13. 2015年10月08日 07:04:52
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国連安保理常任理事国はいずれも恐るべき死の商人 『ドローン・オブ・ウォー』と『ロード・オブ・ウォー』が語る「武器の今」 2015.10.8(木) 竹野 敏貴 米オレゴン州の大学で銃乱射、死者10人 容疑者死亡 銃乱射事件が起きた米オレゴン州ローズバーグにあるアンプクア・コミュニティー・カレッジで、学生の持ち物を検査する警官(2015年10月1日撮影)〔AFPBB News〕 10月1日、オレゴン州ローズバーグのアンプクワ・コミュニティ・カレッジで、銃乱射事件が起き、少なくとも10人が死亡した。 こうした「スクール・シューティング」は、米国ではたびたび起きている。そして、そのたび、銃規制強化の声が上がる。しかし、世論は二分され、結局、先に進まない。 2期目を迎える際にも規制への強い決意を述べたバラク・オバマ大統領は、今回も、「米国は数か月ごとに銃撃事件の起こる唯一の先進国。我々の感覚は麻痺している。法律を変えなければならないが、私だけではできない」と語っている。 「今世界に5億5000万の銃がある。12人に1丁の計算だ。残る課題は1人1丁の世界」 世界には8億7500万丁の銃 アンドリュー・ニコル監督の『ロード・オブ・ウォー』(2005)は、武器商人ユーリーのそんな言葉から始まる。 少々数字は変わるが、「Small Arms Survey 2007」には、世界の銃器数は8億7500万、軍警察など公的所有物を除けば6億5000万、そのうち、米国だけで2億7000万、とある。 つまり、米国に限れば、ユーリーの目標はおおむね達成していることになるのだ。実際には、複数保有者も少なくなく、成人3人に1人程度らしいのだが。 で主人公を執拗に追い続けるインターポール捜査官は語る。 「世界平和のためには核を追うべきか?」 「違う。戦争犠牲者の9割が銃で殺されている。AK47こそ真の大量破壊兵器だ」 そんな捜査官を演じるイーサン・ホークは、現在劇場公開中のニコル監督最新作『ドローン・オブ・ウォー』(2014)(原題は「Good kill」)では、ドローンで遠隔爆撃する任にある空軍少佐を演じている。 1万キロ離れた米国内基地のエアコンの利いたコンテナからミサイル攻撃を行い、成功すれば「Good kill」と言う。戦闘機乗りとは違い、身の危険は全くない。 しかし、パイロットならすぐさま知ることもない爆撃地の「攻撃成果」確認のため、主人公は、死体数のカウントまでする。 そして、12時間の勤務を終えれば、車に乗って家に帰り、妻子とバーベキューパーティをしたりする。そんな生活に違和感を覚え、酒に浸り、PTSD(心的外傷後ストレス障害)と言える状態にある。 やむを得ない被害 その攻撃は「標的殺害」である。しかし、非戦闘員の巻き添え被害は少なくない。劇中、新人女性空兵の口から、「戦争犯罪では?」という言葉が出るケースさえある。巻き添え犠牲者は、「悪い時」に「悪い場所」にいた、ただ、それだけで命を落とす。 こうしたことに、「コラテラル・ダメージ」という言葉が使われる。目的達成に付随する「やむを得ない被害」だというものである。 アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『コラテラル・ダメージ』(2002)は、コロンビア内戦に介入する米国に対し、反政府ゲリラがロサンゼルスで起こした爆弾テロで家族を失った米国市民が主人公。 テレビで「米国がコロンビア国民にしていることと同じ。犠牲者は気の毒だが、コラテラル・ダメージだ」とのコメントを聞き、怒りを覚えたシュワルツェネッガーは、単身、コロンビアへと向かう。 そして、そのゲリラ支配地域潜入劇も、「米国民間人」である主人公救出作戦も、多くのコロンビア人巻き添え犠牲者を出す。 麻薬が経済を潤していようが、ゲリラの支配地域だろうが、いまあるコミュニティで暮らしてきた普通の人々である。米国の憎むべきテロリストその人さえも、かつて米国がグアテマラ介入していた頃、家族を失った過去があり、おそらく「コラテラル・ダメージ」扱いされたのでは、という設定である。 この映画は、当初、中東政策をめぐる物語だったが、コロンビアに設定変更されたうえで撮影、公開予定は2001年10月5日だった。しかし、9・11同時多発テロが発生。その内容から、公開は遅れ、翌年2月へとずれ込んだ。 9・11後、兵器開発は加速、ドローンの武器化も進んだ。