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2015年12月08日 (火) 午前0:00〜[NHK総合]
時論公論 「ロシア機撃墜 トルコ・ロシアの対立は」
二村 伸 解説委員 / 石川 一洋 解説委員
トルコとシリアの国境付近でロシア軍機が撃墜されてから2週間、ロシアはトルコに対する制裁に踏み切り、一方のトルコは頑なに謝罪を拒否し続けています。エルドアン、プーチンという個性の強い2人の指導者がぶつかりあい、テロとの戦いやシリアの和平への不安材料となっています。なぜ両国は強硬な姿勢を崩さないのか、今夜はトルコ・ロシア対立の背景と両国の思惑、そして地域への影響についてロシア担当の石川委員とともに考えます。
(二村)
撃墜事件が起きたのは、先月24日午前。トルコ軍のF16戦闘機がロシア軍のSU24戦闘爆撃機を撃墜しました。トルコ政府は「領空侵犯した国籍不明機に対し、10回警告したあと撃墜した」として正当な行為だったと強調していますが、ロシアとまったく主張が食い違っていますね。
(石川)
ロシアは、「撃墜はシリア上空で警告もなかった」とトルコの主張を全面的に否定し、トルコに経済制裁を発動し圧力を強めています。新鮮な農産物、観光、エネルギーとトルコといえばという分野を選んでします。宣伝効果は十分です。ただ決定的な経済関係への影響とは至らないようにした印象があります。
(二村)
ロシアにとっても自分の首を絞めかねないということでしょうか。
(石川)
トルコ資本はロシアでは予想以上の重みがあります。モスクワの金融センターの高層ビルを建設したのもトルコの建設会社ですし、大きなショッピングモールもトルコ資本が多いです。プーチン大統領は今後の制裁の拡大を示唆していますが、ロシア国内で活動するトルコ資本の制限にまで踏み込むのかどうか、ロシア経済にとっても打撃となるだけに簡単には拡大できない事情もあります。
(二村)
これ以上緊張を高めたくはないが、エルドアン、プーチン両大統領ともに振り上げたこぶしを簡単には下ろせないといったところではないでしょうか。
2人とも強い指導者として国民の支持率も高く、これまでは個人的にも親しい、いわばウマがあう関係でした。先月半ばのG20サミットでも仲良く会話する光景が見られました。
(石川)
プーチン氏は、エルドアン氏を独自性のある強い指導者とみていました。
(二村)
ところが、撃墜事件後は激しくやりあっています。トルコとロシアの対立は、2人の指導者の個人的な反目と、シリアをめぐる両国の思惑の違い、それに歴史的な確執が背景にあります。
(石川)
プーチン大統領にとって個人的な信頼関係は重要で、一度裏切者とみなすと、徹底的に締め上げるのがプーチン流です。「裏切者、テロリストの手先、背後から撃った」この非難はエルドアン個人に集中しています。プーチン氏の怒りが表れています。ただエルドアン氏以外へは非難を広げていないのは将来的なトルコとの関係を考えたうえでのことでしょう。
(二村)
対するエルドアン大統領は、「撃墜は国の安全を守るため」、「ロシアは感情的すぎる」と批判しています。安全保障にかかわる問題だけにエルドアン氏は簡単には謝罪できない事情もあります。ことし9月末ロシアがシリアへの軍事介入を始めて以来、トルコ領空をロシア軍機がたびたび通過したと非難し、撃墜も辞さないと警告してきただけに、それを無視するかのようなロシア軍の行為はこれ以上看過できなかったのです。しかもロシア軍機がトルコが支援するシリアの反政府勢力を攻撃していることに強い不満を持っており、撃墜は偶発的ではなく確信犯的な行為だったという人もいます。
(石川)
ロシアのエルドアン氏攻撃の最たるものは息子など親族がISから石油を密輸入しているというもので、マスメディアでもキャンペーンをはっています。この密売については国連安保理に提議するとしています。エルドアン氏の権威をトルコ国内でもそして国際的にも失墜させることを狙うとともに、ロシアによるシリア空爆とくにトルコの支援する武装勢力への攻撃を正当化する狙いもあるでしょう。
(二村)
