3. 2015年11月10日 13:02:18
: OO6Zlan35k
プーチン大統領のシリア介入に悲鳴上げる親ロ国 泥沼化の危険高まり、次々打ち切られる対外支援 2015.11.10(火) 藤森 信吉 シリア首都近郊の空爆で民間人23人死亡、ロシア軍の攻撃か シリア反体制派の拠点ドゥマの空爆後、戦闘機の飛行音が響く中で避難する人々(2015年11月7日撮影)〔AFPBB News〕 ロシアがシリアにおける軍事行動を本格化させるなか、その持続性に注目が集まっている。 ここ数年、ロシアは、APEC(アジア太平洋経済協力)サミット、ソチ五輪と大規模な財政支出を伴う国家的プロジェクトを連発してきた。クリミア併合もこのリストに加えられよう。 さらに現在、ロシアはウクライナ東部の紛争に介入し非公式な形で軍事援助を行っているが、それに加えてのシリア派兵である。 しかしながら、エネルギー価格の低迷が長期化する中で、こうした散財を維持できる財政基盤は確実に弱まっている。 しばしば、ロシアはコスト度外視で勢力圏あるいは親ロ地域(在外同胞)の支援・維持に余念がないといわれる。しかし、仔細に観察すると、ロシア政府は政策の「集中と選択」を行っていることが見て取れる。 ロシアの介入コスト Jane's(英国のジェーン年鑑)の分析によれば、ロシアはシリアに空軍機と攻撃ヘリコプター、整備その他要員2000人規模を派遣し、これに加えて誘導ミサイル、艦艇を作戦に投入している。 こうしたフローのコストは1 日当たり400万ドルと見積もられる(基地設置などの固定費用は含まれない)。これらの出費は当然、ロシア財政に負担をかける。 仮に今の介入ペースが1年間続けば約15億ドルとなり、2015年度ロシア国防予算の3%に相当することになる。 さらにロシア政府は、シリアに対する経済援助も計画している。 一方で、シリア空爆は、ウラジーミル・プーチン大統領の支持率を過去最高に押し上げている。 ロシア世論のプーチン大統領支持率は過去最高の89.9%を記録(10月17-18日調査、全ロシア世論調査センター)、シリア空爆支持率は53%(10月23-26日調査、Levadaセンター)で不支持率22%を上回っている。空爆は同時に、軍需産業に少なからず利益をもたらすことになろう。 ロシア政府は、シリアのアサド政権スポンサー活動に加え、親ロ的、あるいは同胞が住む諸地域への支援も続けている。 例えば、アブハジア共和国、南オセチア共和国といったジョージアからの分離独立を目指す勢力である。 また、ドンバスの両人民共和国に対しても軍事援助に加え、天然ガスの供与や人道援助を行っている。沿ドニエストル共和国に対しても、ガス供与、年金負担などの援助を行っている。以上のロシアの対外スポンサー活動費をまとめると、次のようになる。 2015年度のロシアの対外スポンサー活動費。(出所)Reva Bhalla, “The Logic and Risks Behind Russia’s Statelet Sponsorship” その他から筆者作成 公式、非公式をひっくるめると、ロシアの対外スポンサー費用は年50億ドルに達し、連邦予算の3%に迫る。 縮小に向かうドンバス事業 上記の表を見ると、域内人口、面積が大きいドンバス(ウクライナ東部のルガンスク/ドネツク人民共和国)の費用が突出していることが分かる。 このうち、ロシア政府の公式援助は、人道援助物資(ロシア非常事態省が組織)だけであり、天然ガス供給はガスプロム社の未回収金として計上される。 軍事援助や財政援助は公式には認めていないが、昨年8月以降、ドンバスに居座る数千人規模の軍事力の存在や、現在の人民共和国の公務員給与・年金の支給状況から見て、何らかの経路を通じてロシア政府が負担していることは確実だ。 このドンバス事業が、ロシア政府の中で整理対象とされている。 ロシアの目的は2月のミンスク停戦合意に表われているように、この地域に自治権を付与して、ウクライナ内にとどめることにある。そうすることで、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を阻止し、かつ財政はウクライナ側に負わせることができる。 実現すれば、ローコスト・ハイリターンな事業となる。そのため、ロシア政府はドンバスの人民共和国の「国家承認」や「ロシア連邦への編入」を考えていない。 しかし、現実には、ミンスク合意の履行は進まず、停戦状態で何の進捗もないまま、悪戯にロシア政府の負担だけが積み重なっている。さらに夏以降、人民共和国側が、ウクライナ法を無視して地方選挙を強行する構えを見せてきた。 ミンスク合意によれば、2015年末までに、人民共和国はウクライナ法に準拠した地方選挙実施しなければならないのだが、ウクライナ側の法改正の動きは満足できるものではなかった。 両者が対立したまま人民共和国で地方選挙が実施されれば、ミンスク合意は有名無実化し、現状が既成事実化してロシアの負担だけが続くことになる。