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2015年11月27日 (金) 午前0:00〜
時論公論 「トルコ軍 ロシア軍機撃墜 衝突は回避できるか」・nhk
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/232613.html
石川 一洋 解説委員
ついに恐れていたことが起きました。
トルコとシリアの国境付近で、トルコ空軍のF16がロシア空軍のSU24爆撃機を領空侵犯したとして撃墜しました。プーチン大統領は「テロリストへの支援だ」と激怒、ロシアとNATO加盟国であるトルコの間で軍事的緊張が高まっています。フランスやアメリカは双方に自制を求めていますが、IS・イスラミックステートに対する国際的包囲網の結成も危うくしています。
きょうは撃墜事件の原因、ロシアの対応と現在の危険な状況、そして衝突は回避されるのか、こうした点を中心に解説いたします。
どこで撃墜事件が起きたのか
撃墜事件が起きたのは、シリア北部、トルコとの国境地帯です。トルコとシリアの国境が入り組んでいます。この地域では、トルコ系の少数民族の武装勢力がアサド政権に対して戦いを続けています。
トルコがこの武装勢力を支援していました。ロシアはアサド政権の地上軍を支援しながらトルコ系武装勢力を空爆していました。そこで撃墜が起きたのです。
トルコはロシアのSU24がこの細い領空を侵犯したとしていますが、ロシアは、トルコ領空には入っていないと否定しています。アメリカ国防総省の分析では、SU24はトルコ領空を侵犯したが、撃墜されたのはシリア領空だったとしています。
何故事件は起きたのか
●まずトルコが何故ロシア空軍機を撃墜したのでしょうか。直接的にはロシア軍機が領空を侵犯したためとしています。しかしトルコの説明でも侵犯したのは十数秒というごくわずかな時間で、撃墜というのは過剰反応とも思えます。
私はそれよりも、「ロシアがトルコ系の武装勢力を国境近くで空爆していた」ことに、トルコとして黙視できなかったのではないかと見ています。
つまりロシアは「ISではなく穏健派の武装勢力」を空爆しているという不満です。トルコ系の武装勢力はトルコが反アサド勢力の中核として育てたもので、ロシア軍が武装勢力に空爆を続けることへの強烈な不満と警告をいわば示したのではないかと思います。トルコはもともと国境地帯のシリア側に飛行禁止区域を設けて反政府勢力を保護したいと考えており、今回の撃墜は、いわば実力でそうした飛行禁止区域をロシアに認めさせようとしたようにも見えます。
●これに対してロシアのプーチン大統領は感情的とも思える反発を示しています。
「背後からの銃撃で、テロリストへの支援行為だ」
ロシアはアメリカとの間では偶発的な衝突を避けるためにそれぞれ毎日の空爆の飛行コースなどを事前に連絡することで合意していました。
プーチン大統領は、トルコはアメリカからロシア空軍機の飛行コースなどを事前に知って、いわば待ち伏せして撃墜したのではないか、そしてトルコだけでなくアメリカも事実上撃墜を黙認したのではないかと疑っているのです。
また武装勢力も旧ソビエト出身者の多いアルカイダ系の過激派組織だとしていて、穏健派とするトルコ側の評価と全く異なります。そもそもロシアはトルコがISを支援し育て、今もISから原油を密輸して、それがISの主要な資金源となっているとみています。
今回の撃墜事件は、ロシアとアメリカやトルコなど有志連合がISの打倒という大目標では一応一致するものの、それぞれの利害と思惑が全くバラバラであるシリア空爆の実態をさらけ出したと言えます。
衝突激化の危険な状況
私が懸念するのはロシアとトルコの衝突の激化です。
トルコはNATOのメンバーです。集団的自衛権と相互支援条項に元つき一カ国への攻撃はNATO全体への攻撃を意味します。もしもロシアとトルコが軍事衝突することになれば、アメリカを含むNATOとの紛争に拡大しかねません。アメリカやNATOが「トルコの領土一体性を尊重する」と述べているのは、トルコがNATOの一員であることを思い起こさせ、そのことによってロシアの行動を抑制させようとしているのでしょう。
