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人民解放軍が弾道ミサイルを発射する動画「3D模擬奇島戦役」の一場面。動画の再生回数はすでに100万回を超えている
中国軍が在日米軍を撃破する衝撃の動画 沖縄の米軍に大量のミサイルが降り注ぐ
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44790
2015.9.17 北村 淳 JBpress
先週の本コラムでは、9月3日に北京で挙行された「抗日戦争勝利70周年記念軍事パレード」と歩調を合わせて、中国艦隊がアラスカ州アリューシャン列島沖のアメリカ領海内で“パレード”し、アメリカ海軍を憤慨させたエピソードを紹介した。
しかし、中国によるアメリカ軍人の神経を逆なでする動きはそれにとどまらなかった。直接人民解放軍当局が発表したものではないが、「某軍事同盟軍が中国に奇襲攻撃を仕掛ける。中国人民解放軍が反撃し、その軍事同盟軍の島嶼に位置する基地を占領する」というシナリオの動画がネット上を駆け巡り、再び米軍関係者を憤慨させている。
3D模拟夺岛战役:中国军力全景展示 3D CG PLA Island Retaking Battle
■「侵略者」日米同盟の奇襲を受けて反撃
この「3D模擬奇島戦役」と銘打ったシミュレーション動画は、人民解放軍の基地が攻撃される場面から始まる。そして「20××年に、某軍事同盟が国際法を無視して海洋での紛争を引起し、綿密に計画された奇襲作戦によって、いくつかの人民解放軍基地が攻撃された」というテロップが流れる。わざわざ「某国」ではなく「某軍事同盟」としているのは、明らかに日米同盟を暗示している。同様に「綿密に計画された奇襲作戦」はまさに真珠湾攻撃を暗示しており、「抗日戦争勝利70周年記念」を意識した演出だ。
日米同盟側の奇襲攻撃を受け中国共産党政府は「平和を回復するために、やむを得ず敵戦力を戦いによって撃破するために、全面的反撃を開始する」ことを決定する。すなわち、中国はあくまで自衛のための戦争を実施するのであり、日米同盟側が侵略者なのだ。
反撃の場面に切り替わり、まず登場するのが、第2砲兵隊のミサイル格納基地から「東風15B」「東風16」「東風21D」といった弾道ミサイルを搭載したTEL(地上移動式発射装置)をはじめとする第2砲兵隊車列が出撃する場面である。
そして、それらのミサイルには非核弾頭が搭載されることをわざわざ表示しており、あくまで中国には米中全面戦争に発展させる意図がないことを強調している。つまり、通常兵器のみが使用され、地域的にも南西諸島の“ある島”(当然ながら沖縄)にとどめた限定的局地戦争のシナリオであるということである。
「東風15B」(DF-15B)弾道ミサイルは、射程距離800キロメートルと言われており、台湾と南西諸島を攻撃するために投入される弾道ミサイルである。そして9月3日の軍事パレードで姿を現したDF-15Bの改良型である「東風16」(DF-16)は射程距離が1000キロメートルに延伸され、台湾や南西諸島のみならず九州も射程圏に収めている。
DF-15B(赤線)とDF-16(青線)の射程圏(ピンの位置から発射した場合
また、同じく抗日戦争勝利70周年記念パレードで初登場した「東風21D」(DF-21D)弾道ミサイルはアメリカ海軍が強く警戒している対艦攻撃用の新兵器である。これは、中国だけが開発に成功している(と中国当局は主張している)弾道ミサイルで、人民解放軍の説明によると、航行中の大型艦艇(アメリカ海軍の航空母艦や強襲揚陸艦、それに海上自衛隊のヘリコプター空母など)に命中させることができ、1発目で航行不能に陥らせ2発目3発目で撃沈させる、ということである。
■人民解放軍の恐るべきミサイル攻撃
さて、動画ではいよいよ日米同盟軍に対する人民解放軍の反撃が開始される(ただし、攻撃対象には自衛隊の航空機や艦艇は登場せず、全て米軍のものである)。
先陣を切るのは人民解放軍空軍H-6Kミサイル爆撃機で、長剣10型(CJ-10)ならびに長剣20型(CJ-20)長距離巡航ミサイルを発射する。
長剣10型巡航ミサイルは、射程距離2000キロメートルとも言われる長射程ミサイルで、中国沿岸上空から発射されると、沖縄はもとより日本各地を攻撃することが可能である。その最新バージョンが長剣20型巡航ミサイルである。
引き続いて地上に多数展開した第2砲兵隊TELからは、おびただしい数の東風15-B弾道ミサイルが連射される。この状況は、本コラムや拙著などでも繰り返し紹介してきた米海軍が恐れている「短期激烈戦争」のシナリオを彷彿とさせる情景である(参考:「『中国軍が対日戦争準備』情報の真偽は?足並み揃わない最前線とペンタゴンhttp://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40043」JBpress、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』講談社)。
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やがて多数の弾頭が敵軍燃料貯蔵施設に着弾するとともに、クラスター弾頭が滑走路や格納施設、対空陣地に殺到し、敵航空基地(アメリカ軍嘉手納航空基地)を完膚なきまでに叩きのめす。
