4. 2015年9月10日 09:21:27
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米国のアジアシフトは前途多難沖縄県への“遺言”(その2) 2015年9月10日(木)吉川 由紀枝 上司である「沖縄外務大臣」から筆者への最後の指示は、翁長雄志・新沖縄県知事のために「武器になる情報」をまとめてほしいということだった。新知事がこれから米国と向き合うにあたって、事前に知っておくべき、有用な情報をまとめるということだ。 「基礎情報編」と「米国の最近の動向と将来予測」の2部構成にした。基礎情報については前回説明したので、「米国の最近の動向と将来予測」を以下に述べたい。 第1に米国の政治日程である。米国では、全国区の選挙(議会は2年ごと、大統領は4年ごと)は偶数の年に行われる。2014年の中間選挙が終わった辺りからオバマ政権のレイムダック化が顕著になりだす。そうなれば、大きな政治判断を期待することはできない。特に選挙の年の2016年はその傾向が強くなる。 一方、ポスト・オバマの新政権が発足する時は大いに運動すべき時期となる。なぜなら、発足してから約半年間は、対日政策のアジェンダ検討、作戦タイムだからだ。対日政策のアジェンダが固まった後に覆すのは難しいが、検討中にこちらからインプットをしておけば、アジェンダ・セッティングに影響を与えられる可能性が大きい。 米国には底力があるが… 第2は、米国の底力について。世界最大の軍事力、国際世論をリードする力、富裕国との同盟網、国際法規・規範の構想力、基軸通貨、米軍基地・諜報ネットワークといったものが健在だ。これらは、覇権(世界の安全保障へのコミットメント)に必要な資産であるが、そのメンテナンスコストは少なからず重荷になっている。 他方、中国が持つ資産としては、経済力・軍事力(+ポテンシャル)、国連安保理での拒否権、米国債の大量保有が挙げられる。これらは米国が持つ資産に遠く及ばない。ただし中国は、米国にグローバルに対抗するほどの国力はないが、東アジア地域を中心に非対称的に挑戦する場面は増えていくことが予測される。 アジアシフトは容易ではない 第3は米国の動向予測について。米国は最近、アジア重視の政策を打ち出しているが、財政難や人材不足、アジア以外の地域における政情不安などのため、その前途は厳しい。 財政難については、民主党と共和党との間にある溝が埋めがたい。民主党は富裕層への増税を、共和党はオバマケアの廃止などによる政府支出の削減を主張している。ゆえに、一律削減といった妥協案(予算強制削減措置)が実行されている。 人材については、アジアシフトを提唱したヒラリー・クリントン国務長官(当時)、彼女を支えたカート・キャンベル国務次官補(同)のほか、トム・ドニロン国家安全保障大統領補佐官(同)らが退任してしまったことが大きい。 アジア以外の地域の政情不安については、イラク・シリア(ISIS)、イラン核問題、ウクライナ問題、イスラエル・パレスチナ問題など、アジアよりも眼を向けざるを得ない問題が山積している。 米国の財政難が米軍に与える影響について、国防総省は2014年の「国防計画見直し(QDR)」において、2001年の米同時多発テロ事件以降最大20.3万人(2009年)にまで膨れ上がった海兵隊を17万5000〜18万2000人に削減すると述べている。また、予算強制削減措置により、2013年3月から10年間で1.2兆ドルの歳出削減が始まった。この額のうち半分を軍事費が占める。2014年度と2015年度については、この措置を適用せず、微増という合意が議会で成立した。だが、2016年度以降について合意はまだない。 想定される沖縄への影響としては、メンテナンスの品質低下(事故の多発化)、グアムの施設建設の遅延(在沖海兵隊約5000人のグアム移転がさらに遅延する可能性)がある。 沖縄の前方展開基地は安泰ではない 第4は米軍を取り巻く環境だ。米国にとっての仮想脅威としてロシア、中国などが挙げられるが、共に核保有国であり、近代的な総力戦を行うとは考えにくい。むしろ、中国が掲げる(自国の近海への)アクセス拒否・領域阻止戦略(いわゆるA2/AD)のような、非対称的戦略に対応していく必要がある。このため、エアシーバトル構想(海軍・空軍が中心となり、米軍が進入不可能な地域ができないようにする)が生まれている。 エアシーバトル構想について、その名が表わす通り空軍と海軍が中心で、陸上部隊(陸軍、海兵隊)の将来の役割が不明瞭という見方が生まれている。その結果、海兵隊の将来の役割は、特殊任務(オサマ・ビンラディン殺害など一般の軍事作戦と異なった困難な任務)や災害救援活動がふさわしいのではないかという論者がいる(沖縄が海兵隊の存在理由を問うことに、海兵隊が非常に神経をとがらせる背景がここにある)。チャック・ヘーゲル国防長官(当時)は陸軍の役割は「沿岸警護」がいいのではないかと発言している。 また、中国などのミサイル精度が上がっていることから、沖縄の前方展開基地が真っ先に攻撃される可能性がある(中国の文献が「前方展開基地を米軍の弱点と見なす」と記述している。米有識者たちはこれに注目している)。このため、べーシング・オプション(米軍施設の世界展開のあり方)の見直しが始まった。 具体的には、基地の増強、基地の分散(機能を冗長にして基地の数を増やせば、敵はどこの基地を叩けばいいのかわかりにくくなる。攻撃による影響も限定的になる)、ミサイル射程距離外(米本土)への基地の移動・有事のみの派兵、海上基地化(シーべーシング)などが挙げられる。ただし、現実的には、米本土への平時移転、分散を中心に、モバイル化、基地強化への投資が組み合わされるものと考えられる。 このコラムについて 「沖縄外務省アメリカ局」での勤務を命ず! 1995年の少女暴行事件を契機に始まった普天間飛行場移設問題は、いまだに迷走を続けており、行き着く先が見えずにいる。 移転に絡む調査や工事が進むたび、また、沖縄県内で首長選挙が行われるたびに、この問題が首を持ち上げ、日本中で注目を集める。 東アジアの地域安定の要として米軍が沖縄にいることの重要性が叫ばれるが、東京でも、ワシントンでも、沖縄に対する理解は乏しい。在沖米軍や米軍基地に対して沖縄がどのような感情を抱いているのか。それがどのような政治環境を生んでいるのか。鳩山由紀夫首相(当時)の「県外移転」発言がどのように沖縄を刺激したのか。 沖縄県の仲井真弘多県政(当時)は、沖縄にも受け入れられる普天間飛行場移設問題の打開に向けてもがく中、ワシントン対策のテコ入れに外部の有識者を招聘した。それが吉川由紀枝氏である。 沖縄で、吉川氏はどのような窮状を目にしたのか。改善すべく何をしたのか。そして、どのような壁にぶち当たったのか。約3年間にわたる奮闘を吉川氏自身が振り返る。 http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/281136/082700011 |