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シリア国民を苦しめる諸悪の根源はアサド政権だ。訪問先の北京で、中国の王毅外相との会談後に記者会見するシリアのムアレム外相(2015年12月24日撮影)。(C)AFP/WANG ZHAO〔AFPBB News〕
ISより大量殺戮、シリアで国民を苦しめる諸悪の根源 イスラム国とシリア情勢、情報の正しい読み解き方(後篇)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45647
2015.12.31 黒井 文太郎 JBpress
IS(イスラム国)とシリア情勢をめぐるニュースで、その複雑さから、つい「カン違い」しがちなことが、いくつかある。前回(「有志連合とロシアの空爆はまったく違う」http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45646)は、以下の4つの基本的事実を紹介した。
(1)フランスもアメリカもロシアも、ISを壊滅させる規模の軍事介入をしているわけではない
(2)有志連合の空爆は、ISの進撃を阻止するのに成功している
(3)有志連合の空爆が住民の犠牲を抑えるように制限されたものであるのに対して、ロシア軍の空爆は無差別攻撃であり、多くの現地住民が殺害されている
(4)ロシアはIS討伐を口実に、実際には反ISのシリア反体制派を攻撃している
今回は、その他の誤解されがちな3つの基本的事実を紹介したい
■(5)諸悪の根源はISより、むしろアサド政権である
現在、欧州に殺到しているシリア難民が大きなニュースになっている。彼らがなぜ欧州を目指すのかというと、シリアにいては空爆によって生命が危険であり、さらに周辺国の難民キャンプでの生活が劣悪だからである。まさに生存のための逃避行だ。
もともと全人口が約2200万人程度のシリアで、住居を逃げ出して難民あるいは国内避難民となっている人は、約1100万人を超えている。国民のほぼ半分が流浪の民と化しているわけだが、それだけ彼らは日常的に生命の危機にさらされているということである。
では、彼らを殺しまくっているのは誰か? これについて誤解している人が非常に多い。多くの読者の方は、シリア難民のほとんどはISから逃げたのだろうと考えていると思うが、事実は大きく違う。彼らが難民化する最大の理由は、アサド政権による住民への無差別攻撃から逃れるためなのである。
これは、斬首動画をネットに公開したり、外国人の人質を惨殺したり、海外でのテロを扇動したりするなどの過激な行動から、ISが大きくニュースに登場したため、相対的にアサド政権の暴虐があまり報じられていないことが背景にある。
例えばシリア人権監視団によると、アサド政権は2014年10月20日から2015年11月20日までの13カ月間に、4万2234件の空爆によって、実に6889人の民間人を殺害してきたという(うち女性は969人、子供は1436人)。この空爆の内訳は、軍用機による空襲が1万9864件、樽爆弾による無差別攻撃が2万2370発である。
また、2015年10月にシリア全土で確認された民間人犠牲者960人(うち女性が135人、子供が191人)のうち、アサド政権とロシア軍の空爆で殺害されたのは495人(うち女性が70人、子供が130人)、アサド政権の刑務所で拷問死した民間人が51人、アサド政権やトルコ軍の砲撃あるいは爆弾テロなどで殺害されたのが330人(うち女性は45人、子供は42人)となっている。最後の330人の内訳は不明だが、攻撃頻度から考えてアサド政権の砲撃が主であることは疑いなく、合計すると10月だけで民間人犠牲者960人中おそらく700〜800人程度はアサド政権とロシア軍に殺害されたものとみていいだろう。
これに対し、ISに処刑された民間人は30人。有志連合の空爆で殺害された民間人は2人、ISや反IS系反体制派、クルド民兵などの砲撃で殺害された民間人は39人である。アサド政権と、ISあるいはその他の反体制派による犠牲者数は、桁がひとつ違うほど大差がついているのだ。
また、同様にその前月の2015年9月をみても、民間人死者1201人(うち女性が141人、子供が257人)のうち、アサド政権の空爆によるものが489人(うち女性が66人、子供が104人。なお、これにアサド政権による砲撃の犠牲者は含まれない)、ISによる処刑が41人(うち女性4人)、有志連合の空爆によるものが18人である。
同じく8月をみると、民間人死者1205人のうち、アサド政権に殺害された人が実に965人を占めている。それに対し、ISを含む諸勢力の砲撃で殺害された人は162人、ISに処刑されたのは32人に留まる。
つまり、ISや反体制派よりも圧倒的にアサド政権による一般住民の被害が大きいということが、こうした調査からも裏づけられる。
