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気候変動を防ぐには原発の正常化が必要だ
頭を冷やして現実的なエネルギー政策を考えよう
2016.10.7(金) 池田 信夫
仏パリでの国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)の開催期間中に、「プランB(代替案)はない」というメッセージが表示されたエッフェル塔(2015年12月11日撮影、資料写真)。(c)AFP/PATRICK KOVARIK〔AFPBB News〕
国連は10月5日、気候変動に関する国際的合意「パリ協定」の締約国の温室効果ガス排出量が世界全体の55%を超えて発効の条件を満たしたので、11月4日に発効すると発表した。アメリカのオバマ大統領は「地球を守る闘いにおいて歴史的な日だ」と歓迎する意向を表明した。
しかし日本政府はパリ協定の国会承認を求める議案を11日にも閣議決定する方針で、主要排出国の中では遅れている。これをNGO(非政府組織)などが批判しているが、政府が渋っている原因は簡単だ。協定を承認しても、その目的の実現は不可能だからである。
パリ協定は実現不可能である
パリ協定は京都議定書以来、18年ぶりの気候変動対策の国際的な枠組みだ。先進国だけに温室効果ガスの削減を義務づけた京都議定書と異なり、発展途上国を含む世界の190カ国以上が参加し、2100年までに世界全体の排出量増加を実質的にゼロにするという野心的な目標を掲げている。
今後どれぐらい地球温暖化は進むのだろうか。これは大論争の続いているテーマで、誰も確実なことは分からない。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書のシミュレーションも次の図のように大きな幅があり、世界の地上平均気温は2100年に今より1〜4℃上がると予想されている。
http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/ipcc_ar5_wg1_spm_jpn.pdf
世界の平均地上気温の上昇(出所:IPCC第5次評価報告書)
http://jbpress.ismedia.jp/mwimgs/7/0/450/img_70b2a3e749b4d0769808752be3b05c0320286.jpg
この気温上昇をパリ協定の目標とする「産業革命以前より2℃上昇」に抑えることは、経済産業省で地球温暖化についての首席交渉官だった有馬純氏の評価によれば「現在の発電部門の排出量をそのままマイナスにしたような規模のマイナス排出にするという、およそ実現性に疑問符のつくビジョン」である。
ましてパリ協定の理想とする1.5℃以下(温室効果ガスの増加率ゼロ)という水準は物理的に不可能だから、いずれも法的拘束力のない努力目標として設定されている。したがって日本がこれを承認してもしなくても大した違いはないが、承認すると国内対策をしなければならない。京都議定書のときは、これが大混乱の原因になった。
非現実的なエネルギーミックス
温室効果ガスの中で最大の二酸化炭素(CO2)については、火力発電所が大きな発生源なので、気候変動の問題はエネルギー政策と関連している。
政府は2030年までに温室効果ガスを2013年比で26%削減するという目標を決めた。ここではエネルギー起源のCO2を2030年までに25%減らすことになっているが、その前提として想定されるエネルギーミックスは、次のようなものだ。
・再生可能エネルギー:22〜24%程度
・原子力:20〜22%程度
・石炭:26%程度
・LNG:27%程度
・石油:3%程度
これが実現できれば、電力に由来するCO2の排出量は34%も減り、エネルギー全体で25%減らせるが、問題は実現可能かということだ。再生可能エネルギーは震災前10年間の平均で電力の11%だが、そのうち9%は水力で、これはほとんど増えないと予想されているので、残りの13〜15%を太陽光などの新エネルギーでまかなうことになる。
これはやろうと思えば、できないことはない。固定価格買取制度で高価格を保証すれば、巨額の設備投資が行なわれるだろう。杉山大志氏(IPCC総括責任者)の計算では、太陽光でCO2を1%減らすには、約1兆円かかる。
つまりこの計画通り太陽光を増やすと、13兆円以上の国民負担になるのだ。これは現在の電力会社のコストをほぼ倍増させるので、電気代はドイツのように2倍になるだろう。
「脱原発」で気候変動のリスクは増える
CO2を減らす最も効率的な手段は原子力である。2010年に鳩山内閣の決定したエネルギー基本計画では、2030年までに電力の53%を原子力で発電する計画だった。これならエネルギーコストはむしろ下がる可能性があり、経済成長を阻害する心配はなかった。
しかしこの計画を野田内閣が覆し、2012年に「革新的エネルギー・環境戦略」なるものを発表した。これは「2030年代までに原発をゼロにする」という実現不可能な目標を打ち出したが、内容があまりにも荒唐無稽なために閣議決定できなかった。
いま原子力の発電量はほぼゼロだが、それを2030年までに22〜20%にするためには30基程度の原発が稼働する必要がある。原子力規制委員会の安全審査は大幅に遅れており、このペースでやると、あと15年で15基の審査を終えるのが精一杯だろう。それだと原子力の構成比は、10%ぐらいにしかならない。
この穴を埋めるのは、おそらく単価の安い石炭火力(原子力とほぼ同じ)だろう。このままでは2030年には石炭の構成比が30%以上に増えるおそれが強い。これによって再エネによるCO2削減効果は打ち消され、現状維持がやっとだろう。
京都議定書でも2013年の温室効果ガス排出量は1990年より10.8%増え、排出権を中国などから購入して削減目標を達成した。CO2の排出量は経済成長とパラレルなので、原発を正常化しない限り、26%削減などという目標は達成不可能である。
このためには京都議定書のような排出権取引ではなく、高率の炭素税を課すことが現実的だ。気候変動には不確実性が大きいので、炭素税を徐々にかけて様子をみることが現実的だろう。
今の環境税はCO21トン当たり289円で、これは石炭については670円/トンだ。例えば環境税を10倍の2890円にすると、石炭の価格は6700円上がって原価の約2倍になる。原子力は炭素税がほぼゼロなので、すべての化石燃料に比べて優位になる。このように社会的コストを内部化して比較することが重要だ。
気候変動には不確実性が大きいが、確実なのは「脱原発」で原子力を減らすとCO2が増え、気候変動のリスクが大きくなるということだ。そろそろ冷静に原子力の費用と利益のバランスを考えてはどうだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48080
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