オバマ政権となって、依存度が増したとも言う。もちろん、偵察、監視といった元来の役割も持ち続けている。実際、どう対処しているかは不明だが、ドローンが飛べば、自軍兵士とて「監視」されることもあるだろう。 『ハミングバード』(2013)の主人公はアフガンで活動していた英国人元特殊部隊軍曹。襲撃で仲間たちを失い、独断で現地人を「処刑」する様をドローンが撮影していたことから、軍法会議で重罪は免れないと考え逃亡、今はロンドンで酒浸りのホームレス生活を送っている。 しかし、世界一とも言われる監視都市ロンドンである。そこでの生活も至る所で撮られている。もちろん、空からも・・・。 国家に差し出した自由 『ギヴァー 記憶を注ぐ者』(2014)は、そんな監視が日常となった近未来の「コミュニティ」が舞台。主人公の友人もドローン操縦士として、コミュニティを「見守る」役割を果たしている。 貧困も飢えも争いも知らない平等で安全なコミュニティは、一見、完璧な世界である。しかし、秩序ある均一世界を乱す恐れがあるとして、人々は過去の記憶を持たないようコントロールされている。 そんななか、ただ1人記憶を持つことができるのが「ギヴァー」と呼ばれる者。コミュニティで重要な役割を果たし尊敬される例外的存在の記憶を受け継ぐべく、「レシーヴァー」となった青年が主人公の物語である。 そこでは、誰もが長老が決めた仕事につく。監視されていることにも何ら抵抗がない。個人の自由はない。あるのは均一、そのための異質の排除。平等社会を達成するため、差別しているのである。 しかし、疑問を持つ者はいない。そう教育し、維持するシステムが出来上がっているからである。犯罪やテロから守るという言葉で、近年、国家に自由を差し出す傾向が強まるなか、考えさせられる。 10月1日、防衛相の外局「防衛装備庁」が発足、武器などの防衛装備品の開発、輸出といったことを一元的に担うことになった。経団連は、9月、武器輸出などを「国家戦略として推進すべき」と提言している。 『ロード・オブ・ウォー』の主人公は、殺人が日常茶飯事の環境で育ち、使われるのが「俺の銃でもいいはずだ」「大金は国家間の戦争で動く」と考え、武器商人となった。 インターポールに御用となっても、 「仕事で付き合ってきた独裁者たちの何人かは、君たちの敵の敵だ」 「最大の武器商人は合衆国大統領。輸出量は1日で私の1年分。証拠を残したくない取引もある。そんな時は、私みたいなフリーランサーに託すのだ」 「私を悪と呼ぶのはいい。だけど君らの必要悪なのさ」 と語り、自分はいずれ釈放される、と思っている。そして最後、 「個人経営の武器商人も繁盛しているが、最大の武器供給者は米英露仏中である」 「この5か国は国連安保理常任理事国でもある」 と字幕が告げ、映画は終わる。もう1つ付け加えれば、これらすべてが核保有国である。 そんな映画を見ていると、心配になるのが、日本の武器の行方・・・。 (本文おわり、次ページ以降は本文で紹介した映画についての紹介。映画の番号は第1回からの通し番号) (1084)ロード・オブ・ウォー (1085)ドローン・オブ・ウォー (1086)コラテラル・ダメージ (1087)ハミングバード (1088)ギヴァー ロード・オブ・ウォー 1084.ロード・オブ・ウォー Lord of war 2005年米国映画 (監督)アンドリュー・ニコル (出演)ニコラス・ケイジ、イーサン・ホーク、ジャレッド・レト、ブリジット・モイナハン 幼い頃、ウクライナから移民したユーリーが住むニューヨークのリトル・オデッサでは殺人は日常茶飯事。新聞を見ても、撃ち合いばかり。そこで考えた。「これが俺の銃でもいいはずだ」と。「大金は国家間の戦争で動く」とも。 武器商人となったユーリー。しかし、冷戦期の取引は政府間が中心。だから、闇取引を始めた。1984年、自爆テロ後のレバノンが最初の大仕事。米軍は、去る時、輸送にカネがかかるから武器を置いていく。それを安く買い叩いたのだ。 冷戦期は歴史上最大の兵器生産時代。ソ連もせっせと作った。ソ連崩壊。敵が消え、武器バザールが始まった。稼ぎ頭はAK47「カラシニコフ」。冷戦終了で政治は不要となった。紛争地域で、双方と商売すればいい。 2000年、週1回は西アフリカに出張している。リベリアではブラッドダイヤモンドで支払いを受けた。 そんなユーリーを、インターポール捜査官バレンタインは執拗に追いかける・・・。 ビクトル・ボウトなど実在の武器商人をモデルに、アンドリュー・ニコルが脚本を書き監督。