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放射線を浴びるとなぜ健康被害が出るの?→症状の原点は電離にあり 福島原発事故の真実と放射能健康被害
Q質問(質問者:大阪府/20代/大学院生・物理学専攻)
A回答(回答者:矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授)
現在放射線に関する考え方を提供している国際放射線防護委員会(ICRP)は電離放射線という言葉は使用していますが、放射線の作用は具体的には述べてはいません。放射線を浴びた後で生命体のリアクションとしての修復などの反応を論じる前に、電離放射線の最も基本的な物理的作用を科学的に確認することがとても大切です。
なぜなら、物理的な作用があって、それゆえにいろいろな危害が出てくるわけです。それだからまず「刺激としての入力」である物理的作用の確認が、放射線の害悪である「出力」を正確に語るうえで必要です。放射線の物理的作用、すなわち生物にとっては「刺激」の実態をブラックボックスに閉じ込めてしまうと「出力」としての危害が正確に科学的に語ることができません。
ICRPの考えを執行する機関の代表のような国際原子力機関(IAEA)はチェルノブイリ苛酷事故後に非常に多様にたくさん出ている健康被害を甲状腺がんだけ≠オか認めていません。ここにICRP的方法論の科学体系としての大きな陥穽がある。
これは電離作用をブラックボックスに閉じ込めることなどにより、結果をICRPにとって都合の良い形で表現することが可能になっているのです。私はこのことを「加害者の都合で被害を語っている」と言ってきました。そのような背景がありますので、放射線の電離作用を科学的に確認することは重要です。
■放射線の作用は電離。電離は分子切断
原子と原子を結びつける力は、二つの原子間で電子が対を形成することです。ちょっと専門的ですが物理学の体系に量子力学と呼ばれる分野がありますが、量子力学的に「交換相互作用」と呼ばれる電子同士の相互作用があります。交換相互作用によって強固な電子対が形成されることにより原子と原子がむすばれているのです。
およそ安定して存在する分子/原子の電子はすべてが対を形成するのです。原子と原子が結合して分子と呼ばれる状態ができますが、出来上がった物体が有機物であろうと、無機物であろうと、金属であろうと、動物であろうと、植物であろうと、固体になろうと、液体になろうと、気体になろうとすべて同じ原理によるのです。
電離はこの電子対を壊します。原子と原子の結びつきをつかさどっている電子の対が壊されると分子(組織)が切断されてしまうのです。身体の中で、放射線が当たるのが、DNAであろうと、細胞膜であろうと、神経伝達物質であろうと、血液やリンパ液であろうと、酵素やホルモンであろうと、すべての分子で原子と原子の結びつきが破壊される危険を持ちます。
生体のリアクション(反応)は、修復やアポトーシスや様々な応答がありますが、切断された分子のすべてが修復されるわけではありません。修復ミスや修復漏れがあります。死滅する細胞もあります。心臓や神経など、新陳代謝のない組織においては細胞死自体がリスクの根源です。
例えばセシウム137一つとってみても、様々な臓器に蓄積されることも分かっており、あらゆる病変が引き起こされる可能性があります。放射線の作用を見ていくとそれから帰結されることを科学的に推察できるのです。
放射線のリスクを他の疾病と比較したり、自然放射能と比較することが多く見られますが、大概は科学的に誤った方法によっています。放射線の作用はおよそ免疫力を低め、アレルギーや感染症やその他多くの健康被害を増幅させ、症状を激しくするので、単独のリスク自体を比較しあうこと自体が誤りであるのです。
■放射線が当たるのは一原子(いちげんし)
一般に「放射線」と呼ばれているものは、より具体的に呼ぶときには「電離放射線」と表現されます。放射線が身体に当たると表現されますが、微視的に極限まで見ていくと、原子に当たるのです。原子は原子核とその周りをまわっている軌道電子から構成されますが、電離とは図1に示すように軌道電子が原子の外まで叩き出されてしまうことです。
ここで少し放射線の性質を述べることにします。
アルファ線とベータ線は高速粒子でありその放射線の作用は、一番外側(外殻)の電子を原子から弾き飛ばします。
