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「2つの原発は造りたいと思っている」
ニュースを斬る
東芝がハマった無間地獄、発注先のCEOを直撃!
2017年4月24日(月)
篠原 匡、長野 光
3月29日、東芝の米原子力発電子会社ウエスチングハウス(WH)が米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請した。債務保証の履行などによって、2017年3月の東芝の連結最終赤字は1兆100億円に拡大する見通しだ。名門、東芝を債務超過にまで追い込んだ米原発建設の底なし沼。前回はボーグル原発(ジョージア州)とサマー原発(サウスカロライナ州)の建設現場の実態をリポートした。今回はボーグル原発3号機と4号機をウエスチングハウスに発注した米電力会社、サザン・カンパニーのトーマス・ファニングCEO(最高経営責任者)に話を聞いた。
(ニューヨーク支局 篠原匡、長野光)
米サザン・カンパニーのトーマス・ファニングCEO。写真は2012年に建設計画を発表した時のもの(写真:AP/アフロ)
ウエスチングハウスが3月29日にチャプター11の適用を申請した。
トーマス・ファニングCEO(以下、ファニング):とても重大で深刻な問題なのは間違いない。サザンカンパニーは「AP1000」という新しい世代の加圧水型原子炉を作っている。ウエスチングハウスと原発建設の契約を締結したのは、もう10年も前の話だ。もともとはウエスチングハウスとの契約だったが、このディールの重要性と時間軸を考えて、契約の一部に東芝も加わるよう強く求めた。
言い換えれば、我々の契約はサザンとウエスチングハウスだけでなく、サザンとウエスチングハウス、東芝との間のものだ。我々が当てにしたのは原発建設を遂行するウエスチングハウスの能力だ。同様に東芝のサポートも当てにしていた。親会社としての保証を通じて財政やオペレーションの安定性を提供してもらうだけでなく、いい時も悪い時も原発建設をサポートするという道義上の責任も含めての話だ。
「綱川CEOのコミットメントだ」
3月30日に東芝の綱川智CEOと会談した。
ファニング:とても建設的なミーティングだった。彼は私に、原発を完成させるというコミットメントに責任を持つと断言した。それが会話の発端だった。我々はそのコミットメントを遂行するため、東芝と協力し続ける。
会談の前、米ブルームバーグに「東芝のCEOの目を見て話すために来た」と語っていた。その成果はあったか。
ファニング:綱川CEOのコミットメントだ。東芝が財政と道義上の両面で原発建設に責任を持つというコミットメントだ。
他には何を話し合ったのか。
ファニング:詳細については伏せておきたい。東京での面談で、私は「真の人間関係」の構築を望んでいた。それは実現できたと思う。
今回の原発建設における東芝の責任について、改めて聞きたい。
ファニング:我々は既にある契約上の義務に対処している。確かに、ボーグル原発の建設継続に向けたオプションは様々あるが、我々は絶対的にウエスチングハウスのサポートを必要としている。いずれにせよ、ウエスチングハウスはAP1000の技術を持っており、今後も建設に関わることになる。そして、ウエスチングハウスが技術的・人材的に建設を終わらせることのできるリソースを提供するかどうか、また東芝が自身の保証に責任を持つかどうかを確認しなければならない。
今後、東芝を訴えるという可能性は?
ファニング:我々は既に交わしている契約を支持している。
ウエスチングハウスのスポンサーに韓国電力公社の名前が上がっている。ビジネスパートナーとしての評価は?
