6. 2015年10月05日 13:14:49
: OO6Zlan35k
シリアを空爆、またもや詭弁を弄したプーチン 「IS討伐」はどこへ?目的はアサド政権のアシスト 2015.10.4(日) 黒井 文太郎 ロシアがシリア空爆開始、「IS標的」を米が否定 民間人犠牲か ロシア国防省の公式ウェブサイトで公開された、シリアでの空爆の様子とされる映像からの一コマ(2015年9月30日取得)。(c)AFP/Russian Defence Ministry〔AFPBB News〕 ロシア軍は9月30日、シリアでの空爆を実行した。場所は中部の町ホムス北方のエリアが中心だ。ロシア側はISの拠点を攻撃したと主張しているが、実際にはそこにはISはいない。同エリアを押さえているのは、アサド政権やISと対決している反政府軍の諸派である。つまりロシア軍は、ISの敵対勢力を攻撃したことになるわけである。 なぜロシアがそこを攻撃したのかというと、アサド政権を助けるためだ。実際のところISの支配地は、現在アサド政権が押さえている同国西部エリアからは遠く離れている。アサド政権は現在、軍事的に劣勢にあるが、その主要な敵は、ISではない反政府軍なのだ。したがって、アサド政権からすれば、ISよりも他の反政府軍を攻撃してもらえるのがいちばん助かることになる。 もっとも、ロシアはかねてISの脅威を喧伝しており、アメリカを中心とする有志連合にも「一緒にISと戦おう」と呼びかけていた。したがって、今回の空爆に至る過程でも、さかんに「IS討伐」を掲げていた。しかし、実際に行ったのはIS攻撃ではなく、他の反政府軍への攻撃である。言ってきたこととやっていることが違うわけだが、ロシアはそれを正当化する詭弁を巧みに使ってきている。その手法を、今回の事態に至る流れを振り返って検証してみたい。 最初から部隊の展開を準備していた まず、ロシアがシリアに部隊を密かに展開し始めたのは、8月半ばのことだった。当時、プーチン政権はシリアへの軍事支援は公式に認めていたが、ロシア軍の直接展開は否定していた。しかし、ロシア軍の最新式の装甲車両や戦闘機の映像が現地から流れ始めた。それに対し、ロシア側は非公式なリークのかたちで、同月末には空軍部隊の派遣を認めている。この時点のロシアとしては、まだあまり国際社会で騒がれたくないのか、言論上の反応はきわめて小さい。 9月に入ると、ロシア軍はシリア国内で飛行場の拡張工事を始め、戦闘機部隊を大々的に展開するようになった。人道支援物資の搬入との名目で軍事物資を大量に運び込み、空港には防空システムも配備し、また地上戦部隊も続々と送りこんだ。明らかにロシア軍が本格的に軍事作戦を行うための準備だった。 これは当然、メディアでも大きく報じられ、国際社会で問題視されたが、ここでもロシア側は事態の矮小化に努める。「派遣している部隊は、あくまでアサド政権を支援する軍事顧問団であり、ロシア軍の軍事作戦は考えていない」と主張したのだ。こう主張し続けながらも、当然ながら部隊の展開は着々と進められた。もうこの時点で、言っていることとやっていることは乖離していた。 国際社会ではロシアに対する警戒が高まるが、それに対し、9月15日、プーチン大統領は「テロとの戦いにアサド政権支援は必要」と発言し、論点を「アサド政権は是か非か」というものに持っていく。プーチン大統領の発言自体は、作戦参加は明言せず、あくまで軍事支援強化を正当化するための発言だったが、これもプーチン大統領得意の論点ずらしであろう。 翌16日には、ロシアはアメリカに対し、軍当局同士の調整を提案している。これはロシアが軍事作戦を計画していることを示しており、さらに9月18日、ロシアは「アサド政権の要請があれば、部隊の派遣を検討する」と発表する。ロシアはこのように、最初はシラを切り、後で少しずつニュアンスを変えていくという手法を多用するのである。 それでもロシアは軍事作戦をぎりぎりまで否定した。9月27日には、プーチン大統領自身が米メディアのインタビューに「戦闘部隊を配置する計画はない」「シリアで行われるいかなる作戦にも参加しない。現時点でその計画はない」と明言している。ちなみにすでにその時点で大規模な戦闘部隊が配置されているが、そこはシラを切りとおしている。 さらに翌28日には、プーチン大統領が国連総会で演説し、「シリアの合法政権はアサド政権だけ」と主張し、有志連合の軍事介入を非難した。ただし、同時に、アサド政権を中心に国際的に協力してISを討伐することの必要性を強調している。「みんなで一緒にISと戦おう」ということである。 これは前日のインタビューの内容に反し、ロシア軍が空爆に参加することを含んだ発言で、アメリカはこれを非難したが、一方では現場で偶発的衝突が発生しては困るため、同日の米露首脳会談では、衝突回避の調整を行うことが合意された。プーチン大統領はわずか1日で、「軍事作戦は考えていない」から「一緒にISと戦おう」に主張の軸を変えたのだ。 ぎりぎりまで否定していた軍事作戦 それからのロシアの動きは電光石火の早業といえる。 9月30日、ロシア議会はシリアでの軍事作戦を容認。ロシア政府は「アサド政権の要請」として空爆参加を決定した。ただし、この時点でのロシアの発表では「シリア軍のISに対する掃討作戦の航空支援に限定する」ということだった。 