高いエンターテイメント性の中で深刻な問題を提起する「死の商人」物語である。 ドローン・オブ・ウォー 1085.ドローン・オブ・ウォー Good kill 2014年米国映画 (監督)アンドリュー・ニコル (出演)イーサン・ホーク、ブルース・グリーンウッド、ゾーイ・クラヴィッツ 2010年.かつてF-16パイロットとして多くの出撃をこなしたトミーは、いま、ラスベガス郊外の空軍基地にあるエアコンの利いたコンテナ内で、紛争地を飛ぶドローンを遠隔操作し爆撃している。 12時間の仕事を終えると、家で妻子とバーベキューパーティをするような日々である。 トミーのチームはCIAの対テロ作戦に参加することになった。集団の行動パターンから武装勢力と判断すれば標的攻撃するもので、電話を通し送られてくる命令に従い爆撃。 母国にいながらにして戦争をしている、ディスプレイを通し爆撃する、そんな日常に、トミーは酒におぼれ、家族ともうまくいかず・・・。 『ガタカ』(1997)『ロード・オブ・ウォー』(2005)に続きアンドリュー・ニコル監督作出演のイーサン・ホークの寡黙な演技が、ドローン攻撃の現実を静かに語る。 コラテラル・ダメージ 1086.コラテラル・ダメージ Collateral damage 2002年米国映画 (監督)アンドリュー・デイヴィス (出演)アーノルド・シュワルツェネッガー ロサンゼルス、コロンビア総領事館前で爆破テロが発生。消防隊長ゴーディーは、近くのカフェで待ち合わせていた妻子を失った。コロンビアの反政府組織ALCの「ウルフ」がコロンビアに介入する米国を糾弾する犯行声明を出した。 コロンビア政策を「和平」とする米国政府は様子見。捜査は進まず、今回のテロ被害者は「コラテラル・ダメージ」とのコメントもテレビで流れた。 国には期待できないと感じたゴーディーは、単身、コロンビアへと向かった。様々な困難を切り抜けゲリラ支配地域に潜入、「ウルフ」への復讐劇が始まった・・・。 「コラテラル・ダメージ(副次的被害)」とは、軍事行動などの目的達成に付随する「やむを得ない被害」を表す言葉。被害者サイドから言えば「巻き添え」のことである。 当初、2001年10月の公開を予定していたものの、9・11同時多発テロが発生。その内容から、公開は翌年2月へと延期された。『沈黙の戦艦』(1992)『逃亡者』(1993)で知られるアンドリュー・デイヴィス監督によるアクション大作である。 ハミングバード 1087.ハミングバード Hummingbird 2013年英国映画 (監督)スティーヴン・ナイト (出演)ジェイソン・ステイサム、アガタ・ブゼク アフガニスタンで特殊部隊軍曹だったジョゼフは、戦場での行為で軍法会議にかかることを恐れ、戦闘ストレスで収容されていた陸軍病院から逃亡した。 1年後、ロンドンでホームレス生活を送るジョゼフにとって、数少ない心の通う存在がイザベルだった。 ギャングによるホームレスへの取り立てから逃げ、飛び込んだ高級アパートの住人はたまたま長期不在。知人になりすまし、そこで新生活を始める。 裏社会で稼ぎながら、連れ去られたイザベルを助けようと考えるジョゼフ。ホームレスの世話をする修道女とも気持ちが通じるようになった。しかし、イザベルが惨殺されたことを知り、犯人捜しを始め・・・。 『堕天使のパスポート』(2002)でアカデミー脚本賞候補となったスティーヴン・ナイトの監督デビュー作。 ギヴァー 1088.ギヴァー 記憶を注ぐ者 The giver 2014年米国映画 (監督)フィリップ・ノイス (出演)ブレントン・スウェイツ、ジェフ・ブリッジス、メリス・ストリープ (原作)ロイス・ローリー 貧困も飢えも争いも知らない平等で安全な近未来「コミュニティ」。人々は過去の記憶をもたず、長老たちが決めた仕事に何の疑問も持たずにつき、平穏な日々を送っていた。 ジョナスの職は、名誉ある「レシーヴァー」に決まった。ただ1人、過去の記憶を持つ「ギヴァー」から記憶を受け継ぐ大役である。 記憶の授受が始まった。 「色」「音楽」「愛」・・・全く知らない世界に触れる日々。しかし、戦争の残酷さ、均一社会実現のため行われる「解放」の真実までも知り・・・。 表面的にはユートピアを実現したかのように見える社会の闇を描くロイス・ローリーの同名の世界的ベストセラー児童文学の映画化。 人気絶頂の歌手テイラー・スウィフトが「ギヴァー」の娘役として出演。主題歌はOneRepublicが担当している。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44942 |