ファニング:可能性の話はしない。我々が実行しているのは、ウエスチングハウスや東芝と仕事をすることであり、原発建設を前進させることだ。チャプター11の適用申請後、30日は建設プロジェクトのオーナー、つまり我々が工事の費用を払う。原発建設を継続するためであり、建設を続ける公正な方法に取り組むためだ。既に半分以上が経過した。我々は2つの原発を造りたいと思っている。
「それはウエスチングハウスと東芝に聞いてほしい」
なぜ工事がここまで遅れたのか。
ファニング:それはウエスチングハウスと東芝に尋ねるべき質問だと思う。現場の生産性について様々な要求をしているのは確かだが、それは彼らに聞くべきだ。
現場工事を担当したストーン&ウェブスター(S&W、後にウエスチングハウスが買収)の施工能力を疑問視する声もある。
ファニング:それもウエスチングハウスに聞いてほしい。我々はターンキー(完成状態まで作って引き渡す契約)で原発を建設するためにウエスチングハウスと東芝を雇った。ウエスチングハウスは破産したが、引き続き契約が実行されることを期待している。つまり、東芝が彼らの保証に責任を持つということだ。何が起きているのかは、私ではなく彼らに聞いてほしい。
施工会社がFlourに変わったが、工事は進んでいるのか。
ファニング:それも彼らに聞いてほしい。
ボーグル原発の建設現場で作業員に話を聞いた時に、作業が遅れている要因として原子力規制委員会(NRC)の規制を挙げる声があった。
ファニング:私は原子力発電運転協会(INPO)と世界原子力発電事業者協会(WANO)の取締役だが、原発に関わる規制が厳しすぎるかと聞かれれば「ノー」だ。規制は確かに厳しいが、とても上手く機能している。米海軍の原子力空母のパフォーマンスは模範的だ。それは米国の原子力規制が上手く機能しているためだ。今回の原発プロジェクトに関しては、関係者の誰もが適用される規制を知っていた。そして規制は変わっていない。
もともとは2016年(3号機)、2017年(4号機)に完成するという話だった。いつ完成すると見ているか。
ファニング:現在、評価作業に没頭している。建設が完了するまでどれくらいかかるか、どのように実行するかという点についてだ。大変な作業だよ。すべての建設が終わった時に答えたいね。抱えている問題を評価するためにはウエスチングハウスと東芝の協力が欠かせない。
米国の新規原発建設は34年振りだ。その間に原発建設のリソースが失われたという声もある。
ファニング:技術的な能力という観点で言えば、米国は原子力に関わるリソースを数多く持っている。素晴らしい原子力空母を展開していることが一例だ。建設業者も相当数いる。そこはイシュー(問題)ではない。
「経済対話で取り上げられると思う」
トランプ政権や州政府とは何か議論しているのか。
ファニング:日米首脳会談は非常に上手くいった。中国や北朝鮮など環太平洋圏に存在している多くの不安を考えれば、日本と米国が長期的な友好関係と同盟の強度を示すのはとても重要だ。また、今回の首脳会談では麻生(太郎)副総理とペンス副大統領による経済対話が提案された。その3つの柱の一つにはインフラ投資やエネルギー部門の協力がある。ウエスチングハウスのチャプター11やボーグル原発3号機と4号機の完成が危機に陥っていると考えれば、議論に取り上げられると思う。
福島第一原発の事故後、原発は安価なエネルギーとは言えなくなった。天然ガスの価格も低下している。原発の将来性についてどう見ているのか。
ファニング:まず、今回のプロジェクトの契約が締結されたのは、福島第一原発事故の前であり、天然ガスの価格が下がる前だったということを指摘しておく。また、米国はバランスの取れた電力ポートフォリオを必要としている。投資家が株式のポートフォリオを持つのと同じように、安全保障の観点から原子力や石炭、再生可能エネルギー、天然ガスなど、信頼できる供給源を確保しなければならない。米国が原子力を含めたポートフォリオを維持するのは戦略的に重要だ。
このコラムについて
ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/042100670
潜入!廃炉実現のカギ握る巨大な実験施設
渡辺実のぶらり防災・危機管理
東日本大震災から6年経った福島を訪ねる(1)
2017年4月24日(月)
渡辺 実、江波 旬
楢葉遠隔技術実験センターの実験棟
東京電力福島第一原子力発電所の事故から6年、3月31日に福島県浪江町、そして4月1日に富岡町の避難指示が解除された。避難指示が解除された自治体は、楢葉町、南相馬市などに続いて9つ目となった。福島第一原発の廃炉計画は少しずつではあるが前進している。去年4月には楢葉町に廃炉に向けた様々な実験を行う『楢葉遠隔技術開発センター』が完成した。設立から1年、その実態を”防災の鬼”渡辺実氏が視察した。
