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高速増殖炉もんじゅを前に、さまざまな問題点を語る伴英幸氏
「もんじゅは危なすぎる、廃炉するしかない」 伴英幸・原子力資料情報室共同代表に聞く
http://toyokeizai.net/articles/-/119466
2016年05月26日 岡田 広行 :東洋経済 記者 東洋経済
高速増殖炉「もんじゅ」は、発電に用いた燃料以上の燃料を生み出すという「夢の原子炉」の実用化のために建設された。だが、事故や安全上のトラブルが相次いだ。安全管理に問題があるとして、このほど、原子力規制委員会が運営主体の変更を求める勧告を、監督者である文部科学相に突き付けた。
こうした事態を踏まえて、原子力の専門家である伴英幸・原子力資料情報室共同代表に、もんじゅのあり方について聞いた。
■「もんじゅはきわめて危険な原子炉だ」
――「夢の原子炉」と呼ばれた高速増殖炉「もんじゅ」が、原子力規制委員会の勧告により、存続の危機に追い込まれています。原子力規制委員会は日本原子力研究開発機構(JAEA)による運営では安全性が確保できないとして、新たな運営主体の具体的な特定を求めています。
5月9日に私が委員長を務める「『もんじゅ』に関する市民検討委員会」として提言をまとめ、もんじゅを所管する文部科学省や原子力規制委員会に提出した。そこでは「もんじゅの新たな主体はありえない」「ありえない主体探しに無駄な時間をかけるべきではない」「もんじゅは廃炉にすべきである」と明確に述べている。
現在、文科省は新たな運営主体に求められる要件などを盛り込んだ報告書をまとめようとしているが、無駄な努力をしている。受け皿となる新たな主体を選定すること自体、ほぼ不可能なうえ、新たな主体が見つかれば問題が解決するということでもない。
――なぜ廃炉を求めているのですか。
そもそも、もんじゅはきわめて危険な原子炉だ。これには大きく分けて二つの理由がある。
一つは、高速増殖炉であるがゆえの特性だ。もんじゅの炉心にはプルトニウムを18%も含んだMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料を詰め込んでおり、燃料棒が互いに近づくと出力が上昇する性質がある。また、冷却材の液体ナトリウムが沸騰してボイド(気泡)が発生した場合にも、通常の原子力発電施設である軽水炉とは異なり、出力が上昇して出力暴走事故を起こすリスクがある。
二つめは、ナトリウムを冷却材に使用しているがゆえの問題だ。ナトリウムは空気や水に触れると激しく燃焼する。実際に1995年12月には火災事故を引き起こしている。漏えいがさらに継続していればコンクリートと反応して水素爆発に至り、建物を大きく損傷する危険もあった。蒸気発生器で細管が破断すると、高圧の水がナトリウム中に噴出して反応し、瞬時にほかの細管が破断して大事故に至る恐れがある。
「もはやもんじゅは廃炉しかない」と伴氏。核燃料サイクル政策自体が行き詰っているとする
このほか、地震に弱い、原子炉を停止する装置としては制御棒しかない、緊急炉心冷却装置がないなど、原子力発電プラントとしてさまざまな問題がある。
――今回、原子力規制委員会がJAEAについて事実上の「失格」宣告に等しい勧告を出したわけですが、伴さんがまとめた提言書では、新たな主体はありえないと述べています。なぜでしょうか。
規制委員会はJAEAには安全に運営できる能力はないとみなしているが、JAEAよりももんじゅのことを詳しく知っている主体はない。安全に出力運転を行うにはもんじゅの構造をきちんと把握している必要がある。そのJAEAではだめだというのだからどうしようもない。
有力な選択肢とみられていた電力業界も、自分たちにはナトリウムを取り扱う技術がないとして、受け皿となることに否定的な姿勢を見せている。電力会社はプラントの運転はできても、ナトリウム取り扱い技術を伴う保守管理は無理だろう。今般、文科省が設置した「『もんじゅ』の在り方に関する検討会」でも具体的な運営主体の特定はできず、単なる要件提示で役目を終えようとしている。
■減容化・有害度低減は絵空事
――原子力規制委員会の勧告では、「もんじゅの出力運転を安全に行う能力を有する者を具体的に特定することが困難であるのならば、もんじゅが有する安全上のリスクを明確に減少させるよう、もんじゅという発電用原子炉施設の在り方を抜本的に見直すこと」との文言も盛り込まれています。
どう読むか難しいが、発電用原子炉としての役目をやめ、研究炉に格下げさせようというイメージだろうか。これも簡単ではないが、放射性廃棄物の減容化・有害度の低減のための施設として生き残りを狙う可能性もありうる。しかし、もんじゅを使っての減容化・有害度低減の取り組みは無意味だ。
「もんじゅ」に関する市民検討会による記者会見(5月9日)。伴氏が委員長を務め、もんじゅの廃炉を求める提言を発表した
まずに、減容化を構成する要素技術が実用化されなければならない。しかし、これには数十年もかかるだろう。
減容化システムで想定されている「群分離」技術は再処理の一環だが、日本のような湿式再処理では、プルトニウム、ウランを抽出した後の高レベルの放射性廃液から、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどのマイナーアクチノイドと呼ばれる長寿命核種を分離抽出することが必要になる。
これは核拡散につながる恐れがあるとともに、環境への放射能放出を伴う。また再処理の過程では放射能で汚染された莫大な廃棄物が発生する。そこまでしてマイナーアクチノイドなどを抽出したうえでプルトニウムと混ぜて燃料集合体を作り、それに高速炉で中性子を照射する必要があるとは思えない。
それに加えて、マイナーアクチノイドが効率よく核分裂するとは限らない。群分離・核変換はマイナーアクチノイドの減少だけに着目したものだが、核燃料に添加したマイナーアクチノイドが減少したとしても、高速炉の中でウラン239が中性子を吸収することで新たにマイナーアクチノイドが生み出されてくるので、総体として減少する量は多くない。このように、群分離・核変換は意味のある行為だとは思えない。
■核燃料サイクル見直しにも波及
政府の「エネルギー基本計画」では、もんじゅの第一の役割として「廃棄物の減容・有害度の低減」を挙げている。だが、もんじゅでは酸化物燃料が使用されるので、マイナーアクチノイドの核変換を目的とした高速炉よりも中性子エネルギーは低く、核変換の効率は悪い。そのため、減容化としての意味ある成果にはつながらない。
――もんじゅを廃炉にした場合、どのような影響が生じると思われますか。国策として進められている核燃料サイクル政策にも影響が及ぶのでしょうか。
高速増殖炉をやめることになると、再処理そのものが必要なくなる。現在、再処理は軽水炉を利用したプルサーマル発電のために進められているが、高速増殖炉で将来使うことを前提にして初めて、プルサーマル発電に意味があると言われている。
その流れが断ち切られた場合、コストが高く非効率なプルサーマル発電のために再処理を続けることになり、経済的に見ても成り立たないことが明らかになる。そうなると困るので、もんじゅを続けているふりをしているのが現状の政策だ。
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