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原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて
高速増殖炉「もんじゅ」維持費に年200億円は高いのか? 資源のない日本で考える〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて(1)〉
トラブルが続く高速増殖炉「もんじゅ」。往年の「夢の原子炉」への期待がウソのように危険視されている。そこに原子力規制委員会の勧告。日本はもんじゅから手を引くべきなのか。正論を述べるがゆえに「御用学者」と誤解されることもある専門家が語り合った。
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福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」。使った以上に燃料のプルトニウムが増殖する「夢の原子炉」のはずが、1995年12月8日のナトリウム漏洩事故以後、ほとんど動いていない。原子力規制委員会はついに、運営を日本原子力研究開発機構(JAEA)に代わる主体に委ねるよう、馳浩文科相に勧告した。核燃料サイクル戦略の中核が、存続が危ぶまれる事態に陥ったのだが、実際にもんじゅは危険なのか。核燃料サイクル戦略に未来はないのか。澤田哲生氏を進行役に、専門家たちが本音で議論した。
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【澤田哲生/東京工業大学助教(原子核工学)】 最初に、もんじゅに期待されていた役割を整理しておきます。日本が原子力に突き進んでいった根源的動機は、資源小国だからです。戦後の復興は製造業の発展に支えられ、それには大量の電力が必要で、オイルショック後、原子力を有力なオプションとして選んだ。そんな中で、日本にたくさんある軽水炉と違い、使える燃料をさらに増やして有効活用できるのがもんじゅです。日本はそこにチャレンジし、世界のトップを走っていました。すでに1兆円以上が投じられ、今後も維持費が毎年200億円ほどかかると言いますが、それは高いのでしょうか。
【岡本孝司/東京大学大学院工学系研究科原子力専攻専攻長・教授】 日本には資源がないですが、核燃料サイクルをやると、もんじゅが鉱山になり、それをうまく使えば、日本は100年単位でエネルギーを心配しなくてすむ。今、原子力をやめて石炭とLNG(液化天然ガス)を焚いているので、燃料代が年間10兆円近くかかっていますが、その10%、20%でも、もんじゅ鉱山に置き換えられれば安いものです。20年前にナトリウム漏洩事故が起きなければ、今ごろもんじゅがプルトニウムを生産し、あと100年エネルギーの心配は要らない、という話になっていました。今は次の20年をどうするかを考えるべきです。
【澤田】 アメリカは昔からエナジー・インディペンデンス(自給化)を重要課題に掲げ、図らずもシェールガスが出たことで、向こう100年自給できることになった。日本も高速炉を核燃料の鉱山にできれば、自給率を上げられます。軽水炉は燃料の輸入が必要ですが、高速炉も使えば新たなエネルギー源を得られる。これは何ものにも代えがたい価値があると思います。
【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 ちょっと違った観点からお話しします。核分裂すると中性子が複数個出てきて、一つは臨界を維持してエネルギーを出し、発電するために使う。もう一つは、燃料でない物質に当てて燃料を作ることに使える。その際、スピードの速い中性子を使うので高速増殖炉と呼ぶんです。また最近、廃棄物の燃焼という価値も加わっている。高速炉には中性子が豊富にあり、臨界を維持しながら燃料を作れて、さらにゴミに中性子を当てて燃やすこともできる。もんじゅはそういう研究開発にも利用しましょう、という流れになっています。
【澤田】 高速炉1基で軽水炉数基分のゴミを焼却できる、というイメージですね。
【高木】 はい。ですからナトリウム漏洩事故を起こすまでは、電力会社も力を入れていました。発電と増殖を目的に安い高速炉を作ってやっていくんだと。
■中国とインドに抜かれた
【奈良林 直/北海道大学大学院工学研究院教授】 結局、ウランがなくなると軽水炉も成り立たない。そこで軽水炉が出すプルトニウムを回収し、それで高速炉を運転して、ウラン238をプルトニウム239に変えながら次の燃料サイクルに移行していく、というのが当初の目的でした。使っていないウラン238を有効活用し、人類2500年分のエネルギー供給を可能にするという壮大なプロジェクトです。ところが研究炉「もんじゅ」はナトリウム漏洩事故を起こし、なかなか動かせなくなった。10年にも金具が外れて中継装置が落ち、福島の事故でも基準が変って運転できずにいる。しかし、エネルギーをしっかり確保しようとする国は、高速炉を動かしています。
【高木】 中国はFBR(高速増殖炉)の試験炉を建設し終え、インドも出力50万キロワットのPFBR(高速原型炉)が臨界間近。ロシアではBN‒800が先日、送電を開始しました。フランスはアストリッドという工業用実証のための改良型ナトリウム炉を開発、建設する計画に精力的です。
