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※日経新聞連載
[時事解析]中国経済の構造問題
(1)鈍化する成長率 鍵握るサービス業
中国経済の構造問題を象徴するのが成長率の低下だ。2010年に10.6%あった実質成長率は15年には6.9%まで鈍化。政府はさらなる減速を見込み、今年の目標を6.5〜7%にした。
成長の鈍化は、労働力人口が減り始めて潜在成長率が落ちたことなどが原因。08年のリーマン・ショック時の景気対策の後遺症である過剰設備や国内外の需要の減退も響く。これを受け、政府は成長目標を昨年の7%前後から引き下げた。
成長目標に幅を持たせたのも今年の特徴だ。政府の有力ブレーンとして知られる胡鞍鋼・清華大教授は「点ではなく区間の目標にした」と強調。その理由について「地方によって状況が違う」と話し、地域経済の実情に合わせて柔軟に政策を運営できるような目標にしたと説明する。
問題は公式統計や目標の達成を疑う声が少なくない点にある。加藤弘之・神戸大教授は、日本を含む複数の研究者の推計を総合的に分析し「01年から14年までの中国の国内総生産(GDP)はおおむね過大評価されている」と指摘する。
一方で加藤氏は推計の精度について「経済のサービス化を進めつつある中国の実態を十分にとらえきれていない側面がある」とし、中国の統計を「虚偽」とする立場はとっていない。
第3次産業の重要性を強調する声はほかにもある。HSBCグローバル・アセット・マネジメントのビル・マルドナド氏は「サービス分野は力強く拡大しており、製造業の付加価値の向上も伴えば6〜7%の成長は可能」と話す。
(編集委員 吉田忠則)
[日経新聞4月4日朝刊P.21]
(2)過剰流動性の弊害 バブル起きやすく
2015年の中国経済は景気減速のあおりで貿易や投資、歳入が軒並み目標に届かなかったが、通貨供給量(マネーサプライ、M2)は前年比13.3%増と目標を1.3ポイント上回った。だがこれは政策の成果を示しているわけではない。
肖敏捷・SMBC日興証券・中国担当シニアエコノミストは「『(国内総生産に対する通貨供給量の比率を示す)マーシャルのk』が初めて2の大台を突破した。適正水準を上回る過剰流動性が発生している」と指摘する。以前は1.5前後だったが、08年のリーマン・ショック時の大規模な金融緩和をきっかけに上昇が始まった。
マーシャルのkは相対的なカネ余りの度合いを示す。中国はリーマン危機後も、景気が減速し始めた11年からは預金準備率引き下げなどで市場にマネーを供給し、地方政府や企業の資金繰りを支援。だが実体経済の活性化にはつながらず、バブルを起こしやすい市場環境という弊害を招いた。
その象徴が、乱高下を繰り返す株価と不動産価格だ。景気減速下にもかかわらず、上海などで住宅価格が急騰。住宅ローンの頭金規制に反し、ネットで資金を集めて頭金を融資するサービスまで登場。中国人民銀行(中央銀行)の潘功勝副総裁は3月12日の記者会見で「金融リスクを増大させる」と懸念を表明した。
過剰流動性への対応策として肖氏は「国債を発行して資金を吸収する手があるが、金利水準の設定が課題。高成長時代のような投資に対する過大な収益期待を改める必要がある」と話す。
(編集委員 吉田忠則)
[日経新聞4月5日朝刊P.26]
(3)過剰設備が重荷 拙速な削減に不安
中国経済の重荷になり続けているのが企業の過剰設備だ。李克強首相は全国人民代表大会(全人代)の3月5日の演説で、第13次5カ年計画の初年に当たる今年の政策運営の課題として「過剰生産能力の解消、過剰在庫の消化、過剰債務の縮減」を挙げた。どれも2008年のリーマン・ショック時に打った巨額の景気対策の負の遺産だ。
設備過剰が特に深刻なのが鉄鋼と石炭だ。中国の昨年の成長率は6.9%に落ちたが、地域別にみると遼寧省は3%、山西省は3.1%に沈み込んだ。どちらも産業は鉄鋼、石炭関連など重工業が中心。中国が頭を悩ます製造業不況を象徴する地帯だ。
