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米中首脳会談から占う中国最高指導部人事
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投稿者 あっしら 日時 2016 年 4 月 21 日 02:06:44: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 

江沢民、胡錦濤時代からのブレーンである王滬寧氏(右端)が第2列に退き、習近平(中央)時代の劉鶴氏(左端)が目立っている(3月31日のワシントンでの米中首脳会談、中国国営テレビの映像から)

米中首脳会談から占う中国最高指導部人事[日経新聞]
編集委員 中沢克二
2016/4/20 6:30

中沢克二(なかざわ・かつじ) 1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞

 「先の米中両巨頭の長時間会談の一場面から、来年の中国共産党最高指導部人事が占える……」。にわかには信じかたい話が、中国政治の中枢を駆け巡っている。中国国家主席、習近平が米大統領のオバマに南シナ海では一歩も引かぬ強硬姿勢を示した3月31日のワシントンでの会談である。

■第2列に退いた江沢民、胡錦濤時代からの知恵袋

 中国国営の中央テレビのニュース映像の一場面を注視してほしい。中国側代表の中心は習近平。写真の右端が、政治問題のブレーンで共産党政治局委員の王滬寧だ。格が高い王滬寧の本来の席は習近平の隣だが、なぜか第2列に退いている。一方、左端に顔が見える経済ブレーンの劉鶴は、第1列にいて、堂々としている。

 中央テレビは4月1日午後7時のメーンニュースで、この米中首脳会談の「意味深」な映像を長々と放送した。しかも劉鶴のアップ映像も多い。国営テレビの映像だけに、共産党関係者らが「大きな意味がある」と感じたのは当然だった。

 王滬寧は、元国家主席の江沢民、前国家主席の胡錦濤に仕え、習も引き継いだ知恵袋である。「三つの代表」「科学的発展観」など歴代トップの政治論の構築に大きな力を発揮した。3代のトップが重用したまれに見る万能のブレーンだ。計25人いる政治局委員の1人でもある。上海の名門、復旦大学の教授だったが、江沢民時代に見いだされ、一気にトップの知恵袋となった。

 党中央委員の劉鶴は、経済・財政政策の最高決定機関、党中央財経指導小組の弁公室主任で、国家発展改革委員会副主任。形のうえでは王滬寧に遠く及ばない。序列に厳しい共産党だけに、重要会談での王滬寧と劉鶴の位置関係は極めて不自然だ。

 実は、この米中首脳会談が長引いた結果、遅れて始まった中韓首脳会談の席でも王滬寧は、米中会談の際ほど明確ではないが、半歩、下がっていた。やはり偶然ではない。

 この第2列に退いた王滬寧の位置から冒頭の解釈が生まれた。つまり「劉鶴の次期党大会での大抜てきという人事が透けて見える」というのだ。北京の政治関係者は、2017年の党大会人事に向けて頭の体操を始めている。米中首脳会談の映像は、彼らに格好の話題を提供したことになる。

 この人事観測には、もう一つ根拠がある。「王滬寧が担っていた役割の一部を既に劉鶴が引き継いでいる」。中国の政策づくりに精通する関係者の指摘である。経済のスピーチライターにとどまらず、政治面の理論構築などにも踏み出しているというのだ。

■習側近のゴボウ抜き大抜てきも

 もしそうなら、次期党大会では劉鶴が政治局委員に昇格する可能性が極めて高い。「いや、習近平がその気なら、いきなりの最高指導部入りだってありうる」。こんな大胆な臆測まで北京の政界では出回り始めた。

 その場合、「ポスト習」が絡む来年の最高指導部人事の構図に大きく影響する一大事だ。7人の政治局常務委員のうち、習と首相の李克強を除く5人が年齢制限によって退くが、そのうちの一席が決まってしまう。

 そもそも来年秋の年齢でも62歳にすぎない王滬寧が退き、同じく65歳になる年上の劉鶴が抜てきされるのもあまり例がない。習の引退時期とも絡む年齢制限。これを有名無実化する動きになる可能性もある。

 注目を集める劉鶴とは、どんな人物なのか。20年近く前に話したという日本人ビジネスマンは「温厚で真面目な学者だった。今の日の出の勢いは想像もできなかった」と回想する。

 この劉鶴、実は習の「幼なじみ」だ。軍や党幹部の子弟が多い北京の名門「北京101中学」の同窓である。10代からの知り合いで、習が心の底から信用できる数少ない人物といえる。

 習は名門、清華大学を出た後、中央軍事委員会で働いた。劉鶴もまた勇猛さで知られる北京防備の要である第38軍の軍人だった。共に軍に身を置いた経験もウマが合う理由のようだ。

 劉鶴は、米ハーバード大ケネディスクールに在籍した経験があり、米経済に明るく、知己も多いとされる。1998年には、経済分野の論客を集めた「中国経済50人論壇」を立ち上げた。この集団には、世界銀行副総裁を務めた林毅夫、著名な改革派の経済学者である呉敬●(たまへんに連)らもいた。

 劉鶴は、この頃から中国の経済戦略づくりを主導する立場を固めて行く。とはいえ、本格的な指導者の経済ブレーンとして有名になるのは、12年の習指導部の成立後だ。

 先の「中国経済50人論壇」でのブレーンストーミングは、中国の対外政策にも大きな影響を及ぼした。中国と欧州、アフリカまで陸と海でつなぐ「新シルクロード経済圏」構想もここから生まれている。

 当初は、供給過剰に陥っている中国市場の素材などの販路を西で開拓する単なる経済政策として議論された。その後、政治、外交・安全保障を統合した総合的な対外戦略にバージョンアップする。これは劉鶴の手腕とされる。

 劉鶴は、習の経済スピーチのライターである。経済政策を固めた13年の中央委員会第3回全体会議(3中全会)声明の草稿づくりも担った。

 「これが劉鶴です。この人は私にとって非常に重要だ」。13年に習は、訪中した当時の米大統領補佐官、ドニロン(国家安全保障担当)を前に異例の紹介をしている。このエピソードは、さほど目立たなかった劉鶴の名を世界的に有名にした。習が、劉鶴を自らの側近だと認めたのだ。

■独自のブレーン集団づくり

 習が中国トップの有力候補であると、多くの中国人が認識したのは10年前にすぎない。中国の政界の常識からするとデビューは極めて遅い。そのためか、幅広い層から人材を登用する基盤は弱い。それが身内で固める人事につながる。

 それでも習にとって絶対的な信用がおける独自のブレーン集団をつくることは極めて重要である。その核になるのが劉鶴だ。生き馬の目を抜く中国政界で生き残るためには、「幼なじみ」の重用はよく見られる。劉鶴は「幼なじみ」だからこそ、本当の意味の側近になる資格がある。

 劉鶴は今、経済ばかりではなく、王滬寧が得意としてきた政治的な理論づくりをも担う準備をしている。共産党が仕切るこの国では、政治と経済は一体だ。それを象徴する人物が劉鶴だろう。減速が目立つ中国経済のかじ取りはどうなるのか。その面でも劉鶴の今後の処遇に注目したい。(敬称略)

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK19H5D_Z10C16A4000000/?dg=1

 

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