シリア人権監視団によると、2011年3月18日から2015年10月15日までの約4年半でのシリア内戦での犠牲者総数は25万0124人。そのうち民間人の犠牲者は11万5627人(うち女性が8062人、子供が1万2517人)である。
これらの民間人被害の圧倒的多数が、上記したようにアサド政権によるものだが、そこにカウントされた以外でも、同団体の報告によれば、アサド政権に拘留されて生死が不明な人が2万人以上、政府軍の進撃の後に行方不明となった住民が数千人もいるという。
他方、同団体の調査では、2014年6月にISがカリフ国宣言をして以降、2015年10月末までにISに処刑された民間人は1941人という。決して少ない数字ではないが、アサド政権による暴虐に比べたら桁違いに小さい。IS以外の反体制派による民間人殺害も、同様にアサド政権による大量殺人とは比較にならない。
他方、シリア人権ネットワークの統計では、アサド政権による民間人殺害が、10月末までに18万879人に達している(※人権監視団と人数が違うが、シリアでは一般住民のなかに、フルタイムの反政府軍戦闘員でない地元の自警団や自治組織に近い微妙な立場の人々も多くいることなどによるカウントの違いがあるようだ)。
それに比べて、反体制派(反IS系イスラム過激派「ヌスラ戦線」を除く)によるものが2669人、ISによるものが1712人、クルド人勢力によるものが379人、ヌスラ戦線によるものが347人、ロシア軍によるものが263人、有志連合によるものが251人である。
また、同じく11月末までの統計では、拘留後の拷問死が、アサド政権によって1万1644人、ISによって22人、クルド人勢力によって15人、(ヌスラ戦線を除く)反体制派によって15人、ヌスラ戦線によって12人である。
もとより紛争地域で正確な調査は困難であるし、統計の仕方にも各団体で違いはあるが、それでもこれだけ数字に大差がついていれば、殺戮の構図は一目瞭然である。さまざまな勢力が入り乱れて殺し合っているシリア内戦において、民間人を桁違いに殺しているのがアサド政権であることは明白だ。
シリアで日常的に起きていることは、住民たちが、次々とアサド政権に無残に殺害されているという地獄図なのである。
こうして家族や親族、友人を理不尽に殺害された人々は、命がけの抵抗を続けるだろう。その中にはイスラム過激派に身を投じる人もいる。仮に軍事的にISの勢力を封じ込めたとしても、アサド政権が続くかぎり、状況が収束することはないだろう。
アサド大統領の側も、これほど国民を殺害してきた以上、権力を失うことは死を意味する。独裁は刃向かう者を殲滅することでのみ存続できるシステムだ。アサド政権は自身のサバイバルのため、今後も住民の殺戮をどこまでも継続していくだろう。
こうしてシリアはひどい状況が続くことになるが、このように諸悪の根源はアサド政権なのである。
■(6)どの国も、自ら望んでISを空爆しているわけではない
反米陰謀論的な言説の中には、例えばアメリカが金儲けのためにシリアを空爆しているとの言説も散見されるが、典型的な根拠なき推測である。
米国防総省によれば、イラクとシリアでの空爆のため、2014年8月の空爆開始以降、米政府はこの12月までに52億ドルを支出している。ISのテロを抑えるという安全保障上の動機はあるが、それはアメリカだけの問題ではない。
シリア内戦に関しては、直接的にはアメリカの安全保障上の脅威ですらない。アメリカは2014年6月にイラクの首都バグダッドやクルド自治区の中心都市アルビルの近郊までISが迫ったことから、ようやく撤退したはずのイラクでの軍事的プレゼンスをしかたなく復活させた。シリアでの空爆はその延長にある。つまり、できればあまり関わりたくないところを、無理やり引きずり出されたようなものだ。
フランスも、アメリカに同調するかたちでイラクとシリアでの空爆に参加したが、きわめて小さな活動にすぎなかった。それが11月のパリ同時多発テロで多大な犠牲を出したことで、ISへの報復攻撃に乗り出さざるを得なくなった。フランスの空爆は政治的な意味合いが強く、本気でISを潰すことを狙うような規模にはならないが、それもフランス政府としては、テロによって引きずり出されたかたちである。
ロシアもまた、自分から望んで参戦したわけではない。事実上の同盟関係にあるアサド政権が、反体制派の攻勢で劣勢に陥り、イランとともにそのテコ入れのために軍事介入に動かざるをえなくなった。
このロシアの決断には、おそらくNATOの介入を避ける意味もある。ロシアが空爆を開始する直前の8月に、アメリカとトルコがシリア北部の一部地域を「安全保障地帯」化することに合意していたからだ。アメリカとトルコがシリア北部に少しでも軍事的プレゼンスを展開するということは、すなわちNATOが介入するということであり、そうなればロシアとしては後から介入するリスクが限りなく高くなる。
