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大学ランキング、順位独り歩きに危機感
アジア、東大が1位→7位 評価は一面的 留学人気左右、無視できず
欧米の教育情報誌が発表した「世界大学ランキング」が波紋を広げている。今回軒並み順位を下げた日本の大学は、評価が一面的で実態を正確に表していない、順位が独り歩きしかねないとして一斉に反発した。一方で、大学の国際的な位置づけを数値で知りたいという社会の要望は強く、政策目標としても使われている。批判も強いが、無視はできない大学ランキング。その実像を探った。
大学ランキングの老舗、英誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)がこの6月に発表した「アジア大学ランキング」は、日本の大学にとって衝撃的な結果だった。2015年に1位だった東京大学が7位に転落したのをはじめ、総じて順位を下げたからだ。
代わって躍進したのは海外勢だ。昨年2位のシンガポール国立大がトップに立ったほか、中国や韓国の大学が上位に入った。
産学連携、より重視
順位が大きく動いたのは、THEが評価方法を変えたという事情が大きい。評価項目は同じだが、点数配分を変更した。昨年33%を占めていた教育と研究の「研究者による評価」は25%に減り、海外の研究者らに評判がよい東大や京都大学にとってはマイナスとなった。一方「教員当たりの産学連携収入」は3倍の7.5%に引き上げられ、政府が企業と一体化させて強化している中国の大学の順位を押し上げた。
材料研究で活躍する東京工業大学教授の細野秀雄さんは、「競争力のある特許などを評価しておらず、研究力を正しく反映してない」と憤る。国内の主要11大学で組織する「学術研究懇談会(RU11)」は今月、「ランキングを政策方針や成果達成指標として安易に利用すべきではない」との声明を出した。
RU11のほか、大学と研究機関でつくる「大学研究力強化ネットワーク」も、ランキングで日本の大学の順位が急激に下がると、異議をとなえる声明を出してきた。
大学が神経をとがらせるのは、ランキングが留学生の人気や国の予算を左右するとの事情があるからだ。細野さんは「ランキングを見て、アジアの優秀な学生が日本の大学を選ばなくなったら大変だ」と危機感を募らせる。
ランキングはもともと、留学先選びの指標として作られた。2000年代に途上国が成長し、国境を越えた経済が拡大。よりよい職を求めて外国で高等教育を受ける人が増えた。THEは2004年から教育サービス会社のQSカッカレッリ・シモンズと共同でランキングを発表し、世界的に注目を集めてきた。
一方、中国政府は自国の大学の競争力を分析するため、上海交通大学にランキングの作成を依頼した。やがてTHEとQSがそれぞれ独自のランキングを発表するようになった。この3つが大学の「3大ランキング」と呼ばれる。
QSは評価項目に「大学職員の評判」を、上海交通大は「ノーベル賞とフィールズ賞を受賞した卒業生数」を加えている。米英の総合研究大学がランキングの上位に並ぶのは共通している。
THEやQSは大学を顧客に、ランキングで上位に入るためのコンサルティング事業を積極的に進めている。そのことも研究者らの反発を買っている。
政府目標に明記
政府は13年に策定した「日本再興戦略」に、国立大学法人の改革の目標として「今後10年以内に少なくとも10校を世界の大学ランキング100以内にする」と明記した。そのための具体的な戦略を大学に求めている。
ランキング事情に詳しい大阪大学教授の石川真由美さんは「大学が何をしているのか、社会への説明を求める圧力が強い時代になった」と、ランキングが注目される理由を分析する。日本の主な大学は毎年のランキングに一喜一憂しているわけではないが、無視もできない。
ランキングに指摘されるまでもなく、日本の大学には様々な課題がある。国際化が立ち遅れて世界の中での存在感は薄い。財政基盤が弱く、独自の運営ができない。博士課程に進む学生は減り、研究力もじりじりと低下している。
ランキングを上げるためでなく、直面する課題を解決するための方策を真剣に考えるべきときに来ている。
(編集委員 永田好生、草塩拓郎)
[日経新聞7月22日朝刊P.31]
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