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中国の粗鋼の生産量(前年同月比の伸び率)。2月以降、鉄の生産量は毎月、前年比で上昇を続けている
出所:The Economist/Wind Info
習近平氏、国内改革進まず 地方役人が面従腹背[英エコノミスト]
2016/11/4 6:30
中国の習近平国家主席は、フィリピンのドゥテルテ大統領を取り込むなど外交面では成果を上げる。だが、国内の構造改革は思うように進んでいない。足を引っ張るのは地方組織だ。地方の役人は面従腹背の姿勢を取り、鉄の生産を拡大する。不動産価格の抑制も前途多難だ。
習近平国家主席のポスター前を歩く人々。習氏であっても地方の役人を思い通りに動かすことは難しい(北京)=ロイター
中国北部、河北省にある唐山市。夜に紛れて火がたかれ、空気はひどい臭いを放っている。この町では10万以上の人が製鉄工場で働く。ある工場の外には「省エネルギー、排出量削減」というスローガンが掲げられ、内部では重機が轟音(ごうおん)を立てている。
今年早々、中国の習近平国家主席は製鉄会社に対して減産を命じた。この工場のように小規模で非効率なものは閉鎖。規模の大きい工場では一部の溶鉱炉を停止することになった。だが今も多くの工場が四六時中稼働している。
唐山市は習氏のお膝元である北京にほど近い。にもかかわらず製鉄会社のトップたちは、同氏が下した命令を堂々と無視している。
■ケ小平以降で最強の指導者
就任してほぼ4年になる習氏は、ケ小平以降の指導者の中で最強と言われる。重要な政策を取り仕切る組織の全てを自ら引き受け、同氏に従う要員を育て上げると同時に、自らの政敵を追い落としてきた。
非公式な組織である「指導小組」を通じて、省庁を飛び越えて国を統治している。あまりに多くの指導小組を率いているため、海外の評論家は習氏を「あらゆるものの主席」と呼ぶ。通常の任期である10年を過ぎてもなお政権を継続するつもりだという噂も飛ぶ(裏付けはないが)。
これほどの権力があるのだから、習氏は自らが望むことのほぼ全てを実現できると人々が考えてもおかしくはない。だが唐山の製鉄工場が稼働し続けている現状は、習氏であっても地方の役人を思い通りに動かすことがいかに難しいかを物語っている。これほど広く、多様で、おびただしい既得権が絡む国においては、習氏であっても「何も操ることができない人」に映る。
習国家主席は気難しい将校や力を持つ役人、そして中央政府が管理する大手国有企業を相手にやり合っている。だが、こうした人々以上に彼の権力を阻むのは古くからの存在、つまり地方組織だ。
この現実は中国の有名な言い回しにも見ることができる。政令不出中南海(政令は中南海を出ず)──。「中南海」とは塀に囲まれた北京の一角で、指導者らが住み、業務を執行している。
■習近平氏の2つの敵
習氏は大きく2つの分野で戦いを続けている。一つは北京にいる政敵との攻防だ。彼らは、来年後半に予定される指導部の入れ替えが同志に有利な形になることを望んでいる。もう一つは、なかなか行動を起こさない地方組織との戦いだ。彼らは、誰が北京で権力を握るかにかかわらず、やりたいように物事を進めたいと考えている。
習氏は現在、自らが「党づくり」と呼ぶ活動に重点を置いている。これは共産党が擁する無数の下部組織に忠誠と規律を植え付けようとするもので、全国的に展開することを念頭に置いている。この政策は10月24日から4日間にわたって開かれる第18期中央委員会第6回全体会議(6中全会)のテーマに上る*。党の上層部約350人が参加する会議だ。
*=この記事は英エコノミストの10月22-28日号に掲載された
習氏は去る7月、規律の衰退がどんな結果を招くかについて強く警告した。「我が党はいずれ統治者としての資格を失い、間違いなく歴史のかなたに追いやられることになる」。
中国は業務を完遂する能力が著しく高い。それはたとえ「NIMBY主義者(総論賛成各論反対の人)」と呼ばれる自分勝手な地域住民からの激しい抵抗に直面した場合でも変わらない。何千kmにも及ぶ高速鉄道や、急成長する各都市の様子がそれを証明している。
だが中国の指導者たちは、限られた範囲の優先事項にしか目を向けることができていない。このため、政府が進めようとする多くの政策、とりわけ地方の役人にとって扱いにくいもの、コストがかかるもの、受け入れ難いものはその大部分が無視されることになる。