具体策も打ち始めている。鉄鋼の生産能力は現在、実際の生産量を約5割上回る12億トン。これを向こう5年間で1億〜1億5千万トン削減する計画を2月に発表した。生産効率が低く環境を汚す施設を閉鎖するよう地方政府に命じるとともに、金融機関には融資を縮小・停止するよう指示した。
問題は現政権が発足とともに掲げたぜいたく禁止令のように、中央が方針を示すと一方向に傾斜しやすい中国政治の体質にある。山西や河北、重慶などが一斉に生産能力の削減計画を打ち出し始めており、合計すると中央の計画を上回る可能性があるという。
中国経済は減速しながら安定を模索している最中。みずほ銀行(中国)の細川美穂子主任研究員は「過剰設備の解消は必要だが、地方の計画が実行に移されれば短期的に不況感が強まる恐れがある」と指摘する。
(編集委員 吉田忠則)
[日経新聞4月6日朝刊P.27]
(4)雇用不安は薄らぐ 余剰人員なお懸念
中国がまだ2桁成長を続けていたころ、「8%成長はゼロ成長に等しい」という見方があった。8%を下回ると雇用不安になるとみられていたからだ。では2015年の成長率が6.9%に落ちたのに、なぜかつて心配されたほど失業が深刻になっていないのか。
理由は2つある。まず15年までの10年間は減速しながらも比較的高い成長が続いたため、国内総生産(GDP)は3.6倍に拡大した。一方、労働力人口は12年から減少に転じた。その結果、以前と比べ雇用の吸収にゆとりが発生した。
労働力人口の減少は中国の経済にとって賃金コストの上昇を招く半面、雇用不安の防止ではプラスの面もある。08年のリーマン・ショック後に0.85倍に落ちた求人倍率は11年以降は1以上を保っている。国家発展改革委員会の趙辰●(日へんに斤)報道官は2月の記者会見で「おおむね求人数が求職を上回っており、雇用の流動化は良好だ」と語った。
最大の懸念材料は、過剰設備を抱える鉄鋼業などの整理・淘汰に伴い発生する余剰人員だ。尹蔚民・人事社会保障相は2月の記者会見で「石炭で130万人、鉄鋼で50万人」の再配置が必要になると述べた。それでも習近平政権は「陣痛は避けられない」とし、構造改革を断行する意向を表明している。
厳善平・同志社大教授は「2千万人の出稼ぎ労働者が帰郷するといわれたリーマン危機時と比べれば影響は限定的」と予測する。政府は企業内の配置転換や創業支援などで対応する方針。その成否が安定成長への移行を左右する。
(編集委員 吉田忠則)
[日経新聞4月7日朝刊P.29]
(5)くすぶる元安懸念 実効レートを重視
中国の通貨、人民元の先安懸念がくすぶっている。昨年来、中国では企業や個人が預金を元建てから外貨建てに移し替えたり、海外の投資家が資金を引き揚げたりするなどの動きが出ている。
2005年に対ドルの固定相場をやめて以降、中国人民銀行(中央銀行)の相場管理には2つのパターンがあった。
平時は複数の通貨から成る通貨バスケットを参考にするが、世界経済が混乱するとドルとの固定に戻すのがその一つ。08年のリーマン・ショックの直前からの2年間と、欧州で経済不安が高まった14年春ごろから1年余りドルに固定させた。
もう一つは対ドルでの下落を避けてきた点にある。昨年8月11日に対ドルで約2%切り下げて以降、この原則が崩れた。人民銀の張暁慧総裁助理は「長期的にみれば人民元は依然として強い通貨だ」と語ったが、市場では今なお元安予想は収まっていない。
一方、人民銀は「通貨バスケットを参考にする度合いを高める」(馬駿チーフエコノミスト)と強調。人民元の総合的な価値を示す実効レートが安定し、輸出入への為替相場の影響が小さくなるからだ。
結果はどうか。国際決済銀行(BIS)によると、昨年2月から今年2月までの実効レートの変動は0.35ポイント。信金中央金庫の露口洋介上席審議役は「実効レートで元は安定している。対ドル固定に戻す可能性は小さい」と指摘する。当面は対ドルの相場に注目する市場と、実効レートを重視するよう求める人民銀の綱引きが続きそうだ。
(編集委員 吉田忠則)
=この項おわり
[日経新聞4月8日朝刊P.26]
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