福島県楢葉町。事故当時は原発事故の対策拠点となったJビレッジの近くに「楢葉遠隔技術実験センター(以下実験センター)」はある。建物、設備に100億円あまりをかけて作られた巨大施設だが、残念ながらその存在はあまり知られていない。
“ぶら防”ではこれまで何度か福島の原発をリポートしている。建設途中の実験センターを渡辺氏も見ている。今回視察に向かう車の中で渡辺氏はこんなことを語った。
「避難指示は多い時で福島県内の11の市町村に出されていた。4月1日以降でも避難指示区域とされているのは大熊町や双葉町をはじめとする7つの市町村の帰還困難区域など、最も多かった時の約3分の1の規模にまで縮小したわけです。でもね、4月1日をもってこのエリアの環境が劇的に改善されたわけではない。避難指示解除に伴う社会インフラ整備の遅れや帰還する住民の生活再建、帰還困難区域の今後は? 等々、問題は今でも山積みです。実験センターがそうした問題を解決する足がかりになればと期待しているんだけど、どうだろうね」
現地で迎えてくれたのは日本原子力研究開発機構福島研究開発部門次長の小島久幸氏だ。まずは施設の概要をうかがった。
「楢葉遠隔技術開発センターは、研究管理棟と試験棟という2つの建物で構成されています。主な用途は福島第一原子力発電所の廃炉措置を推進させるために各種ロボットなど、遠隔操作で事故に対処する機器の開発と実証実験を行うことです」(小島氏)
同実験センターは2015年9月に一部の運用が始まり、16年4月に本格運用がスタートした。
楢葉遠隔技術実験センター試験棟の前にて小島氏(右)と渡辺氏のツーショット
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/236296/040500038/p00.jpg
燃料デブリの処理をシミュレーション
「実際にどういった施設で構成されているんですか?」(渡辺氏)
「研究管理棟は廃炉に向けた作業者訓練を行うための最新のバーチャルリアリティーシステムなどを備えた施設です。また試験棟は原子炉の廃炉措置技術の実証試験や遠隔操作機器の開発実証試験を行うための施設です。ここには原子炉内の圧力抑制室(サプレッションプール)の実物大のものを、8分の1にカットしたモックアップも設備されています」(小島氏)
「サプレッションプールとは原子炉圧力容器の一番下に位置する部分ですね。約3000トンの水をためたドーナツ状のプールです。事故や何かしらの不具合で原子炉格納容器の圧力が上昇した場合、このプールの水で冷却し、圧力を低下させるわけだけど、福島第一原発では、どうやらこのプールのどこかに穴が開いていて、いくら水を入れても必要な水位を保つことができていませんね」(渡辺氏)
実際のモックアップを設置する様子。現在は壁に覆われており、全体を見ることはできない
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/236296/040500038/p2.jpg
どこに穴が開いているのか、放射線量が高すぎて人間が中に入って見に行くことはできない。遠隔操作のロボットを投入するなどして調査が行われているのだが、今のところ穴の正確な位置は特定できていない。
「福島第一原発の廃炉に向けた行程で、最も重要で難しいのが燃料デブリの処理です」(小島氏)
燃料デブリとは、原子炉の事故によって炉内の温度管理設備が機能しなくなったことで溶け落ちた核燃料が原子炉のコンクリートや金属と混ざり合い、冷えて固まったものだ。これを取り出すことが廃炉作業の最大のネックとされている。
福島第一原発2号機の格納容器の内部をカメラで確認する調査が今年1月30日に行われた。容器真下の床に、黒い堆積物が確認されたのだが、これが燃料デブリの可能性があると見られている。
東京電力が公開した画像。作業用の足場に燃料デブリと思われる堆積物がこびりついている
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/236296/040500038/p3.png
燃料デブリを取り出す作業については、東京電力が分かりやすい動画を公開しているので参照して頂きたい。
雇用の拡大にも貢献
「当実験センターは、福島県のイノベーション・コースト構想の一翼を担う施設です。イノベーション・コースト構想とは原発事故によって失われた福島県の浜通り地域の産業基盤の再構築を目指したものです」(小島氏)