■指示を聞かず鉄鋼生産を拡大
習氏が優先事項とうたう政策ですら実行できない状況だ。過剰生産能力を抱える鉄鋼産業と石炭産業のスリム化である。政府は2月に「今後5年間で鉄の生産能力を1億〜1億5000万トン、石炭の過剰生産能力5億トンを削減する」という計画を明らかにした。
この指示に注目が集まるよう、北京の官僚たちは外国のジャーナリストを中南海に招待し、この件に関して財政副大臣に質問する機会を与えた。中国では極めて珍しいことである。
それでも、地方組織が必ず遂行するとは限らない。煙立ち上る唐山の光景が示している通りだ。2月以降、中国の鉄の生産量は毎月、前年比で上昇を続けている。
7月末までに製鉄会社が削減した生産量は予定の半分にも届かなかった。中国聯合鋼鉄網によると、この減少分には既に操業休止となっていた多くの施設が含まれるという。中央政府は結果を公表した22省のうち大きな前進を見せたのはわずか4省だったことを認めている。4省の中で鉄の大規模な生産地は江蘇省だけだ。
地方の企業は政府からの命令よりも市況を気にすることの方が多い。鉄鋼の価格が世界的に上昇すると、大規模な工場の一部は再び炉に火を入れた。
地方政府も製鉄会社の収益を注視している。河北省が生産する鉄鋼の量は中国全体の約4分の1を占める。唐山市のような地域では製鉄会社が税収に大きく貢献している。もし圧延機を停止することになれば、地域の銀行は融通した資金が回収不能になりかねない。
製鉄会社の一つ、唐山宝泰鋼鉄集団では、労働者は住み込みで、低品質で薄暗い住宅施設で暮らしている。つまり職を失えば住まいをも失うということだ。地方政府は、もしリストラを進めれば人々の不安をあおりかねないと恐れている。
プロパティーラダー、すなわち家の買い替えで利益を得たり、よりグレードの高い家に住み替えたりする流れに乗りたい人々は、全権を任された習国家主席がもっと首尾よく事を進めるよう願っている。
この10月に、大都市で急騰する住宅価格の抑制を狙った方策が発表された。その背後に習氏がいたのは明らかだ。だがこの方策も前回と同様に前途多難なものとなりそうだ。
その理由の一つに、地方政府が不動産市場が沸騰するのを歓迎していることがある。土地の売却益は彼らの大きな収入源だからだ。
■食とたばこの規制も徹底欠く
習氏がその影響力を地方組織に行き渡らせることができないでいることの明らかな事例として、たばこの消費量を減らす取り組みも挙げられる(同氏の妻である彭麗媛氏は「禁煙大使」として活動している)。
習氏は2015年、北京市内にある公共施設の屋内での喫煙を厳しく禁じる措置を支持した。ところがこの取り組みを全国的に展開するため最近作成された法案には、大きな抜け道がある。屋内であっても指定された場所であれば喫煙が許されるのだ。
このようなことが起きた背景には、タバコ生産地の利権が絡んでいるかもしれない。中国の南西部に位置する雲南省では、タバコから得られる収入が歳入全体の半分以上を占めている。国全体の平均は7.5%だ。
習国家主席の支持を得られない政策はなおさら失速する可能性が高い。例えば病院の改革はほとんど進展が見られない。高額な薬品を処方することで自らの所得を増やそうとする医師に対して怒りの声が上がっているにもかかわらずだ。こうした薬品の費用は患者が負担しなければならない。
地方の役人にとっては、医師がこうして稼いでくれる方が、政府が資金を拠出して医師の報酬を引き上げるよりも都合がよいのである。
食の安全についても、取り締まりが著しく強化されているわけではない。現在の惨状に人々が激しく抗議し、高官が改善を約束しているにもかかわらず進展は見られない。省が統括する役所には食品チェーンを規制する意思も、能力も、財政的な動機付けもない。
北京の官僚たちは、5月に発表した土壌汚染対策行動計画を実行するだけの余裕が地方にはないことを非公式に認めている。
こうした問題が生じている責任の一端は、中国共産党にある。1970年代後半以降、中央政府は意思決定の大部分を下位レベルの組織に委譲し、地方の役人が試験プロジェクトを立ち上げること、そのうち優れたものを他の地域に広めることを奨励してきた。この方針は中国経済が持つ機動力と順応性を高めた。
