5. 2015年10月20日 02:00:09
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アフガニスタンの泥沼にはまり込んだオバマ大統領 出口の見えない辛い旅路 2015.10.20(火) Financial Times (2015年10月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)タリバン、東部の州都にも攻勢 アフガン、治安部隊が撃退 アフガニスタンの首都カブールで撮影された治安部隊〔AFPBB News〕 故リチャード・ホルブルック氏によると、バラク・オバマ大統領はアフガニスタンについて議論する際にベトナム戦争に言及することを一切禁じた。オバマ氏の「アフパック*1」特別代表として2010年に仕事中に倒れて死去したホルブルック氏は、米HBOの感動的なドキュメンタリー番組「ザ・ディプロマット」で墓場から戻ってくる。 来月の初公開は、時折あるタイミングの皮肉だ。ホルブルック氏は、オバマ氏が決めたアフガニスタンへの期限付き米軍増派はうまくいかないと明言していた。 国を安定させるには、米軍駐留の期間が短すぎ、部隊が手を広げすぎることになる、というのがその理由だった。ホワイトハウスはホルブルック氏を排斥した。 ところが先週、オバマ氏は暗黙のうちにホルブルック氏の主張を認めた。米軍はオバマ氏の大統領の任期が終わった後もアフガニスタンに残ることになった。これがどこで終わるのかは誰にも分からない。 ベトナム戦争との類似点 ベトナム戦争との対比は大げさかもしれない。1968年のベトナム戦争のピーク時には、米国は50万人以上の兵士をベトナムに配備していた。一方、アフガニスタンには現在9万8000人の米兵が駐留しており、オバマ氏はほぼ来年いっぱい、この水準を維持する構えだ。ベトナムで6万人近い米兵が命を落としたのに対し、アフガニスタンでの死者数はこれまでで2500人足らずだ。 だが、厄介な類似点もある。サイゴンでは、カブールと同様、米国はゲリラ戦を繰り広げる一途な敵を相手に、成果を出せない文民政権を支えるのに苦労した。アシュラフ・ガニ大統領率いるアフガニスタン政府は、前任のハーミド・カルザイ氏の政府ほど腐敗していないかもしれないし、腐敗の度合いでは、サイゴンで米国が支援した歴代指導者よりはるかにましかもしれない。 だが、いまだに、言及に値するようなアフガニスタン空軍は存在しない。一方、米国が訓練を施したアフガニスタン軍では、相変わらず任務放棄が多発している。誰もタリバンを訓練していないのに、タリバンはアフガン全土で領土を奪還し続けている。 *1=AfPakはアフガニスタンとパキスタンを合わせた造語。米国の外交政策関係者の間で使われ、両国を1つの作戦区域として指す言葉 それ以上に重要なのは、オバマ氏の新計画に確かな終盤戦のプランがないことだ。この頭痛の種は、オバマ氏の後継者に受け継がれることになる。ベトナムとの類似点が最も著しいのは、ここだ。 ホルブルック氏がキャリアのスタートを切ったのは、南ベトナムだった。 押しの強い若手外交官だった同氏が上司らに言い続けたように、米国は、何千人もの人命喪失は国益によって正当化されないということを理解するのを拒んだ。 外国勢力、特にソ連と中国がベトコンの反乱を煽るのを食い止めない限り、米国は負ける、と同氏は主張した。 同じことがアフガニスタンにも当てはまる。パキスタンを正真正銘のパートナーに変える計画がなければ、それが書かれた紙より価値のあるアフガン戦略は存在しない。ホルブルック氏は、自分の仕事は両国を含んでおり、アフパックには均等に重点が置かれなければならないと主張した。オバマ氏は15日の演説で、アフガニスタンを28回引き合いに出した。これに対し、パキスタンに言及したのは2度だった。 アフガニスタンは新たなシリアと化すのか では、この最新のアフガン計画はなぜ、過去の計画より大きなインパクトを与えるのか。