【岡本】 先日、中国の大学に行くと、オリジナルで設計した高速炉の模型があって、大洗のJAEAで勉強した中国人准教授が熱心に研究し、中国はエネルギー源が必要なので軽水炉だけでは足りないと話していました。今、中国のエネルギーのうち原子力の割合は1%以下ですが、毎年、東シナ海沿岸に4基、5基と作っている。それでも不十分だということで、高速ガス炉や高速増殖炉などを作ろうとしているんです。
【高木】 新型の増殖炉に関しては、中国とインドに抜かれそうですね。
【岡本】 もう抜かれています。
【高木】 ベンチャーの話もさせてください。アメリカはFBRから撤退しましたが、高速中性子を使う原子炉が必要だという認識は今もあって、再処理なしにウランを効率的にプルトニウムに変えて多くのエネルギーを得る、という概念のベンチャー研究は行われています。あのビル・ゲイツが筆頭オーナーの企業、テラパワーもそういう研究を行い、中国も関心を示しています。
【岡本】 もんじゅは、いったん燃料を取り出して再処理しますが、アメリカのは取り出さずに、そのまま燃やしちゃおうというもの。本当なら3%くらいしか燃えないのを、50%くらい燃やしちゃうんです。
「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第12弾 高速増殖炉『もんじゅ』と日本の核燃料サイクル」より
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• 2016年1月28日号 掲載
• ※この記事の内容は掲載当時のものです
http://www.dailyshincho.jp/article/2016/02020405/?all=1
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世界ではおかしくなってきたら取り替える、日本では「1年経ったから」取り替える 〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて(2)〉
1995年12月8日のナトリウム漏洩事故以後、福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」はほとんど動いていない。ついには、運営を日本原子力研究開発機構(JAEA)に代わる主体に委ねるよう、原子力規制委員会からの勧告もなされた。日本はもんじゅから手を引くべきなのか――時に“御用学者”と誤解をされる、4名の専門家たちによる座談会である。
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【澤田哲生/東京工業大学助教(原子核工学)】 では、もんじゅは安全なのでしょうか。関係者に聞くと、安全かどうか以前に悪いイメージがついている。20年前のナトリウム漏洩事故は、現場のビデオ映像隠しもあり、事件のように扱われました。10年5月に再度臨界を達成しましたが、炉内の中継装置が落下。チョンボ続きです。しかし、私自身、高速炉の研究からこの世界に入ったのですが、ナトリウム高速炉は軽水炉にくらべて固有の安全性が格段に高い。
【岡本孝司/東京大学大学院工学系研究科原子力専攻専攻長・教授】 ナトリウム漏れは原子炉本体とは関係ない温度計や管の設計ミスで、不正会計問題を起こしたT社の子会社のチョンボです。その後の炉内中継装置の落下もメンテナンスのからみで、運転せずに機器が古くなったので取り替えた際、溶接に不具合があった。工学的に基本的なところでチョンボが続いたのは残念です。
【澤田】 設計を含めた保全保守に手が回っていなかったのは問題ですが、そのトラブルが原子炉の安全性にどう関わるかです。原子力規制委員会、原子力規制庁は、関連性があるような勧告の出し方でしたが。
【岡本】 安全とはほとんど関係のないところです。
【澤田】 専門家の目から見るとそうなんですが、勧告が出れば、世間は安全性に問題があると誤解します。
【奈良林 直/北海道大学大学院工学研究院教授】 フランスなど高速増殖炉で、20回も30回もナトリウムを漏洩させている。形状や溶接が原因でトラブルが発生しているんですが、それも運転を継続する中でわかることです。
■世界一遅れた日本の規制
【澤田】 それに、不具合が炉心の安全性を脅かすかどうかを考える必要がある。
【奈良林】 もんじゅの関係者に、なぜこんなに非難囂々になったのかと聞きました。彼らは最初、保全プログラムを軽水炉のそれをまねて作ったそうですが、点検を繰り返すと、高速炉用のプログラムを作らないといけないとわかった。それを規制委員会に出そうとしたら、「じゃあ、今までのは全部ダメなんですね」と、すべて保安規定違反にさせられた。軽水炉に準じたプログラムに違反していることがやり玉に挙げられ、肝心の点検が全然できていないというんです。180台のテレビカメラが点検できていないというのも、安全とは関係ない。全世界の保全プログラムと比較し、日本の規制の問題点を挙げていかないと、世界一遅れた日本の規制は直りません。
