1. 2015年9月08日 07:29:42
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シリア難民に対するオバマ大統領の借り 立派な外交的レガシーの脚注では済まないシリア問題 2015.9.8(火) Financial Times (2015年9月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)世界の避難民ら、14年は過去最多の5950万人 国連 トルコ・アクチャカレの国境検問所の近くで、壊された国境のフェンスからトルコ領内に不法入国するシリア難民ら〔AFPBB News〕 歴史家がバラク・オバマ大統領の実績を評価する時、シリアという言葉はマイナス要素になるはずだ。オバマ氏がバシャル・アル・アサド大統領の政権退陣を求めてから4年経つ。オバマ氏はその実現に向けてほとんど何もしなかった。そして、やろうとしたわずかなことは、アサド氏の支配力を強めたと言える。 20万人以上が命を落とし、400万人が難民と化した後、米国の対応を他の西側民主主義国の対応と区別するのは難しい。 ドイツとスウェーデンを顕著な例外として、西側諸国はシリアから逃げ出す群衆への支援を拒んだ。 オバマ氏は用心すべきだ。シリアは、立派な外交的レガシーの脚注などではない。これは過ちの告発である。 米国の不干渉、お金での埋め合わせには限界 シリアの人道的危機に対するこれまでの米国の不干渉は数字で測ることができる。ドイツはシリアからの難民申請を最大で80万件受け付けると述べ、欧州の近隣諸国を恥じ入らせた。80万という数字は、他の欧州諸国を足した受け入れ数の数倍に上る。シリアの内戦が始まってから、米国が受け入れた難民はたった1434人だ。 米国が毎日、それ以上の数のメキシコ系移民を強制送還していた時期があった。お金ではある程度の埋め合わせしかできない。米国は人道援助に40億ドル費やしており、その額は欧州をかなり上回る。 だが、シリアの近隣諸国が負担しているコストと比べると、見劣りする。レバノンでは現在、住民の5人に1人がシリア難民だ。トルコは圧倒されている。 米国は今よりずっと多くのシリア人に門戸を開放すべきだとする議論には、説得力がある。まず、シリアの苦しみを和らげるために米国にできることは、ほかにあまりない。オバマ氏が発見したように、アサド氏の退陣を求めることは、退陣を実現することと同じではない。 また、それは当時のことだ。現在は、アサド氏の追放が望ましいかどうかさえはっきりしない。 アラウィ派や他の非スンニ派のアサド体制支持者に対する「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」の復讐は、今日の虐殺を凌ぐものになる恐れがある。 また、オバマ氏が退任する前に、米国主導で行われている穏健派の自由シリア軍の訓練が効果的な部隊を生み出す可能性は全くない。 米国主導の空爆作戦は、シリアの一部地域で大量脱出を食い止めるかもしれない。ISISはアサド氏と同じくらい多くの難民を生み出した。だが、それは政治的解決にはつながらない。 傷ついた米国のブランド 次に、中東における米国のブランドはオバマ氏の下で、ジョージ・W・ブッシュ氏の下と同じくらい傷ついた。両者を比べることは不公平かもしれない。ブッシュ氏の過ちは主にイラク侵攻で間違ったことをしたコミッションエラーだった。対してオバマ氏のそれは、ブッシュ氏のレガシーの扱い方を巡って、やるべきことをしなかったオミッションエラーだ。だが、そのコストは本物だ。 オバマ大統領、記者主催パーティーでユーモアたっぷりのスピーチ バラク・オバマ大統領はシリアのアサド政権の退陣を求めていたが・・・〔AFPBB News〕 エジプトで投獄されている民主主義者から、国の崩壊から逃れるリビア人に至るまで、米国はオバマ氏の指揮下で指針になっていない。 米国は混沌から抜け出せるという感覚――大統領自身が一度、はっきり口にしたもの――は、シリアなどから逃げ出す大勢の人によって日々嘲笑されている。波紋は欧州で止まらない。今日の世界では、中東は無論のこと、島である地域は1つもない。 米国はより多くの亡命希望者を受け入れるべきだとする道義的な主張は、遅きに失した感がある。2003年のイラク侵攻以降、米国は15万7000人のイラク人とその何分の1かのアフガニスタン人を受け入れた。 このうち、通訳やガイド、仲介者として米軍のために働いた何千人もの人がビザ(査証)を取得できなかった。彼らの命がISISやタリバンその他から脅かされているにもかかわらず、だ。 これについては、オバマ政権に一定の責任がある。米軍のために働いたイラク人、アフガニスタン人の元職員のための特別ビザは、2008年になってようやく発効したものだ。 米国にたどり着いた人たちにとって、手続きは何年もの歳月を要した。取り残された人たちへのメッセージは明白だ。米国は彼らを見捨てることができる――というものだ。これ以上ひどいシグナル、あるいは、これより容易に是正できるシグナルを思い浮かべるのは難しい。 この場合、責めを負うのは米国の政治ではない。米議会は超党派の大多数で、イラクとアフガニスタンの元職員の入国を認める法律を通過させた。 オバマ大統領はなぜ行動しないのか 問題は官僚主義の滞留だ。明らかに、テロリストを1人入国させてしまう不安が、受け入れに値する罪のない何千人もの人を入国させる恩恵に勝っているようだ。申請者は米国務省、米国土安全保障省、米連邦捜査局(FBI)などの泥沼をかき分けて進まなければならない。 停滞は行政機関で起きている。詰まりを解消する権限を持つのはオバマ氏だけだ。同様に、オバマ氏だけがシリア難民危機で主導権を握る権限を持っている。 何がオバマ氏を阻止しているのか。ここでもやはり、問題は政治ではない。福音派の諸団体は米国に、ISISの犠牲者の大部分を占めるシリア人キリスト教徒をもっと大勢受け入れるよう求めた。上院議員のあるグループは今年オバマ氏に、素性を問わず、6万5000人のシリア難民を受け入れるよう要請した。 オバマ氏の反応は、米国は2016年に受け入れる人数を最大8000人増やすということだった。 大きな効果を発揮するには、取るに足りない数だ。ドナルド・トランプ氏でさえ、先週、シリア危機は「あまりに悲惨」なため、シリアは例外とすることができると語った。 人的な損失は、我々のスマートフォンで見られる。アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏がシリア移民の息子だったことは注目に値するだろう。 オバマ氏の人道主義的な本能が強いことは明白だ。だが、シリアについては尻込みしている。ビル・クリントン氏は大統領としての後悔について問われるたびに、1994年のルワンダでの大虐殺を食い止められなかったことを挙げる。方針を変えない限り、オバマ氏もシリアが後々たたることになるだろう。 By Edward Luce http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44734 |