楢葉遠隔技術開発センターなどのロボット技術の研究開発拠点をはじめ、イノベーション・コースト構想は、再生可能エネルギーや次世代エネルギー技術の積極導入や先端技術を活用した農林水産業の再生、また原発事故後の未来を担う人材の育成などを視野に入れた国家プロジェクトである。
イノベーション・コースト構想の概要図。ふくしま復興ステーションHPより
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/236296/040500038/p4.jpg
「ちなみにこの実験センターがこの土地にできることで、例えば雇用が増えたりしているのですか」(渡辺氏)
「現在当施設の職員は60人ほどです。守衛関連のスタッフや事務方など、少しずつではありますが、地元採用を増やしている状態です。ただ、こちらの施設そのものは工場などと違って巨大な雇用をこれ自体が生むのではなく、技術開発などのために地元の企業様などに施設の設備を使っていただき、間接的に雇用増大につながればと考えています」(小島氏)
「なるほど、それも大切なことですね。ちなみにこの1年の施設利用の実績は?」(渡辺氏)
「NHK主催の廃炉ロボコンなどに使用されたのを含め40件ほどです。センター側の広報下手ということもあってこの程度の数字になっていますが、試験棟には巨大なモーションキャプチャー施設などもありますので、今後はさらに多くの企業・団体にご利用いただきたいと考えております。」(小島氏)
モーションキャプチャーとは、人間などの動きを測定しコンピューターに取り込む技術だ。人の動きを読み取る場合は各関節にマーカーをとりつけ、この動きを数値として読み込むことで全体の動きを再現する。格闘ゲームなどに登場するキャラクターの動きはこの技術によって作られている。
「そうですね、せっかく大金をかけて作ったのですから、メディアにどんどん露出して名前を広めてくださいよ。例えば私はソニーのプレイステーション4で防災をテーマにした『絶対絶命都市4Plus』というゲームを現在監修しているのですが、モーションキャプチャーの技術は3DやVRが進んでいる今のゲーム開発には欠かせないものです。そうした民間利用でも可能ですか?」(渡辺氏)
「当施設は廃炉に向けた技術開発を推進する場所なのですが、そこばかりに限定してしまうと、利用の幅が狭まります。防災がテーマのゲーム開発であれば施設利用は検討できると思います」(小島氏)
次はいよいよ施設の内部に進む。
このコラムについて
渡辺実のぶらり防災・危機管理
正しく恐れる”をモットーに、防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実氏が街に繰り出し、身近なエリアに潜む危険をあぶり出しながら、誤解されている防災の知識や対策などについて指摘する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/236296/040500038
自由化1年目の電力市場、東電による2大事件 相場操縦や予備力二重確保、公正とは言えない市場の現実
From 日経エネルギーNext
2017年4月24日(月)
日経エネルギーNext電力研究会
国内の電気事業者は日々、日本卸電力取引所(JEPX)で電力を売買する。電力市場における取引量や取引価格は自由化の姿を映す鏡のようなものだ。専門誌「日経エネルギーNext」では、コラム「JEPX便り」で専門家が電力市場の動静を読み解いてきた。本コラムをWebで再スタートするに当たって、まずは番外編として全面自由化1年目の電力市場を振り返りつつ、日本が抱える問題を押さえておきたい。
1年前の2016年4月、電力全面自由化は電力市場の異様な動きとともに幕が開いた。東日本エリア(関東・東北・北海道)で価格高騰(スパイク)が頻出したのだ。
JEPXが運営する電力市場の中で取引量が一番多いのが「前日スポット市場」である。実際に電力を供給する「受け渡し日」の前日午前中に取引が行われる。通常、電力市場といえばこのスポット市場を指すことが多い。全面自由化を契機に参入した新興の新電力の場合、翌日の供給電力の多くをここで調達しているというケースも少なくない。
スポット市場の平均価格は、2013年冬季をピークに2016年6月ころまで原油価格の下落などを背景に下降傾向をたどっていた。振り返れば、全面自由化直後の2016年4〜5月はほぼ底値にあったといっていい。この頃、1日の平均価格は1kW当たり10円を下回り、7〜8円という水準だった。ところが、日や時間帯によって異常な高値をつける事態が頻繁に発生するようになったのである。