与えない、というのがその答えだ。最新の計画はそもそも、そのように意図されていない。オバマ氏の部分的な方針転換は、14年間の米軍駐留のひどく脆い成果を支えることを目指している。大統領の決断は、米軍の司令官、特にアフガニスタン駐留米軍トップのジョン・キャンベル司令官の圧力を受けたものだった。 オバマ大統領、アフガニスタン駐留米軍の撤収断念 10月15日、米軍のアフガニスタン駐留の延長についてホワイトハウスで演説したバラク・オバマ大統領〔AFPBB News〕 キャンベル司令官は今月米議会で、タリバンが支配領土を拡張していると述べた。 また、アフガニスタンで急速にフランチャイズ組織を広めている「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」を撃退するために、イランが今、タリバンに資金を供給していることを示す証拠もある。そうなると、イランは味方なのか、敵なのか。これは答えるのが難しい問題だ。 それが何であれ、アフガニスタンは新たなシリアと化す恐れがある。ただし、1つ異なる点は、ここに地上部隊を派遣しているのが、ウラジーミル・プーチン大統領のロシアではなく米国だということだ。 3つの教訓 アフガニスタンはオバマ大統領に厳しい教訓をいくつか与えた。1つ目は、アフガニスタンは米国の政治的な思惑に一切配慮しないということだ。オバマ氏は、アフガニスタンとイラクでの戦争を終わらせるという公約に基づいて政権の座を手に入れた。米軍の兵士は全員帰国すると約束していた。先週、大統領はこの公約を撤回し、勇気を見せた。オバマ氏が退任する時、アフガン、イラク両国に数千人の米兵がいることになる。 イラク、アフガン両政府の脆さ、および双方を脅かすイスラム過激派の強さを考えると、次期大統領もオバマ氏の約束を果たすことはないだろう。 オバマ氏の大統領在任期間はむしろ、イスラム主義との世代的闘争における――善意から出たとはいえ――混乱した小休止として記憶される可能性が高い。 第2に、アフガニスタンは大部分において、問題の症状にすぎない。パキスタンは、それよりはるかに大きな問題だ。オバマ氏は今週、パキスタンのナワズ・シャリフ首相と会談する。パキスタンは相変わらず複雑怪奇だ。一方では、パキスタンは自らが生み出したタリバンというフランケンシュタインの犠牲者と化した。昨年のペシャワルの軍営学校に対する野蛮な襲撃事件が1つの転換点となった。 その一方で、シャリフ氏の率いる文民政権は依然、パキスタン軍の掌中にあり、その軍部はシャリフ氏の場当たり的な実績に苛立ちを募らせている。パキスタン軍はまだ国家内国家だ。パキスタンの軍部は、国内ではイスラム主義勢力にあまり寛容ではないかもしれないが、アフガニスタンではいまだに「戦略的縦深性」に固執している。 パキスタン軍がアフガニスタンのタリバンへの支援をやめたと考える人は誰もいない。オバマ氏には、パキスタン情勢を変える計画がない。そんな計画は誰も持っていない。その間にも、パキスタンは核兵器の生産を増強している。これが1面のニュースになっていないということ自体、気がかりなことだ。 第3に、ホルブルック氏の歴史的な対比は筋が通っている。ベトナム戦争の教訓は今日的な意味を持っている。2001年以降のアフガニスタンから得られる教訓も同様だ。「どんなことも可能に思えた、タリバンが去った後の黄金期に、米国は我々がここで何をしているのか説明しなかった」。ホルブルック氏は映画の中でこう語る。 米政府はまだこれをはっきり説明していない。米軍が引き続き、決断を主導している。タリバンは勢力圏を拡大している。そして米国の指導者たちは依然、自分たちがコントロールする力をほとんど持たない出来事に翻弄されているのだ。 By Edward Luce http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45034 |