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[電子版&Nikkei Asian Review]インド 宗教と国際化の葛藤
インド・ムンバイ市南部の旧市街コラバ地区に特異な一角がある。巨大な石造りの正門をくぐると、大きな中庭を城塞のように集合住宅が囲み、奥に礼拝所がある。世界最古の一神教とされる拝火教(ゾロアスター教)の教徒しか住めない閉鎖空間だ。世界で10万人強しかいない拝火教徒の大半はムンバイなどインド西部に住み、厳格な教義と連帯を守り続けている。
先月24日に突然解任された、インド最大財閥のタタ・グループの6代目総帥サイラス・ミストリー氏(48)と、暫定トップに返り咲いた5代目総帥のラタン・タタ氏(78)は共に拝火教徒だ。解任の真相は不明だが、「拝火教」の視点からみると、背景には財閥の抱える問題が浮かぶ。
1つは後継者難だ。拝火教徒(パルシー)の間で「百年後には誰もいなくなる」という笑えない冗談が飛び交う。古代は純血を守る近親婚を尊んだといい、今も婚姻を巡る戒律は厳しい。パルシー女性の多くは婚姻候補の門戸の狭さを嫌がり、他教徒との結婚を選ぶという。教徒数は減少の一途だ。
タタ一族の系図にも若い「後継候補」の乏しさがのぞく。未婚のラタン氏は70歳となる2007年に引退するつもりだったというが、後任をなかなか決められず、ようやく11年にミストリー氏への継承を決めた。
ミストリー氏は、タタ・グループ統括会社の大株主でパルシーであるパロンジ家の出身。ラタン氏と姻戚関係もあり、06年からタタの経営にも関与してきた。 だが、ミストリー氏の経営者としての力量は、対外的に未知数だった。パルシーであり、親族であること。この2つにこだわって、数少ない候補のなかから後任を選んだようだ。
タタはグループの長期的利益を重視し、企業理念に「地域共生」「社会還元」を掲げる。理念の背景にはパルシーの歴史がある。
パルシーの発祥は古代ペルシャで、インド社会では「異分子」だった。17世紀以降、インドに進出した大英帝国に重用されてから台頭した。タタ一族も英国のもと貿易で得た利潤を元手に躍進した。パルシーゆえに築いた巨万の富と「異分子」の自覚のなか、地域共生などの理念が生まれた。
ラタン氏の進めた急速な事業拡大やグローバル化は多くの「負の遺産」を生んだ。鉄鋼や自動車、通信などの事業が不採算案件を抱えているのは疑いない。
対応を任されたミストリー氏は資産売却など理念に反するリストラを掲げたが、改革は進まず、指導力も発揮できなかった。NTTドコモとの合弁解消を巡る紛争が激化するなど、タタの信認が低下するなか、解任劇は起こった。
培ってきた理念のもとでリストラ抜きに不採算事業を立て直せるのか。グローバル化のなか、市場競争の波に洗われるタタ。外資規制が残り、自由競争が完全ではないインドでは通用した「パルシーの理念」が、いま試されている。インド定住に腐心したパルシーの歴史とグローバル化の葛藤。インドを代表する財閥はその渦中にある。
(ムンバイ=堀田隆文)
[日経新聞11月6日朝刊P.13]
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