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岸博幸の政策ウォッチ
【第43回】 2016年10月14日 岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
メディアが報じない原発活用の環境整備を妨げる“歪み”
廃炉費用と高速炉の検討は始まったが
その他の課題は大して進んでいない
廃炉費用や核燃料サイクルを除き、原子力に関連する課題についての検討は原発事故以降、大して進んでいない。メディアが報じないその背景とは
先週は、原子力政策に関連する政府の会合が3つも開催されました。
そのうちの2つでは原発の廃炉費用の負担が議論されました。電力自由化を議論する“電力システム改革貫徹のための政策小委員会”では、日本全国の原発の廃炉費用を新規参入した電力会社にも負担させる議論が始まり、“東京電力・1F(福島第一原発)問題委員会”(東電委員会)では、増大する1Fの廃炉費用(及び賠償・除染費用)をどう賄うか、それに向けて東電をどう改革・再編するかという議論が始まりました。
もう1つは核燃料サイクルに関する高速炉開発会議で、先月開催された原子力関係閣僚会議での方針を受け、“もんじゅ”の廃炉とそれに代わる高速炉の今後の開発方針が議論されました。
原子力政策の観点からいうと、原発の廃炉費用の負担と核燃料サイクルのあり方の見直しという課題については、政府がようやく検討を始めたと言えます。そのどちらも世論的には反発が強くて賛否が大きく分かれる問題ですが、結論がどうなるかはともかくとして、検討を早く進めることが重要です。
というのは、政府は2014年に“エネルギー基本計画”を策定し、そこで原子力を重要なベースロード電源と位置づけ、原発の再稼働を進めていくと明記しているからです。ちなみに、それを受けて2015年に策定された“長期エネルギー需給見通し”では、2030年の発電量に占める原子力の割合は20〜22%とされています。
この“エネルギー基本計画”は法律上3年ごとに改訂するので、2017年、つまり来年が改訂の年となります。したがって、特に2030年時点での原子力の割合を高く見積もっている以上、改訂に先立って原発の活用に必要な環境整備をできるだけ早く行うことが政府の責務のはずです。
そう考えると、改めて問題に感じるのは、廃炉費用や核燃料サイクルについては検討が始まったものの、原子力に関連するその他の課題についての検討は原発事故以降、大して進んでいないということです。
たとえば、今年は電力小売りの自由化が行われましたが、実は自由化と原子力発電所は非常に相性が悪いと言わざるを得ません。火力発電所ならば1基あたり1500億円に対し、原発は4000〜6000億円と格段に大きい投資が必要となりますし、施設の維持管理にも多額のコストがかかります。
それにもかかわらず、これまで電力会社が原発の新増設を行ってきたのは、電力料金が総括原価方式で決定され、かつ地域独占を保証されていたので、多大な投資額を長期間で回収することができたからです。
しかし、自由化によってそうした仕組みが崩れました。2020年には発送電分離が行われるので、送電部門の利潤で原発を支えることもできなくなります。今後は明らかに電力会社が原発の新増設や老朽原発の運転延長を行なう余裕はなくなるのです。
それでも2030年の電源構成で原発20〜22%を目指すなら、本来は電力自由化と並行して、そもそも論として自由化された市場における原子力発電所の位置付けをどうするのか、具体的には廃炉となった原発を含め、国や公的機関に保有主体を移すべきか、または電力会社を主体とし続けるのかについて、本当は一度しっかりと公の場で議論すべきなのに、その気配はありません。
かつ、今後も民間事業者が原発の保有主体と政府が勝手に決めているならば、自由化された市場で電力会社が原発のリスクを負うことができるよう、政府が様々な制度面の手当てをして事業環境を整備することが必要なはずです。