自由化1年目は価格高騰が頻出
2016年4月28日の電力市場価格推移
荒れる市場、価格が暴騰する時間帯が頻繁に発生
電力は1日24時間を48個に分割した30分を1コマとして取引する。ゴールデンウィークを翌日に控えた昨年の4月28日、多くの市場関係者は目を疑った。
東日本エリアで13時30分から17時まで45円/kWhを超えるなど、異常な高値が続発した。異常だったのはこの日だけではない。東京電力ホールディングス(HD)管内の場合で、4月から6月末までの91日間に最高値が20円/kWh以上をつけた日が28日にのぼった。
全面自由化を契機に新規参入者の買い入札が増えるなど市場環境の変化は想定された。とはいえ、この荒れ狂いように多くの市場参加者が困惑した。「経験の浅い新規参入組が異常な買い方をしているのではないか」など、様々な憶測が飛び交った。電力の仕入れを市場に頼る割合が高い新電力の中には、経営に大きな打撃を被ったところも少なくなかっただろう。
そうした混乱が続いていた昨年の6月、驚愕の事実が発覚した。電力・ガス取引監視等委員会が「ある電気事業者が予備力を二重に確保している」と公表したのである。「予備力」とは、発電機の急な故障や想定外の需要の増大などに備えて待機させておく電源(発電設備)をいう。大手電力は需要量の一定割合を予備力として確保するルールが課されている。
事件その1 驚きの予備力二重確保
予備力二重確保は、東京電力が2016年4月、東電EP(小売電気事業者)、東京電力パワーグリッド(PG、一般送配電事業者)、東京電力フュエル&パワー(FP、発電事業者)の3部門を分社した際、それまで東京電力全体で確保していた予備力相当量を、東電EPと東電PGの2社がそれぞれほぼ同じ量ずつ確保していた問題だ(監視委員会は社名を公表していないが、日経エネルギーNextの取材により明らかとなった)。
合わせると分社前の約2倍の電源が予備力として待機することになったため、市場に投入される電力が激減し、とりわけ東日本で電力市場価格の高騰を招く大きな要因になったと見られる。市場から電力を調達する新電力などに甚大な影響を及ぼした。
予備力として待機させる電源の量については、議論に基づいてルール化してきた経緯がある。分社したからといって事前に何の説明もなく、エリアの予備力がいきなり2倍になるのは恣意的な運用にすぎると言えよう。
この問題は、昨年12月の政府審議会(第14回制度設計専門会合)でも取り上げられた。この時点で監視委員会は東電グループから「可能な限り(改善を)前倒しすべく取り組んでいる」との報告を受けたことを明らかにした。
だが、監視委員会はこれに対して「早期の改善が望まれる」というコメントを出すにとどまった。結局、その後も二重確保問題は続いた。筆者が関係者から「東電は3月に二重確保をやめた」と聞いたのは、この4月に入ってからだ。
事件その2 半年続いた相場操縦で業務改善勧告
東電グループの市場への姿勢が問われたのはこの問題にとどまらなかった。
昨年11月には、監視委員会が東電EPに対して業務改善勧告を発するという2つ目の“事件”が発生した。大手電力にはスポット市場において、電力の余剰が発生したら「限界費用」(燃料費など可変費相当)で売り入札するルールを課されている。ところが、東電EPが限界費用から大きく乖離した高値で売り入札を続けていたことも発覚したのである。
監視委員会はこれを相場操縦に当たると認定した。平日昼間の6割で相場がつり上げられたとしている。東電EPは「相場操縦の意図はなかった」としているものの、「勧告には適切に対応する」とのコメントを出した。
電力市場が本来の自由競争下にある場合、損を出さないギリギリの原価である限界費用での投入が、落札量を増やし、原理的に売り手の利益を最大化するとされる。売り手にとっては限界費用と約定価格の差分が利益になる。限界費用を超える高値入札は、自分の利益(落札量)を減らしてでも買い手に打撃(価格上昇)を与える行為と監視委員会は見なした。
事実、監視委員会の勧告を受け入れて、東電EPが限界費用での売り入札に改められたと見られる10月以降、市場における売り入札量が改善(増加)した。裏を返せば、少なくとも小売り全面自由化の2016年4月以降、電力市場では東電EPの相場操縦によるゆがみが半年間続いていたことになる。
市場取引はわずか3%、新規参入の足かせに
JEPXは2000年の小売り部分自由化に伴い、新規参入を促し、自由化を促進する目的で2005年に設立された。卸電力市場の最大の問題は今日に至るまで取引量が少ないことだ。
