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ロシアのシリア空爆は「無差別爆撃」だ。モスクワで年次記者会見に臨むウラジーミル・プーチン露大統領(2015年12月17日撮影)。(c)AFP/NATALIA KOLESNIKOVA〔AFPBB News〕
有志連合とロシアの空爆を一緒にしてはいけない理由 イスラム国とシリア情勢、情報の正しい読み解き方(前篇)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45646
2015.12.30 黒井 文太郎 JBpress
イスラム国やシリア情勢に関するニュースはちょっと複雑だ。
IS(イスラム国)という「悪役」がいて、それをなんとかしないといけないということで各国が動いているのは事実だが、それだけの単純な構図ではない。アメリカ、ロシア、フランス、トルコ、サウジアラビア、シリアのアサド政権、シリアの反体制派各派、イラク政府、クルド人勢力、イランなどの各勢力が、それぞれ別々の思惑で動いていて、非常に複雑な背景があるからである。
そのため報道の表面だけに接していると、なんとなく「カン違い」してしまいがちなことがいくつかある。そこで、とくにISを含むシリア情勢の問題について考える際に、まず知っておきたい基本的なことを挙げてみよう。ポイントは7つある。前篇と後篇の2回に分けて解説する。
■(1)どの国も、ISを壊滅させる規模の軍事介入をしているわけではない
有志連合やロシアによるIS攻撃の話題がしばしば報道されるので、まるで諸外国が大規模な攻撃をISに加え、殲滅作戦を開始するようなイメージを持つ人もいるかもしれない。9・11テロ後の対タリバン戦や、2003年のイラク戦争のようなイメージだ。
しかし、それはまったく違う。有志連合を率いるアメリカに、もとよりそんな気はなく、オバマ大統領はシリアでの米軍地上部隊の作戦を一貫して否定している。アメリカがたいして動かないなか、例えばフランスが突出して行動するわけもない。
ISに対しては、米軍を中心とする有志連合が2014年8月からイラクで、翌9月からシリアで空爆を開始しているが、米国防総省によると、2015年11月19日までの空爆の回数は計8289回。うちイラクで5432回、シリアで2857回である。シリアでいえば、約15カ月で2857回だから、平均すれば1日平均で6回強にすぎない。11月13日のパリ同時多発テロの後、石油関連の標的などで若干作戦が強化されているが、劇的に急増しているわけではない。
他方、ロシアは2015年9月末からシリアで空爆を開始しているが、シリア内戦での被害状況を現地情報網に基づき詳細に調査している民間組織「シリア人権ネットワーク」の12月17日の報告によれば(※クリミア占領や東ウクライナでのマレーシア機撃墜などの事例と同じく、ロシア当局の公式発表にはシリア関連でも虚偽の情報が多く含まれており、まったく参考にならない)、ロシア軍による空爆の85〜90%がIS支配地域ではなく、ISと対立している別の反体制派の支配地域に対して行われている。
ロシアはパリ同時多発テロ後に、エジプトでのロシア機墜落をISによるテロと急に言い出し、対IS攻撃を多少は強化したが、それでもまだ攻撃の主な目標が反IS系反体制派であることは変わりがない。つまり、ロシアはもとよりISを壊滅させる気などないわけである。
■(2)有志連合の空爆は、ISの進撃を阻止するのに成功している
有志連合の空爆は上記のようにきわめて限定的であり、それだけでISを壊滅させることはできない。そのため「空爆にはまったく効果がない」というような解説が散見されるが、それは大きな間違いだ。
空爆が限定的なのは、標的の選定が難しいからである。ISが占領している町村では、IS戦闘員は現地住民と混在している。また、ISの施設の多くも、住民のいる場所に設置されている。それらをやみくもに空爆すれば、民間人の巻き添えが続出ということになってしまう。
有志連合には「現地住民をISの暴力的な恐怖支配から救う」という大義名分もあるから、民間人の巻き添えは極力避けなければならない。無差別な絨毯爆撃を行えばISの戦力を一気に弱体化させることができるが、そういうわけにはいかないのだ。
