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中国消し去られた記録 城山英巳著
体制に抑圧された人々の視点
1989年の天安門事件の後、私たちは中国が民主化の道を歩むと思い込んでいた。しかし、その見通しは大きく外れた。
そしていま、私たちは中国をめぐる2つの問いに直面している。1つは、なぜ壊れると思っていた体制が持続しているのか、いま1つは、体制を覆すと思われていた社会はいまどの様に体制と向き合っているのかである。前者は中国共産党の強靱(きょうじん)性、後者は中国社会の強靱性という言葉で語られる。
本書は、2011年から16年5月まで北京に駐在した時事通信記者が、中国で生活する人権派弁護士や民主活動家、改革派の学者、調査報道記者らを主役に位置付け、活動を再現した「記録」である。主役の1人、弁護士の浦志強氏はいう。「共産党がどうなるかなんて考えていない。自分たちがどうなるかだ。我々が限られた空間と資源をどう利用できるかどうかであり、一つ一つのことをこなしていくことだ」と。彼らが共産党と向き合う「記録」を緻密に積み上げ、社会の強靱性を描く。
体制に抑圧された「消された記録」に着目したのは、そこに中国社会の行き先を見るからだ。別の主役、人権活動家の許志永氏は語る。「中国では昔から今まで正義の士が、社会の進歩のために代償をいとわなかった。今、自分も代償を背負う機会を得られ、非常に光栄だ」
もちろん中国の民主化を希求するナイーブな本だと捉えるべきではない。著者は読者に2つの痛烈な批判を投げかける。
1つは私たちの中国理解が一元的すぎることである。著者は既存の報道が共産党に関心を置きすぎだと疑問視し、49名の主役に光を当てることで複眼的な視点を提示する。「権力の動きだけを追っていては中国社会の本当の姿は分からないのではないか」と著者に思わせた盲目の女性の手記で本書を締めくくるところに、その思いがにじむ。
いま1つには、日本に住む私たちに中国と向き合う覚悟を説く。12年9月に中国各地で大規模な反日デモが吹き荒れる一方で、主役たちが「『本当の日本を見たい。そして真実を発信したい』という気持ちを逆に強く」した姿や、デモが「ナショナリズムの下で爆発し、日本を標的にした暴力行為に変わった」ことを憂慮してそれを「中国問題」の裏返しと捉えたさまを描く。「爆買い」とは異なる中国社会の「新たな日本観」の萌芽(ほうが)を、私たちは理解する必要があると訴える。
中国を理解するためには強靭な視点が必要だ。本書は、そのために不可欠な知的訓練の場を提供してくれる。
(白水社・3600円)
しろやま・ひでみ 69年生まれ。通信社の中国特派員を経験。著書に『中国共産党「天皇工作」秘録』など。
《評》政治学者
加茂 具樹
[日経新聞6月12日朝刊P.21]
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