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元中国共産党エリート官僚が決死の告白「私が見た、習近平政権下の腐敗、汚職、利権集団」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49064
2016年07月08日(金) 安田峰俊 現代ビジネス
かつては共産党員だったが、民主化運動に参加したことが習近平政権下の怒りを買い、亡命を余儀なくされてしまった顔伯鈞。逮捕、拷問、そして脱出の過程をまとめた『「暗黒・中国」からの脱出』(文春新書)が話題となっている。
前編に続き、共産党政権下の中国の真実をえぐる、顔氏の迫真の証言をお届けする。(前編はこちらをクリック)
■北京五輪後、何かがおかしくなった
――しかし、議会制民主主義を個人の知識として知っていることと、それを中国社会に導入しようと市民運動を起こすこととの間の距離は大きいですよね。あなたがそのラインを踏み越えたきっかけは何だったのですか?
顔: 私個人に限らず、中国の知識層の多くの人々は、2007〜08年ごろまで現体制をやむを得ないものだと考えていたのです。国家が前に進んでいくためには、相対的に小さな社会問題の解決には目をつむらざるを得ない。まずは社会の発展だ、とね。少なくとも経済発展の面において、中国共産党の統治は成果を挙げていましたから。しかし、その発展の一定の成果の象徴となった北京オリンピックの成功を境に、「何かが変だ」という思いが強まったのです。
以前、安田さん(筆者)から日本の小説『坂の上の雲』の話を聞きましたが、まさにそういうことですよ。日露戦争なり北京オリンピックなり、新興国がある目標に向かって坂を駆け登っているときは、周囲が見えません。しかしいざ坂を登り切ってみると、そこにあったのは美しい世界ではなかった。周囲には濃いモヤがかかっているだけで、行き先がわからない世界が広がっていたのです。
――個人の体験としては、考えが変わる契機はありましたか? 中央党校の修了後、しばらく北京市通州区長の秘書として勤務してから、官界を去っておられますが。
顔: 私個人の要因としては、当時みずから見た中国社会の現状への疑問も大きなものでした。例えば、私が通州区で勤務していたころ、大稿村と小稿村というふたつの地域の住民を強制退去させて、タバコ会社の建物を作るプロジェクトがおこなわれました。
中国の土地制度上の問題から、土地の自由な売買は許されないため、取り引きの中間には政府機関が入ることになります。以下、細かい数字を忘れたので「例えば」の話になりますが、政府は住民から1ムー(15分の1ヘクタール)あたり30万元(現在のレートで約460万円)くらいで土地を買い取り、それをタバコ会社に150万元(同、約2300万円)で売りつけるような行為をおこなうわけです。利ザヤとなった120万元の一部は、利益関係者のあちこちにバラ撒かれ、そのポケットに入っていきます。
土地を差し出した住民はいい面の皮でしょう。しかし、そんな彼らの陳情を聞くのが私の職務上の立場だったわけです。社会においてこんなことが許されていいわけがない、と考えるのは自然なことではないでしょうか。
■驚くべき腐敗
――近年は習近平政権下でかなり抑制されているとはいえ、胡錦濤時代の中国の官僚の腐敗は凄まじいものでしたからね。日本円で億単位の汚職は当たり前で……。
顔: まだまだ甘いですよ。私は官僚時代の2007年、広東省のZ市に出張したことがあります。そこでは現地政府が4.8億元(同、約74億円)で道路を通すプロジェクトをおこなっていたのですが、そのうち総額1.8億元くらいが、業者から様々な官僚に渡る賄賂に化けました。自分の目で現場を見ましたが、賄賂を現金輸送車で運んでいましたからね。昔の話とはいえ、本当にメチャクチャでした。
当時は通常、あるプロジェクトの予算の20〜30%が賄賂に充てられるのが常でした。Z市の道路建設などは、実はまだかわいいものです。空港をひとつ作るプロジェクトになれば、予算規模は数千億元。凄まじい額の賄賂が発生しますよ。
――民主主義を自由に研究できた党校時代とは大違いの現実ですね。正義感の強い人ほど、官僚を辞めたくなるでしょう。
顔: そういうことです。現状に嫌気がさしたことと、ちょうど自分をかわいがってくれていた上司が移動したことから、官僚に見切りを付けて北京工商大学の教員に転出したのです。
やがて友人たちとともに、北京南駅付近に集まっていた陳情者たちの支援活動をおこなうようになりました。休日を使って、彼らに服やカップラーメンを差し入れたり、法律的な支援を得る方法を紹介したりする活動です。今回の逃亡記『「暗黒・中国」からの脱出』に登場する王永紅などの一部の仲間とは、この活動をやっていた頃からの付き合いなのです。
■尖閣侵略は誰の意思か
――ところで、顔さんは官僚時代、中国共産党内ではある派閥の末端に属していたようですね。派閥にはどうやって入るものなのですか?
