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東南ア、治安理由に強権
マレーシア新法「令状なし逮捕」 民主化逆行の批判も
【シンガポール=吉田渉】東南アジア各国がテロ対策や治安維持を理由に政府の権限を強めている。マレーシアは令状無しでテロ容疑者らを逮捕できる新法を施行し、クーデター体制から「民政」への復帰準備を進めるタイは5人以上の集会禁止などの措置を当面継続する。各国は治安安定を最優先に掲げるものの、民主化に逆行し、反体制派の抑えこみを狙った強権支配へ回帰しているとの批判は根強い。
マレーシアは8月1日に施行した新法「国家安全保障会議(NSC)法」で軍や警察の権限を大幅に拡大した。首相を議長とするNSCは国会審議を経ずに全土で非常事態を宣言でき、指定する警戒区域内では治安部隊による令状無しの家宅捜索や逮捕が可能になる。
同国では6月に初めて過激派組織「イスラム国」(IS)が絡んだ爆発事件が発生。ナジブ首相は「テロの脅威に対応した」と語る。だが同首相は自身が絡む資金疑惑に対する批判の封じ込め姿勢を強めている。アムネスティ・インターナショナルは「NSC法は平和な反政府活動を抑えこむ道具」と非難している。
軍事政権下のタイは今月7日の国民投票で、総選挙実施に向けた新憲法草案を承認した。軍政は1年前にバンコクで起きた爆弾テロ事件後、言論統制を強め、国民投票前にも軍政に批判的なテレビ局の放送を停止した。
憲法草案承認を受け、2017年末にも形式上は民政復帰するが、少なくともそれまでは、軍が必要と判断すれば令状なしで身柄を拘束できるなどの強権的な措置が続く見通しだ。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は「(軍政下で)少なくとも1629人の市民が軍事法廷にかけられた」と懸念を表明した。
インドネシアでも1月に首都ジャカルタでISに近いとされる組織が爆弾テロを起こし、政府は警察権限を強化する法案を国会に提出した。テロ関与の疑いがある人物の拘束期間延長が柱だ。ただ同国内ではかつて30年以上も強権体制を敷いたスハルト元大統領時代、当局による反政府活動家らの拉致・殺害が相次いだ記憶が今も鮮明で、反対する声が出ている。
比較的治安が安定していた東南アでも最近はテロが相次ぐ。対策強化を求める声が高まっているのは確かだが、政府がその機運を政治目的に利用している感は否めない。
周辺国でもバングラデシュのハシナ政権は6月に「テロ情報がある」と1万1千人以上を一斉検挙したが、対象の多くが最大野党のバングラデシュ民族主義党(BNP)支持者ら首相の政敵だったとされる。大量検挙にもかかわらず7月に首都ダッカで発生し、日本人7人も犠牲になった飲食店襲撃を防げなかった。
東南アはかつて経済発展を優先して国民の政治的権利を制限する「開発独裁」で急成長を遂げた。その過程で人権抑圧や一部への富の集中を招き、優秀な人材が国外流出する弊害も生じた。グローバル化にも対応するため、各国は言論の自由の容認など段階的に民主化を進めてきた。各国政府がテロ防止を「口実」に強権回帰を加速すれば、国外からの投資停滞を招き、今後の経済成長にも悪影響を与えかねない。
麻薬容疑者700人殺害 フィリピン、国連から非難
【マニラ=佐竹実】治安維持を理由にした政府の強権発動が最も顕著なのがフィリピンだ。比国家警察によると、6月末のドゥテルテ大統領就任から8月22日までの約50日間で、712人の麻薬犯罪容疑者を殺害。比は職務執行中の正当防衛とするが、国連は「超法規的な処刑」と批判し、両者の溝が深まっている。
ドゥテルテ大統領が「6カ月以内に麻薬犯罪者を一掃する」と公約したため、薬物犯罪の取り締まりが甘いとされた比警察も摘発に本腰を入れざるを得なくなった。捜査の過程で容疑者が抵抗した際に殺害した、というのが警察側の説明だ。
警察ではない何者かによる容疑者の殺害も、同期間に1千人にのぼる。麻薬犯罪者同士の口封じが含まれるとの見方がある。1日に30人超という異例のペースだが、比国民の多くは現政権の強硬姿勢を歓迎している。
国際社会は批判を強める。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、「超法規的な処刑から国民を守るため必要な措置を取ることを求める」との声明を発表。元検事のドゥテルテ氏は21日、「無礼な内政干渉だ」と猛反発。「国連脱退も検討する」と言い放った。
ヤサイ外相は22日の記者会見で「我が国は国連創立メンバーの一つで、引き続き国連に関与する」と慌てて火消しに走りつつも「薬物との戦いは喫緊の課題で、法の支配に基づいている。超法規的というのであれば、証拠を示すべきだ」として不快感をあらわにした。
[日経新聞8月23日朝刊P.7]
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