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習氏崇拝に潜むワナ
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投稿者 あっしら 日時 2016 年 4 月 10 日 16:35:01: Mo7ApAlflbQ6s gqCCwYK1guc
 


[The Economist]習氏崇拝に潜むワナ

 「もし我が党が食品安全問題にもきちんと対処できず、誤った対応を取り続ければ、我々の指導力が問われることになる」。習近平氏は中国の指導者になった翌年の2013年、党幹部らに警告した。

 自分たちは「人民」の支持を得ていると常に主張してきた共産党のトップとしては、驚くべき発言だ。当局の無能さと腐敗に対する国民の不満がいかに爆発寸前の状況だったかを習氏が理解していたことが読み取れる。習氏は不正を働いた党幹部らを何万人も取り押さえ、1949年の建国以来の大がかりな腐敗撲滅運動に乗り出した。多くの国民が支持した。

 今、中国でこの数年で最大の公衆衛生事件が起きている。期限切れで不適切に保管されていた数千万ドル相当のワクチンが違法に病院などに販売され、使用されていたのだ。


汚職撲滅や検閲、エリート層は不満

 習氏の汚職撲滅運動は多くの場合、庶民への影響はほとんどなかった。庶民の生活や健康は依然、問題が山積したままだ。最近はエリート層が習氏に不満を抱き始めた様子も見受けられる。国営メディアは報道規制に公然と苦情を漏らし、ある著名実業家はミニブログで習氏を攻撃した。嫌気がさして辞任した編集幹部もいた。

 習氏は毛沢東以来、最大の権力を手に入れた。これで思いのままに改革を遂行できるはずだったが、何を間違えたのか。

 公正を期すために言うと、習氏が敵意を向けられるのは必然だった。習氏が暗黙の了解を破棄したことに腹を立てている党幹部は多い。汚職が目に余るほどではなく、しっかり仕事をしている限りは私腹を肥やしてもいいとされたのに、認められなくなったからだ。

 習氏自身、権力の追求に多大な時間と労力がかかり、ほかのことに目を向ける余地があまりない。権力を掌握してきたこの3年半で、習氏は驚くようなペースで肩書を増やしていった。総書記、中央軍事委員会主席、国家主席であるだけでなく、改革や治安維持、経済政策でも主導権を握っている。事実上、「集団指導体制」という共産党の概念は捨て去られた。習氏は「万事の長」だとあるアナリストは言う。

 習氏は同時に、個人崇拝を禁じた党の規範もないがしろにした。これは毛沢東主義の狂気が再現されるのを防ぐために1982年に導入されたものだ。

 国営メディアは習氏と、「彭ママ」と呼ばれる彭麗媛夫人をほめそやしている。3月に公開された「習おじさんは彭ママを愛している」と呼ばれるダンスの動画は、すでに30万回以上視聴された。最近は習氏もやや行き過ぎだと感じているようで、同氏を毛沢東になぞらえた「東方又紅(東の空がまた赤い)」など、礼賛が特に甚だしい動画はインターネットから削除された。


批判者を徹底摘発、遠い内外の安定

 国民の多くは、個人崇拝が害のない楽しみと大して変わらないと受け止めるだろう。習氏は毛沢東ではない。毛沢東はあまりにも専制的で称賛を好んだため、平気で中国を文化大革命へと導き、社会を錯乱と暴力に陥れた。年配者の中には、習氏の政治スタイルがとうに過ぎ去った時代を思い起こさせることに不安を覚える人もいるが、中国が再びそのような恐怖に陥りそうな気配はない。

 しかし、毛沢東ほど極端ではないものの、習氏の権力集中の弊害はすでに表れている。習氏は汚職撲滅を進める以上に断固とした姿勢で抵抗勢力と戦ってきた。党を批判する者に対するこれほど徹底した取り締まりは、89年の天安門事件以降はなかった。インターネットの検閲官はソーシャルメディアの投稿に目を光らせている。違法ワクチン流通事件に激怒した市民の投稿や、共産党の統治能力に関する3年前の習氏自身の言葉に関する書き込みなどを削除するのに多忙を極めている。

 警察は3月上旬、政府系サイトに(個人崇拝とメディア検閲などを理由に)習氏の辞任を求める匿名の書簡が掲載された件も捜査しており、約20人が逮捕された。だがそれで終わったわけではない。市民は反攻に出ている。いかに厳重に遮断され検閲されようとも、インターネットを通じ国民は声を上げ続けているのだ。

 いくら反体制派を取り締まり、自身を実際より立派に見せたところで、習氏の地位や国の安定には全くつながっていない。同氏は党内の捜査担当者を使い汚職と戦っているが、捜査官は法律の公正な適用を気にするより、政治的な貸し借りを精算する方に大きな関心がある。これは行政を進める上で支障になる。党幹部らが調査を受けるかもしれないと思い、お金を使うことをただ恐れているだけだとしてもだ。

 習氏がメディアを締め付けることにより、少なくとも1年前に怪しいワクチン売買が発見されたにもかかわらず、メディアはその時点で暴露するのを渋った。不祥事が明るみに出るころには、党や習氏の信頼性が一段と脅かされるようになってしまった。

 習氏は市場に「決定的な役割」を与え、法の支配を確立することで「権力を檻(おり)に閉じ込める」と誓った。だが、同氏は国に繁栄と自由をもたらしてもいないし、安定によって諸外国を安心させてもいない。海外では習氏への不安が高まり続けている。南シナ海で支配権を確立しようとする同氏の強硬な取り組みは、アジア諸国を米国陣営の方向へ追いやっている。


権力維持に手いっぱい、大胆改革は期待薄

 習氏の統治が始まったころ、自分の地位を確立した後、やると言っていた改革を本当に実行するかどうか観測気球が上がった。今や大胆な改革の実現可能性は薄れている。習氏には政治的に骨の折れる事柄に割く時間はほとんどなさそうだ。つまり、党が法律に従うようにしたり、赤字の国有企業を閉鎖したり、農村出身の出稼ぎ労働者に対する都市の公共サービスの利用制限を廃止するといった社会制度改革を進めたりすることだ。自身の権力維持で手いっぱいなのだ。

 過去66年間の中国の共産党支配のなかで最も困難な時代は大抵、エリート層内部で緊張関係が起きたときに訪れた。習氏の統治スタイルはそうした緊張をあおるばかりだ。同氏が脅しの策略と腕力で敵を撃退しようとすればするほど、多くの敵をつくることになるだろう。

(4月2日号)

 英エコノミスト誌の記事を翻訳し、火曜付で掲載します。電子版▼ビジネスリーダー→グローバル→The Economist

[日経新聞4月5日朝刊P.6]

 

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