1. 2015年11月26日 14:19:48
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焦点:イスラム国との経済戦争、米国が投入する「新兵器」[ワシントン 24日 ロイター] - 米軍機は先月来、シリア領内にある過激派組織「イスラム国」の石油関連施設を攻撃している。イスラム国に対する経済的な締め付け強化の一環で、これにより同組織の石油ヤミ市場での収入は約3分の1減少したと米国は試算している。 米軍の作戦担当者は、攻撃目標を見つけるための手掛りの一部として、従来とは異なる情報源を頼りにしている。それは銀行の取引記録にアクセスすることで、どの石油精製所・油井がイスラム国の資金源になっているかの把握が可能と、現旧当局者らは指摘する。 その目的は、イスラム国が今も維持しているグローバル金融システムとのつながりを追跡することにより、同組織の資金源を断つことだ。 この取り組みに詳しい筋によれば、イスラム国の資金の出入りを見極めれば、イスラム国のヤミ経済がどのように機能しているか、その一端を米国は垣間見ることができる。 13日に発生したイスラム国によるパリ攻撃以前に開始され、その後さらに強化されている空爆においても、こうした情報が、目標決定の際に影響を及ぼしているという。イスラム国による公式の銀行取引は制限されているが、ある程度の利用は今でも可能であり、米軍及び金融監督当局はこれを逆用することができると、現旧当局者は述べている。 「イスラム国を公式の金融システムからほぼ締め出すという点で、私たちは大きな成功を収めた」と、ジョージ・W・ブッシュ前大統領政権下の米財務省で情報担当副次官補を務めたマシュー・レビット氏は述べている。「完全に締め出したとは言えないのだが、それも実は悪いことではないかもしれない」 この作戦がいつ始まったのか、また具体的にどの施設が結果的に破壊されたのかといった重要な側面については今回の取材では検証できなかった。2人の現当局者から作戦の概略については確認がとれたものの、詳細についてはコメントを取れなかった。 米政府の「対テロ金融作戦」に取り組んでいる同国の情報機関、財務省、軍の当局者が、イスラム国に潤沢な資金をもたらしているシリア領内の石油関連施設の特定に際して、銀行の取引記録をどのように利用しているのか、また国内銀行が関与しているのかといった点は不明である。 政府間会合である金融活動作業部会(FATF)の今年のレポートによれば、イスラム国の支配領域内では20以上のシリア系金融機関が営業を行っている。イラクでは、米財務省がイラク政府当局者と連携し、同グループの支配領域内の銀行支店をイラク国内及び国際的な金融システムから切り離した。 米連邦捜査局(FBI)で対テロ金融作戦部門の主任を務めるジェラルド・ロバーツ氏は、シリア以外から徴募されるイスラム国メンバーは金融取引の経路を維持していることが多く、当局はこれに「便乗」して資金ルートを追跡しているという。 ロバーツ氏は先週ワシントンで開かれた銀行業界のカンファレンスで、「彼らが通常の銀行システムを使っているのは分かっている」と述べ、さらに、若年のイスラム国メンバーはテクノロジーに強く、「ビットコイン」などの仮想通貨にも詳しいと話した。 前出のレビット氏によれば、「IS」、「ISIS」、「ISIL」などの略称で知られるイスラム国は、他の手段を用いるには金額が大きすぎるために、やむなく市中銀行を利用する場合もあるという。 米財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)では一連の「ビジネスルール」を用いて、金融機関から受領する1日約5万5000件の報告から、イスラム国関連の活動の兆候を選別していると、FinCENの広報担当者は語る。 ルールそのものについての説明は拒否されたが、当局筋によれば、情報当局が照合を試みるデータとしては、氏名、IPアドレス、メールアドレス、電話番号などがあるという。 この照合によってFinCENは、「見た目では無関係な個人・団体を結びつけることができる」とFinCEN広報担当者は語る。イスラム国との関連が疑われる金融活動の手掛りが発見される件数は、4月の800件から、現在では月間約1200件に増えているという。 米政府に金融取引報告を提供しているかどうかについて、バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)(BAC.N)、JPモルガン(JPM.N)、ウェルズファーゴ(WFC.N)はコメントを拒んでいる。