【岡本】 アメリカでは、事業者の創意工夫で発電所をどんどん安全にしていくメンテナンス・ルールを決めています。そこでは守るべきは厳しく守り、それ以外は壊れたら直す。自転車に乗っていてベルが鳴らなくなっても、交換すればいいだけの話です。だけど日本のプログラムでは、ベルが壊れたら全部をチェックする。世界ではおかしくなってきたら取り替えるのに、日本では「1年経ったから」「3年経ったから」と言って取り替える。創意工夫の「創」の字もなく言われた通りにやるだけでは、発電所はどんどん危険な状態になりますが、規制庁に怒られるので、安全よりも保安規定を守ることが重要になってしまっている。
【澤田】 保安規定と安全確保とは、ちょっと違う。
【岡本】 全然違います。規制委員会から文句を言われているのは、安全と関係ない周辺のこと。保安規定にも重要な部分とそうでない部分があり、後者は品質保証の問題であったりする。たとえるとハンコの有無などどうでもいいのに、書類に1万個のハンコが押してないと言って規制委員は怒っている。こうして書類上の不備ばかり突いても発電所は安全になりません。保全の本質は、トラブルがあったときにどう対処するかですが、規制委員会はトラブルゼロを求める。保全の本質に忠実であれば、フランスのようにナトリウムが20回漏洩しても、経験を積むことができますが、もんじゅの場合、一つのトラブルですべて止まってしまう。
【澤田】 失敗はつきもので、それを次にどう生かすかが重要なはずです。
【岡本】 大きな失敗は絶対にしてはいけないけど、小さな失敗を重ねると大きな失敗をしなくなる。子供もそうやって成長しますよね。
■規制庁の役人は原子力の素人
【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 私が一番言いたいのもそこで、原型炉もんじゅは、失敗から学んでいいものを作るという役割を担っている。車のプロトタイプと同じなのに、1回の失敗も許さない雰囲気では、新しい技術の芽が摘まれてしまう。福島第一原発が絶対安全だと言わざるをえないムードになっていたのと似ていて、もんじゅも「何も問題を起こしません」と言わざるをえないムードです。でも、これから再稼働すれば必ずトラブルはある。そこから学んでいく、という原子炉プラントの位置づけを理解したうえでの規制でないといけません。
【奈良林】 保全について補足すると、よりよく点検するためのルールを規制庁に提案すると、その行為自体が保安規定となり、達成できないと法令違反とされる。アメリカNEI(原子力エネルギー協会)は「あれだけの事故を起こしながら、日本の規制は福島以前より悪くなっている」と言っています。書類の誤字脱字やハンコの有無ばかり確認するような検査をしていると、福島のような、津波が入ったらECCS(非常時冷却装置)が全滅するといった根本的な問題は見つけられません。私が会長の日本保全学会で、それが福島の反省事項ですよ、という報告書を作って、規制庁に持って行ったんですが、今になってみれば、彼らは全然反省していない。
【岡本】 それから、規制庁の役人は原子力の素人で、一方、規制委員は専門家です。規制委員は事業者とじかにコミュニケーションを取れず、規制庁の役人の言っていることだけで判断しているから、まさに裸の王様になっている。事業者は、原子力発電所を危険なものにするつもりなんて毛頭ないのに、規制委員は彼らと議論をしない。たとえば台湾では、規制する側と事業者が激しく議論したうえで、すごく改善しています。
「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第12弾 高速増殖炉『もんじゅ』と日本の核燃料サイクル」より
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• 2016年1月28日号 掲載
• ※この記事の内容は掲載当時のものです
http://www.dailyshincho.jp/article/2016/02030410/?all=1
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「田中俊一原子力規制委員長は総理大臣よりも偉い」規制委員会の越権行為を指摘 〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて(3)〉
時に“御用学者”と誤解をされる、4名の専門家による座談会。原子力規制委員会が、馳浩文科相に対して行った勧告は、高速増殖炉「もんじゅ」の運営を日本原子力研究開発機構(JAEA)に代わる主体に委ねるべき、というものだった。この勧告に対し、岡本氏は“もんじゅの安全性とは関係がなく、世間に誤解を与えてしまう”と指摘。今回は、規制委員会という存在を考える。
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【澤田哲生/東京工業大学助教(原子核工学)】 モノの本質が見えていない規制委員会が、もんじゅに関する勧告を出したわけですが、安全を監視すべき規制委員会が、運営主体を交代しなさいと勧告して、もんじゅの運営に切り込むのはおかしい。