膠着状態を打破するための軍事攻勢は、シリアに軍事介入している現状では困難だ。 10月初めにパリで開催された4者サミット(ドイツ、フランス、ウクライナ、ロシア)において、プーチン大統領は、軍引上げやウクライナ側による国境管理の回復で譲歩を見せた。さらには、地方選挙を延期させることも約束したのだ。 これに先立ち、人民共和国内のロシア編入派が排除されている。例えば、ドネツク人民共和国のナンバー2であるプルギン人民議会議長が議長職から解任されるという事件が9月に起きている。 プルギン氏は、ウクライナ側との武力衝突で功績があった人物で、人民共和国内でロシア編入派の急先鋒だった。親ロ的であろうと、こうした人物は、今のロシア政府にとって迷惑な存在である。 ミンスク合意が完全に履行されれば、ロシアは軍事力を撤収でき、ロシアが負担している行政費用やガス供給もウクライナ側に押しつけることができる。つまり年数十億ドルを浮かすことが可能となるのだ。 スポンサーの豹変により、人民共和国指導部は梯子を外された格好だ。そもそも、人民共和国政権は、ウクライナからの分離独立・ロシア連邦編入を目指しており、ウクライナ領内の構成体にとどまる考えを持っていなかった。 10月25日に行なわれたクライナの統一地方選挙の向こうを張って、今秋に独自に地方選挙を行うことを計画していたが、ロシアから説得され、渋々、選挙実施を撤回、ウクライナ法に準拠・OSCE基準による国際選挙監視団の受け入れの下で、2016年春に選挙を行う決定を表明した。 目下、人民共和国は、ミンスク合意の履行(ウクライナ領内にとどまる)という彼らが全く望まない未来に向けて歩んでいるところなのである。 抱え込まれる南オセチアとアブハジア、死に体の沿ドニエストル ドンバスに同様に、事業の継続性が危ぶまれているのが、沿ドニエストルである。 経済危機は深刻化しており、年金・給与の財源にも欠くほどである。沿ドニエストルのシェフチューク大統領は頻繁にモスクワ詣を繰り返しているが、ロシアから追加の経済支援策の声は聞かれない。 いわば、現状維持(すなわち追加投資しない)であり、自らが手を打たなければ、GDP成長率マイナス15%が2年連続する可能性が高まる。 困窮した沿ドニエストル政権は、域内でアンタッチャブルな存在であった巨大企業体「シェリフ」からの徴税強化を目的としたオフショア課税策を発表、シェリフ系議員と大統領との対立が激化している。 それとは対照的に、南オセチアとアブハジアは2016年度のロシア連邦予算枠で、それぞれ1億ドル超の財政援助を受けられることが決定されている。この額は2015年度予算から倍化している。 同じ非承認国家であってもロシアの援助政策から、ドンバス事業からは撤退、沿ドニエストル事業へは追加投資なし、南オセチアとアブハジアは丸抱えで継続、という明確なラインが見て取れる。 シリアの1か月分の戦費で、死に体の沿ドニエストル経済を1年間支えられるのだが、ロシア政府の選択は前者であるようだ。世論は沿ドニエストル支援もシリア空爆も支持しているが、一般国民の目にアピールするのは空爆だろう。 「サーカスとパン」から「大砲かバターか」へ 現在のシリア介入はいつまで続くのか、そして拡大しないのか。介入1カ月を経過して、戦果が上がらないため、地上要員が当初の2000人から4000人に増員され、さらに何人かの犠牲者が出ているとの報道も出ている。 ロシア政府も世論も、ソ連時代のアフガニスタン介入の悪夢を意識している。 ロシアの世論調査(10月23-26日、Levadaセンター)によれば、シリア介入が「新たなアフガニスタン」となる、あるいはその可能性が高いと回答している者が35%に上り、可能性は小さい(41%)と拮抗、全くあり得ない(9%)を圧倒している。 シリアでも既にその兆候が出ているが、ひとたび介入してしまうと、撤退は容易ではない。さらに、テロによる犠牲者が出れば、報復に打って出なければならなくなる。 ウクライナ東部では、当初、小規模な工作部隊による煽動であったものが、昨年8月に人民共和国が瓦解の瀬戸際に追い込まれると大規模な軍事援助を実施、さらにウクライナ政府が、財政やライフラインをカットすると、「人民共和国」を支えるために毎月、数千万ドルを流し込むという泥沼にロシアは引き込まれている。 アフガニスタンやイラクから撤退できない米国同様、ロシアも平和維持・現政権支援のために、撤退できない状況が訪れないとは限らない。 現在のところ、シリアの年間戦費は年金の年間予算の約1%である。しかし、対外スポンサー費が膨れ上がり、エネルギー価格低迷が継続するのであれば、「大砲かバターか」を選択せざるを得ない経済状態になる。 その場合、国内から数々の対外スポンサー活動に対する不満が出てくるかもしれない。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45208 |