「ISから石油を大量に密輸している」と言うプーチン大統領にの言葉はエルドアン大統領にとって喧嘩を売られたも同然です。「証拠があるなら出してみろ。あるなら大統領を辞めてもよい。もし証明できなければプーチン氏は辞めるか」と強気で、さらに「着物の中の石を出せ」と述べました。隠し事をしないで出しなさいという意味です。隠し事とはシリアプーチン氏の野望、シリアをめぐる思惑を見透かしての発言ではないでしょうか。
(石川)
ISの資金源となる石油の密売をどのように断つかは国際的な課題です。
(二村)
ただ紛争地帯での密売はテロ死式や犯罪組織も絡み、完全に断ち切るのは難しいですね。
次にシリアをめぐる両国の思惑の違いですが、先月ウィーンで開かれた会議で、各国はアサド政権と反体制派が参加する移行政権を半年以内に発足させ、1年半以内に国連監視下で選挙を行い、正式な政府を発足させるという日程で合意しました。しかし、トルコはアサド大統領の退陣を強く求め、ISより反政府勢力への攻撃を強めるロシアへの不信感も根強いものがあります。
(石川)
難しいのが反政府派の誰を穏健派とするかで、例えば今回パイロットを殺害したトルクメン系武装勢力をロシアは過激派として認めないでしょう。
(二村)
ロシアの空爆はアサド政権支援だけではないですね。
(石川)
「敵をロシア国内ではなく国外で叩く」という戦略です。チェチェンなどコーカサスでのテロは今は沈静化しているが、ISや反政府勢力には旧ソビエト出身者が多数いて、これがシリアから再びロシアに戻ることを恐れています。トルコがこうした過激派を支援しているのではないかとの疑いを深めています
(二村)
トルコ・ロシアの対立の背景の3つ目が、歴史的な確執です。オスマン帝国時代のクリミア戦争や露土戦争など過去10回以上戦火を交え、トルコはロシアを安全保障上の脅威とみなしてきました。トルコ人の中には今もロシアを警戒する人が多く、エルドアン大統領の強気の姿勢を支持しています。
(石川)
歴史的にはロシアはトルコの領土、勢力圏を奪うことで南下、領土を拡大してきました。冷戦時代もトルコはNATOの最前線でした。ただ逆にそれだけ戦っただけに、文化的、歴史的な結びつきは深いものがあります。トルコ系民族もロシア国内に多く住んでいますし、トルコの影響力がコーカサスや中央アジアで大きいことも分かっています。トルコとの対立はロシア国内にも波及しかねない危険性をはらんでいます。
(二村)
両国のシリアをめぐる覇権争い危険ですね。
(石川)
今後直接対決はないものの、軍事支援という形でアサド対反政府勢力の代理戦争が強まる恐れがあります。ロシアは撃墜事件をいわば奇貨としてシリアに最新の防空ミサイルシステムS400を配備しました。さらにロシアはイラン、イラクというシーア派系の政権と関係を強化することで、中東での影響力を強めています。
(二村)
一方、トルコはロシアとことを構える意思はありませんが、ロシア主導でシリア和平が進められ、この地域で影響力を増すのではないかと警戒しています。そのためにも強気の姿勢を崩さないのですが、それもEUとNATOの後ろ盾があるからです。アメリカをはじめとするNATO諸国はトルコの立場を支持すると表明しており、トルコはそうした力に守られながら落とし所を探っているのではないでしょうか。NATOにとってはトルコは対ロシアの最前線に位置する重要な国ですが、ウクライナ危機に次ぐ緊張要因とならないようトルコのいきすぎを警戒しています。小さな衝突が戦争を引き起こした過去の例があるだけにいかに事態を収拾させるか、2人の指導者の自制と決断にかかっています。
(石川)
ロシアもトルコとの対立をNATO全体との対立に波及させるつもりはありませんエルドアン・プーチン双方とも強権的ではあるが、同時に冷徹な現実的、実利的な政治家です。空爆のみでISの支配地を解放するのは不可能ですし、国民が離反したアサド政権のみでの勝利も不可能です。結局ロシアとトルコの妥協なしには、ISに対する大連合も成立しません。シリア和平のためにも妥協への模索を望みたい。
(二村 伸 解説委員/石川一洋 解説委員)
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/233379.html
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