顔: 一般論を言うならば、自分をかわいがってくれる上司の下にくっついているうちに、いつの間にかその一員になっているようなイメージでしょうね。
――往年の日本の自民党などですと、派閥の存在は半公然としたもので、会合が定期的に開かれ、正月には所属議員が派閥の領袖の家に大勢で挨拶に行ったりしたものです。似たような現象は中国共産党の派閥にも存在するのですか?
顔: 少なくとも中国では、派閥の政治家が一堂に会するイベントが定期的に開催されるようなことはありません。ある派閥に属すると見られる人間数人が、こっそりと集まるイメージです。令計画(胡錦濤のかつての腹心。2014年に失脚)が組織していたとされる「西山会」などが、それに該当するかもしれません。
――西山会は令計画の傘下の利権集団のようなもので、もっと大きなくくりで言えば、令自身は「共青団派」(団派)だと見なされていましたよね。「団派の年末大パーティー」ですとか「上海閥・新年の集い」のような行事は、やはり存在しないのでしょうか?
顔: いやいや(笑)、さすがにそれはありません。
――習近平政権の成立後、彼と対立する派閥は大きく力を減らしているように見えますが、かつての体制内の人間の目から見て、習近平への権力集中は進んでいると考えますか?
顔: 自分は細かい事情を知れるような立場ではありません。ただ、習近平への権力集中は進んでいますが、一元化されているわけではないと感じています。習の背後にはさらに何人かの長老勢力がおり、彼らの影響力は無視できないでしょう。習の政策がときにチグハグに見えるのは、他に影響を与えている存在がいるからでしょうね。
習のバックグランドとなっている、いわゆる「紅二代」(革命元勲の子弟)の勢力には、例えば葉剣英の一族、ケ小平の一族、毛沢東の一族、陳雲の一族……といった「名族」が10家ほど存在します。すべてを習の意思で動かせるわけでは決してないはずです。
――中華人民共和国は、巨大な同族企業のようなものだと言えますか?
顔: 建国から67年が過ぎようとしていますから、「紅二代」以外でも大きな権力を握った人物がいます。例えば周永康(元公安司法部門トップ、2014年7月に失脚)や徐才厚(元軍制服組トップ、2014年6月に党籍剥奪)がそうです。ただし、彼らの失脚は、習近平と「紅二代」たちが奪権を企図した結果だと言えるでしょうね。
実のところ、習近平の就任前には、私たち民主化主義者は彼に非常に期待していました。中国の社会は徐々に自由にしていく方向しかない。ゆえに、彼は政治改革をおこなうだろうと。しかし、現実は予想をあまりにも残酷に裏切ることになりました。
――「すべてが習近平の意思で動いているわけではない」とのことですが、ここ数か月間の尖閣諸島をはじめとした日本周辺海域における中国軍の挑発的な動きも、やはり別の誰かの意思が反映されているのでしょうか。
顔: これについては、おそらく習近平自身の意思です。彼個人の権力基盤を強化するためにおこなっているはずでしょう。中国の権力者は、軍事行動をおこなわなくては軍を心服させられないからです。
例えば過去、ケ小平の権力を強化したのは1979年の中越戦争でした。江沢民の場合も、六四天安門事件の軍事鎮圧をおこなった権力基盤にそのまま横滑りしたことが、結果的に軍からの支持につながりました。一方で胡錦濤の場合、彼は退任まで「弱い指導者」であり続けましたが、その一因は明確な軍事行動を起こせなかったことに求められるはずです。
一言で言えば、習近平は近隣諸国から見ても国内外の中国民主化主義者から見ても、極めて危険な存在、ということなのです。
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