【奈良林 直/北海道大学大学院工学研究院教授】 越権行為です。国の原子力政策を決めるのは国民であり、それを代表する国会、内閣です。ところが一人の人間がこういう勧告を出すと、何十年も続けてきた日本の原子力政策を変えてしまえることがわかった。今、ナトリウムを使った高速増殖炉をハンドリングできるのは、もんじゅをやっているJAEAの人たちしかいません。彼らが力を発揮できるように規制をすべきなのに、全否定してしまっては受け皿がない。それこそ中国やインドの人を連れてくるしか……。
〈※中国はFBR(高速増殖炉)の試験炉を建設し終え、インドも出力50万キロワットのPFBR(高速原型炉)が臨界間近。(1)を参照〉
【岡本孝司/東京大学大学院工学系研究科原子力専攻専攻長・教授】 中国人にやってもらいましょうよ。
【奈良林】 規制委員会がいわゆる3条委員会として、強大な権限を与えられた以上、そのトップは公正で高い見識を持っていることが条件だったはずですが、強大な権限を持つと、『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーそのものになってしまい、誰も逆らえません。
【澤田】 規制委員会の田中俊一委員長は以前、東海村のエネルギー政策のアドバイザーを務めた際、明確に脱原発を打ち出していました。今の立場をたくみに利用して、国家規模で脱核燃料サイクルをやろうとしているのは、いかがなものか。
【岡本】 アメリカならNEIや議会、ACRS(原子炉安全諮問委員会)が監視しますが、日本では自分で勝手にできる。総理大臣でもできないことができる。たぶん日本で一番偉い人です。今回の勧告自体、世界中から「どうしてそうなったの?」と、驚きをもって受け止められ、世界で最も危険な規制をする日本の規制委員会の、実力のなさを示しちゃった。核燃料やナトリウムの安全な運用はJAEAにしかできません。安全とは直接関係ない部分のトラブルを受けて全部変えろとは、原子力を知らない人の言うことです。
【澤田】 保安規定に関して形式的なミスをあげつらって、安全が確保できていないと言っていますが、根拠が示されていません。
【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 事業者と規制委員会がもう少しコミュニケーションを取っておけば、事前にやれたことがあったのではないか。通常、勧告が出る前には、相当な根回しが必要だと聞きますが、今回はそれがなかったので特異な感じがします。JAEAは旧原研(日本原子力研究所)と旧原燃公社(原子燃料公社)が一緒になったもので、両者の間には今も確執があるとされ、それが今回の勧告にもつながったという話もありますが。
【奈良林】 13年4月30日付の北海道新聞で、菅直人元首相は、記者の「原発ゼロは、自民党政権に代わり白紙に戻されましたが」という質問に対し、「そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した。その象徴が原子力安全・保安院をつぶして原子力規制委員会をつくったことです」と答えている。彼が狙ったことが、本当に機能しているんです。
■法律違反を指摘して戦えばいい
【澤田】 勧告では、JAEAは「もんじゅを運営する主体として必要な資質を有していない」とされましたが、具体的な判断基準はまったく示されていません。規制委員会設置法第4条第2項に、規制委員会は「原子力利用における安全の確保に関する事項について勧告」できるとは書かれていますが、新たな運営主体を探せというのは、「安全の確保に関する事項」から大きく逸脱しています。
【岡本】 安全と関係ない勧告なのだから、法律違反を指摘して戦えばいい。福島の事故の原因は、真ん中に大きな穴が開いているのに端っこばかり一生懸命突いたからです。今回は、真ん中はちゃんとやっているのに、真ん中はいいから端っこをやれと言っている。これは原子力安全とは100%逆方向です。
【奈良林】 裁判官は法律に基づいて判断を下すので、自分が反原発でも反原発の判決は出せませんが、規制委員長はなんでもできてしまっている。20年間止まっているもんじゅは、機能すべき機能は炉心周りをはじめ自ずと限定され、そこをしっかり見ればいい。また運転中に関しては、もんじゅを動かすときの重要度分類に基づいたプログラムを作らなければいけない。ところが、それをJAEAの人が「作らせてください」と言っても、認めてもらえない。安全にするための提案を否定し、一方的に死刑宣告する。そんな規制委員会ってないと思います。
「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第12弾 高速増殖炉『もんじゅ』と日本の核燃料サイクル」より
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• 2016年1月28日号 掲載
• ※この記事の内容は掲載当時のものです
http://www.dailyshincho.jp/article/2016/02040410/?all=1
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「日本のエネルギーは100%中国に依存することになる」と予言 〈原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて(4)〉