しかし、ロシアは同日中にアメリカに対し、衝突回避のために有志連合の空爆を控えるよう要求し、その日のうちに空爆を実行した。つまり、28日に「作戦に参加しない」「戦闘部隊を配備する計画はない」とプーチン大統領が明言してから、わずか2日後に空爆を実行したことになる。もちろん2日で準備などできないから、もともと計画されていた作戦であり、プーチン大統領は嘘を言っていたことになる。 ロシア軍が開始した空爆の内容は、当初明言していた「アサド政権の作戦の航空支援」などというものではなく、ロシア軍が独自に行う空爆作戦であり、しかも冒頭に示したとおり、標的もISではない他の反政府軍だった。言うこととやることが、真逆といっていいほどだった。 ちなみに、この空爆は反政府軍の部隊を狙ったものばかりではなく、反政府軍エリアの一般住民を対象に行われ、住民に多くの犠牲者を出した。その数は初日だけで少なくとも30人以上で、それ以降も連日発生している。ロシア軍は空爆に先立ってかなり綿密にこのエリアを無人機で偵察しているから、この民間人殺戮は誤爆とはいえない。IS支配エリアでの有志連合の抑制された空爆と違い(誤爆や巻き添えは発生しているが1年間でも二百数十人程度)、アサド政権支援のためなら一般住民をいくらでも殺しても構わないというのがロシアの考えなのである。 こうした反IS派の反政府軍エリアに対するロシア軍機による空爆は、被害現場が撮影されており、ほぼリアルタイムでネットを通じて明らかにされた。その証拠性は明白で、欧米主要国政府、主要な国際メディア、専門家の多くも確認した。 ところがロシアは、それでも詭弁を弄した。「攻撃したのはISの拠点だ」「精密爆撃であり、民間人被害などはない」「そのような情報は偽情報だ」と言い張ったのである。 しかも、当初は「IS討伐で協力しよう」と有志連合に呼びかけていたのに、今度は「ISとテロリストを攻撃する」と言い方を変えた。また、「唯一の合法政権であるアサド政権の要請」ということもさらに強調するようになっている。これはつまり、「アサド政権がテロリストと認定する相手はテロリストなので攻撃していい」ということにする布石といっていいだろう。介入の端緒では国際社会の反発を抑えるために「対IS」を強調しておきながら、次の段階では、アサド政権の敵を攻撃するというロシアの本来の目的を正当化しようというわけだ。 10月2日現在、ロシアは反政府軍の中でも、アメリカも攻撃目標にしているアルカイダ系のヌスラ戦線などを「テロリスト」とみなす印象戦術をとっており、世俗派の自由シリア軍を「テロリストでなく、政治交渉相手のひとつ」としているが、実際にはすでに自由シリア軍系部隊への攻撃も行っている。つまり、これも欺瞞である。 自由シリア軍もアサド政権の主敵だから、今後もロシア軍は標的にするだろうが、その場合、攻撃対象のことはおそらく「自由シリア軍を勝手に名乗るテロリスト」とでもいうのだろう。 なお、今後、おそらくロシア軍は、アリバイ作りのために多少はISへの攻撃も行うだろうが、それはきわめて限定的になるだろう。なぜなら、ISを壊滅してしまうと、残されたアサド政権の暴虐ぶりに再び焦点があてられ、国際社会でその正当性が問題視されることになるからだ。アサド政権の温存のためには、ISが地方限定の「みんなの敵」として存続したほうが都合がいいのである。 したがって、アサド政権とロシア軍は、軽いジャブのようなレベルでIS攻撃を繰り返しながら、その何倍もの勢いで彼らが「テロリスト」と呼ぶ反政府軍への攻勢を強めるであろう。その過程ではさらに多くのシリアの人々の血が流され、さらに多くの難民が発生することになるはずだ。 クリミア半島を手に入れたときとまったく同じ 以上のように、プーチン政権のやり方は、目的を実現するため、一気に事態を動かすというものだ。その際に、政治的な配慮というものはほとんどせず、一直線に物事を進めていく。スピード重視で既成事実を積み上げるのである。 ロシアが既成事実を確立してしまえば、アメリカといえども衝突を恐れて迂闊に手は出せない。プーチン大統領はそれを熟知しており、オバマ大統領が物事を先延ばしにしている間に、次々に軍事介入の実績を積み上げている。 プーチン大統領の狡猾なところは、その強引な実力行使と同時に、自らを正当化する詭弁を忘れないことだ。これまで見てきたように、「現時点では」とかいった言い回しを多用し、変転する主張を強引に正当化するわけである。 そして、そんな詭弁でも正当化できない状況に対しては、徹底的にシラを切る。一分の躊躇もなく嘘をつき、絶対に妥協しない。このプーチン大統領の手法は、昨年にクリミア半島を手に入れたときとまったく同じである。 こうした「目的は強引にでも実現する」「それを正当化する詭弁を弄する」「正当化できないものには堂々と嘘をついてシラを切りとおす」という詭弁と欺瞞の手法 は、まさにかつてのソ連共産党の手法そのものである。プーチン大統領はKGBという旧ソ連システムの中枢で育ってきた人物であり、そのマインドを強く受け継いでいるのであろう。プーチン政権の強引な対外軍事介入は、ウクライナへの介入でも同じだが、完全に冷戦期の手法の復活といえる。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44919
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