こうした状況で町村に展開しているISを駆逐するには、地上部隊による慎重で緻密な制圧作戦が必要だ(※例えれば、立て篭もり凶悪犯に対する警察の制圧作戦のようなもの)。だが、肝心の地上戦力が不足している。空爆の効果の限界はそれに起因しているのである。
しかし、これらはISが占領している町村を奪回する作戦の場合だ。ISが他の町村に攻撃をかけている戦闘の最前線では、まったく事情が異なる。そうした場合、ISの戦闘部隊が町村を包囲する状況にあるが、それらの戦闘部隊に対しては、有志連合の空爆は多大な効果を上げている。IS戦闘部隊の周囲に地元住民が少ないため、有効な空爆が可能だからである。また、クルド勢力などの現地の反IS地上戦力が集中攻撃する場合でも、有志連合による支援が効果を上げている。
例えば、シリア北部のコバニや、イラク北西部のシンジャルなどは、地元クルド人民兵の戦いを有志連合の空爆が支援することで、IS放逐に成功している。有志連合の航空支援がなければ、ISはさらに多くの町村を占領し、ISがそれまで占領地域で行ってきたような地元住民に対する処刑などの凄まじい暴力支配が行われていたことだろう。
有志連合の空爆は、たしかに民間人の巻き添え被害も出しているが、それ以上に、ISの進撃を阻み、多くの命を救っている。後述するが、これまでの有志連合の空爆によるシリアでの民間人被害は数百人。比べてISによる民間人処刑は数千人とみられる(※さらにISは捕虜の処刑を大掛かりに行っている)。
日本の報道では、反米の立場から「有志連合の空爆は現地の人の生命を奪っているだけ」との言説を目にすることがあるが、空爆によって救われている多くの命の存在が考慮されていない。
■(3)ロシア軍の空爆は無差別攻撃、多くの現地住民が殺害されている
シリアでの空爆に対して、有志連合とロシア軍が区別されずに一緒くたにメディア解説されるケースが散見されるが、まったく別のものであることに留意する必要がある。有志連合の空爆が住民の犠牲を抑えるように制限されたものであるのに対して、ロシアの攻撃にそんな考慮はない。
シリア人権ネットワークによれば、10月末までの民間人犠牲者の死亡原因で、有志連合の空爆によるものは251人、ロシア軍によるものは263人である。有志連合の1年分より、ロシアの1カ月分が上回っているのだ。
これは、有志連合の空爆による民間人の殺害が「巻き添え被害」なのに対し、ロシア軍による空爆が、住民の被害をまったく考慮しない「無差別攻撃」であることを証明している。
同じシリア人権ネットワークの前述した12月17日の報告によれば、同時点までで少なくともロシア軍により殺害された人が戦闘員含めて583人確認されたが、そのうち民間人は実に570人にという(うち女性60人。子供152人)。いかにロシア軍が無差別に空爆しているかがわかる。
また、同組織によれば、11月の重要生活施設攻撃がシリア全体で158件確認されたが、そのうち有志連合によるものが11件なのに対し、ロシア軍によるものが60件に及ぶという。空爆の内容も、有志連合の主力である米軍は無人機による攻撃が多いが、それは慎重な偵察により誤爆を避ける意味もある。対してロシア軍は戦闘爆撃機による非精密誘導の大規模な市街地爆撃(クラスター爆弾を含む)が多いほか、はるか遠方の艦艇からの巡航ミサイル爆撃も行っている。
さらに、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は12月23日、9月から11月に行われたロシア軍の空爆のうち6件を調査した報告を発表したが、それだけで殺害された民間人は200人以上だったのに対し、反体制派戦闘員は約10人だったという。こちらでも無差別攻撃が裏づけられたといえる。
また、シリア内戦被害を最も詳細に調査し、国連機関や国際的な人権団体、大手国際メディアなどが最重要情報源としている在英組織「シリア人権監視団」の12月16日の報告によると、12月に入ってロシアの無差別空爆はエスカレートしており、12月1日から15日までの2週間だけで353人の民間人が殺害されたという(うち女性は60人、子供は94人)。
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