは、6年ぶりのマイナス成長を記録した。これはひとえに、中国と「共倒れ」になった結果で、いまや多くの「台商」たちが、拠点を東南アジアなどに移し始めている。
こうした「脱大陸」の流れが、国民党大敗、そして台湾独立を綱領に掲げる民進党の圧勝につながったのである。
■日本旅行が割高になりつつある
さて、最後は日本である。1月27日、東京・銀座の「三越銀座店」8階に、売り場面積約3300uという巨大な空港型市中免税店『Japan Duty Free GINZA』がオープンした。
三越が改装工事を急いだのは、一にも二にも、2月8日の春節(旧正月)に間に合わせるためだった。春節の大型連休中に、中国から押し寄せる「爆買いツアー」を当て込んでいるのである。3月には、銀座の数寄屋橋交差点に面した「東急プラザ銀座」もオープンするが、こちらの「目玉」も、8階と9階をブチ抜いた巨大な免税店だ。
思えば、昨年の春節には、中国人旅行者が銀座通りを「占拠」したものだ。私も、1000万円を超す宝玉や、666万円の福袋などを、次々に「爆買い」していく中国人たちを目撃し、圧倒された。
昨年、海外旅行に出かけた中国人は延べ1億3500万人と、日本の総人口を上回った。うち日本へは、前年比207%の499万人が訪れている。これは日本を訪れた外国人旅行者の25%にあたる。日本での消費額で見ると、全外国人の5割近くを占めたという推計もある。
ところが今年に入って、もはや「爆買い」の気配はない。経済悪化の影響がヒタヒタと迫ってきているからだ。
中国の旅行業界では俗に、「富裕層は欧米に行き、中間層は日本とオーストラリアに行き、庶民は韓国と東南アジアに行く」と言われる。それが中間層が節約するようになって、日本旅行から韓国や東南アジアに切り替えつつあるのだ。
日本円のレートは、昨年の春節時に較べて、約8%円高元安になった。加えて、日本のホテル代が高騰している。そのため、一年前は8000元が相場だった日本旅行は、いまは1万元である。ただでさえ、春節の時期は通常よりも3割〜4割高だが、日本旅行は特に割高に感じるのだ。
一方、ライバルの東南アジアは、中国人に対するビザの緩和ラッシュである。人気のバリ島があるインドネシアはビザ免除、シンガポールは10年ビザ、タイとベトナムも昨年11月に大幅緩和した。つまりビザが面倒くさくて寒い日本よりも、温かくてすぐに行ける東南アジアの方が人気なのだ。
■資本流出が止まらない
経済の悪化から、そもそも中国人の「爆買い旅行」を規制する動きも始まっている。
中国の出入国管理法は、1996年に制定された。翌年から一般国民にパスポートを解禁するための措置だった。その中に、「5000米ドル以上の海外への持ち出しを禁じる」という規定がある。
当時の5000ドルと言えば、平均的な中国人の生涯年収よりも多かった。それでいまや、この規定は有名無実化しているのだが、今年に入って中国の空港で、厳しくチェックする動きが出ている。
同様に、海外での「爆買い」に関しても、これまではノーチェックで通していたのが、昨年末あたりから、税関検査を厳格に行うようになってきている。中国人としては、いくら海外で免税品を買っても、中国に持ち込む際に課税されたのでは、元も子もない。
さらに、年間10万元(約180万円)以上の買い物を現金でしてはならないという法律が、まもなく施行されるという噂も立っている。これは「爆買い禁止」というより、資金の海外逃避を回避する措置だ。
英『フィナンシャルタイムズ』紙(1月26日付)は、次のように報じた。
〈 中国人民銀行(中央銀行)は、資本流出という問題を取り繕えない。汚職取り締まりと投資機会不足という国内事情が、中国の人々を国外への資金移動に駆り立てている。さらに人民元切り下げの不安が資本流出に輪をかけている。(中略)
この圧力が続く中、中国の当局に選択肢はほとんどない。唯一の選択肢は、圧力が和らぐまで資本規制を強化することだ 〉
ともあれ、中国経済の減速が、周辺諸国・地域にも、じわじわと波及し始めている。今後、アジアの国際情勢にも影響を与えるだろう。多くの戦争が、経済問題の延長であることは、歴史が物語っている。
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