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[ニュース複眼]もんじゅ「廃炉」が問うもの
政府は高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の廃炉を年内に決める方針だ。「夢の原子炉」の実現に1兆円超を投じてきたが、相次ぐ事故やトラブルで役割を果たせずに幕を下ろす。もんじゅ廃炉が問うものは何か。日本の核燃料サイクル政策の行方はどうなるのか。
■ 核燃サイクル矛盾せず 地球環境産業技術研究機構理事 山地憲治氏
原子力規制委員会がもんじゅの安全管理問題を指摘したことが今回の議論のきっかけをつくったが、論議の本質は高速増殖炉の意義を考えることにある。
高速増殖炉の意義は徐々に変化してきた。原子力利用が始まった当初、高速増殖炉は原子力が最終的に到達する夢を示した。軽水炉はウランのエネルギーのすべてを利用し尽くせない。高速増殖炉はこの弱点を補い、ウランをプルトニウムに変えてすべて利用できる。この夢は今も変わらない。
ただ実験炉から始まり原型炉、実証炉を経て実用化に進む原子力の巨大技術プロジェクトにはお金も時間もかかる。続けるには安定的な国民の支持が必要だ。東京電力福島第1原子力発電所事故を経た今、そのような条件はない。
開発当初の見通しに比べ、バックエンド(使用済み核燃料の再利用や廃棄物処分など)にかかる費用も10倍以上に増え、プルトニウム利用が高くつくと分かってきた。これは福島事故以前から指摘されていた。今の議論は遅すぎた感がある。
高レベル放射性廃棄物の減容や毒性を低減する研究にもんじゅを使う考えもある。研究開発の意義は否定しないが、技術的に難しく、エネルギー政策の柱として大きな資金を投ずる段階ではない。
余剰なプルトニウムを持たないのが日本の国策で、増やすより減らすが基本だ。青森県六ケ所村の再処理工場から出るプルトニウムはプルサーマルで使うのが基本だ。もんじゅがなければ困る話ではない。原発の再稼働が進めば、プルトニウムの生産と消費のバランスはとれる。
もんじゅ廃炉と核燃料サイクルの堅持は矛盾するとの指摘があるが、「サイクルの堅持」には幅がある。再処理工場はすでに試験運転を済ませており、原発敷地内での使用済み核燃料の貯蔵容量には限界がある。原発の運転に見合う範囲で再処理を進めるのが賢明だ。使用済み核燃料の貯蔵と組み合わせていくのが基本で、全量再処理にこだわる必要はない。
原子力開発のパイオニア的な立場からはもんじゅを廃炉にし夢を後退させることに抵抗感があるだろう。しかし原子力が聖域だった時代は終わった。現時点で実現が見通せる範囲内で期待にこたえるのが責任ある態度ではないだろうか。
(聞き手は編集委員 滝順一)
やまじ・けんじ 東大大学院博士課程修了後、電力中央研究所を経て東大大学院教授。2010年から現職。福島原発事故の民間事故調の委員も務める。66歳。
■高速炉、国内拠点が不可欠 東京理科大大学院教授 橘川武郎氏
日本原子力研究開発機構による「もんじゅ」の運営管理は確かに不適切だった。1995年のナトリウム漏れ事故に続き、今度は2010年に炉内中継装置の落下事故を起こした。廃炉に向けた検討はやむを得ないと思うが、そのまま廃炉を決めてしまってもよいものか。重要な問題を放置したままではいけない。
資源小国の日本はエネルギーの選択肢を簡単に放棄すべきではない。これは私の基本とする立場だ。原子力利用の道も安易にあきらめてはいけない。
だが原子力を生産・調達、流通、消費のサプライチェーン全体から見ると、使用済み核燃料の処理だけが完結していない。増え続ける使用済み核燃料をどう処理するのか。電気を利用している今の世代が責任を果たすべき問題だ。
使用済み核燃料に含まれる放射性物質は極めて長い間、放射線を出し続ける。放射性のプルトニウムが半分の量になるのに2万4千年かかるという。地下深くに貯蔵する「地層処分」は安定的な方法とされるが、日本列島の地表が2万年後も今と同じとは考えられない。そんな長期の管理をうまく続けられるだろうか。
14年に閣議決定された「エネルギー基本計画」はもんじゅの役割を、放射性廃棄物の量を減らし放射線を出す期間を短くするための研究拠点とした。核燃料サイクルの中核となる高速増殖炉実用化に向けた研究開発の目標が影を潜めても、高速炉技術は使用済み核燃料の処理に役立つ。もんじゅの廃炉はその道を閉ざすことになりかねない。フランスが計画している高速炉を使って国際協力すべきだとの意見がある。研究はできても、使用済み核燃料を現実に処理するためには、国内の拠点がどうしても必要だ。
この技術開発がうまくいけば地層処分の実現性を高められ、世界に貢献できる。もんじゅの建設と運営に1兆円以上の税金を投入したが、それに見合う成果だと評価する見方が出るかもしれない。
日本のエネルギー問題を考えるとき、長期の視点が欠かせない。ところが今の政界にしても行政にしても、せいぜい3年先しかみていない。これでは電力業界も信頼を置けず、長期の投資に尻込みしてしまう。国が責任を持って長期の政策を打ち出さなければいけない。
(聞き手は編集委員 永田好生)