しかし、詳しく書き出すと長くなるので結論だけ書きますが、原発事故の際の民間事業者の責任範囲を明確にするために必要な原子力損害賠償制度については、検討こそ昨年始まったものの、まだ当分の間は結論が出そうにありません。廃炉コストの経営への影響の軽減につながる廃炉会計制度についても、同様に検討がゆっくりとしか進んでいません。ましてや、自由化に対応した原発維持のための支援策などほとんど検討されていません。
要は、原発事故前と変わらず民間事業者が原発の保有主体としているわりには、政府での必要な制度的な対応はあまり進んでいないのです。
また、核燃料サイクルについても、高速増殖炉については新たな方針を早めに決めようとしていますが、核燃料サイクルの柱の1つである核廃棄物の最終処理については、候補地選びのペースは遅いままです。
原子力規制委員会の再稼働
審査には時間がかかり過ぎる
そして何より、核燃料サイクルのもう1つの柱であるプルサーマルにも関連する話として、原発の再稼動のペースが遅すぎます。原発事故から5年以上が経過したというのに、再稼働を果たした原発は高浜、川内、伊方の3ヵ所だけで、そのうち高浜は司法判断で運転を停止しています。
このように原発再稼働が遅い理由は、原子力規制委員会の審査に時間がかかり過ぎているからですが、もちろん政府が独立委員会の判断に口を出すことは論外です。
それでも、政府の側として、委員会の事務局を大幅に増強するとか、委員会の下の組織体の安全審査上の位置付けをはっきりするなど審査ルールを明確化するとか、審査に要する時間の短縮や審査に関する予見可能性の向上に向けてできることはあるはずなのに、現実には政府は何もしていません。
資エ庁だけが焼け太りして
原子力政策の検討が進まぬ現実
このように、メディアの報道だけを見ていると、原発の活用に必要な環境整備が進んでいるように見えますが、現実にはほとんど進んでいません。
その最大の理由は、原子力政策を所管する資源エネルギー庁にあります。善意に解釈すれば、原発に関する環境整備でやるべきことは膨大にあり、資エ庁の人手がまったく足りないので可哀想と見ることもできます。
ただ、悪い見方をすれば、結局資エ庁は昔からの悲願であった電力自由化だけはやったし、核燃料サイクルのうち文科省の所管だった高速増殖炉に関する権限を奪い取ることはやったけれど、それ以外の原子力の課題については緩慢にしか対応していないとも言えます。要は原発事故を契機とした資エ庁の焼け太り、いいとこ取りです。
もちろん、原発への世間の風当たりはいまだに厳しいので、不人気の政策、批判される政策はどうしても慎重にならざるを得ず、一方で自分の焼け太りになる政策はリスクを取ってでも前に進めるというのは、心情としてわかりますが、しかしやはりそれではダメです。電力自由化だけ先に進んで原発関連の環境整備が後回しの状態で、まともな市場が形成できるとは思えません。
ちなみに、この見方を延長すると、ちょっと気になるのは東電委員会の今後です。この委員会で東電の経営改革や東電を核とした業界再編が議論されますが、この手の審議会の常で、シナリオや結論は資エ庁の役人がつくるでしょう。かつ、委員会の議事は非公開というのがいかにも胡散臭いです。資エ庁の役人が自分たちの意のままに東電を生体解剖し、電力業界を再編しようと狙っているのではないでしょうか。
しかし、過去の数多ある産業政策の失敗から考えて、経産省の役人が正しい企業再生や産業再編をできるとはとても思えません。東電をおもちゃにして壮大な自己満足をやられては困ります。電力業界ともっと連携し、かつ議事を公開するべきです。
かつ、何よりも、原発に関連する環境整備が遅れている中で、資エ庁が自分のやりたいことだけ優先してやっているようでは、2030年のエネルギーミックスの姿など絶対に実現できません。
メディアはどうしても政策について日々の出来事しか報道せず、それだけで政策の全体像を俯瞰するのは難しいのですが、原子力政策については、方向性についての賛否はともかくとして、このように全体として検討・立案が大幅に遅れ、資エ庁の焼け太りばかりが進んでいるという事実は、少しでも多くの人に認識してほしいと思います。
http://diamond.jp/articles/-/104571
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