一方、海洋上では、多数のイージス駆逐艦に守られる空母艦隊に対してDF-21D対艦弾道ミサイル弾頭が雨あられと振りかかる。アメリカ艦隊は対空ミサイルやCIWSによって防戦に務めるが、恐るべき数のミサイル弾頭が降り注ぎ、アメリカ空母艦隊は撃破されてしまう。アメリカと日本が大金をつぎ込んで開発しているイージス弾道ミサイル防衛システムも、予想を超える数のミサイル飽和攻撃の前には手も足も出ないことを示しているのだ。
おびただしい数の弾道ミサイルを発射する第2砲兵隊(「3D模擬奇島戦役」より)
■「好戦的な国は必ず滅びる」と警告
海中では中国海軍093型攻撃原潜が敵潜水艦戦力に攻撃を加えて壊滅させ、海上・海中での脅威が去ると、いよいよ中国海軍上陸侵攻艦隊の登場である。
中国軍は、ミサイル攻撃により大打撃を受けた沖縄の米軍残存戦力をものともせず、素早い上陸作戦を実施する。弱体化したアメリカ軍はたちまち壊滅し、完全に破壊されたアメリカ空軍基地に五星紅旗が翻る。
そして「敵(日米同盟)は我が方の停戦条件を受け入れ平和が回復した」ところで、動画は以下の“教訓”を述べて終わる。もちろん、教訓の中の「好戦的な国」とは70年前の日本(中国の解釈によればだが)と現在のアメリカ合衆国(これは事実)を意味しているのだ。
「大国であるといえども、好戦的な国は必ずや滅びる。
たとえ平和であっても、戦を忘れていては必ずや危機が訪れる。
我が中国は平和を熱望している。
しかしながら、将来起こる可能性のある戦争には備えていなければならない。
この動画を、抗日戦争勝利70周年に捧げる。」
■在沖縄アメリカ軍に向けられた「短期激烈戦争」
この動画は、もちろんフィクションであり、人民解放軍の作戦があまりにもスムーズに進行するのに反してアメリカ軍は“やられっぱなし”のストーリーである。しかし、一概に荒唐無稽のエンターテイメントとだけは言っていられない。
上述したように、米海軍などの対中戦略家たちの間では、人民解放軍による「短期激烈戦争」のシナリオが取り沙汰されて久しい。「短期激烈戦争」というのは、中国が日本を一気に降伏させてしまうという以下のようなシナリオである。
「中国が何らかの理由で日本に対して直接軍事力を行使する際には、考えられないくらい多数の各種長射程ミサイル(弾道ミサイル・長距離巡航ミサイル)を日本各地の戦略要地に打ち込むとともに、海上自衛隊に大打撃を加える。同時に南西諸島の島嶼(おそらく宮古島をはじめとする先島諸島)を占領してしまい、日本政府に降伏を迫る」
「頼みの日米同盟によるアメリカ軍が出動するまでにさらなるミサイル攻撃を被ると、たとえアメリカ軍が中国軍を撃退してくれたとしても、日本の復興は覚束ないであろう。したがって、日本政府としては中国の停戦条件を直ちに受け入れざるを得なくなる。おそらく、日本は東シナ海の海洋権益と先島諸島などを失陥することになるであろう」
このシナリオは、アメリカ海軍などの中国軍事情報の分析をもとに考えだされたものであり、もちろん中国側が発表したものではない。しかし、人民解放軍が常識を超えたスピードで各種長距離巡航ミサイルや弾道ミサイル、それにミサイル発射プラットフォーム(地上発射装置、軍艦、航空機など)などを開発生産している状況から判断すると「信じられないくらい大量のミサイルによる一斉攻撃」という構図には説得力がある。
また、日本を攻撃するということは日米同盟を攻撃することを意味し、それは中国側も十二分に認識している。したがって、アメリカ政府が日米安保条約に基づいて軍事介入を決定し、アメリカ軍が対中作戦を本格的に開始する前に、極めて短時間の内に日本を降伏に追い込んでおく必要がある。そのために、1000〜2000発という想像を絶する数のミサイルによる一斉攻撃によって、“瞬時”にして日本側の抵抗意思を奪い去り、日本政府を屈服させねばならないのだ。
■「日米同盟が抑止力を高める」はいつまで通用するのか
これまで我々が論じてきた「短期激烈戦争」は、中国軍が日本政府を屈服させることによって日米同盟を破綻させる筋書きだった。だが今回の動画は、「某軍事同盟」すなわち日米軍事同盟に対する直接的な「短期激烈戦争」を描いた点が大きく異なっている。
「3D模擬奇島戦役」は、オバマ政権下のアメリカ軍の実質的な戦力低下と、日本の安倍政権内でますます強まる日米同盟依存態勢という日米側の状況を睨んで、もはや全面戦争を避けさえすれば、日本に駐留するアメリカ軍に一撃を食らわしても中国側に勝算あり、という中国にはびこる強気の現れであろう。
国会での安保法制の審議では、法案反対派のそれこそ“荒唐無稽”な主張には驚かされるが、それ以上に気になるのが、政府・与党が日米同盟に頼り切る姿勢をあまりにも露骨に公言してはばからない態度を見せていることである。
「日米同盟が強化(実質的にどのように強化されているかには言及されていない)されていることを示すことによって、抑止力が強まる」と主張しているが、中国の東シナ海・南シナ海への強硬な態度はますます強化されつつある。その状況をより直視する必要があるのではないだろうか。
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