きっかわ・たけお 1975年東大経卒。青山学院大助教授などを経て東大教授。2015年から現職。専門はエネルギー産業論。65歳。
■地元の信頼回復努力を 福井工業大教授 来馬克美氏
福井県の原子力行政に携わってきた者として今回の廃炉を含めた見直しはショッキングだった。あまりにも唐突で、あまりにも急な結論だ。県内には原子力発電所が多く立地するが、もんじゅは県民感情の重みが違う。
もんじゅは廃炉予定の日本原子力発電の敦賀1号機、関西電力の美浜1、2号機とは違う。ナトリウムやプルトニウムを使うなど特殊な原発で、不安もある中で県民が受け入れた歴史があるからだ。
政府の決め方には残念ながら重さを感じられない。地元の思いを受け止めていない。地元に十分に説明し、地元が納得できる手順が必要だった。
もんじゅは1995年のナトリウム漏れ事故で事故現場の一部映像を伏せる「ビデオ隠し」、その後の点検漏れなどがあり、県民に不安があったのも事実だ。それでも県は廃炉は求めず、新しい原子力の研究開発の意義を認め、国に協力してきた。一方的な決め方はあり得ない。
原子力行政は信頼関係が重要だ。先日、政府の方針を説明にきた松野博一文部科学相に西川一誠知事が「裏切りと思われても仕方のない状況でまことに遺憾だ」と厳しく批判したのも当然だと思う。
政府の課題は、地元との信頼関係を取り戻せるかだ。県内には原子力行政の課題が多い。原発の再稼働のほか、老朽原発の運転延長、中間貯蔵施設の県外立地などだ。地元はこれまでも国の姿勢を見極め、協力するかしないかを判断してきた。国策を理解してきた福井県の信頼を損なうことはあってはならない。
核燃料サイクルの中核施設と位置づけたもんじゅが廃炉になると、影響は大きい。青森県には使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムを取り出す再処理工場がある。(プルトニウムを普通の軽水炉で燃やす)プルサーマルだけでプルトニウムを消費できるかという問題と直結する。再処理できないと、使用済み燃料を受け入れられなくなり、原発が動かなくなる可能性もある。
「もんじゅをやめると、みんなが納得する」という単純な考え方では困る。本来は現行のエネルギー基本計画をつくる時に、もんじゅを含めた核燃サイクルを議論すべきだった。そのつけが今、来ているのではないか。
(聞き手は福井支局長 石黒和宏)
くるば・かつみ 福井県越前町出身。大阪大学工学部卒。1972年福井県初の原子力専門の技師として採用され、原子力安全対策課長などを歴任。2012年から現職。68歳。
■プルトニウム消費に課題 米カーネギー国際平和財団上席研究員 ジェームズ・アクトン氏
もんじゅ廃炉は日本政府にとって簡単な決断ではないが、正しい判断だ。もんじゅの計画には明らかに深刻な問題があった。資源の無駄づかいだ。廃炉は日本にとって長期的な国益となる。
私は高速増殖炉には懐疑的だ。50〜100年先に商用化できる可能性は否定しないが、それは最善のシナリオの場合だ。日本は世界中のウラン資源を活用しており、友好国からウランを輸入できればエネルギー安全保障の心配はない。
もんじゅの問題と、核燃料サイクル政策の問題は分けて考えなければならない。日本は2つの核燃料サイクルを持つ。1つは六ケ所再処理工場でプルトニウムを取り出し、通常の原発で使う。もんじゅはこれとは別で、プルトニウムを茨城県東海村の公的施設で抽出する。この2つのサイクルを統合し、原発のプルトニウムを高速増殖炉で燃やすのが最終目標だが、現時点ではほど遠い。
日本は現世代ではなく将来世代に原子力政策を決める選択肢を残すため、使用済み核燃料の直接処分を進めるべきだ。当面は核燃料サイクルを続ける「両にらみ作戦」を検討する必要がある。
課題は核不拡散だ。プルトニウムの生産量が使用量を超えるのは深刻な危機だ。短期的には日本の選択肢は1つで、商用原発でプルトニウムを燃やし続けることしかない。長期的には、プルトニウムの抽出が日本にとって正しい道なのか、検証が必要になる。
(もんじゅ廃炉は)国際的な懸念の発火点となる可能性がある。茨城県東海村の施設でもんじゅ向けに生産したプルトニウムをどう消費するのかという懸念に、日本は応えなければならない。
もんじゅ廃炉は日米原子力協力協定には影響しないと思う。影響するのは日本のプルトニウムの保有量が多いことだ。米国は核兵器の非保有国では唯一、日本に対して再処理の許可を与えている。この許可を悪用してもらいたくない。
米大統領選でクリントン政権が誕生すれば、プルトニウムを増やさないという明確な政策を日本に求めるだろう。トランプ政権についてはまったく不明だ。ただ米国は日本との原子力協定が公の場で大論争となることを望んでいないし、協定の廃止も望んでいない。
(聞き手はワシントン=川合智之)
James Acton 英ケンブリッジ大学で物理学博士号。核不拡散や核軍縮が専門。米カーネギー国際平和財団で原子力政策プログラム共同代表を務める。37歳。
[日経新聞9月29日朝刊P.9]
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