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なぜかよみがえる安全神話──原発新設凍結を求めて函館市が異例の裁判を闘うワケ
http://www.jprime.jp/articles/-/8296
2016/10/15 週刊女性2016年10月25日号
三反園鹿児島県知事は九州電力に川内原発の即時停止を2度にわたり要請
泉田裕彦知事の出馬撤回で注目を集める新潟県知事選の投票日が今週末に迫ってきた。脱原発を掲げる「泉田知事の路線を継承する」と約束した米山隆一氏と、自公公認の元新潟市長・森民夫氏の両候補による一騎打ちだ。この結果次第で、原発再稼働が加速する懸念が広まっている。
NPO法人『環境エネルギー政策研究所』の飯田哲也所長は指摘する。
「東電のメルトダウン隠しを暴いた福島第一原発事故の真相究明、地震の揺れを低減させる緊急対策所『免震重要棟』の設置を求めるなど、泉田さんの功績は大きい。元経産省の官僚で、相手の手の内がわかっていたからできたという面もある。鹿児島の三反園知事が川内原発の停止を九電に要請していますが、はたしてどこまで頑張れるか」
その川内原発では1号機が、今月6日から、福島第一原発事故を受けて作られた新規制基準に基づき再稼働した原発として全国初の定期検査に入り、運転を停止した。このため現在、国内で稼働中の原発は、川内2号機、伊方3号機(愛媛県)の2基だけ。
しかし、全国の原発では再稼働に向けた審査を申請中だ。本来であれば廃炉になるはずの老朽原発も含まれ、さらに新設・増設工事、新たに造る計画まで続々と進められている。
「プルトニウムとウランを混ぜたMOX燃料を使う、プルサーマル発電の原発から先に動かそうとしています。今年8月に再稼働した伊方3号機、新潟の柏崎刈羽6・7号機もそう。新潟で森知事誕生となったら次の再稼働は柏崎でしょう」
■プルトニウム保有のためのアリバイ
日米原子力協定によって、日本は例外的にプルトニウムの利用が認められている。だが、プルトニウムは核兵器に転用できるため、大量に持っていれば国際社会の批判を招き孤立しかねない。
「そこでアリバイに使おうというわけです」
もうひとつの使い道が、1兆2000億円もの予算が投じられてきた高速増殖炉『もんじゅ』だ。
「原発で使った使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、高速増殖炉という原子炉の燃料に再利用すれば、発電しながら使った以上の燃料を生み出せる……。そんな夢のような計画でしたが、もんじゅは運転開始の翌年にナトリウム漏れ事故を起こして以来、運転停止の状態。プルトニウムを取り出すための六カ所再処理工場も失敗続きです」
実用化に至ることなく今年、もんじゅは廃炉へ動き出したが、国は高速炉の研究継続を明言している。
なぜ、どのように事故が起きたのか? どうすれば住民の安全を守れるのか? その問題に向き合わないまま国策として進められてきた原発に対し、自治体から強烈なカウンターが。函館市が国に、原発新設の差し止め訴訟を起こしたのだ。
■原発新設の凍結を求めて国を提訴、函館市が異例の裁判を闘うワケ
原発建設の凍結を求めて、自治体が国と電力会社を訴える─。史上初の裁判は14年4月に始まった。
建設中のJパワー(電源開発)大間原発(青森県大間町)は、津軽海峡を隔てて函館市まで最短23キロ。両者の間にさえぎるものはなく、国際海峡である津軽海峡は誰もが自由に航行できる。領海は3カイリ(5・5キロ)と狭く、テロの恐れも危惧されている場所だ。「世界一危険な原発」と呼ぶ人までいる。
工藤寿樹市長は裁判について、「勝算はある」と自信をのぞかせる。
「こちらは長期戦も覚悟でやっている。裁判が長引くほど原発の建設工事は進められないのだから、好都合。訴訟費用は寄付を募った。全国から5500万円ぐらい集まっています」
函館市の主張は明快だ。「このまま原発が作られたら、自治体として住民の安全を守れない」ということに尽きる。
放射能は同心円状に飛ぶわけではなく、事故被害は広範にわたる。万が一の事態が起きれば、原発立地自治体の問題だけではすまないことは、福島第一原発事故をとおしてわかった「事実」だ。
建設中の大間原発。危険性が指摘されるフルMOX燃料を使う原発は世界初
■「『同意権』もないのに、避難計画を作れというのはおかしな話」
MOX燃料を使用する高速増殖炉「もんじゅ」はナトリウム漏れ事故を起こして運転停止状態。隠ぺい体質も批判された
「福島事故を受けて、原発から半径30キロの自治体にまで拡大して避難計画の策定が義務付けられました。(原発の稼働や停止に事前同意する)『同意権』も与えられていないのに、避難計画を作れというのはおかしな話。30キロ圏まで危ないというなら、立地自治体だけでなく当然、周辺自治体にも同意権が必要でしょう」
大間原発は前述のMOX燃料のみで発電する、世界初の『フルMOX原発』だ。MOX燃料は危険性の高いプルトニウムを使うことに加え、燃料棒内で高温化して破損が生じる恐れがあることを海外の科学者らが指摘している。
「使用済み核燃料をどうするのか。大間原発には20年しか保管できない。六ヶ所の再処理工場は頓挫しているのに、とにかく原発を動かすことありきで計画が進められている」
避難が難しいという地形的な問題もある。
「道北に向かう国道5号はゴールデンウィークでさえ大渋滞する。まして原発事故が起きて、いっせいに逃げ出したら、身動きが取れない。真冬だったらどうするのか。介護の必要なお年寄りだったら? どういうときにどこまで逃げればいいのか、Jパワーも国もまるで説明しません。避難計画を立てようがない」
■「原発事故が起きたら国は自治体を切り捨てる」
原発は国のエネルギー政策として進められてきたが、いったん事故が起きれば、避難や住民への対応は自治体がやらざるを得ない。コミュニティーを失った人々の苦しみや悲しみを、工藤市長は福島県南相馬市と浪江町を訪れたときに、目の当たりにしたという。
「原発事故が起きたら国は自治体を切り捨てる。助けにも来ない。私も安全神話を信じていたひとりですが、福島の事故をとおして、そう思い知りました」
このように話す工藤市長は、いわゆる「脱原発市長」ではない。裁判の争点も、あくまで大間原発の建設凍結と、安全でない原発に対しNo.と言える権利だ。
「脱原発を標榜すると意見が割れて、分断が起きる。誰もが最低限、賛同しやすい争点にしぼって裁判を闘っている。黙って泣き寝入りするわけにはいかない」
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