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[中外時評]空文化する「一国二制度」 揺らぐ香港の立法と司法 論説副委員長 飯野克彦
香港高等法院(高裁)は11月15日、9月の立法会(議会)選挙で初当選した「本土派」の若手議員2人について、議員資格を取り消すとの判決を下した。2人は上訴しており事態はなお確定していないが、中国大陸と香港に異なるルールを適用するという「一国二制度」の空文化が鮮明になってきたといえる。
議員資格を失ったのは「青年新政」という政党から立候補して当選した游●禎氏(25、●はくさかんむりに惠)と梁頌恒氏(30)。同党は中国からの自立を訴える青年たちがあつまって2015年に設立した。香港を自分たちの「本土」とみなし、中国大陸を支配する共産党政権の影響力を嫌う、いわゆる「本土派」の代表的な政党だ。
10月12日に立法会で就任の宣誓をした際、両氏は中国の蔑称とされる「支那」に聞こえる言葉を口にしたり、「香港は中国の一部ではない」という英語の横断幕を掲げたりした。これが規定に沿っていなかったとして、立法会は宣誓を無効とした。
宣誓が無効だと議員資格は失われる。そこで両氏は改めて宣誓したいと求め、立法会の議長も再宣誓を認める方針だった。議会の権威が高ければ、議会内部の問題として議会みずから処理して一件落着、となるところだろう。
ところが香港では異なる展開をたどった。両氏は香港の憲法にあたる香港基本法104条に違反したので、議員資格がない。そう主張して裁判所に提訴したのは、ほかでもない香港政府だった。
やがて、はるか北京から中国共産党政権まで口をはさんだ。国会にあたる全国人民代表大会(全人代)の常務委員会が、游・梁両氏はすでに議員資格を失っているとする104条の「解釈」を採択した、と発表したのである。
自由主義が根づいた国々では、議会からも政府からも独立した裁判所が法律を解釈する最終的な権限を持つ。「司法の独立」という考え方の柱となる原則だ。対して共産党政権は、そういった「司法の独立」を認めていない。
そのため法律を解釈する最終的な権限については、立法機関である全人代あるいは全人代常務委が持っている、と法律そのものに明記する場合が少なくない。香港基本法にもそうした規定があり、今回も全人代常務委はその規定にもとづいて解釈を明らかにした、と主張している。
香港政府の訴えを審理していた香港高等法院は、いわば頭越しに解釈を示されたわけで、メンツは丸つぶれになった。結果として全人代常務委の「解釈」を裏書きした判決のなかで「(全人代の)解釈があろうとなかろうと結論は変わらない」と表明したのも、むなしく響く。これで「一国二制度」といえるのか――。反発の声が香港であがったのは、当然だろう。
1997年に香港が英国から「返還」された際、50年後まで香港の基本的な仕組みを変えず大陸と異なるルールを維持する、と共産党政権は約束した。「司法の独立」は、そうした香港ならではの仕組みの柱のひとつとみなされてきた。だが、返還からやがて20周年という時期に、共産党政権は骨抜きにする姿勢を明確にしたといえよう。
はじめから「一国二制度」には無理がある。そんな冷めた声が出ているのは台湾だ。「一国二制度」はもともと、台湾との統一を進めるための足場として共産党政権が打ち出し、後に香港やマカオにも適用したアイデアだ。共産党政権にとって、香港で「一国二制度」をうまく機能させることは、台湾との統一を進めるためにも必要だった。
今回、共産党政権は香港の立法機関の権威も司法の独立もないがしろにした。台湾統一に不利なことをあえてしたのである。それほどに強烈な危機感を、香港に対して抱いたといえる。その一端は、全人代常務委が「解釈」を採択したあとに記者会見した、李飛・全人代常務委副秘書長兼基本法委員会主任の発言にうかがえた。
「立法会というプラットフォームを利用して香港独立活動を推進した」。こう述べて游・梁両氏を厳しく批判しただけでなく、75年前に香港を占領した旧日本軍になぞらえて、ファシストだと決めつけたのである。
はた目には支離滅裂の議論だが、おそらく李主任の頭の中では筋が通っているのだろう。こんな風に引き合いに出される旧日本軍こそいい面の皮だが、共産党政権の幹部たちの考え方が伝わってきて興味深い。かつて李主任が日本に留学していた経歴を踏まえると、いささか情けなくもあるのだが。
[日経新聞12月11日朝刊P.10]
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