こうした報告は非公開で提供されている。 シティグループ(C.N)、HSBC(HSBA.L)、スタンダード・チャータード(STAN.L)からは、問い合わせに対する回答を得られていない。 <「第2次津波作戦」開始> 当局者によれば、イスラム国関連の金融取引記録の利用は、シリア領内での空爆に向けた情報収集活動の一部に過ぎない。ドローン(無人機)による空中偵察などの手法も用いられている。 こうしたプロセスに詳しい元軍幹部の1人は、FinCENが収集した金融情報に基づいて軍が行動する場合は「かなりの事前調査」が必要になるだろう、と話している。 国防総省の広報担当者によれば、今月行われた米国主導の有志連合による空爆で、イスラム国の石油密輸に使われる燃料輸送車116台が破壊された。攻撃の45分前には運転手に逃亡を呼びかけるリーフレットが散布されていた。これに加えて21日には、イスラム国の燃料輸送車283台が有志連合の攻撃によって破壊されたという。 また、8日には、有志連合の空爆により、トルコ国境に近いシリア領内の石油精製所3カ所が破壊された。 米国が「史上最も裕福なテログループ」と呼ぶイスラム国は、国防総当局者によれば、10月までは月4700万ドル(約58億円)もの収益を石油の密売によって得ていた。 米軍は10月に、石油関連施設に対する攻撃強化作戦を開始。作戦名「第2次津波(タイダルウェーブ)」は、ルーマニアの油田を標的とした第二次世界大戦中の爆撃作戦にちなんでいる。 この攻撃によるイスラム国の石油密売収入への影響についてはこれまでのところ報告されていないが、当局者によれば、約30%減収したと国防総省は見ているという。今回の取材では、その裏付けは取れなかった。 米軍による攻撃目標の選択に、金融取引記録が用いられているということが最初に明らかにされたのは、先週ワシントンで開かれた銀行業界のカンファレンスだ。米特殊作戦軍で対テロ金融チームを率いるカート・グレジンスキー氏は、このカンファレンスの席上、イスラム国に対する戦いにおいて銀行が提供する情報の重要性に言及した。 「私の記憶では、対テロ金融情報に基づいて戦略的に攻撃目標を定めたのは、あれが最初だった」と同氏はカンファレンスで語っている。具体的にどの攻撃を指しているのかについて、同氏はコメントしなかった。 <強靱な財務ポートフォリオ> オバマ政権の考えに詳しい2人の元当局者によれば、資金供給が締め付けられれば、イラク及びシリアの支配領域に対するイスラム国の統制が徐々に弱まっていくというのが米当局の考えである。イスラム国としても、給料を支払い、公共インフラの運営を維持していくために収入が必要だからだ。 だが専門家は、オーストリアほどの面積を支配しているイスラム国は、さまざまな財源を手中に収めているため、驚くほど資金に恵まれていると警告する。戦略国際問題研究所のテロ専門家トーマス・サンダーソン氏によれば、イスラム国は、石油密売、物資強奪、古代遺物の密売を資金源とする「持続力のある強靱な財務ポートフォリオ」とでも言うべきものを築き上げているという。 「ラバの背中に資金を積んで運ぶことだってありうる」と同氏は語り、「略奪と混乱の時代には、国境を越えて何かを移動させることなど簡単だ」とも指摘する。 今のところは、ある程度の成功を収めているものの、イスラム国への資金流入を断つには、トルコからロシアに至るさまざまな国との協力をもっと深める必要がある、というのが専門家の見方だ。イスラム国は、支配下の石油関連施設に対するこれまでの米国の攻撃から立ち直る力を見せている。 テロ対策専門家によれば、米国は湾岸地域の富裕層からの支援に強く依存していたアルカイダの資金源を断つことに成功したが、イスラム国はそこから教訓を得ているようだという。 「ISは、あまり多くの外部資金源に頼りすぎるのは良くないということを学んでいる」とサンダーソン氏。「外部の寄付者は気まぐれで、圧力に負けやすい。(ISは資金源を)自分でコントロールしたいと思っている」と同氏は語る。 (Yeganeh Torbati記者、Brett Wolf記者) (翻訳:エァクレーレン) http://jp.reuters.com/article/2015/11/26/france-shooting-usa-sanctions-idJPKBN0TF0B020151126?sp=true |