正論を述べるゆえに“御用学者”と誤解されることもある専門家たちが、福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」を考える。第1回では資源小国の日本におけるもんじゅの役割を取り上げ、続く2・3回にて、原子力規制委員会がおこなった「事業主体変更勧告」と、規制委員会という組織について語った。最終回となる今回のテーマは、日本の核燃料サイクル戦略の未来、である。
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【澤田哲生/東京工業大学助教(原子核工学)】 仮に、今回の勧告でもんじゅが廃炉に向かうとしたら、日本のエネルギー政策、原子力政策にどんな影響が及ぶでしょうか。核燃料サイクルはフランスのアストリッドと協力してやる話もあるようですが、国内の六ヶ所村などの再処理施設はどうなるのか。エネルギー小国の日本がもんじゅを捨てるのは、あまりにもったいないと思います。
【岡本孝司/東京大学大学院工学系研究科原子力専攻専攻長・教授】 エネルギーを司る役所は経産省と文科省に分かれますが、今回の勧告に関し、経産大臣は「もんじゅは文科省の所管です」とにべもなく語っている。経産省は核燃料サイクルを推進しているはずですが、地震が多い日本では使えないフランスのアストリッドに期待しているのか。そもそも、もんじゅがつぶれたらアストリッドもありません。
【高木直行/東京都市大学大学院共同原子力専攻 工学部原子力安全工学科原子力システム研究室教授】 経産省はもんじゅに見切りをつけ、アストリッドとの協力で核燃料サイクルを進めるというのでしょうか。でも、もんじゅをやめた時点で多くの人は、日本が高速増殖炉開発をやめたと思いますよ。
【奈良林 直/北海道大学大学院工学研究院教授】 もんじゅをやめてしまうと、日本では二度と高速炉を建設できないと思います。ナトリウムを流して高速炉を運転するのは特殊な技術で、日本は30年かけてナトリウムを使える人を育ててきた。それを絶やしてしまえば、アストリッドと協力しても、日本側から適切なアドバイスをする人がいなくなってしまう。
【高木】 福島の事故を受けて規制も変わり、もんじゅもそれに対応することが再稼働の条件になってくる。新基準に対応するのにさらにお金がかかるので、動かす必要があるのかという声が聞こえてきそうですが、今の化石燃料購入額を考えると、その予算は十分に未来に見合う。もんじゅの設計は古いですが、あれを動かすことで重要な知見はまだまだ得られます。
【澤田】 科学技術立国のわが国において、自前のデータを持っているかいないかは、すごく大きな違いです。その意味で宝があるのに、使えない状況にある。
■ウクライナと同じになる
【岡本】 よく脱原発したと言われるドイツでは、今も軽水炉は動いているし、実は、ドイツの研究者が中国にどんどん乗り込んでいるんです。日本も中国で高速炉を作る研究開発に加わるという手はある。冗談で言っているんじゃないですよ。中国人の若手研究者と話して、彼らのほうが本気で研究していると思ったんです。ただ、安全性は日本のものをデッドコピーしているだけなので、改良する必要がありますが。日本にとって他国、特に中国にエネルギーを握られるのが一番やっかいです。日本がエネルギーをちゃんと確保する術を長期的に考えることが重要で、もんじゅというオプションを失くすことはありえません。もんじゅをやめると、今の若い人たちは将来、中国製の安い原子炉を輸入するという選択肢に確実になります。もう予言しておきます。日本のエネルギー・セキュリティは100%中国に依存して、天然ガスをロシアに頼り切っているウクライナと同じ状況になりますよ。
【澤田】 今、身の回りに中国製品があふれていますけど、原子力もそうなると。
【岡本】 ですから、もんじゅという国産の技術を持っておかないと、結局、全部がドミノ倒しの、最初のドミノになってしまいます。
【奈良林】 アメリカにデービス・ベッセの奇跡というのがあります。原子炉の上蓋が腐食して大穴が開くというトラブルがあったデービス・ベッセ原発で、新所長が全職員から1万件の改善提案を集め、重要度分類してNRC(原子力規制委員会)に提出し、すべて実行した。すると職員の意識が俄然前向きになり、全米で最低に近かった運転成績がトップクラスになった。規制当局から1万件の的外れな指摘を受けるか、自分たちが重要だと思う1万件の改善を自ら実施するかの違いです。私は“もんじゅの奇跡”を信じています。
「特別読物 原子力の専門学者座談会 御用学者と呼ばれて 第12弾 高速増殖炉『もんじゅ』と日本の核燃料サイクル」より
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• 2016年1月28日号 掲載
• ※この記事の内容は掲載当時のものです
http://www.dailyshincho.jp/article/2016/02050405/?all=1
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