もちろんロシアはそのことはよく分かっており、軍事的手段での報復は除外しているとしています。
しかし現場の状況は緊迫し、こうした事件が再び起きて偶発的衝突が拡大する恐れがあります。ロシア人の血が流されているからです。今回の撃墜事件では緊急脱出装置を使って脱出したパイロットと救援に向かった海兵隊員が、トルコ系の武装勢力の銃撃によって殺害されています。パラシュートで脱出した無抵抗の軍人が殺されたことにロシアは激怒しています。トルコへの直接の報復はないものの、ロシアがトルコ系の武装勢力に軍事報復を行う可能性は強いでしょう。
そこは撃墜事件が起きた入り組んだ国境地帯で、トルコ軍が18機のF16を配備するなど厳重な警戒と即応体制を取っています。しかもロシアは、今度は、防空システムを備えたミサイル巡洋艦をシリア・トルコ沿岸に派遣し、また陸上の基地にも最新の防空システムS400を配備して、同じような状況になったらトルコ軍機を逆に防空ミサイルで撃墜するとしています。
今回のような撃墜事件が再び発生する恐れはこれまでになく高まっていると言えます。
どのように衝突の激化を回避すべきか
アメリカなど国際社会はロシアとトルコの緊張激化を非常に懸念して、双方にこれ以上の衝突を回避するよう自制を求めています。
地域大国のトルコと核大国のロシアが衝突すれば、ISへの戦いへの包囲網どころではなくなります。
●フランスのオランド大統領は、26日モスクワを訪問、まもなくプーチン大統領と会談し、トルコとの対立をこれ以上激化しないよう説得するでしょう。ロシアとフランスはISのテロの犠牲になった国同士として、すでに軍同士が情報を共有するなど密接な連携を取りつつあります。今後偶発的な衝突を避けるためにも、フランス、ロシアに加え、アメリカ、トルコなどとの間でも情報の共有などのメカニズムを作ることが話し合われるものと見られます。
●より根本的には、ロシアとアメリカ、フランス、トルコなどがシリアの将来とISとの戦いについて共通の目標で一致し、大連合を築くことです。
フランスは、パリ同時テロ事件の後、ISに対するロシアも含む大連合の結成を唱えています。24日オランド大統領と会談したアメリカのオバマ大統領は、ロシアがアサド政権の支援ではなくISとの戦いに集中するのなら、ロシアとの大連合は可能との考えを示しました。
フランスとロシアは共通理解を深めていますが、アメリカとロシア、さらにトルコや中東諸国とロシアの間には大きな溝はまだ残っています。アサド大統領の扱いと反政府勢力の誰が穏健派なのかという区分けの問題です。
この溝を克服するためには、ロシアとアメリカが中心となり、フランス、トルコ、イラン、それに中東諸国の外相が合意したウィーン合意を着実に実行に移すことです。
ウィーン合意では、今年末までにアサド政権と反政府勢力が対話を始め、できるだけ早く停戦を実施するとしています。そして移行政権の発足、一年半後の選挙の実施などを目標としています。
ISとの戦いとともにシリア和平の政治プロセスを並行して進めることが衝突の回避に不可欠です。ロシアはアサド政権支援一辺倒ではなく、アサド政権と反政府勢力の対話に軸足を移すべきでしょう。アメリカとトルコなど反政府勢力を支援してきた国々もアルカイダ系への支援をやめ、対話の窓口となる反政府勢力は誰なのか決めるべきでしょう。
まとめ
ロシアにとってトルコは中国、ドイツなどに次ぐ第五位の貿易相手国であり、またロシア産ガスの第二位の購入国です。また両国は新たなパイプライン建設で合意するなど地政学的な連携を深めてきました。
プーチン・エルドアン両首脳の信頼関係も良好でした。そのロシアとトルコの関係が危機に瀕しています。
一機のロシア軍機の撃墜。それは様々な国際的な事件の中では小さな事件かもしれません。 しかし過去小さな事件から大きな戦争に至った事例は幾つもあります。
核大国のロシアとNATO加盟国のトルコ。両国の指導部は、個人的な感情に流されることなく、緊張の緩和と衝突の回避に向けて、直接対話に乗り出すべきでしょう。関係する大国の責任ある行動を望みます。
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