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原発「新設」をひそかに目論む安倍政権 〜「脱原発」はこうして骨抜きにされた
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48124
2016年03月11日(金) 北方農夫人 現代ビジネス
福島第1原発事故から5年。2012年に誕生した安倍政権は民主党政権下の「原発ゼロ」方針を骨抜きにし、全国の原発を次々と再稼働させている。その先には、新たな原発の建設をも見据えているのではないか。
「脱原発」はいかにして解体されていったのか。原子力ムラの住人と時の政権の狡猾な戦略を、エネルギー問題を取材するジャーナリスト・北方農夫人(のぶと)氏が暴く。
■骨抜きになった規制基準
国の中長期的なエネルギー政策をまとめた「エネルギー基本計画」が、ほころびを見せている。
東京電力福島第1原発事故以降の「基本計画」では、脱原発の世論を意識し、原発の依存度を低下させるとの方針が記された。
だが、原発依存度低下への具体的な道筋は示されず、一方で昨年8月の九州電力川内原発1、2号機を皮切りに、これまで2原発4基が再稼働した。事故から5年を経て、日本は原発回帰を色濃くしている。
さらに今年2月24日には、原子力規制委員会が、運転開始から40年を迎える「老朽原発」の九州電力高浜原発1号機に、再稼働のゴーサインを与えた。
原発事故の教訓を受けて定められた新たな規制基準では、原発の運転期間は「原則40年」となっている。それを超える老朽原発の運転延長は、規制委が認めれば1回に限り20年延ばすことが可能だが、あくまで例外措置との位置づけだった。規制委の田中俊一委員長も、当初は「相当困難」と語っていたが、いつの間にか骨抜き状態となってしまった。
老朽原発の運転延長は、多くの人たちに事故の危険性が高まるとの危惧を抱かせる。その懸念を払拭させる形で、事故後は封印されてきた原発の新増設に政府が踏み出す可能性もある。
■計画性なき「基本計画」
エネルギー政策は、国の経済運営に直結する極めて重要なテーマだ。それだけに、基本計画は「エネルギー政策の憲法」と位置づけられるが、その内容は時の政権の意向に大きく左右されてきた。
エネルギー政策基本法で政府に基本計画の策定を義務づけているものの、その内容は3年をめどに見直される。つまり、3年ごとの「改憲」が可能となっているのだ。
現行の「エネルギー基本計画」は、安倍政権下の2014年4月に閣議決定された。12年12月に自民党が民主党から政権の座を再び奪い返してから、初めての見直しだった。そこでの主眼は、民主党政権下での「原発ゼロ」方針から決別することにあった。
自民党からの政権交代を果たした民主党は09年、鳩山由紀夫首相(当時)が「日本は20年までに二酸化炭素(CO2)を1990年比で25%削減する」との国際公約を打ち出した。その実現のために決定されたのが、発電に用いるエネルギー源(電源)の割合を示す「電源構成比率」(エネルギーミックス)で、原発の比率を50%に高めることを盛り込んだ当時のエネルギー基本計画だった。
原発を「CO2を発生させないクリーンなエネルギー源」と位置づけたものの、東日本大震災によって原発が全停止した後は、民主党政権は一転して「原発ゼロ」へと方針を転換させた。
エネルギー政策をめぐり、安倍政権がまず手がけたのが、原発活用路線への転換だった。「原発を動かせば電気代が下がり、経済の好循環につながる」。原発再稼働を成長戦略の一環ととらえる安倍首相は、周辺にこうした期待感を口にしていた。
与党関係者は「脱原発や安全性の議論よりも、(安倍首相が)関心を持っているのは電気代というコストの話だけだった」と打ち明ける。その背景には、早期の原発再稼働を望む経済界の意向がのぞく。
安倍政権下で新たに制定された基本計画では、原発を石炭火力、水力、地熱とともに発電コストが安く、1日を通して安定的に電力供給できる「ベースロード電源」と分類した。だが、原発に関する記述には、ちぐはぐな点も目立った。
再稼働は「規制委の規制基準に適合すると認められた場合には、その判断を尊重して進める」と、基本的に推進する立場を示しながらも、依存度は「可能な限り低減する」と相矛盾するような記述で、方向性をあいまいにした。
さらに、原発や石炭火力などのエネルギーミックスの具体的な数値目標も示されず、政府内から「計画性なき基本計画」と揶揄されるほどだった。
■政権の「だまし討ち」
なぜ、具体性を欠いたままで基本計画が策定されたのか。その最大の要因は、報道各社の世論調査で過半数に達していた脱原発の世論にあった。
基本計画が原発推進を色濃く打ち出せば、政権批判の拡大につながりかねない。それを危惧した政府・与党は、原発についての書きぶりをぼかす手段をとったのだ。
再稼働推進と依存度低減を共存させ、電力の安定供給やコスト面から「確保していく(原発の)規模を見極める」とも記し、新たな原発の建設にも含みを持たせる。まさに「霞ケ関文学」の真骨頂だった。
だが、実際にエネルギー政策が進んでいく中で、そうしたごまかしがいつまでも通用するはずはない。
基本計画の策定から1年3ヵ月後、専門家による議論を経て、政府は2030年のエネルギーミックスについて具体的な数値をようやく決定した。そこで示された原発比率は「20〜22%」。主管した経済産業省の幹部は「十分に実現可能な数字」と説明するが、その根拠は薄弱だ。
「原則40年」という運転期間のルールを適用すれば、現存する原発43基のうち、30年末でも運転できるのは18基にとどまる。これに建設中の中国電力島根原発3号機(島根県)と電源開発(Jパワー)の大間原発(青森県)を入れても20基だ。この発電量から計算すると、原発では15%程度の電力しか供給できないことになる。
ここでまず考えられるのが原発の新増設だが、ここでも政府のあいまいな姿勢が表れる。
基本計画を策定した際、茂木敏充経産相(現自民党選挙対策委員長)は「(新増設は)現時点では想定していない」と明言。その見解は現在も変わっていない。「現時点では」と、将来に含みを持たせているところに姑息さがにじむが、残るオプションは「例外措置」だった運転延長のみとなる。
今回、規制委がゴーサインを出した高浜1号機を含め、30年までに「原発比率20〜22%」を達成するには、約15基の老朽原発の運転延長が必要となってくる。「原発の新規制基準に意味などあるのか?」「原発事故の教訓は忘れられてしまったのか?」。そういった疑問が湧き出て、運転延長に反対する声があがるのは、当然のことと言えるだろう。
そう考えると、やはり現実味を帯びてくるのが、原発の新増設なのだ。
■「だれも覚えちゃいないさ」
経産省の幹部は、こう話す。
「再稼働が進めば、国民の原発へのアレルギーも少なくなってくる。そうなれば、新増設への議論もしやすくなるはずだ」
方針転換との批判にも「『現時点では』という留保をつけて説明していたので、特に問題はない」(同幹部)と意に介さない。
世界に衝撃を与えた原発事故を起こし、いまだ完全に収束していない中、日本が再び原発の新増設に踏み切る土壌は、着実に整えられつつある。
もう一度、振り返ってみよう。基本計画には原発依存度を「可能な限り減らす」と明記されている。老朽原発を再稼働し、新増設までも否定しないのは、安倍政権によるだまし討ちではないか? そうした疑問を、自民党のある中堅議員にぶつけると、乾いた笑みを浮かべながらこう言った。
「どうせ3年たったら見直すんだ。前の中身なんか、だれも覚えちゃいないさ」
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