だが同時に、政府がトップダウンで政策を遂行するのをますます困難にし、時には改革に支障を来すようになった。米ブルッキングス研究所のケネス・リーバーサル氏が指摘する通り、中国の政治体制が示すのは「砕け散った権威主義」である。
■地方の役人の規律を高める
社会の安定が損なわれない限りにおいて、北京以外の地域における政府の意思決定を左右する力は政治的な力から市場原理へとシフトしている。そして民間企業が興隆し、多くの国有企業が破綻する中で、かつては至る所に存在して全権力を握っていた共産党の下部組織は衰え、弱体化した。
このため習氏は再び統治能力を高めたいと考えている。2012年に権力の座に就いてからわずか1カ月後、同氏は私的な会話の中で次のように非難した。ソビエト連邦が崩壊したのは、ソ連共産党に「立ち上がって抵抗するだけの気概を持つ人物がいなかったからだ」。さらに、ソ連の保安部門は腐敗して、これが「共産党を弱体化させた」。
彼の目には、似たような怠慢が中国共産党にも根を下ろしつつある兆しが映っているに違いない。
習氏が強硬に進めている汚職摘発運動は、同氏の支配力と共産党の規律の強化を狙ったものだ(おまけに政敵への復讐=ふくしゅう=も果たせる)。収賄のかどで処罰された役人は数十万人に上る。
同時に習氏は、説明責任に対する意識を地方の役人に植え付けようと努めている。中国が進める最新の5カ年計画は、環境被害が生じた場合に、地方役人個人の法的責任を問うものになっている。この決まりは辞任後に事態が発覚した場合でも適用される。
政府は現在、裁判所の判決を無視したり党の方針を守らなかったりする公務員は処罰の対象にすると警告している。
だが忠誠を法律で規制することは難しい。共産党で規律をつかさどる機関は10月、省レベルの4地域において党の指導力が「減退している」と発表した。この機関が暴動などを取り締まる法律の存在を強調した後も改善が見られないことを示唆するものだった。
北京にキャンパスを構える中国人民大学の金燦栄氏は最近の講義の中で、習氏は地方エリートの間に広がる「ソフトな抵抗」に直面していると指摘した。彼らは面と向かって抗議する代わりに、「何もしない」姿勢を貫く。金氏はあらゆる政策が「空洞化している」と結論づけた。
汚職の摘発は役人たちを震え上がらせたかもしれないが、その恐怖でさえも役所の無気力を封じることはできない。
6中全会も大きな助けにはなりそうもない。国営新華社は、自らを清廉に保ち、自ら刷新し、自らを強化し、自らの力で完結できるよう党の力を高める方策を採択するだろうと伝えている。だがこれが大きな変化をもたらすとは考えられない。
■人事の季節が始まった
ただしこの会議は、少なくとも、中南海における習氏の地位を強固にすることには役立つだろう。この場で、来年に開かれる党大会に向けた準備が始まる。
党大会が終われば、中国共産党の中央政治局常務委員7人のうちの5人、および政治局員18人の3分の1が引退する。政治局を構成する現在のメンバーの大半は習氏の前任者たちが選んだ人々だ。来秋の人事改編は同氏にとって自らの同志を委員として登用するチャンスとなる。
その中の誰が習氏の後継者になるか、様々な臆測が飛ぶだろう。一部のアナリストは習氏が特定の人物を念頭に置いているわけではないと考え、党大会を軽視しようとする同氏の姿勢は自信の表れだと見る。
一方、習氏は自身の後継者の育成を始めたくないのかもしれない(中国では後継者の育成が極めて早く始まる傾向がある)。もしそうだとすれば、同氏の姿勢は異なることを示している可能性がある。つまり習氏は、中央においても地方においても、十分な権力を持っていると感じていないのだ。そうであれば同氏は、自らが掲げる政策「中華民族の偉大な復興」「中国の夢」を自分以外の誰にも託すことができないことになる。
(c)2016 The Economist Newspaper Limited Oct. 22-28, 2016 All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO09037760R01C16A1000000/?dg=1
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