ガンマ線は電磁波です。この場合は、外側の電子を電離しガンマ線は波長が長くなるという相互作用(コンプトン効果)と、原子の内殻(原子核近く)の電子を弾き飛ばしガンマ線は消滅するという相互作用(光電効果)があります。後者の場合はさらに2次的な効果が伴い、電離された電子がさらに他の原子の電離を行い、あるいは電離された電子の位置に外側の電子が落ち込みX線を発生する(特性X線)、あるいはそのエネルギーを同じ場所にいる最近接の電子に与え(オージェ電子)その電子が飛び出して電離作用をするなどです。
いずれの放射線も放射線自身は電離させるに必要なエネルギーをその都度失い、止まるかあるいは消滅するのです。いずれにせよ、放射線は原子1個ずつに衝突し、その原子の電子を吹き飛ばすのです。
■電離は原子と原子の結合を破壊する
人間の体や、ほとんどの自然界では、原子が単独で存在することはなく原子同士が結合して分子を作っています。先ほども申しましたが、原子と原子が結びついている場が金属中であろうと、非金属であろうと、人間や動物の身体中であろうと植物中であろうと結合の原理に変わりはありません。
放射線の電離という作用は分子にどのような具体的変化を生じさせるかを見てみましょう。
放射線の基本作用はその大部分が、分子を切断する、あるいは原子と原子の結合を破壊することに帰結いたします。前述のように、電子がペアを構成し原子と原子を結合させる役割をしています。そのペアを構成する電子の一つが吹き飛ばされと原子と原子を結び付けている力が失われるので原子同士の結びつきが壊されることになるのです。その様子を図2に示しています。
接合が切断されれば、原子の位置が変化するので、いつも修復されるとは限らない。組織がそこで切れたままになってしまう危険が大きいのです。組織が1次元的に結合していても、3次元的に結合していても原子と原子の結びつきが切られることには変わりないのです。
特に図3に示すようにDNAの鎖は一次元的に結合にされているので、放射線の作用として電離が生じると図2に示されるように切断されてしまいます。
身体の中では、放射線が当たるのはDNAに限りません。細胞膜であろうと、神経伝達物質であろうと、血液やリンパ液であろうと、酵素やホルモンであろうと、すべての分子で原子と原子の結びつきが破壊される危険を持ちます。
DNAの切断は図2のように直接的に切断される場合の他、間接的に切断される場合があります。間接的とは、放射線が体中の水分子、酸素分子などを切断して化学的活性度の強い「ラジカル」を作り、そのラジカルがDNAを化学的に切断する場合です。
水分子の構造を図4に示します。
中心にある酸素原子は空間のx方向、y方向、z方向に電子の広がり(波動関数という)を示します。そのうちの2方向の波動関数の先に水素が結合します。その場所で「電子対」を形成しているのです。放射線が水分子に当たれば、一つの水素イオンが切り離されます。水分子は体内に多量にあるのでたくさんのラジカルが生じます。ラジカルはDNAに限らず、周囲の組織結合に作用し、分子や組織を切断します。
異常なDNAが出現するには、そのほかにバイスタンダー効果等が知られています。バイスタンダー効果とは、放射線(電離放射線)に直接照射された細胞だけでなく、周りの細胞にも放射線の影響が伝わり、直接打たれない細胞のDNAが切断されるなどの影響を受ける現象です。
放射線により組織が切断されると、修復機構が働き始めるといわれています。しかし、現実には修復作用の目をかいくぐって、様々な障害が出てきます。
放射線が当たるのはどこにあたるか、被曝している側で決めるわけにはいきません。繋がっていてこそ生命機能が発揮できているのにつながりが切断されれば、生命機能がうまく発揮できなくなります。特にDNAでは修復の際、繋ぎ間違った場合が、がんのもとを形成したり、子孫に異常DNAを伝えたりする危害があらわれます。
ICRPの言うように、「放射線の被害はガンと白血病とほんの少しの病気だけ」という風には現実はなっていません。ICRPの見方は被害を隠す方向で体系化されています。チェルノブイリ事故後の健康被害を見れば一目瞭然です。それを見抜かなければ健康に生きる基本的人権を守るための100年の計を立てることはできません。
■まとめ
放射線は電離を行い、組織を切ってしまいます。ICRPは放射線のこの基本作用をブラックボックスに入れてしまって解明しておりませんので、「加害者の都合で被曝を語る」ことが可能になっていることをお話ししました。だからICRPはチェルノブイリ後の健康被害を語ることがまったくできていないのです。
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