ロシアはこうした事態を避けるため、先手を打って軍事介入を行わざるを得なかった。ISへの空爆は、アサド政権支援の口実である。
ロシアは今、原油安の影響と、ウクライナ問題での西側の経済制裁で非常に経済が厳しい状況にある。ところがロシア空爆によっても反体制派は壊滅せず、アサド政権は一部で勢力を盛り返したものの、全体的にはいまだ勝利できていない。
ロシアとしては、アサド政権を防衛するためには長期にわたって軍事介入しなければならない状況だが、ロシアにとっての勝利は見えず、完全に泥沼にはまりつつあるといえる。
■(7)ロシアと有志連合は仲間ではない
ロシアは反体制派への攻撃に有志連合を介入させないため、対ISの空爆作戦での協調を盛んに有志連合、とくにアメリカとフランスに持ちかけている。フランスもアメリカも、ロシアが反体制派への攻撃ではなく、対IS攻撃に軸足をシフトするなら、そこに限定して協力関係を容認してもいいという意向を示している。
そのため「ロシアと有志連合はかなり接近している」との印象の言説が散見されるが、基本的に有志連合とロシアはシリア内戦において敵同士であり、その構図は変わっていない。また、ロシアが対IS戦でのキープレイヤーとしているアサド政権について、有志連合側は協力を一貫して拒否している。
12月18日、国連安保理では、シリア和平案が合意された。停戦から、将来的に選挙による新体制への移行までの民主化プログラムである。このため、和平が着実に進んでいるかのような印象を持った人もいるかもしれないが、実際にはそうではない。ロシアはアサド政権の存続を前提とし、米英仏はアサド退陣が前提で、そこに歩み寄りはない。
欧米主要国を恐れるアサド政権と、アサド政権の存続を狙うロシアは、盛んに有志連合との協力が進んでいるかのような印象の情報を発信しているが、彼らの願望にすぎない。和平交渉を実行するにあたり、アメリカ側が「アサド大統領の即時退陣」から「交渉プロセスを通じて退陣」に若干歩み寄ったことで、さもアメリカはアサド容認に転じたかのような言説が散見されるが、そういうことではない。
実際のところ、オバマ大統領は対ISを優先し、ロシアとの駆け引きのために事実上のアサド去就問題の棚上げともいえる政策をとっているが、仮にも民主制度の指導者が、アサド大統領のように、ここまで自国民を大量殺害した戦争犯罪人を公式に容認することはできまい。
オバマ大統領とすれば、アサド大統領はともかく、ロシアのプーチン大統領とは交渉したいと考えているかもしれないが、対外政策で強硬路線を貫くプーチン大統領との妥協の余地はあまりない。
■アサド政権とロシアのプロパガンダの手法
シリア情勢のニュースが分かりづらい1つの要因に、アサド政権とロシアによるプロパガンダが一部で拡散していることもある。典型例が次の2点だ。
「反体制派も多くの住民を殺害しており、住民の支持を得ていない」
「欧米と湾岸産油国が武器を持ち込んで内戦を煽った」
これらはいずれも、「一部の情報をさも全体のように誇張」する典型的なプロパガンダの手法である。
たとえば前者でいえば、前述したように、反体制派による民間人殺害は実際に起きている。しかし、その比率はアサド政権によるものとは桁違いに少ない。反体制派による民間人殺害が、全体からすれば例外的な事例に留まるのに対し、アサド政権は住民の虐殺そのものを「政策」として組織的に大規模に行っている。「どっちもどっち」ではないのだ。
また、後者でいえば、これも多少はあるものの、その数がきわめて小さいことは、シリア国内から伝えられる動画から明らかである。2015年夏頃からサウジアラビアが反体制派に供与しているとみられる米国製対戦車ミサイルが出回ってきたことが、それらの動画から伺えるが、それ以前は反体制派の武器の主流は、アサド政府軍から鹵獲(ろかく)したものが中心だった。
こうしたことは、現地から日々膨大にアップされている動画から読み取れる。いまや現地ではスマートフォンが広く流通しており、現地から証拠性のきわめて高い動画がリアルタイムでネット上にあげられているのだ。
アサド政権による無差別空爆(とくに樽爆弾によるもの)とロシア軍による空爆によって、今でも一般住民が毎日、数十人の規模で殺害され続けていることも、大量にアップされている動画によって証明されている。
それに対し、ISを除く反体制派の暴力を喧伝する情報など、アサド政権やロシアを擁護する情報には、証拠動画の裏づけがほとんどない。多くはアサド政権、ロシア、イランの政権御用メディアの根拠なき主張だけに基づいている。
こうした初歩的なプロパガンダを見分けるコツは、情報の根拠をチェックし、ネット上の証拠動画の傾向が分析されているか否か、あるいはそうした分析に論拠が基づいているか否かを確認することだろう。
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