監視委員会のモニタリング調査によると、2016年10〜12月の売り入札量は前年同期に比べて1.2倍、買い入札量は同1.6倍に増えている。売買の成立(約定量)は、36億kWhから57億kWhに増えた。全面自由化が取引量の増加をもたらしたのは間違いない。
だが、それでも国内の電力消費量に占める電力市場のシェアはわずか3%に過ぎない。英国の50.7%、ドイツの50.1%、北欧(ノルドプール)の86.2%に比べて極端に少ないのが日本の電力市場の実態なのだ。
電力市場の取引量を増やし、市場を活性化することは自由化促進に大きな意味がある。1つは発電事業の競争だ。
地域独占下では、大手電力(旧一般電気事業者)が保有する電源はもっぱら大手電力各社の営業エリア内の需要のためだけに使われ、当然、そこに競争はなかった。これに対して卸電力市場には全国から電源が集まる。現在、売り入札(市場への電源拠出)の9割近くは大手電力9社によるものだが、市場では安い電源から落札されるため、ここでは競争原理が働く。
もう1つは、小売電気事業者の新規参入を促す効果だ。
国内の電力インフラの大部分は高度経済成長期に伸びる需要を満たすことを目的に、総括原価方式と地域独占を前提にした資金回収を保証する仕組みの中で建設されてきた。既に国内の電力需要を十分に満たすだけの電源は存在する。今後、電力需要は減少も見込まれており、新規の電源投資は回収が難しくなる。
こうした環境下で、新規参入者と大手電力との競争条件を揃え、小売り競争を促すためには、市場を通した電力取引の活性化は欠かせない。既に投資された電源を有効活用し、電気料金を下げる観点からも重要なことだ。
そのため、自由化で先行した欧米の国や地域では、規制当局がいずれも電力市場の活性化に力を入れてきた。海外でも多くの場合、電力会社は独占企業としてスタートし、競争政策の導入を契機に非独占企業への転換を迫られた。限られた事業者がすべての電源を保有する状況では自由化は進まない。だから、各国の規制当局は発電所の強制売却や、取引市場における取引を増やす施策を打ってきた。
電力市場は活性化が課題
公正な市場の実現が悲願
国内でも全面自由化の議論が始まった当初から、市場活性化は大きなテーマだった。有識者会議では、大手電力に対して市場への拠出を法的に義務づける“強制玉出し”を求める声も相次いだ。
こうした圧力に対して大手電力は事業者の自主性の尊重を求めた。そして、政府や新電力などに対して「予備力を超えて余った電源は限界費用で市場に投入する」という「自主的取り組み」を約束したという経緯がある。競争政策の趣旨に鑑みれば、“自主的”とはいえ、重いものだ。だが、その約束は「事件その2」で明らかになったように、堂々と反故にされてきたわけである。
自由化における市場活性化の重みや、これまでの議論の経緯に照らして、東電グループが行った予備力の二重確保や相場操縦は、公正であるべき市場をないがしろにする行為と言えるだろう。そして、市場支配力を有する大手電力のルールを無視するかのような振る舞いを許さないようにするのが、自由市場における規制機関の重要な役割のはずだ。
東電EPの相場操縦(高値投入)とみられる行為は全面自由化の半年後に業務改善勧告の対象になったものの、二重確保問題は1年にわたって事実上放置されてきた。この点は監視委員会の対応にも疑問が残る。これが、小売り全面自由化から1年の電力市場の現実だった。公正な市場の実現こそ、すべての事業者にとっての悲願である。
日経エネルギーNext、紙からデジタルへ
エネルギービジネスの専門情報を発信する日経エネルギーNextは、2017年春、デジタルメディアとして再始動します。Webサイトのオープン情報や最新の記事は、メールマガジンにてお知らせ致します。ご登録はこちらからどうぞ。
このコラムについて
From 日経エネルギーNext
電力・ガスの全面自由化を迎え、日本のエネルギー市場は新たな局面を迎えた。王者・東京電力は原子力発電所事故の賠償や廃炉の責任を背負い、大規模な合従連衡が進もうとしている。数多くの新規参入企業が虎視眈々と商機を狙い、まさに戦国時代の様相だ。電気やガスの料金は本当に下がるのか、魅力的なサービスは登場するのか――。エネルギービジネスの専門誌「日経エネルギーNext」が最新ニュースを解説する。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700115/042100014
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